00020PBJDPK「馬場の頼み(三)」
馬場の下の名前は、琥太朗って言うんだな……。
王ヘンに虎で、琥珀の琥。
キラキラしていて、なかなかクールじゃないか。
スマホの画面を閉じて、俺はロッカー室に戻ることにした。
ベンチに座ってスマホを眺める馬場。
その姿は落ち込んでいるようにも見える。
エロ本はベンチの上で一箇所にまとめられていた。
俺はエロ本を手に取り抱えると、言った。
「これ、もらうぞ?」
資料として使わせてもらおう。
偶然とはいえ、これだけの資料があれば十分だ。
本物の津秋の裸がなくても、これなら十分やれるはず。
俺を見上げる馬場に、
「明日、放課後な」
と、言ってやった。
可哀想だし、勉強の面倒は見てやることにしたんだ。
俺がどれだけ役に立つかはわからないけど、まぁいいだろう。
すると、「ほら」と、馬場は自分のスマホを俺に手渡してくる。
「何?」
「俺勝手に見たから。俺のも勝手に見ていいよ」
「いいよ、そんなことしなくて。さっきは俺も悪かったしさ。転けさせてごめんな?」
と、俺が優しく言ってあげると、
「うん。痛かったし。もっと謝って」
と馬場は答える。
こいつ……。
「怪我したのか?」
「してない。ねえ、体育の授業サボんない? 今からじゃ行っても大差ないしさ」
スマホで時間を確認して、
俺はため息をついた。
たしかに、これから行っても、遅れて参加することになる。
しかも、参加すると言っても、どうせ見学だ。
まぁ、……いっか。
話してみると、馬場は結構面白いやつだった。
菊川のとは少し違った面白さがある。
クラスメイトをよく観察していて、
あいつはどうだとか、冗談を言ってきていた。
クラスメイトが嫌いな俺にとっては、
クラスメイトをボロクソに言いまくる馬場はすごくおかしかった。
普段静かにしてるのに、
お前そんなに見てたのかよって、驚かされる。
「川辺は崎本が好きなんだ」
と、馬場は言う。
「それ、マジ?」
「うん。川辺は奥手だからわかりにくいけど、
あいつ、黙って見てると崎本の視界にばかり行くから。見ててみ?」
全く気がつかなかった。
「川辺は本能的に崎本の潜在意識に自分を刷り込もうとしてるんだ。
ゴリラとサルでお似合いだよな」
と言われて、
クククと笑いがこみ上げてくる。
ゴリラと、サル。
馬場もそう思っていたんだな。
この調子で一人ひとり、馬場はクラスメイトを馬鹿にしていたんだ。
本当に、なんていうやつなのか。
まったく、どうかしてる。
こんな性格のやつ、絶対友達なんてできやしないと思うのだが。
だが、気がついたら俺はすっかり馬場のことが気に入ってしまっていた。
さっきの件も、「調子に乗りすぎた」とか言って謝ってくれたし、
勉強教えるのも面倒くさいと思って嫌だったけど、
もしかしたら、悪くないのかもしれない。
もっと早く話せば良かった。
放課後になって、
またピューッと屋上から飛び降りる。
馬場が見てる気がして、
今回は、かなり警戒しながら屋上に向かった。
屋上から落ちるときも周りに注意をしておく。
今まで誰にも見つからなかったけど、
これからもそうとは限らない。
気をつけないといけない。
影世には狼のデュースしかいなかった。
ジョーカーはまたいない。
デュースを連れて洞窟の外に出ようとすると、
デュースはしゃがんで、背中に乗れと俺に合図してきた。
デュースは大きいから、背に乗ることもできるんだ。
ジョーカーに最初に会った時も、ジョーカーはデュースに乗っていた。
けど、俺がデュースに乗ったのはこれが初めてだった。
もしかしたらデュースも、俺に気を許したのかもしれない。
俺が降り落ちないように、
デュースは、ゆっくりのしのしと歩く。
体毛がもふもふしてて気持ち良かった。
温かみを感じ、抱きつきながら外に連れてってもらう。
洞窟の外で俺が色々とイメージを具現化させていると、
ジョーカーもやってくる。
今日の狐の面は満足そうだ。
ジョーカーは今日もご機嫌。
昨日と同じくらい、ジョーカーも嬉しそうだった。