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00007JDK「影世の誘い(二)」

 トランプを投げつけられて、絵柄を確認する。

 ――JOKER。

 道化の格好をしておどけている。

 しかし背には死神の鎌。

 隠し持ち、相手の命を狙ってるかのようだった。


 目の前に座る男、ジョーカーは既に別のトランプを手に持っている。


「こいつは、デュース」

 ハートの2。

 狼を示してジョーカーは言った。


 ハートの2のトランプも投げつけてくる。


「何か質問は?」

 と、ジョーカー。


「俺を待ってたって?」


「あぁ。そうだな」


「それは何のために?」

 と聞くと、

 ジョーカーは

「仲間探しだよ」

 と、答えた。


 仲間……探し?


「俺はここで、この世のクズ共を殺して回っている。

 だが、一人では限界があることに気がついてな。

 それで、仲間を探すことにしたんだ」


「それで、俺?」


「そうだ。

 あの日記を読んだお前ならわかるはずだ。

 お前には素質がある。

 俺と同じく、正義のために働くことをいとわない。

 俺は、お前しかいないと思っていた」

 抑揚をつけずに淡々と、

 ジョーカーは俺を誘ってきていた。

「復讐したいだろ?

 もしオーケーだと言うのなら、俺はそれも手伝ってやるよ。

 お前をコケにしたゴミ共も、全部屠殺とさつしたらいいんだ」


「ジョーカーみたいな力、俺にはないよ?」


「力ならやるよ」


「どうやって?」


「そこは心配しなくてもいい。

 やる気があるのか、ないのか、

 その方が重要なんだ。どうする?」


 ジョーカーはまっすぐに俺を見ている。


 しかし俺は、たじろいでいた。

 突然こんな風に言われたら、誰でも尻込みするはずだ。

 それに、落ち着いた調子で言ってきてるけど、

 俺は知ってる。

 本当はジョーカーは怖いんだ。


 日記を読んだ限りでは、

 ジョーカーは正義のために人を殺してるようには見えなかった。

 ジョーカーは殺すために人を殺している。

 本当はたぶん、快楽殺人鬼なのだと思う。


 それでも、強烈な魅力も感じていた。

 建前として、正義のため、とジョーカーは言い切る。

 恐ろしくも、惹かれずにはいられない。


「この世界と、お前の元いた世界は、リンクしている。

 違う世界だが、同じ魂が生きる」

 おもむろにジョーカーは喋り始めた。

「片方で起きたことは、もう片方の世界に強く影響する。

 片方の世界で死んだ人間は、もう片方でも死ぬ」

 そして、

「向こうの世界は法やルールがあるが、この世界にはない。

 俺達は何をやっても許されるんだ」


 聞いていて、にわかに鳥肌が立ってくる。

 自分は今、とんでもないことに惹かれつつある。


 心が大きく傾きつつあった。

 何か後押しがあれば、

 すぐにジョーカーに乗りそうなところまで。

 今自分が決断しようか迷ってることを考えると、

 恐ろしい。


 怖さと、好奇心の間で揺れ動いてる。

 実を言うとかなり興味があった。


 もともとここに来たのも、そのためだったような気もする。

 俺もジョーカーみたいになれるというのか。

 断るよりも、試してみたい。

 復讐、してみたい。

 何をやっても許されるのなら……やってみたい。


「大月は」

 と、ジョーカーが切り出す。

「この世界だと強盗を5件、暴力沙汰72件。殺人も1件」

 トランプをめくるジョーカー。

 並べたトランプを一枚ずつめくっていく。

「川辺も似たようなもんだ。

 ただ川辺は殺人が2件。うち1件は俺と本人しか知らない」


 並べられたトランプは、ロイヤル・ストレート・フラッシュ。

 確率は1/649740。

 適当に並べて出せるカードじゃない。


「お前が殺らねば、2人は更に罪を重ねるんだ。

 可哀想に。善良な市民がまた犠牲になる。

 正義の味方は、お前しかいないのにな……」


 正義の味方。

 心にもないことを言う。

 俺は唇をなめ、

 わざともったいぶってから、答えた。


「わかったよ」


 何かあっても俺のせいじゃない。

 ジョーカーがそそのかしたんだ。

 ジョーカーが悪い。


 このとき俺は、2人を殺すことに決めたんだ。

 そう、他ならぬ、社会正義のために。

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