第85話:本選開始
「【2579】!?」
MFMから少し離れた位置から見物をしていた、縦ロールの子が思わず声を荒げた。
無理もないだろう。ここまで測定した中での最高値はセルカリオスの【340】だ。ステータス数値に換算するとおよそ600前後になる。
だが、クロウの叩き出した数値は【2579】。ステータス数値に換算するとおよそ5500。
しかも、まだ本気を出しているようには思えない。むしろ彼の顔は「やりすぎた」と言っているように苦笑していた。
縦ロールの子に付いていた二人は互いに顔を見合わせていた。
あの時、あのまま戦っていたら……
もちろん、魔力の数値だけがすべてではない。だが、あの時彼は巨大な魔方陣を一瞬に作り上げていた。つまり、すぐにでも魔法を撃てたと言うことになる。
二人の背筋が凍り、それと同時にあの時、戦わなくて本当に良かったと心の底からホッとした。
「い、インチキよ! そんな数値出るわけ無いじゃない!」
若干一名クロウたちに近づいていく者を見たとき、再び二人に緊張が走る。
「レミリオン様!?」
レミリオンと言われた縦ロールの子は、二人が制止するのも気にも留めずクロウの元へと歩いて行く。そしてクロウの目の前まで来ると
「どうせ卑怯な手でも使ったのでしょ!? 私が目の前で見てあげるからもう一回やりなさい!」
指をクロウの方へと突出して平然と言った。
さっきの数値を真に受けている二人の顔は真っ青だ。もし本選でぶつかれば勝機はほぼゼロに近いだろう。ただえさえ先日、闘技場でこちらから喧嘩を売りに行って見逃してもらっているのに、なぜ、向こうの感情を逆撫でする様な言動を自分の主は平然とやってのけれているのか、不思議でたまらなかった。
そして、心の底から何もありませんようにと願うのだった。
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何故か卑怯な手を使ったと言われているクロウです。
いや、卑怯な手は使っていないけどさ。心の底からミスったとは思っています。当初の予定では絶対安全圏の500あたりを狙っていたんだけど、思ったより魔力を必要としなかった。だから思っていたより大量の魔力を注ぎ込んでしまったのだ。
この縦ロール……確かレミリオンとか言われていたな。まあこの人が言うように卑怯な手を使ったと言われても可笑しくないレベルだよなこれ。
「いいですけど……別に抑えても結果は変わりませんよ?」
今だって抑えていたのですから。《魔力制御》を使えばもっと抑えられると思うけど、どっちにせよ500ぐらいで一位取って100%本選に出れるようにするつもりだったし。
「上等! やってみなs―――」
「いや、その必要は無い」
完全にもう一度測る流れになり掛けたとき、測定者の人が待ったをかけた。
「どういうことですか!?」
納得いかないと測定者に迫るレミリオン。測定者は先程まで動揺していた顔から測定前の冷静な顔になっていた。
測定者は淡々と説明を行う。
「この装置はなんらかの不正行為を行えばエラーが発生する仕組みになっている。そのエラーが起きていない以上2度目は規定上無しだ」
「何を言っているの!? こんな数値ありえないでしょう!」
まあ、普通は無いだろうな。ところがどっこい私は普通ではありません(笑)
測定者が何度説明しようが納得が行かない様子のレミリオン。流石にこれ以上他の参加者を待たせるのも嫌だったので止めることにした。
「まあ、不正したとかしてないとか本選で分かることじゃないですか? その時にその眼で確かめたらどうですか?」
「そ、そうですよレミリオン様。この人が言うのももっともです」
「ここは一つ落ち着いてください」
「……っ!」
従者2名が俺の発言に乗ってくれたおかげで何とかその場は落ち着いた。ただ周囲の群集は最後まで、不正しているだのしていないなど勝手な憶測を飛ばしていた。そのうち場の空気が「隠れて不正をした」と言う流れになった。なんでそうなるのですか……。
「本選で叩き潰してやる! 出たことを後悔するのよ!」
挙句の果てにリミリオンに捨て台詞を言われる始末でした。
