第56話:信念と大切な物
「では……始めます」
「……はい」
「はじめ!」
開始の声が鳴り響く。
(―――先手必勝!!)
俺は、足を踏み出した瞬間、俺は試合の時には感じた事ない殺気を感じた。
気づけば、俺は踏み出した足を下げ、木剣を構え防御態勢を取った。
ヒュンと言う風切音が聞こえ、俺のすぐ耳横を風が通り過ぎて行った。
俺は、カウンターを仕掛けるようなことをせず、一歩二歩下がる。
俺は地面を見て、硬直した。
木が張られた床に、綺麗な切れ目が出来ており、俺のすぐ足元を通り抜け、壁にまで届いていた。
俺は先生の方を向いた、先生は剣を構えたまま微動だにしない。
「どうした? こないのか?」
この言葉が、先ほどの技が本気であることを感じさせた。
「……なんでそんな危険な技を試合で使っているのですか」
先ほどこの地面に綺麗な切れ目を作った技は、俺が巨木を斬り倒すという目標を決めた技だった。
「ふん、ワシはこの技を試合で使っては悪いとは言ってないぞ」
「!? それでもこんな模擬戦に使うw―――」
「戯け!」
「!」
「ワシに殺されるなら、その程度の事だったということだ……行くぞ」
く、狂ってやがる……
俺の心の叫びを余所に先生は次々と攻撃を放ってくる。おいおい何でこんなことになったんだよ……
「ちょっ、あれやばくないですか!」
道場の隅っこで俺と先生の試合を観戦していた生徒たちが騒然としている。当然のことかもしれないが、床に穴が開いたことなど今まで無かった。
あんな技を普通の人間がまともに受ければ当然、命は無いだろう。
「と、止めようぜ!」
「で、でもどうやって!?」
この中で先生に勝てる人などいない。全員で束になっても勝てるかどうか分からない。
生徒がどうしようかと悩んでいたとき、テリュールだけは行動に移していた。
「止めないと……」
考えるよりも先にも体が動いていた。観衆の中から飛び出すと、先生に向かって行く。
他の生徒が制止しようとするが、道場の中では俺とほぼ同程度の敏捷力を見せる彼女にとって、周りの生との動きなど止まって見えるかもしれない。
「あっ! 馬鹿! 来るな!」
反撃のタイミングを見計らうために、回避に専念していた俺は、視界の隅に彼女を捉えていた。
先生は俺に攻撃をするために、再び構えを取っていた。
その背後に飛び込む彼女。先生の顔が一瞬ピクッと動いた気がした。
と、次の瞬間、俺は何が起きたか一瞬分からなかった。
―――ザンッ!
先生の後ろ頭が見えたかと思うと、剣を振り切っていた。
そして、辺りには赤い血が飛び散る。飛び散った血は俺の顔にもかかった
俺のすぐ足元に何かが転がって来る。やや間があってあってから、俺は転がって来た物を確認するために視線を動かした。そこには
「あ……あ……」
テリュールが横腹から血を流しながら倒れていた。
「て、テリュールさん!」
先程、テリュールを止めようとしていた生徒がテリュールの元に駆け付けようとしていた。
「来るな!」
俺は声を張り上げた。俺の声に驚いた生徒たちが一瞬でピタッと止まる。よく見ると先生は、木剣を片手に、また背後から来ようものなら斬るぞと言わんばかりの構えをしていた。
あのままこちらに来ようものなら、辺りに血の池を作りかねない。
生徒たちが止まったのを確認すると、俺はすぐにテリュールの傍に行き、彼女の体を仰向きにして支えあげようとした。と、その時
「!?」
俺は彼女を抱きかかえると、そのまま横に走り抜ける、それと同時に、俺らがいた所を木の刃が通りぬけていた。
勢いを止める為に、彼女を抱きかかえたままスライディングを決め、ようやく止まる。
「どういうことですか!?」
血が流れ続けている部分を手で押さえながら、叫んだ。テリュールは、痛みを堪えているのか、時折歯ぎしりをしていた。顔から大量の汗が流れ、すぐにでも止血をしたい。
「剣を向けて来たのであれば、それは立ち向かう意思」
先生が俺らの方へと近づいて来る。
「ならば、全力で迎え撃つまでよ」
「それが例え自分の娘でもか!」
「そうじゃ、それがワシの剣術の信念だ」
ブチッ―――
その言葉に、俺の中の何かが切れた気がした。
気付いたら、俺は先生の目の前にいた。そして俺は今まで、押さえていたステータスを一気に解放し、全力で剣を振り抜いた。
咄嗟に、反応した先生は横に飛ぶことで回避をした。
ズガァンとこれまで聞いたことないような音と、風が巻き起こる。初めて体験する強風に多くの生徒が、自らの体を支え切ることが出来ずに、転んだり、転がったりした。
