第54話:例え木剣でも(本編)
※11/11 誤字を一部修正しました。
「全く……どこに行ったのかしら?」
とある世界の、とある村。争いなどは特に無く、のんびりとした時間が流れている。
その村の中をあちこち移動しながら、何かを探している女性がいた。白色の瞳に腰まで伸びている白髪。髪は束ねることなく下ろしていた為、顔を横に振るたびに綺麗な髪が激しく左右になびいていた。
体つきは比較的小さ目だが、整った綺麗なラインが服の上からでも分かった。
「すいません。クロウ見ませんでしたか?」
女性は、近くを偶々歩いていた農夫に声を掛ける。
「クロウ君かい? さぁ? 見ておらぬのぉ」
「そうですか……すいません。ありがとうございました」
女性は一礼をすると他の人にも聞き込みを続けていく。
だが、なかなか有力な情報は得られなかったが、聞き込みを開始してからおよそ1時間後。ついに―――
「ああ、それならさっき、村の外れに歩いていくのを見たわよ」
「ほ、本当ですか!? 分かりました。ありがとうございます!」
「いいのよ、早くテリュールちゃんの旦那さんに会いに行きなさい」
「!? ち、違います! お父さんに呼んで来いと言われたので探しているだけです!」
顔を真っ赤にしながら全力で拒否をする。色々言いたかったみたいだが、急いでいたので、有力な情報を得ることに成功したテリュールは、教えてくれた人に一応、一例をすると、情報があった村の外れに向かって走り出した。
(村の外れに? もしかして勝手に出て行った……!?)
心の中に不安が過りながらテリュールは先を急いだ。
==========
(見つけた!)
村の外れ、森に近い場所で私は彼を見つけた。
彼は巨木の方に向かって木剣を突きだしていた。
(……? 何、あの木についている傷は?)
私がそう思った瞬間、彼は木に向かって木剣を振り出した。
―――ガンッ!
鈍い音が辺りに響き渡り、彼が持っていた剣が宙を舞った。綺麗な線を描きながら木剣は地面に突き刺さった。
(ちょっ、クロウ何やっているの!?)
あんな巨木に向かって何をやっているの!? これをみた私は最初、彼はストレスでも発散しているのだろうかと思った。
だけど、彼は地面に突き刺さった剣を引き抜くと、再び巨木の方へ剣を構えた。そして少し間を置いたかと思ったら、もう一度巨木へ斬りかかった。
―――ガンッ!
だが、再び剣は虚しく宙を舞い、地面に落ちる。
それを拾い上げ、また同じことをやる。
何回も、何回も。
そして、私はすぐに理解をした。
―――あの巨木を斬ろうとしているの!?―――
そんな無茶な! 私は一瞬、自分は馬鹿かと思い、首を振った。そしてもう一度、彼の方を見る。
だが、どう見ても彼は、あの巨木を斬り倒そうとしているようにしか見えなかった。
私はすぐ彼を止めようと駆けだそうとした、だけどその時、再び聞こえたガンッと言う音を聞いたとき、私は足を止めていた。
彼は本気だった。
肩で大きく息をし、眼も半分虚ろを向いているように見えた。剣を取りに行く足取りもどこか頼りなかった。
ただのストレス発散とかなら、あんなになるまで絶対にやらないはず。
フラフラになりながらも、彼は巨木に挑み続けた。
そして、私は知らず知らずのうちに、自分の手を合わせて祈っていた。
==========
視界が妙に霞む。やり過ぎたか? 俺はそう思いながらも腕を止めることはしなかった。
だが、次第に体が言う事を聞かなくなっていた。
だけど、やめる気は無かった。このままでは変わらない。死力を振り絞り、足を踏み出す。
その時
グラッと視界が大きく揺れると、まるで壊れたテレビのノイズのような光景が広がった。全身から力が抜け、振り出していた剣は、初動の勢いそのままに巨木に向かっていく。
いつものように弾かれると思った。だが、いつもの感触は無く代わりに何かに当たっているような感覚が手から伝わる。
俺はそのまま地面に倒れた。グラグラする視界を何とか保とうと視線を上げると―――
―――バキバキバキ―――
「……えっ?」
少しだけ傾いた巨木が目に見えた。そして、傾きは徐々に大きくなり俺を長年に渡って見届けてくれた巨木は、別れを惜しむかのように、一瞬動きを止めると、次の瞬間―――
―――ズドォォォン!
