00055PHBJTPK「ピクニックの約束」
葬儀から抜け出して、雨の中、一人で歩き帰っていると、
よく知った男が俺の道をふさいで、ぶつかりそうになった。
「一人で帰るなよ」
琥太朗が、からかうように笑いながら言った。
髪が雨で濡れていて、スクールシャツやリュックにも水が染みている。
並んで駅まで一緒に帰ることにした。
「警察にずっと一緒に居たって話してくれたんだな。ありがとう」
琥太朗は
「ああ、うん。どういたしまして」と答えてから、更に付け加えた。
「純一、凄い疑われてたぜ」
「本当か?」
「うん。佐野ってやつなんだけど、この警察官がしつこくてさ。
『何のために勉強をしていたんだ?』だとか、
『誘ったのはどっちだ?』だとか、
……まるで俺と純一が共犯という線まで見てる感じがあったよ」
「そんな、まさか」
共犯……
あのおじさん、そこまで俺を疑っていたのか。
「ああ、おかしな話だよ。
でも心配いらない。俺は真っ白だし。
俺を疑っても何も出ないからさ」
「そっか。……悪いな」
そのとき、俺は目の前にアイスクリーム屋さんを見つけたので、
琥太朗に、アイスクリームが好きか、とたずねた。
「えっ、何で?」
「今回のお礼を何かしたくてさ。
あそこ、お店があるから」
もし良ければだけど、と付け加える。
「こんな日にアイスクリームなんて食うかよ。
純一は本当、変わってるやつだな。
お礼はまた今度で、良いよ。そんな気にしなくていい」
ああ、そうか。
雨で寒いものな。
けど、また貸しが増えてしまって、
このままだと、どんどん貸しがたまる一方だ。
気にしなくて良いと言われても、
これでは居心地が悪い。
そんな俺の心の中を読んだのか、琥太朗は一つの提案をしてきた。
「じゃあさ、今度、ピクニック行かない?」
「ピクニック?」
「おう。それほど離れてないところでさ。
日帰りもできるし。美術展も被ってて、行きたいとこあったんだ」
「そうなんだ。いいよ。行こうか、ピクニック」
俺が微笑んで言うと、琥太朗も嬉しそうに笑う。
ピクニックなんて、何年ぶりだ。
だけど、川辺を堕としたりクラスメイトを堕としたりもあるから、
予定の調整が必要そうだ。
堕とすのにどれくらいかかるかまだわからないから。
「日程、早めに決めた方がいい?
具体的な日はもう少し待ってもらっても良いかな?」
と、俺。
「いいよ。ただ、模試の前には行こうよ。土日のどこかは開けといて」
と、琥太朗。
「わかった」
そして琥太朗とは別れを告げて俺は帰路につく。
明日金曜は津秋の絵を描く約束をしている。
次の琥太朗との勉強会は日曜にしてもらおう。
土曜に影世に行って、
クラスメイトの奴隷化について詳しく聞く。
そうすればピクニックを日帰りにするか一泊にするかも決められる。
いや……良い機会だ。
ジョーカーに聞く、という姿勢は、もうやめるか。
これまで、俺は教えられてばかりだった。
もちろん簡単な説明は聞いておくけど、
やり方は自分で考える。
ジョーカーがいなくても自分で出来るように。
最初から身構えていれば、
ミスも減るはずだ。
まず……川辺の廃人化は必要。
なぜなら、川辺には自殺動機を用意しておかないといけないからだ。
不審死させると、また他殺疑いで捜査が入る。
自殺してもおかしくない状況を作っておけば、
捜査は行われず、俺も疑われない。
堕とすときも、それを念頭に置く必要がある。
クラスメイトについても、
できるだけ俺の言うことを聞くようにした方が良いだろう。
何かあったとき、身代わりに使えるかもしれない。
奴隷と言うと大げさだが、
躾けはしておいた方が良さそうだ。
結局、ジョーカーの指示通りになるけど、
次からは俺自身で決めさせてもらう。
いつまでも頼りきりにはならない。
俺は、可哀想な子じゃないから。




