第93話:淡々とした
※2/8 誤字を修正しました。
「炎竜―――」
魔力を刀に収束させ、意識を統一する。
怪物となったウグラの雄叫び声が聞こえるが、今の俺には雑音にもならないように感じられる。それほどまでに意識を統一しなければ暴発しかねないからだ。
刀の先端を地面擦れ擦れで走らせ、そのままウグラに向かって一気に掬い上げるかのように切り上げる。
「《滅炎陣》!」
振り上げられた刀から炎を纏った音速波が放たれ、ウグラの真正面へ一直線に飛んで行く。
ウグラがその巨体に似合わない俊敏な動きで回避に動いたが、すべて回避するにはいたらず、右肩からザックリと切り裂かれ胴体と分離された。
さらに肩の方と腕の傷口から突如、炎が噴き出した。
その炎を掻き消そうと、地面を転げまわるウグラ、ただ、腕の方は既に炎に包まれており手遅れなのが見て取れた。
俺は跳躍をし、上空で上段構えをする。そして、そのまま重力に身を任せウグラの真上から一気に振り落す。
―――スキル《瞬断》発動。
普通、重力と力に任せて上から叩きおろしても威力などはたかが知れている。だが、人間離れしている(自分で人間離れと言えるのが泣けて来る)俺の筋力で全力でそれをやれば、ちょっとした震源地となってしまうほどの衝撃になってしまう。
そこにあらゆる物を刃になってしまう《瞬断》で切れ味をさらに上げた刀なんか振り回せば、もはや音速などと言う生ぬるいものではないだろう。
……本当、今更だけど俺ってもう可笑しいよね……。
地面に着弾と同時に辺りに衝撃が走り、折角整地した砂の地面に亀裂が走る。振り下ろした時に生まれた音速波が闘技場の壁に当たり石の壁に綺麗な切れ目が出来上がる。
(……どうだ?)
サッと素早く後ろに下がりウグラの様子を伺う。胴体も綺麗に真っ二つに切り裂かれたウグラは倒れたままピクリとも動かない。
真っ二つに切った時に、内臓とかエグイものが飛び出すと思っていたのだが、切れ目は黒い霧が覆いかぶさっている感じでよく見えない。
「イタタタ……全く……どうしたらこんな事が出来るのよ……」
先程闘技場の壁ギリギリまで吹き飛ばされていたエリラがふくれっ面で歩いて来ていた。
「……まだか」
だが、俺はエリラの事など殆ど意識していなかった。何故なら真っ二つにされた傷口から何やら黒い液体とが流れだし、体の形を形成し始めたではないか。
再生能力。この世界では即死術や蘇生術は神の力でも不可能とされている。
しかし、反面、死にさえしなければ膨大な魔力と引き換えに再生をすることが可能だ。しかし、この世界のレベルではまだ、傷口を塞ぐことぐらいしか出来ず。骨折などの重傷を負った場合は自然回復を促進させることは出来ても、瞬間的に回復させることは事実上不可能だ。ただし、俺は出来ますが。
そして、体を真っ二つにされ、そこから再生を始めると言うことは奴が高い魔力を持っていることが推測される。どこの魔神だよとツッコミたい所だが今はそんなことをやっている場合ではないな。
「真っ二つにされても再生するとなると、どうすればいいんだ……」
と、その時俺の目にある物が映った。それは俺が最初に胴体から切断したウグラの腕だ。既に燃えつき炭にしか見えなくなっていた。
普通こういうタイプが再生するには二つの方法がある。
一つ目は魔法で再生すること。ただし、俺みたいに治療系の上位スキルを持っていなければ出来ない。そして二つ目はヒトデみたいな再生を行うか。
海に居るヒトデは確か千切れてもその両方から同じように再生をすると聞いたことがある。分裂とはちょっと違うと思うのだが。
見た感じ、悪魔っぽい彼が治療系スキルを持っているとは到底思えない。人(?)は見た目で決まらないと言うけど。
能力なら、腕からも同じように再生することがあるかもしれなかったが、残念ながらその様子は全く見てとれなかった。
と言うことはナメ○ク星人見たいにそれなりに部位が残っていないと駄目だと言う推測が立つ。あくまで推測だが、今はこれしか情報が無いので今はこれで続けさせてもらう。
つまり……千切りや短冊切りみたいにバラバラにすれば再生はほぼ不可能と言うことになる。それでも再生しようものなら燃やしてやればいい。
「……《千乱刃》」
刀に風を乗せウグラに向かって弾き飛ばす。そして空中で俺が放った風の刃が分裂を始める。だが、例え分裂しようが威力は落ちることは無く、気付けば無数の風の刃が出来上がっていた。
そして、その刃は再生を仕掛けているウグラに次々と命中していく。命中するたびに体の断面図が出来て行く、一撃当たるたびに怪物が雄叫びとも奇声とも似てもつかないような声を上げていた。
そして、風が止んだ時。そこにあったのはまるでシュレッターに掛けられた後のようだった。黒い塊が時折心臓音見たいな音を吐き出していた。
だが、いくら待っていようが再生をする様子は見られなかった。
再生しないことが分かったあとは、実に淡々とした作業だった。
黒い肉塊となったウグラを灰すらも残らないように燃やし尽くした。その後、サヤたち特待生組も闘技場に戻って来たがその時には既に遺体も何も残ってはいなかった。
こうして、この騒動は呆気なく幕を降ろしたのだった。よく悪役が最後に派手に散っていくドラマとかマンガを見たことがあったが、実際はそんなに上手くは行かないなと俺は思った。
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「ふん……結局最後は力に飲まれたか……」
闘技場の客席へのの出入り口の壁に肩をかけいた大男がクロウとの戦いを見終わったあとにそう呟いた。
「それにしても……あれは想像以上の力だ……何故、今まで野放しにしていたのか……全く上の考えはわからんわい……」
「あっ、見つけました……マスターどこに行ってたのですか?」
どこかで見覚えがある女性が大男を見つけると駆け寄ってきた。
「何、ただの野暮用よ。それよりこの大会はおそらく中止じゃろう。少し早いが切り上げるぞ」
「えっ? あっ、はい分かりました……所でクロウさんは……?」
「小僧ならピンピンしてるわ。やはり転異種の炎狼を倒しただけの実力は持っていたわい」
「……今回の事件でまた彼に接触しようとする人が出てきますでしょうか?」
「それはそれで構わん。もうワシらの力ではどうしようもないわ」
「……はい、分かりました」
「よし、では戻るとするか」
「はい」
大男と女性は闘技場の背に歩き始めた。
(そう……マスターとしてのワシならな……)
大男は一度だけ振り返り闘技場を見て笑った。そして、再び前へと歩き出した。
その後、彼らは一度も振り返ることなく学園を後にしたのだった。
前回、単体魔法は強いの持っていないといいましたが、クロウ君なら素のステータスでも天変地異を起こせそうな気がします。
いよいよ魔闘大会編も終盤へ突入を始めました。この大会がどんな最後を迎えるかは皆さんの目で確かめて頂けると幸いです。
では、また次回で会いましょう。黒羽からでした。
あと、いつも感想を書いてくださる皆様。ありがとうございます。改めてお礼申し上げます。
よろしければ、これからもこの小説をよろしくお願いします。
m(_ _)m