測定終了後、俺は近くにあったベンチに座り込んだ。
「はぁ……本選前になんかドッと疲れたんだけど……」
「クロが魔力を流す量ミスったからでしょ」
エリラの鋭い突っ込みが痛い。
「ハイ、ソノトオリデス」
「……まあ、改めてすごいと思ったけどね。本当に羨ましい……」
「エリラもレベル的に可笑しい領域だけどな」
※エリラ現レベル:89
「クロに言われたくないわよ! 誰が鍛えたのよばかぁ!」
「アッ、ハイサーセン」
最後の人が測定し終えるまで俺はなんか色々な目で見られたが、エリラといつも通りの雰囲気で流しました。
そして、全員の測定が終わり本選出場者、およびトーナメント表が貼られた。
まず、特待生組で本選に出場するのは俺、サヤ、シュラの僅か3名だった。ローゼ、セレナ、カイトはギリギリ数値が足りずに脱落した。
戦闘力では圧倒的な冒険者組も魔力勝負では分が悪かったようだ。
そして、リネアも本選に無事出場をすることになった。しかも相手は
「HEY! 一回戦は不幸ちゃんとかい! やっぱり不幸な子に生まれたのだねHAHAHAHA~」
こいつだ。まあ……なんと運の無い。
「まあ……頑張れ」
「はい!」
取りあえず俺はリネアに一言かけておいた。
さて、俺の対戦相手だがどうやら三人衆の最後の一人が相手とのこと。
ただ、俺はそんなところに興味はない。問題はその次の2回戦の相手だ。貼り出されたトーナメント表に書かれている俺の名前のすぐ横には
レミリオン v.s. ウグラ
と、書かれた名前があった。
どこからもともなくピリピリとした視線を感じる。まあ相手は分かっているけど。
チラっと後ろを見てみると案の定、レミリオンが物凄く鋭い眼でこちらを睨みつけていた。
はぁ……最初から予想していたけどこの大会……どう考えても一波乱あるよな……主に俺に対して。
こうして、不安のまま本選が開幕した。
※サヤとシュラの対戦相手は一般生徒でした。
本選の会場となる闘技場には沢山の観客が押し寄せていた。この学園の生徒や国のお偉いさんだけでは無い。見れば一般市民のような服装をした人もいれば、冒険者らしきグループも見受けられた。どうやらこの大会はそれなりに有名見たいだな。
試合が行われるたびに闘技場は熱狂の渦に巻き込まれる。
そして、俺の中で最初の注目カードが始まろうとしていた。
「リネア! セルカリオ! 前へ」
審判の掛け声と共に、リネアとナルシスト野郎が闘技場の中央に向かって歩いていく。ナルシスト野郎の顔は余裕綽々そうだ。時折、スピンをしたいような仕草をやっている。なんというか「スピンしようかな~あっでもやめようかな~」とでも言いたそうだ。殴りたいな。
対するリネアは少し緊張しているのか、表情が硬くなっていた。
「リネア!」
闘技場に向かって行くリネアに俺は闘技場の出入り口から声をかける。大観衆の中だったので気づくが心配だったが、幸い彼女の耳に届いたのか後ろを振り返りこちらを見てくれた。
「思いっきりやれ! 後は心配するな!」
その声が届いたかどうかは分からないが、彼女の顔に走っていた緊張感が幾らか和らぎ笑顔で頷いてくれた。
そして、再び彼女は闘技場の中央に向かって歩き出した。
さあ、修行の成果を見せてやれ!
と言う訳で本選開幕です。
特待生組少なくねぇか! という声がたくさん届きそうですが、数値計算をしてみるとどう考えても魔法の勉強を専門的にやっていない冒険者には分が悪かったので仕方ありません。(泣)
ステータスが上がるのはレベルアップだけではなく称号などでも上がることがあるので、魔法のことを中心に勉強してきた生徒たちは数多くの称号によって補正がかかっているということになります。
実は称号は書いていないだけでちょっとしたことでも手に入ることがあります。ただ主人公からしてみると本当に微々たるものなので省略していますが。
もちろん、本編で書いてある通り実戦になれば、経験、スキルレベルで圧倒的に冒険者つまり特待生が有利になります。そういう意味ではこの予選は本当に運が悪かったと言えるかもしれません。
次回からいよいよ大会本選に突入します。頑張って書いていきますので応援よろしくお願いします。




