いっぱいついてるよ。
仕事の関係で一年ほど静岡県の富士市に単身赴任してた時の話です。単身赴任先の住まいは、会社の独身寮でして、築50年は経ってるかというほどの木造三階建てのおんぼろ寮だったのですね。で、その寮の二階の八畳間に部屋をあてがわれて生活することになったのです。もう、なんちゅうか,お世辞にも住み良い環境とはいえない部屋でして、畳なんかも変色してるし、ゴキちゃんが家族で行進してるわと、会社の寮ってこんなものかよ! って感じなお部屋でした。寮費は会社負担だったので文句は言えないかもなんですけど(笑) まぁ、最初はこんな部屋で生活するのかとゾッとしたもんです。
でも、住めば都っていうのでしょうか、半月もすれば、煩わしい嫁さんに気兼ねすることもなく、のびのびと休みの日なんか過ごせるし、好きな時にパチンコ行けるし、同じ寮の仲間とワイワイ出来たりしたので、寮生活も自分的に悪くはないかもと思ったりしてたんですね。
そんなふうに思い始めた週末のことなんです。
その日は休みでして、朝からパチンコに行きました。パチンコの方は出たり、のまれたりと、なかなかに辛気くさい展開でして、結局夕方過ぎまで打って一万円ほど負けたと思います。寮に戻ってから、夕飯食べたり風呂に入ったりしたりと、なんだかんだしてたら23時過ぎになってしまい、エアコンかけて布団に寝転んだら、疲れたのか、眠気が襲ってきて、そのままウトウトと寝てしまったのです。
何時間くらい寝たか、定かじゃないのですけど、室内が騒がしいので目が覚めたのです。覚めたといっても、まだ半分寝てる状態でして、うつらうつらしてる中で、室内を子供が「キャキャ」言って、自分の布団の周りを走り回ってるのです。思わず、自分はその騒がしさにイラっときて「やかましい」と叫んでしまいました。でも、叫んでから、気がついたのですけど、部屋に子供なんかいるわけないのですよ。だって独身寮だし、部屋には鍵かけていて他人が入ってこれるわけないんですよ。でも、実際に布団の周りを「キャキャ」と子供の声がして、走ってるような気がするのです。なんだか、そんな、ありえない状況を目をつぶって考えていたら、突然怖くなってきたのです。でも、この状況を確認したいと思う気持ちもあるので、思いきって目を開けて確認しようとしたら、目があきません。てか、体の自由がきかなくて、いわゆる金縛り状態ですわ(汗) うわ~ 怖い、怖い、やばい、やばいと思っていたら、あろうことか、その走り回ってる子供が、布団の中に入って添い寝してくるのです。目は開かないのであくまで感覚でそう感じるのですよ(泣) もう、むちゃくちゃ怖いのです。しかも、子供はもう一人いるのか、あいかわらずにもう一体は「キャキャ」言って布団の周りを走ってる感じがするのです。
もう、自分は何とかしないといけないと思い、無神論者に関わらず、心の中で、ありとあらゆる神様に助けをこいましたよ。「天にまします我らの神よ」とか「南妙法連、南無阿見陀仏」そして、「ごめん、お兄ちゃん、子供嫌いやねん。子供好きなお兄ちゃんが隣の部屋にいるので、そっち行って遊んでもらい」と心の中で念じたのです。そしたら、急に体が軽くなり、金縛りが解けて楽になったのです。枕元にある時計を見たら、朝の4時すぎでした。 いったい何だったのだろう? と思いながら、次の日に会社に行ったら、隣の部屋の同僚が仕事休んでました。なんでも、突然に高熱が出たらしいです。 もしかして、自分のせい? とか思ったりしましたけど……。結局、その同僚は熱が下がらずに入院されました。
で、昼休みに、仲のいい派遣社員の近藤さんという名のおっちゃんに、昨晩の出来事を話したんです。(近藤さんは、北海道から出稼ぎにきておられており、顔はカマキリに似た、常にお金に困ってる方でした。でも、金がない割りにはギャンブル大好きで、月末になると生活費がなくなり、よくお金貸し手あげてました) そしたら、近藤さん、僕の背中見ながら「いっぱい、子供の霊がついてるよ」ととんでもない事を言い出してきます。カマキリが獲物を狙うように、目をギョロとさせ、やや首をかしげながら「お払いしないとダメだね。やってやろうか」と言ってくるのです。「お払いなんか出来るのですか?」と聞くと、昔、下なんちゃらっていう霊能者のところで弟子だったから大丈夫だと言ってくださいます。「じゃ、お願いします」と近藤さんにお払いを頼むと、「目をつぶって」と言って、自分の背中に周ると、分けの分からない呪文みたいなものを唱えて、肩を手でバシバシ叩くのです。そして、それを2、3分続けると、最後に「アイ」と甲高い声を上げて肩を押してお払いは終わったのです。「どうよ。肩の重荷はなくなったやろ」と近藤さんは、自信ありげに聞いてきました。確かに、肩のマッサージをしてもらったおかげか、楽になったような気がします。「うん。ありがとう」と近藤さんにお礼を言うと、近藤さんは「うんうん」と頷いて、片手を自分に差し出してきます。「はい?」と聞きますと、「お払い料5千円やから」と催促されました。
てか、近藤さん、金とるんかい! ですわ。
これは、ある意味、霊体験よりも怖い出来事だったかも知れません(涙)