00002BJ「殺人鬼の日記(一)」
クラスメイトは皆、いじめにどこかで加担している。
それだけウチのモラルは低い。
第一志望に通ってたらと思う。
それならこんなことになってない。
落ちてから、やる気も何も無くしてしまった。
頑張って勉強したのに。
努力は報われないんだ。
毎日学校を寝て耐えて、家に帰ってゲーム三昧。
それが日課になっていた。
いや、一人だけいじめに全く加担してないやつ、いたわ。
馬場だ。
馬場は、よくわからない。
空気と同じだった。
声も聞いたことないし。
チビで、いつも読書ばかりしてる。
誰とも目を合わせない。
近づきがたいし。
スカした男だと思う。
けどあいつはいじめられてない。
何故か俺だけ。
不平等だと思う。
けど、その理由はなんとなくわかる。
馬場は、気づいたら後ろにいたりするんだ。
顔はぜんぜん普通なのに、
不気味なやつで、なんだか怖い。
触っちゃいけないやつ。
たぶんそういうオーラが出てるんだと思う。
だから皆、近づこうともしない。
帰りの電車が来るのを待つ間、俺は靴で蟻をすり潰していた。
一匹ずつ、丹念に。
他の生徒から離れて、定位置に立っていた。
田舎駅だから、この場所はいつも俺一人。
電車が来て、乗り込もうとする。
そこで人にぶつかった。
いつもここで降りようとする人なんていない。
下ばかり見てて気づかなかったんだ。
降りてきたのは、転校した友達。
俺の唯一の友達だった。
「よう。純一じゃん!」
「き、菊川?」
俺のことを純一と言う人は少ない。
だいたい苗字で木場と呼ぶ。
家族の他で純一と呼んでくれるのは、菊川だけだった。
「久々にちょっと話そうぜ」と言われて、俺は菊川について学校への道をまた歩いた。
道を戻るのは面倒くせえな、と思った。
けど面白いやつだったし。
また会えたことが嬉しかった。
以前は、菊川とこうして歩いてた。
互いの家に行ったことはなかったけど。
それでも行きと帰りの時間を合わしてた。
菊川は、あるとき、もっと良い高校に行きたいと言った。
試験の日に体調崩して万全で受けられなかったからって。
転校。
俺のことも誘ってくれたんだけど、俺は断った。
そしたら、気づいたら本当に転校してしまったんだ。
本当に良いやつだったのに。
俺はそのことでちょっと後ろめたかった。
「純一、お前。SNSやめたの?
何回連絡しても既読つかないし、電話にも出ないし」
「まぁな。面倒くさいから見てないんだわ」
これは嘘だけど、本当だった。
菊川は学校の先生に用事があると言っていた。
学校までもうすぐとなって、
「純一は、まだ絵を描いてる?」
と、菊川が聞いてくる。
「いや、描いてない。
なんか描く気が失せちゃってさ。菊川は?
小説の調子はどうよ」
「俺もあんまりだな。
今の高校、厳しくてさ。
放課後過ぎても授業するし、全然時間取れない」
「そっか」
悪い。高校の話は、しなくてもいい。
「あぁ、そうだ。
こっち来たもう一つの理由思い出した。
これをお前に返さないといけなかったんだ」
と、菊川。
カバンから本を取り出すと、俺に渡してくる。
俺は手に取ってタイトルを確認した。
「JOKER DIARY」
表紙が真っ黒で、文字は金色。
見たことがないタイトルだった。
意味は……ジョーカーの日記……。