風は、数秒で止んだ。
生徒たちが恐る恐る目を開けると、そこには床が見事に吹き飛び、壁はポッカリと大穴を開けていた。そして、真っ直ぐと伸びる亀裂は、道場の外の地面まで抉り取っており、綺麗に整えられていた園庭は見るも無残な姿になってしまっていた。
生徒たちは、口をあんぐりと開けていた。誰一人言葉を発したり動いたりもしなかった。
「先生……いや、じじい」
その声で、ようやく我に返る生徒たち。俺は自分で作ったクレーター見たいな跡には目もくれずに、生徒同様、唖然としていた先生のへと歩いていた。
「俺は、あんたの考えなんか殆ど分からないし、あんたほど長くも生きていねぇ」
俺は立ち止まると、ゆっくりと中腰になった。
「だから、あんたの考えや信念は分からないし、それを否定する気は無い……だが―――」
木剣を両手で持ち、顔の近くまで持ってくる。剣の刃先は先生の方を向き、光るはずもない木剣は、光に僅かに反射したように見えた。
「大切な家族を傷つける奴に……俺は負けねぇ!!」
次の瞬間、再び衝撃音と爆風が吹き荒れ、そして、再び辺りに赤い血が飛び散った。
3週間後。俺らは、村人たちに見送られ、村を後にした。
らって、どういうことかって? それはまだ完治していないのに付いて来ると言って、聞かなかった馬鹿がいるからです。
「……ねぇ、今すごい失礼なこと考えていなかった?」
「……別に考えていませんよ」
「顔に出てるわよ」
ツンツンと俺の頬を触ってくるテリュールの顔は笑顔だった。
「……本当に良かったのですか?」
「いいのよ」
「……家族とは二度と会えない可能性もあるのですよ? 今ならまだ戻ることが可能ですよ」
「もう、見送られらたし、今更戻れないわよ」
「ですが……」
「……『大切な家族を傷つける奴にh―――」
「だぁぁぁぁぁ! 言わないでください! 分かりましたから! もう聞きませんから! 掘り返さないでください!」
中身はいい年こいた人の黒歴史を掘り返さないでぇぇぇぇぇ。
心の中で絶叫する俺、穴があったら入りたいです。無かったら掘って入りたいです。
あの後、道場は半壊し、先生は大けがを負った。最後まであの光景を見届けていたテリュールも大量失血で、2日ほど生死を彷徨い続けたが、奇跡的に持ち直し、2週間後には、一人で動けるまでに回復し、現在に至っている。
そんな彼女は、歩けるようになったときに、俺に旅の同行を願い出たのだ。
当然、俺は「やめて置いた方がいい」と言ったさ。確率的にはもし戻った場合、二度とこの世界に戻れない可能性の方が高いのだ。
だが、彼女はそんなことも全て了承して、付いて来ると言い張った。
理由も教えてくれない。たぶん俺がいた世界をこの眼で見たいのがあると思うけど、これは理由にするには弱すぎないか? 家族と離れる<異世界への好奇心 って言う形が出来てしまうんだが。
仕方無かったので、親がいいと言ったら良いよと言う事にしたのだが、母親は「彼女がそういうなら好きにさせてあげて下さい」と言い、まだ立ち上がる事すらも出来ない先生は「勝手にしろ! 戻って来るな!」と言われた。ちなみにそのあと、また傷口が開いて悶絶していました。
結局、俺は半分納得はしていなかったが、テリュールが付いて来ることを許可した。
「ほら、掘り返して欲しくないなら、さっさと行くよ!」
「あっ、ちょっ、まだ無理をしないで下さい!」
前を歩いていくテリュールを俺は慌てて追いかけた。
「ふふ……『家族』か……///」
「ん? 何か言った?」
「ううん。何も言ってないわ。それより早く行きましょ!」
「ちょっ、腕、引っ張らないで痛い痛い!」
こうして、俺はテリュールと共に、新たな旅へと出たのだった。
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
m(_ _)m
「展開が遅い」「爽快感が減ったね」などの感想を頂き、私自身も早く進めたいと言う思いが重なりました。
肝心の描写なのですが、いざざっくりと、削ってみると意外とスラスラと書けました。(上手い、下手は別として……)
こんなテンションで次回も書けたらいいなと思います。
クロウがぶっとばす前の言葉には悩みましたが、シンプルイズベストと言う事で、こんな形となりました。自分は結構気に入っています。
次回も頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
m(_ _)m
なお、次回更新予定日は11/17を予定しております。




