締めに行く前にちょっと寄り道
はーいやってきました王都ー。
転移した目の前にどどんと聳え立つは王都の外壁の南門。
いや本当は外壁の内側に直に転移出来たけど、王都全体には外部からの転移を感知する魔法やその他の魔法が張り巡らされている。それに引っかかっちゃうだけならいいんだけど、私の場合壊しちゃうから(過去に経験済み)緊急時以外は壁の外から正規の手続きをして入るようにしているんだ。
門の前から続く道には手続き待ちの長蛇の列。もちろん道に人が列をなしているのは予想済みなので、ちゃんと驚かせないように道から少し離れた場所に転移している。ジャック達はアレな服装や縄で縛った(ジャック以外)ままだから目立つので亜空間に作った部屋(ソファやお茶等が完備されてる)に入ってもらっている。
門の前にちゃんと列に並んでいる子達には悪いけど、用事をさっさと終わらせたいから今回は裏技を使うか。
外壁には東西南北に門が存在するが、私は南門を尻目に東門とのちょうど中間あたりに移動し、魔法で隠されている扉に近寄る。
本来なら防衛のため、正規の門以外に余計な出入り口は付けないものだけど、ここは私と私の家族専用に作られた、他人にはそうそう見えないし、入れない特別な扉なので大丈夫!
扉の先は外壁の内側にある一軒家と繋がっているので、扉をくぐれば綺麗に掃除されたおしゃれなリビングに出る。
そしてリビングにはお茶を飲んでる最中だったのか口元にカップを付けた状態で固まっている老年の男性が一人、この家を住み込みで管理してくれているノブだ。
カップや口からお茶が流れ落ちてるのに熱くないのだろうか?
「久しぶりノブ」
「ぶふぁああっごふっごほぉっ」
気管支に入ったのか咽ながらも何か言おうとするノブの背を撫でる。ちょっと大丈夫?
「チ、チアキ様ーーーー!?」
思わず耳(無いけど)を押さえたくなるような近所迷惑な大声を出すノブ。まあこの家防音だから聞こえないだろうけど。
あ、チアキって私の名前ね。前世からの名前で千秋って書くんだけど、まあ今は別にどうでもいいか。
「ど、ど、どうされたのですか!?何か緊急事態でも!?」
「いや、ちょっと緊急って程でもないけどささっと終わらせたい用事があってね。」
「は、はぁ」
「一応貴族関連だからヴォイドか、居なかったらユリームに話しとこうと思ってね。どちらか今話せる?」
そう、何故そのまま締めに行かないのかと言うと、腐っても貴族相手なので無断で締めると後々に今言った二人やその他貴族になった家族に迷惑が掛かるかもしれないのでそれを防ぐ為なのと、あとは家族が関係していることだからだ。
「は!すぐにお二方をお呼びして来ます!」
「あ!待っ」
言うや否や、転移するノブ……急いでくれるのはいいけど服がお茶でびしゃびしゃに濡れてたのに、大丈夫だろうか?
そして放置されっぱのカップや床を掃除し終えて待つこと十分ぐらい。
「母さん!」「おふくろ!」
ノブと転移して来たのは二人の………二人?
「ちょっと」
「急にどうしたんですか!?久しぶりに会えてとても嬉しいのですが、ああ事前に連絡してくれたら母さんの好きなお菓子いっぱい用意したのに!!いや今からでも遅くない、至急用意させるから待っててくださいね!」
「いや、いらな」
「そうだぜおふくろ!しかもなんで城に来ないんだよ!嫁達も息子達もおふくろが来てるって聞いたら、俺だけズルいってすっげえ怒られんだけど!皆会えるの楽しみにしてんだから、もう今から城行こうぜ!」
「うん、それはごめ」
「馬鹿か!母さんが城じゃなくわざわざこの家に来たって事は、そこまでゆっくり出来ないってことだろうが!」
「そ」
「ああ!?誰が馬鹿だごらぁ!この陰険腹黒が!!」
「…」
「あ、あのお二人とも…」
グゥワシっ(二人の頭を掴む
「うんちょおっと黙ろうか?」
ミシィィィィィィっ!!
「「いだだだだだだだだだだだ!!!」」
~少々お待ち下さい~
頭抱えてるお馬鹿二人はほっといて。
「ねえ、私はヴォイドかユリーム、どちらかって言ったよね?ノブ」
「はい」
「じゃあなんで、二人とも来てるの?ヴォイドがいるならユリームは来る必要無いよね?」
「いえそれが、ヴォイド様の所に転移した際にちょうどユリーム様が居られまして、チアキ様が来られた事をお伝えしたところ、自分も行くとおっしゃられまして…」
「で、一緒に来ちゃったと?」
「……はい」
さらに聞けば、仕事も残っているのに泣いて止める側近の子達を振り切って来てるらしい。本当何してんのかなこのお馬鹿は。
「だっておふくろは遠くに住んでるからなかなか会えねえし、久しぶりなんだからたまにはいいじゃねえか」
痛みから立ち直ったのか、だらしなく椅子に座って言い訳するユリーム……はぁ。
「いいわけ無いでしょ!あんたは一国の王様なんだから、周りを困らせることしない!!」
そうこのユリームは、この国…ターヘヴナン国の国王なのだ。
元々書類仕事が嫌いな子だったけど、普段は宰相兼見張り役のヴォイドがユリームの手綱を握ってるので、渋々ながらも仕事をしている。でも今回は見張りであるヴォイドもこっち来てるから誰も止められなかったんだね・・・ごめんなさい側近の子達!
