第90話:漆黒の雷は女神の祝福へと
書きたくなったから書いた。
後悔はしていない(キリッ)
黙々と上がる煙。観衆の人たちが固唾を飲んで見守っていた。
終わったと思う者。僅かな希望にかけるもの。またはどうでもいいと思っている者。
一人ひとりが違う思いを抱いていたが、視線だけは一つに集まっていた。
やがて、煙の中から人が現れた。
「……誰だテメェ……」
「……あんたの次の対戦相手さ」
クロウはそれだけ言うと刀を静かに下した。持っていた刀からは黒い煙と僅かに稲妻が漏れていた。
「なに邪魔をしているんだよ……テメェ、ルール違反だぞ?」
「はっ? お前こそルール守れよ。誰が殺す直前までやっていいと言ったんだよ?」
「審判が止めない限り試合は終わらない。それまでやって何が悪い?」
クロウは審判の方に視線を動かした。審判は予想外の出来事にただ驚いているだけに見えた。だが、クロウは試合を止める直前までの審判の顔をハッキリと見ていた。
(……グルか……)
「ところでお前はどこから現れた? ここは競技場のど真ん中だぞ?」
「あっ? 客席からだけど?」
そういってクロウは刀を持った手で、自分がついさっきまでいた客席の方を指した。客席の方を見るとエリラが、こちらとクロウが居た場所を交互に見ているのが見える。「えっ? えっ?」と顔を動かし目の前で起きたことを必死に理解しようとしている。
競技場の大きさは半径約100メートル。そして先程のウグラとレミリオンの距離は約5メートル。そして魔法が打ち出されてレミリオンにヒットする直前までにかかった時間は僅か0.4秒。
クロウが言っている事が事実なら、彼は秒速200キロ以上の速度で駆け付けた事となる。さらにそこから《倉庫》から武器を取り出す時間も入れなければならない。
つまり彼は僅か0.4秒足らずで移動・換装を行ったことになる。さらに自分が移動する際、周囲に被害が行かないように(蹴りだした衝撃で客席が壊れる可能性があった)客席を自分の土魔法で強度を上げ、さらに空間を一瞬だけ固め間違えても音速波を出さないようにしたのだ。
その状態から彼はウグラの放った魔法を刀で一瞬で消し去ったのだ。
もはや人間離れした技と言えよう。と言うか人間をやめているだろ?
(なんかナレーションに何か言われた気がするんだけど……)
「はっ? なにそんな冗談言っているんだ?」
「まあ、冗談と思うならそれでいいよ。でも、お前の魔法が防がれた事実は変えられないぞ?」
目の前に現れた人物だけに思考が言っていたのか、ウグラはハッとすると次に歯ぎしりをしだした。
「てめぇ……一体どうやって……」
「? どうやってって……普通に刀で止めただけだが?」
そういってクロウは持っていた刀をウグラに見せつけた。
「……まぁ、どうでもいい。どうせお前はルール違反で出場停止だ」
「それは別にいいけど……」
クロウは面倒だなと呟き溜息を付いたが、すぐにこう続けた。
「ところでさ、クロウ・アルエレスっていう名前どこかで聞いたことないか?」
「はぁ、誰がそんななま……あっ!」
ウグラが思い出したと思われる顔を見たクロウは、ようやくかと言った感じで今度は逆に見下すような眼つきをした。
「ああそうさ、あんたをギルドで吹っ飛ばしたガキだよ? 気づかなかったか?」
「な、何を言っているんだよ……あのガキがお前だとでも言うのか?」
「信じるか信じないかはお前次第さ。あーでも俺失格なんだろ? 残念だなーこれじゃあ戦えないなー(棒」
見え見えの挑発にウグラは見事に乗った。
「いい度胸じゃねぇか……いいだろ……次の試合で叩き潰してやる」
「あれぇ? 俺失格でしょー? 何あんたが勝手に決めてるの?(笑」
「おい審判……どうなんだよ?」
今まで静観していた審判がウグラの声にビクリと反応し、何故か敬礼をするポーズを取った。
「しょ、勝負がき、決まった後だったので……クロウさんは失格じゃありません!」
完全に後付のような気がするんだが……。クロウは思わずジト目で審判を見つめた。
だが、審判がそう言うならそうなんだろう。クロウはそう納得することにした。
「だとよ、良かったな。これで次にボコボコにされるのはあんたさ」
そう吐き捨ててウグラは競技場を後にした。
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「レミリオン様!」
「レミリオン様! しっかりしてください!」
フゥとため息をついた直後。俺の背後から必死な声が聞こえてきた。振り返ってみてみるとレミリオンに付いて来ていた二人だ。
二人とも涙目になりながらレミリオンに声をかけていた。レミリオンはこの二人に本当に慕われていたんだなと思った。
で、肝心の本人だが意識は多少朦朧としているようだが従者たちの声は聞こえているみたいだ。何か二人に言っているのか、口か微かにモゴモゴと動いたが残念ながら俺には聞こえなかった。
「……大口叩いておいてこれですか……」
俺は陰口を叩きながら彼女らに近づいた。その声が聞こえたのか従者の二人が同時にこちらを睨みつけてきた。
「助けて上げたのですからそんな顔をしないで下さいよ」
「誰……が……よ……」
声に反応したのはレミリオンだった。僅かに首を動かしこちらを睨んだ。oh……折角助けたのに、この仕打ちですか……。つーか、この人元気だな。
ただ、元気なのは精神だけのようですが。
そう思った次には、レミリオンはうぐっと呻き声を上げていた。二人がまた泣きながらどうしましょと慌てふためいている。
遠くから担架が運ばれて来るのが見える。傍にはアルゼリカ先生や保健室の先生の姿も見える。
このまま先生たちに任せてもいいのだが、折角ここまでしてあげたので最後までやることにした。
俺は、レミリオンの傍まで来ると姿勢を下しレミリオンの体の上にそっと手を差し出す。従者の二人が何をするの!? と手を出しかけたが無視することにしよう。
「《女神の祝福》」
柔らかい緑の光がレミリオンの全身をそっと包み込み、傷ついた体を癒し始めた。それを見た従者たちは言葉を失い、ただ茫然としている。
そして、緑の光が徐々に薄くなって行き消えるころには、レミリオンの傷はすっかりと癒えていた。
目の前で起きた出来事に唖然とする従者二人。急に痛みが消え体が動くようになったレミリオンは上半身だけ起こし、自分の体をキョロキョロと見回している。
それを確認した俺は用は済んだと思い、スッと立ち上がるとその場から去ろうとしたのだが。
「待ちなさい!」
まぁ、そうなりますよねー
クルッと体を180度回転させ俺はレミリオンたちと向き合う。
「何故私を助けた!? 私はお前らを……」
「……人の死体を見たことないような生徒たちが沢山見ている中で死体を見せたくなかったからだよ……」
「!? なんですって!」
「それに……あいつに殺されるかもしれないと思うと思わず体が動いてしまっただけさ」
それはそれだけ言うと、今度こそ、その場から立ち去った。
と言う訳で、皆さんはどうだったでしょうか?
この流れは当初から予定していたものなのですが皆さんの目にはどう映ったでしょうか?
次回ももう少し試合後は続きます。本当はまとめて書いた方がいいと思ったのですが、先にここだけは書いていたいと思い。書きました。
なお、前回の感想などを含め、コメント返信は後日行います。感想は目をガッツリ見開いて見ますので、その辺はご安心を。
いつも書いてくださる皆さん。本当にありがとうございます。
では、また次回で会いましょう。黒羽でした。




