第87話:クロウ v.s. リーファ
さて、リネアも勝った事だし俺も行くとするか。
ちょうどリネアの次が試合だった俺は競技場に入る出入り口付近で待機をすることにした。
「うわぁ……クロってこんなに人がいる中で戦うの初めてでしょ?」
「ん? まあ……そうだな。まあ別に緊張とかはしてないけどな」
だって、緊張する要素が見当たらないですもん。どんな勝ち方がいいかなと悩んでいます。贅沢な悩みだなおい。
「……今度は手の抜き方を間違えないようにね」
「善処する」
俺のチートっぷりに慣れてきているエリラからしてみれば、十中八九決まっている勝ち試合だよな。
と、その時競技場の方から入場してくださいとの声が聞こえた。さて、行くとしますか。
……あっ、ちなみに今回は殆ど手加減はしないので。ごめんなエリラ。
俺は内心で秘かにエリラに謝っておいた。
「卑怯者!」
「帰れ!」
競技場内に入ると聞こえてくるブーイング。どうやら予選でのことが噂で広がっているようだ。まあ予想は付いていたけどさ……。某球場なら物投げられて当たり前そうな光景だ。
「君も大変だね」
声のした方を向くと、そこには少年が立っていた。
「? 誰?」
「君の対戦相手さ」
ああ、三人衆の最後の一人だっけ? ……確か名前は……リーファだったけ?
緑色で先端が外向きに跳ねている短髪の髪が特徴的だ。
「まあ、不正したとか、そんなことは僕にはどうにでもいい事さ。どうせここで全てが証明するんだから」
「まあ……そうだな……」
「……ん? どうしたんだい?」
「いや、ようやく真面な奴に会えたなって」
少なくともあの2人よりかは真面そうだ。
「はは、あの二人の事は僕からも謝っておくよ。どうも少しばかり自己中心的な気がするし、それにセルカリオスは、もうお灸を据えられたみたいだしね」
ああ、さっきの試合の事か。
「アレは大丈夫だったのか?」
と、撃沈させた魔法を作った当の本人が言ってみたりする。俺も悪い奴だな。まあ、後悔はしていないが。
「ああ、先程保健室に連れ込まれていたよ。生きてはいたけど、ちょっと衝撃でどこか狂ったのか、意味不明な言葉を連呼していたよ」
……あっ、しまった死なないようにはしていたけど、痛みはダイレクトで入ることを忘れてしまっていた。
一瞬で灰になるほどの膨大な熱を受けて死ななかったから、きっと想像を絶するような痛みが彼を襲った事だろう。ぶっちゃけ死んだ方がマシとか言うレベルだったかもしれない。
「まあ、アレよりか周りにいた女子たちが涙目になっていたからそっちの方が可哀相に見えたけどね」
「あー……そりゃご愁傷様で」
全然思っていませんが、建前って大事ですよね。
「そろそろ始めましょう。ちなみに僕も一応、君らの事はあまり快く思ってはいない……全力で行かせてもらうよ」
「ええ……」
こいつもか……どうやら一部の奴らからは特待生は本当に目の敵にされているようだな。
「……まぁ……全力なんて無理だろうけどな……」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ、何も。それよりこちらも予選の汚名を晴らしたいので死なないように」
「……ああ、そうするよ」
「では、両者準備はいいですか?」
「はい」
「いつでもいいよ」
「それでは……始め!」
試合の幕が切って落とされる。
「――《炎
開戦と同時にリーファが魔法を唱えようとした。
だが、肝心のターゲットである俺はもうスタート地点には居ない。試合が始まって2秒も経っていなかっただろう。
「はっ?」
思わず詠唱を中断し辺りを見渡すリーファ。だが、周囲に俺の姿は見えないだろう。何故なら俺は
「……!? 上か!」
バッとリーファが顔を上げると、そこには空中で止まっている俺が見えたことだろう。
開戦直後にジャンプをし高さ20メートルぐらいまで飛び跳ねる。《跳躍》スキルがあればこれくらいは簡単に出来る。
空中に来たのは敵の思考を混乱させるためだ。
《風術》みたいに自分を浮かび上がらせる魔法はかなり高度な技術を必要とする。ある程度魔法をかじった人ならば俺がやっていることがどんなに凄い事か分かるはずだ。
