表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/270

第51話:後の祭り

 ※11/5 誤字を一部修正しました。

「チェルスト……!?」


 俺は思わず椅子から立ち上がる。


「正しくはチェルストの村の中央部と言ったところかの」


「中央部? どういうことですか?」


「チェルストの村は各方面に分かれておるのじゃ、中央部以外に、北部、南部、東部、西部があり、後は特別部があるの」


 分かれているのか……いや、どういうことだ? チェルストって言ったら、確かあの本(第42話・『滅びた都市【チェルスト】の謎』参照)には約500年ほど前に滅んだ都市のはず。


 500年前、突如滅んだ都市。都市からは人だけでなく、動物すらも消え、当時の調査での消失理由は不明となっている。

 近辺に住んでいた人に聞いても、全く分からなかったらしい。それが原因で「呪われた都市」とか言うレッテルを貼られて人々が近づかなくなったんだっけ?

 国も立ち入り禁止区域にしていたけど、200年ほど前に解除。国の調査隊などが入って見たりしたが、その後に調査員が死ぬとか言うことも起きず、呪いのお話は自然と風化して行き、最終的に消えて行ったらしい。今ではごく一部のオカルトマニアたちしか知っている人がいないと言われている。


 いや、まて、もしかして偶々同じ名前なだけかもしれない。日本にもどこかは忘れたが、外国の都市と同名の町があったなしな。


「ふむ……お主らの世界ではチェルストと言う都市は滅んだことになっておるはずじゃ」


「!? ……えっ」


 俺の頭はショート寸前なのですが。


「ちょっ、一体どういう事ですか!? さっきから意味が分からないのですが?」


「お主は魔法と言う物によってここに飛ばされて来たのじゃろう?」


「えっ……た、たぶんそうですが」


「ここは、かつてチェルストに住んでいた者の末裔が暮らす村……と伝わっている」


「伝わっている? 曖昧ですね」


「なんせ、もうかなり古い時のお話だからな。言い伝えしか残っていない今となっては確かめる術が無いのじゃ」


 どういうことだよ! 俺は心の中で叫んだ。チェルストに住んでいた者の末裔? なんでこの人は俺が魔法で飛ばされたのが分かったんだ?

 古い話? 確かにもう500年前の話らしいけど、当時の人たちは自分たちに起きた事すらも記録していないのかよ……。

 少しでも情報が欲しかった俺だが、ここまで来ると怒りを通りこして、呆れの領域なのだが。


「……で、ここは結局なんなのですか?」


 もう、俺は諦めて結論を聞くことにした。


「ここは、お主らがいた世界とは別の世界……魔法とやらによって次元の狭間に封印された世界じゃよ……もっともワシらしてみれば、ここは故郷じゃがのう」


「……はぁぁぁぁぁ!?」


 思わず声を上げてしまう。


「そして、わしらの一族は、お主見たいな新たな封印者が分かる不思議な目を持っておる、これを持っている理由も、何故一族が使えるのかも全く分からないけどな。ただ『封印者が分かる目』と言う事しか、分からないのじゃがのう」


 泣きたい、先祖のいい加減さに泣きたい。なんでそんな事しか伝えていないんだよ……。


「……『封印者が来た場合、我が家で手厚く保護せよ、それが我が一族に出来る罪滅ぼしだ』……初代の言葉らしい」


「罪滅ぼし?」


「……ああ、そうじゃ……これ以上の事は私も知らぬ」


 意味ないじゃないか! ふざけるなぁ!


「……ちなみに、僕以外にもここに飛ばされた人はいるのですか?」


 もしいたのならば、その人の子孫がいる可能性もあるし、に何か残している可能性もある。と俺は思ったのだが


「……知らないな」


 この発言によって、俺のライフはゼロになった。




















 俺は今、村のはずれにある小さな丘の頂上に体育座りで座り込んでいた。


「……はぁ」


 俺がここに飛ばされて分かったことは二つ。一つ、ここは元いた世界とは別の世界であること。二つ「ここに住んでいる者たちはチェルストに住んでいた者たちの末裔であると言う事。

 戻る方法もなければ、ヒントすらもない。


 あの後、魔法やスキルも全て試してみたが、全部駄目だった。例えば、テリュールに頼んで、俺の背後から小さな石を俺に目がけて投げさせてみた。本来、俺に当たるならスキル《見切り》が自動発動して、飛んでくるライン上に赤い線が光るはずなのだが、何も起きずに俺の頭に当たった。痛かった。《神眼の分析》も発動しなかった。同じ要領で《倉庫》も《換装》も全部駄目だった。それだけではない、武器系スキルもすべて駄目になっていた。

 木の棒を拾って、前と同じように振るのだが、もの凄く違和感があった。どうやら頭の中にある、剣術の動きと今、体で感じている動きに明らかな違いがあるみたいだ。

 今の動きには前のような精彩さがなかった。


 ただ、ステータスの基礎値だけは無事だった。指先一本で木を吹き飛ばしたり、走ってみると50メートルを1秒程度で走れたりなどしたからだ。


 だが、他はすべて駄目だった。今の俺はステータス以外の能力は、すべて前世の俺に戻った事になる。


「……どうすればいいんだよ……」


 体育座りを解き、今度は仰向けに倒れて空を見てみる。青い空が見える以外には何も見えない。雲すらも見当たらない。太陽すらもないのだ。この世界には雨と言う概念や、夜と言う概念は存在しないらしい。


 そういえば《惑星創造》と言うスキルもあったな。まだ俺には早いと思って、結局何も手を付けていないままだったな。もしかしたら、あのスキルもこれと似たような物だったのかもしれない。

 だが、今更後悔しても遅かった。だが、例え遅いと分かっていても後悔せずにはいられなかった。 


「……畜生……」


 自分の目から涙が零れ落ちるのを感じた。

 なんで、あの時ハヤテと話すようなことをしたのだろう。なんで、あのとき全員を外に吹き飛ばすと同時に、俺も外に出なかったのだろう。

 力があるから大丈夫。《魔力支配》があるから大丈夫。そんな楽観的な考えを持っていたからだろう。もちろん自分は慢心したつもりはない。常に魔法を鍛え、新しいスキルを作り武具、道具も開発を頑張っていた。

 それでもきっと心のどこかで……慢心していたのだろう。


 その結果がこれだ。見知らぬ世界に飛ばされ、帰る方法も不明。


 家には奴隷になった者ばかり……俺がここに居ればいるほど、彼女らに危険が生じる可能性もある。せめて、何か守れる物を置いとけばよかった。ガラムあたりに頼めば、家の護衛だって頼めたはずだ。


「畜生……畜生……」

 

 これが俺の2度目の人生で初めての挫折だった。

 次回投稿予定は11/7です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