第66話:出発前に
本日、1本目の投下です。
2015年
※ 3/15 誤字を修正しました。
「ちょっ、サヤどうしたの!?」
「……言葉の通り……」
「こ、言葉の通りって……、行き成り過ぎない!?」
「……格闘系が伸び悩む理由……ですね?」
「……そう……」
「えっ、クロウどういうこと?」
まぁ、俺も元いた世界の漫画からの知識だけど。
「格闘家って、ある程度まで行ったら伸び悩むのですよ……、その理由は自分より上の者が極端に減るからです。そもそも格闘は、剣などを扱う人たちより圧倒的に人が少ないのです。あの人を目指す。あの人を超える……。憧れもモチベーションにとても関わってきます。それが格闘では少ないために、自分はこの分野では強い方だから……など怠慢になる人が出て来るのです。そもそも技術を鍛えるなら圧倒的に同じ道の人と戦った方が効率がいいのですよ」
「う……うん、なんだか分からないけど、兎に角、同じ格闘同士で戦った方がいい。と言う事?」
「技術を伸ばすなら。……もちろん色々な人と戦った方が宜しいですが」
「……そう……」
「確かに、学園でも少ないよね、格闘系って、シュラが一応できるけど、サブだし……クロウもだよね?」
「ええ、一応サブですが……」
「……サブには負けない……」
サヤの目は、闘志に満ち溢れていた。あっ、これ断ったら正拳入れられるパターンですよね? 戦闘には勝っても、本当の意味では、勝てないなと思いました。
「別に私はいいですが……私に、アドバイスとか出来るとは思えないのですが」
「……大丈夫……戦って覚える……」
つまり、俺は相手をすればいいだけという訳か? 確かに、それなら俺は戦えばいいだけだから問題はないな。
……と言うか、戦って覚えるって、随分と簡単に言うな……俺のスキルじゃあるまいし。
「分かりました。よろしくお願いします」
「……お願いします……」
あっ、俺が頭下げても駄目だよな。つい日本の感覚でやっちゃった。
「じゃあ、そろそろ出発する用意をしましょう」
俺のこの一言で、解散となった。ちなみに準備は既に出来ているので、俺はギルドに顔を出すことにした。面倒事は先に片付けておかないとな。多分、余りに変わってしまったから、分からない奴が大半だと思うから、モブは無視して置くとして、ガラムさんには事情を話しておかないとな。
あと話すのは……ミュルトさんぐらいでいいか。あの人には、受付嬢としてお世話になっていたし。
と、言う事で、俺は出発前に、ギルドを訪れることにした。
「……と、俄かに信じがたいお話とは思いますが、以上が、こうなってしまった理由です」
「……信じられない……が本心じゃが、お主のその姿を見たら、否が応でも信じらざる得ない……か……」
ギルドの奥にある、応接室には俺とガラムさんとミュルトさんがいる。
「一応、これは黙秘と言う形で、出来ればお願いしたいのですが」
「ああ、それは構わんが、すぐにバレること無いか?」
「まあ、急にこんな姿になったら、分からない人の方が多いと思うので、しばらくは大人しくして置けば、いいのでは」
「コアの件も完全に終わった訳では、ないからな? こっちの方にも是非来てくれと言う密書が沢山届いているわ……まあ、あくまでギルドは中立の立場だから、すべて黙殺するがの……」
「国も綱渡りな事をしますね。バレたら周辺諸国から一斉非難をされそうですが」
「所詮、国と国とのお約束なんぞ、空手形に過ぎん。裏でこんな事を行っているのは、お互い承知済みじゃ」
「そうですか」
おお、黒い黒い……。やっぱ、それくらいしないと生き残れないのかな?
「それにしても、これからどうするつもりですか? クロウさんにはまだ、借金が残っていますけど?」
ミュルトさんが、手に持っていたノートの中を見ながら言った。多分あのノートには、俺が溜めるに溜めている借金の残高が書いてあるのだろう。
よくよく考えたら、俺が死んだらあの借金ってどうなるのかな?q
「暫くは、地道に稼いで行きますよ」
と言うか、そうするしかないよな? 今の姿ならBランクになっても問題ないと思うが、それも暫くは保留だな。
「まあ、頑張るがよい、ワシ等はほぼ高みの見物じゃがの」
「もう面倒な事には、巻き込まれたくないです」
俺はそう言うと応接室を後にした。出ていく直前に、誰かが「チッ」と舌打ちした様に聞こえたが、多分空耳だろう。
「……で、これは何なんだ?」
予定の時間になって、続々と集合場所に集まって来たのだが、シュラだけがいなかった。カイト曰く「まだ、勝負中だったぜ」とのこと。
「勝負中って……熱湯我慢大会……の事ですよね?」
「ああ、まだやっていたぜ」
俺の脳内イメージだと、熱湯風呂に入って、どれくらい我慢出来るかという感じなのだが、そうじゃないのか?
そして、何故か同時に「押すなよ! 絶対に押すなよ!」と、どこかで聞いたことあるような言葉が、脳内で再生された。……いや、アレは違うな。
「仕方ないね。じゃあシュラの所まで行かない?」
「そうですね」
「そうだな」
「……面倒だけど……」
と言う事で、俺らはシュラが参加している大会を見に行くことにした。
だが、その熱湯我慢大会は、俺の想像を遥かに超える大会だった。
……先に言っておこう。
……バカだろ……
「「「……」」」
今、俺らは温かい……いや熱い雨が降っている会場の目の前まで、来ています。場所はエルシオンの郊外にある、民宿「サンシャイン」。もう名前から嫌な予感しかしないような民宿だ。
基本的に、普段はあんまり人は集まらないのだが、この時期に行われる熱湯我慢大会の時には人ごみで溢れている。
そして、民宿の前には、巨大な蛇口が作られていた。高さはおよそ3メートル。水が噴き出すところは直径2メートルぐらいはある。あっちの世界でも、これ程の大きさは見た事ない。と言うかギネス行けるんじゃね? 詳しいことはもう覚えていないけど。
そして―――
「ふはっはっはっ! 若造よ! お主中々やりよるな!」
「おっさんこそ、やるじゃねぇか!」
男2名が、熱湯の滝の下にあるドラム缶風呂に入っていた。何故温めているのが焚火じゃなくて、溶岩なのでしょうか? 私の目はおかしくなりましたのでしょうか?
「まだまだ!」
「大会主催者として、負けられるぬわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こんなむさ苦しい光景は誰も望んでいねぇよ! と心の中で叫びました。
「……毎年、シュラに引きずられて無理やり来ているが、本当に謎だな」
「……興味無い……」
「……もう置いていきませんか?」
「「「賛成」」」
恐らく、今ほど全員の意見が一致した事は無いと思いました。




