00003PJBTK「殺人鬼の日記(二)」
菊川は一人で学校の中に入る。
それを見届けてから、俺は「JOKER DIARY」のページをめくった。
やっぱり、……知らない。
こんなものを貸した覚えはなかった。
だいたい、全部英語で書かれてる。
洋書を菊川に貸すはずがない。
しかし気になった。
中身を読んでみることにする。
それは私小説だった。
ある殺人者の日記の形として書かれている。
自殺を試みて、男は異世界に転移する。
死んだと思ったら別の世界にワープしていたんだ。
そこで男は特殊な能力を手にして、次々に人を殺していく。
ページが進むごとに男が壊れていくのがわかった。
ぞくぞくして、恐ろしい。
それなのに、ページをめくる手が止まらない。
俺は階段に腰をおろした。
ジョーカーの日記を、本気で読みこんでいく。
続きが気になって仕方なかった。
気づいたら日が沈んでいた。
やっと読み終わり顔を上げる。
菊川は……?
外に出てきたなら、俺に気づくはず。
声をかけてきたはずだ。
しかしそれがなかった。
スマホを開いて、時間を確認する。
いつの間にか3時間も経っていた。
菊川からの連絡もない。
職員室まで行って菊川がいるかを確かめようか。
いや……やめておこう。
俺は一人、急いで家に帰った。
FPSにはログインしなかった。
何週間ぶりかのことだ。
もう一度ジョーカーの日記を読む。
不思議な感じだった。
ジョーカーはすごく格好いい。
カスみたいな連中とは全然違った。
ジョーカーは神なんだ。
ジョーカーは神だから、何をしても許される。
ジョーカーのようになりたい。
俺は猛烈にそう思うようになっていた。
ジョーカーのように、カスな連中を殺しまくりたい。
ジョーカーなら許される。
ジョーカーこそ、俺の理想の神。
ページの中には、自殺の仕方も書いてあった。
事細かく、とても丁寧に。
ジョーカーが試みた自殺の方法と、同じ方法だ。
俺は創作意欲にかられて、
寝る間も惜しんで絵を描き続けた。
一心不乱に描いて、
何十枚も完成させる。
自分でも信じられないほどの出来だった。
まず自殺の方法に関してのスケッチ。
方法は飛び降り。
10m以上の高さだ。
そこからちゃんとしたポーズを取る必要がある。
これが結構、難しい。
きっと練習が必要だ。
明日にも、練習してみよう。
次に人の殺し方。
俺はクラスメイトを描いた。
それを出来るだけ苦しめて殺していく。
その場で色々な殺しを考えた。
物を使ったり動物を使ったり。
俺が狂ってることをわからせて、
精神的にも追い詰めていく。
川辺と大月の歪む表情。
想像するだけで胸がすく。
ぞくぞくしてくる。
あぁ、……早くやりたい。
クラスメイト27人、全員分を書いて、
俺はふと、津秋と馬場のだけを取り除いた。
この二人はいらない。
破り捨てて、そして部屋の電気を消す。
ベッドに潜り込んで、
ワクワクしながら眠りについた。