00008PJDK「影世と現世(一)」
狐の面をしててもわかった。
ジョーカーは嬉しそうに笑っている。
実際には顔を上に傾けてるだけなんだけど、
何故だか表情だけはよくわかる。
そして俺は、何か濁った液体を飲まされ、
ジョーカーから能力を譲り受けた。
それはジョーカーの日記に書いてたのと同じ、
イメージを具現化・再現させる能力。
ジョーカーの持つ能力と同じものだった。
昔は俺もたくさん絵を描いていた。
だから想像力には自信がある。
美術の評定だけはいつも5だったし、
中学の頃には美術コンクールで入賞したこともあるんだ。
確かにどっちも大したことではないのかもしれないけど、
それでも俺の中ではちょっとした自慢になっている。
でも漫画絵を描くのだけは苦手だった。
漫画絵はパーツがいまいちよくわからないんだ。
書こうと思っても上手く書けなくて、
気づいたら写実的に描くことばかりしていた。
本物は、本物そのままだから。
FPSが好きなのも、それが本物に近いからだ。
写実絵しか描けないからというわけでは断じてないが、
どんなものでも、俺はリアルの方が良いと思っている。
血やはらわたが飛び散るゲームをしたときも、
遊んでて気になって、一時期は医学書とか読んで勉強していたこともある。
そこから、体の構造とかも勉強した。
実物を見てみたくなって、
将来は医者になろうと思ったこともある。
もうそんな考えは捨ててしまったけど、
人の体については、今でも参考なしに描けると思う。
たぶん、想像力はジョーカーより上なんだ。
ジョーカーは日記の中ですごく苦労してたから。
ジョーカーは概念を想像するのは得意だけど、
形は簡単なものしか作れないんだと思う。
人を人として見てない。
だから平気で人を殺せる。
人が苦しむさまを見て、面白がってる。
俺にはまだ良心がある。
ジョーカーとはまだ違うんだ。
どうやら身体機能も向上されてるらしい。
影世に来て体が軽い。疲れない。
強くなった気がする。
これだけでも誰にも負ける気がしなかった。
ジョーカーに連れられて、
外に出て、闇の空間の外側にも出た。
俺達がいたのは洞窟の中だったんだ。
外は明るくて良い空気だった。
晴れていて気持ちが良い。
ジョーカーは親切だった。
一から十まで世話を焼いてくれる。
服も用意してくれた。
軽くて丈夫そうだった。
風呂にも入れてくれた。
火をおこして「湯加減はどうだ」なんて聞いてきた。
しきりに構ってくる。
ウマい食い物も用意してくれた。
こっちの顔色をうかがってる。
なんだか不気味だったし、
怖さもあった。
俺は日記を読んでたから知ってる。
本当はジョーカーは感情が希薄なんだ。
こんなにしてくれるのは、
きっと何か狙いがあるからに違いない。
でも、すぐに好きになっていた。
親でもこんなにしてくれないから。
心で危ないと思っても、
いやそこが却って魅力的なんだと。
そう思ってしまう。
ジョーカーには友達がいない。
狼のデュースがいるだけだ。
デュースは人懐こくて、悪戯好き。
いつも俺の行く道をふさぐ。
何食わぬ顔で邪魔をしてくる。
そのたびにジョーカーが「デュース!」とか言ってたしなめてた。
きっとデュースも構って欲しいんだろう。
なでてやったら、すごく喜んでた。
こんなに気の良いやつら、見たことがなかった。
向こうはカスみたいな連中しかいなかったのに。
ジョーカーとデュースは一緒にいて、とにかく楽しい。
この二人のために、
俺も何かしてやりたい。
二人の喜ぶ顔が見たい。
いつしかそう思うようになっていた。
そして半月が過ぎる。