「別に平気だって。急ぎの仕事はすましたし、他の奴らが処理できる仕事ばっかだったから大丈夫!もし急ぎが入ったら連絡来るようになってから」
しかも仕事ほっぽり出してる本人のこの反省0な態度。
今は無理だけど、後でお仕置きする必要があるみたいね…。
ゾクゾクっ
「なんか悪寒が…」
さてと、用事を終える為にさっきから抱きついているヴォイドに顔を向ける。
「ちょっとヴォイド離れて」
「…嫌です。このままでも聞けます」
ぎゅうっ
「……はぁ」
この子もこの子で、もういい大人なのにいつまでも甘えん坊で、母親としては嬉しいけど周りの子達と上手くいってるかちょっと心配だな。
余談であるがヴォイドは周りからは鬼畜宰相、歩く悪夢等と呼ばれており、恐れられている。
そして家族親類の中でもここまでベタベタと甘えるのはチアキのみである為、初めてこの様を見た者はあまりのギャップに、現実逃避するか恐怖のあまり失神するらしい(身内は見慣れてるので平気)。
そしてそのことをチアキだけが知らない……。
「実はさっきね…」
ちょっとグダグダになったけど、二人に今日起きた事とこれからする事を簡単に話す。
貴族特有のゴタゴタに子供が殺されそうになって、ひ孫のジャックが脅されて犯罪の片棒を担がされそうだったのを防ぎ、ちょっとムカついたのでその貴族を締めに行くと話したら…。
二人とも子供が殺されそうになったことを聞いてその貴族に対して嫌悪感から顔を顰めたところに、さらに身内が脅されて犯罪に加担させられそうだったと聞いた瞬間、ヴォイドから表情が無くなり、ユリームは机を叩いて怒りを露わにした。
「どこの馬鹿貴族だそいつはぁ!!」
それはジャック達に直に説明させるようと、亜空間部屋から出す。
いきなり部屋から出されたジャック達はキョロキョロと辺りを見回して、無表情のヴォイドと怒れるユリームが視界に入った瞬間、全員青ざめた。さすがに自国の王と宰相の顔は知ってるだろうから、そうなるだろうね。
対して二人はジャック達を見た瞬間、唖然とした顔になったかと思えば………吹き出した。ついでにノブも口を押さえているが体がめっちゃ震えている。
いきなり爆笑しだしたユリームと顔をそらしてなんとか堪えているヴォイドとノブに、自分達の服装を思い出したのか、今度は顔を真っ赤にするジャック達。
何故ジャック達が笑われているのか、それは彼らの服装に理由がある。
今彼らが着ているのは盗賊のようなボロボロの服装ではない。
ある者は絵本に出てくる王子様が着ているようなカボチャパンツに白タイツ姿。
ある者はこれまた絵本に出てくる妖精が着ているような裾部分がギザギザでほぼ生足でパンツ見えそうなミニワンピース姿。
その他にも小人やお姫様、きぐるみ等の絵本に出てくるようなファンシーな服装を彼らは着ている。
別に彼らが好きでこんな服装をしているのではなく、原因はさっきまでいた亜空間部屋だ。
亜空間部屋は複数あり普通の部屋もあれば、趣味に走った部屋もある。
そしてジャック達を入れていた部屋は、趣味に走っておとぎ話をモチーフに作った部屋で通称おとぎルーム。この部屋に入ると自動的(任意でも可能)におとぎ話風の服に着替えさせられる。
あえてこのおとぎルームにしたのは、普通いい年したおじさんが子供がしたらめっちゃ可愛いコスプレするのはかなり恥ずかしいでしょ?だからちょっとしたお仕置きになるかな~って。
服装は性別関係無くランダムに選ばれるよう設定したから、王子様風やきぐるみ等はまだ恥ずかしいだけで済むけど、女装してる子は涙浮かべて震えてしまっている。特にジャックは不運にもミニスカタイプの魔女っ子で、他のミニスカの子達同様に短い裾を懸命に引っ張ってパンツが見えないようにしている。
そして酸欠を起こしているユリーム達…こら!また笑うんじゃない、これ以上は可哀そうでしょうが!めっ!!