第62話:月夜の平原で………
「で、何で外に?」
もう時間にして午前0時を回った頃。俺はエリラと一緒に野営していた場所から、少し離れた所にある平原に来ていた。
今日は満月だったので月明かりがいつも以上に、俺たちを照らしており、光が無くてもお互いの顔の表情ぐらいは分かるぐらいだ。
ちなみに、俺らが野営していた場所は、平原の近くに広がる森の隅っこだ。
テントから出たあと、エリラは何も言わなかった。いつも元気な彼女にしては、妙なことだ。
さらに言えば顔も見ていない。と言うよりか見させてもらえないと言った方が、正しいのかもしれない。
いつもは俺の隣か、後ろを付いてくるが、今日は何故か前を歩いているし。俺が顔を覗こうとすると、俺の方とは反対側を向くし。
正直、「えっ、俺って嫌われた?」と思ってしまう。
「………」
俺の質問にも何も答えない………か………。
やがて、平原の中に、少しだけ盛り上がって出来ていた丘の所で、エリラは立ち止まり、その場に腰を降ろした。
俺はエリラの隣に座ったが、座る直前でやっぱり、アッチの方を向く。
………ちょっと泣きたくなります。俺たちは、何となく体育座りをしていたけど、このままいじけていいかな?
「………私、変かな?」
エリラが唐突に言葉を発した。
「何が?」
「なんて言えばいいのか、分からないけど………その………」
相変わらず顔は、アッチを向いたままだ。
「………私、今クロを見る事が出来ない………」
「………はっ? どう言うことだ?」
「言葉の通りよ………」
いや、よくわからないんだが。
見たら死ぬのか? と言うか、昼間は普通に見ていなかったか?
「ますます、分からない。と言うことでこっちを向け!」
俺はエリラの両肩を、掴むと、ぐいっと自分の方へと向けた。
エリラはすぐに、顔を背けようとしたが、そうはいかない。俺はそこから、エリラの頬を挟むと、無理やり俺の顔をみさせた。
お互いの目と目が合う。しばらくの間、静寂が流れたが、それは、俺が妙な違和感を感じたと同時に終わりを向かえる。
(………ん?)
エリラの顔がやけに熱い気がする。手で押さえていたにしては、熱くないか?
さらに、よく見てみると、月明かりで僅かに照らされていた顔も、最初より赤く見える気がした。
「はぁ………はぁ………」
エリラの呼吸も妙に乱れている。風邪でも引いたのか? いや、それだったらそうと言うはずだよな?
多少、呼吸が乱れ始めたエリラは、一層顔を赤くし
「分からないの………クロを見てると………急に呼吸が乱れてくるし、顔も熱くなるし………」
と、言った。
………えーと………風邪じゃない………よな? 誰かの顔みて風邪引く何て聞いた事無いぞ?
頭が混乱する。落ち着け俺、ここはクールダウンだ。
「いつから?」
もしかして、あのときの戦闘の時に毒でももらったのか? アレ? そう言えばハヤテどうなったんだ? ………って今はそんなこと、どうでもいい!
「え………えっと………今日、クロが私と………同じ年って言った直後から………」
? そう言えば………あのときのエリラも妙にモジモジ………していたような。
「ねぇ………これって病気なのかな? ………私………死んじゃうんかな? 今、すごくドキドキしているのだけど………」
エリラの目には少しだけ涙を浮かべているように見えた。
………あっ………え、えーと………俺、多分、その病気分かったと思うんだが………。
何て説明しよう………。
俺は多分それが何なのかわかった。それが分かった途端、俺も自分の心臓がバクバクしているのに気づく。
くそっ、今まで意識していなかった、だけなのか? それとも体が子供だったから、本能的に反応していなかっただけなのだろうか?
………いや、多分………俺も心の何処かで感じていたんだろうな。向こうにいたときは、いつも彼女の事を思っていたし、会うことを心の糧にして7年間必死になって頑張ってきたんだ………。
俺の知らない所で彼女の存在は大きな物になっていた。
………その時、何かが切れたのかもしれない、俺はそれ以上考えるのはやめた。
俺はエリラの頬から手を離し、代わりに俺とは反対の方のエリラの肩に手を乗せ、彼女をそっと自分の方に引き寄せた。
「!!!!!」
俺の胸の中でエリラの顔が、ますます赤く、熱くなっているのを感じた。
「収まったか?」
「ぜ、全然………むしろ激しく………」
「俺もそうだから心配するな」
「えっ………?」
「………エリラ………前、俺が絶対一人にしないって誓ったのを覚えているか?」
「………もちろんよ………」
「………今、気付いたよ………アレは本当の意味で誓った訳では無かったんだよ………」
「………?」
エリラが顔を上げ、俺の方を自ら見ている。もうエリラの顔は真っ赤になっていた。
そして、俺は
「好きだ………これからもずっと傍にいてくれ………」
と、言った。
しばらくの間、彼女はこちらをじっと見つめたままだった。
「………………」
どれくらい経っただろうか?
エリラはニッコリとして
「………私もよ………クロ………」
と言った。俺たちは見つめ合っていたが、やがて自然と顔を近づけていた。
そして、気付いたら俺とエリラの唇はーーー
ーーー静かに合わさっていた。
まるで前以て打ち合わせをしていたかのように、互いの顔が同時に離れる。
「………私、今、これ以上にないほどドキドキしている………でも、さっきみたいな不安は無いの………」
「………エリラ………」
「………私………今、とっても幸せ………」
「………俺もだよ………」
その後、俺たちは陽が頭を出す直前まで、その場を離れなかった。
はずかしいいいいいい!!
穴があったら入りたい!
今回のシーンは、エリラと出会ったときから考え始めていた内容です。ですが、いざ書くとなると、恥ずかしいと言ったら………、こういうシーンを数多く書いている人は本当にすごいと思います。
恥ずかしやら、上手く書けなくて泣きたいやらで、今回の回は本当に忘れられないでしょうね………。
色々と無理やりになったかもしれませんが、やりたかった事なので後悔はしていません。(恥ずかしいとは思うが)
次回更新は11/29を予定しております。




