00010PJD「怒り(一)」
影世に戻るための方法は、やっぱり飛び降り。
2回目だったから、迷い一つ無くピューッと屋上からジャンプして行った。
体が濡れるのは慣れそうにない。
ジョーカーの小屋で体を拭いて、着替える。
小屋はデュースだけだった。
俺が来て、デュースは尻尾を振って喜んだ。
俺が帰ってくるのを、心待ちにしていたらしい。
犬みたいだけど、とにかくでかいから、
飛びついてこられると簡単に死ねる。
牙も凄くて、ハッハッと息をはきながら、
顔を近づけられるとおっかない!
顔をなめてくるだけ、なんだけどな。
俺は笑いながら「やめろ」と言って引き離した。
顔洗わなきゃ。
洗面台で顔を洗いながら、悩んでいた。
ジョーカーいないけど洞窟の外行ってみるか。
外を探検したことはない。
ずっと洞窟の近くで遊んでたから。
そういえば、遠くには知らない家もあった気がする。
行ってみたい。
デュースの方をチラリと見る。
ずっと俺の動きを目で追っていた。
そのとき、小屋の扉が開いた。
ジョーカーだ。
けど何か様子がおかしい。
狐の面が違う。
前は普通の面だった。
取り立てて言うこともない。
ただの狐の面。
今の狐の面は、怖い。
鬼のような形相をしている。
怒っているような感じだ。
俺は驚いて固まった。
本当に、ジョーカー?
たぶん、そうだと思う。
ジョーカーは何も言わずに椅子に腰掛けた。
黒いゆったりした服に模様がついている。
服からこぼれて、
床にポタポタと赤い液体がしたたる。
――血だ。
ジョーカーの血ではない。
おそらく、他人の血だろう。
ジョーカーは朝イチで人を殺してきたんだ。
「ジョーカー、……おはよう」
初めてのことで俺は焦る。
ジョーカーは軽く頷くだけ。
前に会った時と態度がまるで違った。
そっけない。
前はしきりに面倒を見てくれたのに、
今日は……無視してくる。
勝手にしろという感じで。
ジョーカーはデュースを呼んで外に出る。
俺も慌てて追おうとして、扉の前でまた焦った。
デュースが尻尾をぶらぶらさせながら、通せんぼして俺の邪魔をしていたからだ。
本人は遊んでいるつもりなんだろうけれど、今回ばかりは、やめてほしかった。
ジョーカーはどんどん進む。
草原を歩いて、通ったことのない林を抜けて、
そして丘を登った。
結構歩いた。
一時間歩いたかもしれない。
けど、全然疲れない。
やっぱり、影世だと疲れないみたいだ。
身体能力が現世と全然違う。
これもジョーカーがくれた能力なんだろうか?
ジョーカーは、一度も振り返らなかった。
だから俺も、ムキになって追ってた。
家々を見渡す丘で、
ジョーカーは足を止めて腰を下ろす。
服から小さな単眼鏡を取り出した。
何かを見つめている。
俺も少しだけ離れた後ろに腰を下ろした。
「ジョーカー?」
名前を呼んで注意をひく。
けど振り返らない。
じれったい。
もどかしくて、真隣に移動して、
「どうしたんだよ、ジョーカー。今日何かおかしくないか」
と、聞く。
いや、おかしくはない。
わかってる。
これがジョーカーの普通なんだ。
日記を見たときの第一印象。
フレンドリーな感じじゃなかった。
ジョーカーは思慮深く、計算高い。
どちらかといえば、今までの方がおかしい。
けど、特別扱いしてくれてるんだと思ってた。
ジョーカーが黙って単眼鏡を渡してくる。
指で見るべき場所を教えられた。
覗いて見ると、そこは一軒家。
窓から少し中の様子が見える。
そして驚く。
中にいたのは、クラスメイトの大月だった。