「さて、じゃあやるとするか」
バッと両手を広げると闘技場全体に白い魔方陣が一斉に現れた。その数100個。大きさは一つにつき1~2メートル程度のものだ。
魔方陣はターゲットであるリーファに全て向けられていた。これだけの数の魔方陣に囲まれるなど人生でそうは無い体験だろう。
今からやろうとしているのは明らかにオーバーキルな行為だ。
俺も仏様じゃない。勝手に俺が知らないところで嫌な噂が立てば俺もイラッとする。
そこで全校生徒が殆ど見ているであろうこの試合で黙らせることにした。あの装置は不正と言われても生の試合でこんなことをやれば俺を不正行為だとか言ってた奴らを黙らせることが出来るだろう。
それと同時に、リネアにまたちょっかいをかけて来る奴らの牽制もこれで出来る。あのナルシスト野郎が変な噂を立ててくれたお陰でいい抑止力が出来そうだ。
まぁ、これでまた変な噂が立って、俺に面倒事が来るのだろうがもういつもの事なのでスルーをさせてもらおう。
と言うことで、リーファには犠牲になってもらいます。
「《流星群》」
すべての魔方陣から一斉に飛び出す光の弾。時速200キロは出ているかもしれない。恐らく直撃をすれば頭なんか水風船みたいに弾け飛ぶことだろう。
そんな恐ろしい魔力の弾が100個の魔方陣から一斉に解き放たれる。もちろん各魔方陣から一発なんて生ぬるい事はしない。各魔方陣からは取りあえず20個ぐらいは出るようになっている。
えーと……2000発と言うことになるな。
地面に落ちる度に辺りにまるで大地震のような地鳴りが辺りに響き渡る。まるでこの世の終わりかと言うような魔法が辺り一面に降り注ぐぎ、観客たちも席から滑り落ちあるものは地面に俯せになり。あるものは隣人の人たちと思わず抱きしめたりしていた。
ズガガガ! となったかと思えばグラグラと辺りが揺れ。続いて何かが弾ける音が聞こえる。揺れは震度にして6強はあるのかもしれない。
と言っても俺は地震って言っても日本でも3しか体験したことが無いのだが。
最後の魔法が地面にぶつかり終わり、俺は魔方陣をすべて閉じた。
先程まで一面、砂で覆われていた競技場の中央を中心に辺りは穴ぼこだらけ、特に集中して当たった部分はもはや底が見えないほどだ。
一応審判が立っていた場所は土魔法で土台をがっちりしておいき、尚且つ射程外にしておいたので殆ど無傷だ。
一方のリーファはと言うと、闘技場に僅かに残った砂の山の上で気絶をしていた。今度は死亡および痛みもある程度軽減されるようにしておいたので、発狂するなんてことはないはずだ。
もし、痛みを軽減させなければ、自分の体が粉々につぶされ、引きちぎられる痛みを何度も何度も生きたまま味わうことになっていただろう。
……あれ、俺がやっている事って拷問にならないか? リーファはいいとして、ナルシスト野郎に少しだけ罪悪感を感じました。
さて、このまま競技場を放置したら試合どころではないので、得意の土魔法でさっさと整地を始める俺。その間審判、観客を始め、誰一人として声を発さなかった。
整地作業が終わり、俺が地面に降り立った後も同じだった。
しばらくはこのままにしておいた方がいいだろうと思った俺は。何も告げずに競技場を後にする。
闘技場の方からどよめき声が上がったのは、それから数分してからだった。
クロウが少しだけ力を入れたら、このような形になっちゃいました。ある意味一人で自然災害どころか天変地異を起こしかねないなぁと改めて実感しました。
三人衆の最後の一人は意外と真面な人だったので、残念に思う人もいるかもしれませんが、思い込み縦ロール子とナルシスト野郎に冷静に対応する人がいなければカオス過ぎる三人衆だなと思ったので、リーファには冷静なキャラでいてもらいましょう。(現時点では)
次回、あの二人が激突します。
いつも感想ありがとうございます。感想には多少遅れてもすべての人に返すように心がけていますが、見落としている人がいたらマジですいません。
次回以降もよろしくお願いします。




