プロローグ 『伝えたいこと』
いまだにジャンルをファンタジーか恋愛か悩んでいます。
文字数は切りの良いところで切っているので、ばらつきがあります。
(私……死んじゃった…)
瞳に映るのは白い天井。白い壁…白い床…。白一色に囲まれた薄暗い病室で、少女はたった今……自分が死んだことを悟った。
(…お父さん…お母さん……ごめんなさい。この十年間…育ててくれてありがとう……私は、あなた達の子供に生まれて幸せでした…)
薄暗い病室の中で、微かに動いていた心音計の揺れはすでに止まり、自動的にナースコールが送られる中、脳波計の揺れも徐々に小さくなっていった。
(……ごめんなさい…。沢山愛してくれて…沢山迷惑も掛けたけど……でももう悲しまなくていいの……。もう私のことは忘れてもいいから…)
白いベッドに横たわり、少女の薄く開いたままの瞼から見える天井が、薄暗い灰色から黒へと色を変えていく。
(最後に……今度生まれてくる…弟か妹に会いたかった…。一言…謝りたかった……。ごめんね……お姉ちゃんは、あなたを抱っこしてあげられないの…)
身動き一つしない少女の瞳の端から、一粒の涙が零れて落ちた。
(………………やだ…)
瞳に映る天井の闇がさらに暗さを増して……
(……怖いよぉ……死にたく……ない………誰か…………………たすけて…)
暗闇に染まる病室で、身動き一つ出来ない身体で……少女は独り『死』に怯える。
そして病室の闇が黒で染まり……
(………ちょう…ちょ……?)
いつの間にかそこに、闇を切り抜いたような一頭の『黒い蝶』が少女の上をヒラヒラと舞っていた。
両の手の平を広げた程の黒い蝶は少女の目前で宙に留まり、その羽根の表面に皺のような模様が浮かぶと、それは見る間に枯れ果てた即神仏の顔へと変わり、まるで死にゆく少女を揶揄するかのように音もなく笑っていた。