辺りに衝撃と、砂煙が舞い上がる。地面に倒れていた俺は砂煙をもろに受けた。口の中にジャリジャリとした食感が広がる。
しばらくの間、あたりに小さな揺れが続いた。やがて、その振動も収まり、辺りに静寂が戻る。
ガンガンする頭を無理に起こし、巨木の方を見る。
巨木の木は根元が綺麗に切断されており、年輪が露出していた。
「は、はは……」
思わず笑いが出てしまう。次にやったと言おうと思ったのだが、口が動かなかった。あれ? 視界もおかしく―――
俺の意識はそこで途切れた。
==========
「す、凄い……」
私は目の前の光景に自分の眼を疑った。夢かと思った。目の前で先程まで、まるで要塞の様にそびえ立っていた巨木が、クロウによって一刀両断されたのだ。
あまりの光景に暫くの間、私の脳は全く機能しなかった。
辺りに流れる静寂。
しばらくして、私は我に返った。まだ、夢を見ているような感覚がする気がした。
「……はっ! クロウ!!」
私は倒れて全く動かないクロウに急いで駆け寄った。うつ伏せで倒れていたクロウを抱え上げる。
クロウはびっしょりと汗をかいていて、顔色がものすごく悪かったわ。呼吸も弱々しく、一目見ただけで、かなりの無理をしていたことが分かった。
すぐに戻って休ませないと。私はそう思い、クロウを背中に乗せてようとした。
その時、クロウの手が見えたんだけど、見た瞬間、私は言葉を失った。
彼の手はすべて布に覆われており、布からは血が滴り落ちていたわ。
辺りを見回してみると、倒れた巨木の根元に、赤い色をした地面がそこらじゅうに見えわ。
(一体、どんなことをしたら、こんなことに……!?)
色々聞きたかったけど、今はクロウの命が大事と思い、彼をおんぶして帰路を急いだ。
==========
「ん……」
薄らと目を開いて最初に目に飛び込んできたのは、白色の髪と見慣れた天井だった。
「この髪は……」
ここ数年、毎日のように見ていた髪なのですぐに誰か分かった。
テリュールだ。視線を動かすと、彼女は俺の胸元を枕にして眠りこけているのが分かった。それと同時に、俺は自分が布団に寝かされていることもわかった。
体を起こそうと思ったが、寝ているテリュールを起こすのもアレだったので、やめることにした。
(寝かされている所を見ると、どうやら倒れてしまったようだな……)
記憶を辿ってみるが、どんなに思い返しても、倒れた巨木を見たのを最後に、プッツリと切れてしまっている。
「そうか……倒したんだよな……」
「そうだな、話を聞かせてもらおうか」
顔だけ動かしてみると、テリュールの親父……先生が現れた。
「……巨木を斬っただけですよ」
「その結果がこれか? 自分は倒れないとでも思ったか? 自分の体調を管理できない時点でまだまだじゃの」
「……そうですね」
「ふん、ワシの娘にいらぬ心配を掛けさせるな。これでお主が外に出れるのは当分見送りじゃな。テリュールに呼ばせに行かなかったら、命が消えてたわ」
「……そうですか」
「話はそれだけだ」
そういうと先生……テリュールの父親は出て行った。
「……そろそろ起きて下さい……」
「……いつから気づいていたの?」
むくっとテリュールが起き上る。
「……先生がやって来たときに」
「残念、クロウが目覚めたときからよ」
最初からやん! 思わず心の中で突っ込んでしまう。
「……悔しくないの?」
ん?
「……何がでしょうか?」
俺がそう言った瞬間、彼女はいきなり俺の服を掴んだ。そして、そのまま自分の体重を俺にかけるかのように、乗せる。テリュールの顔がすぐ目の前まで近づく。ちょっ、それ以上近づいたらk―――
「あなた、あんなに帰りたいって言ってたでしょ! もう7年よ! 確かに無茶をしたかも知れないけど、こんな事で諦めていいの!?」
彼女がすごい剣幕で俺に迫ってくる。正直、ここに来て一番の怖さかもしれない。
「良い訳ないでしょ」
もちろんだ。正直殴りかかりたい気持ちだった。
「じゃ、なんで―――」
テリュールが全部言い切れる前に、俺は彼女の口を塞いだ。
「明日、出ます」
「……えっ?」
「明日ここを出発します」
その時、微かに吹くはずがない風が何故か、吹いたように感じた。
皆様、心温かいコメントありがとうございます。
感想にはすべて返させてもらいましたが、もし「返してねーぞ」とか言う人がいたら、スイマセン。
次回更新日は11/13を予定しています。




