00001HT「我慢の限界(二)」
何故だか知らないが、俺はいじめられているらしい。
いじめてきてるのは、クラスの同級生だ。
物を隠してくる。
机に落書きしてくる。
俺だけ連絡が回ってこない。
スマホSNSのグループに入れてくれない。
最初は鬱陶しいって思うだけだった。
けど黙ってたら、どんどん露骨になってきてる。
別に、やり返してやったっていいんだ。
ただ法律が許さないから。
俺が手を上げたら俺が悪いってことになるから。
だからやり返さない。
だからやり返さないんだけど、
だけど、そろそろ本気で我慢の限界になろうとしてきていた。
中心になってるのは、川辺と大月。
この二人はマジでカスだった。
先生の前だとヘラヘラしてる。
聞き分けの良い不良って感じで。
だから先生達も、こいつらがどんだけクソなのか気づかない。
川辺のせいで、俺は何度も何度も、メロンパンの使いパシリにされた。
メロンパンは川辺の好物だから、俺はメロンパンが嫌いになった。
見つけたら手当り次第、潰すようにしている。
でも川辺に渡すメロンパンは、潰さない。
川辺はピザみたいに巨体で、殴ってくるからだ。
大月も大嫌い。
こいつは見た目が良くて、それを鼻にかけている。
絶対、家の建て鏡で、毎日自分のことを見つめてるタイプだ。
大月は川辺と違って暴力をふるうことは少ないが、そのかわり、言葉で嫌味を言ってくる。
俺が嫌がりそうなことを計算して、クラスメイトに持ちかけてる。
何でこいつらが俺のこと気にかけてるかわからない。
きっとホモなんだ。
大月は、彼女がいるらしいけど。
川辺はたぶんホモ。
……クソッ。
法律さえなければ。
社会のルールさえなければやり返してやるのに。
何でアイツらだけやりたい放題なんだ。
俺は大人しくしてるのに。
こんなの、絶対おかしい。
正直者が馬鹿を見る世の中なんて、クソくらえだ。
川辺と大月だけじゃない。
取り巻きの男連中もゴミだし、女なんて掃き溜めだ!
女の中だと、崎本と津秋が特にヤバかった。
高校生のくせに、二人ともすごい厚化粧。
香水もキツくて臭い。
それなのに、俺のことを臭い臭いと言ってくる。
俺は毎日お風呂にも入ってるのに。
あいつら、自分の臭いがわからないんだ。
崎本はとにかくうるさい。
キーキー喋る猿みたい。
そのくせ突然、遠回しに俺の悪口を言ってくる。
俺と関係ない話題で。
しかも俺に聞こえるように。
俺が気づくか気づかないか微妙なラインをついて楽しんでる。
カスの中のカス。
キングカスとはこいつのこと。
津秋は体中が真っ黒なギャル。
きっとやりまくりなんだろうと思う。
たまに、「おっと、ごめんよ」とか言って、俺にぶつかってくる。
「おっとごめんよ」なんて、今時のギャルは言わない。
けど津秋は言う。
何がヤバいかと言うと、まずフェロモンがヤバい。
色気というのかな。
「あー暑い」とか言いながら、胸をはだけさせる。
俺に見えるようにして、ニヤリと笑う。
すると、周りの連中もクスクス笑う。
俺をからかってやがるんだ。
最低。
本当信じられない。
けど、津秋のことは好きだった。
可愛いから。
こいつもいじめに加担してるけど、こいつのは何だか嫌味がなかった。