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第48話:乱戦・前編

 ※11/1 誤字を一部修正しました。

 クロウが一気に前へと走り出し、エリラもその後ろから付いてくる。

 クロウは刀に力を入れ始める。すると先程まで真っ黒な色をしていた【漆黒・改】が徐々に赤くなり始めたかと思うと、次の瞬間、刀から一気に火柱が上がった。その強さはローゼの光魔法の明かりよりも、さらに明るく、辺りを照らすしていた。


「【炎龍型】……《焔斬(えんざん)》!!」


 クロウは自分の目の前で群がる魔物達に向かって、刀を水平に振り抜く。それと同時に火力を一気に上げ周りの魔物を巻き込んでいく。炎の長さは20メートルにまで達していた。


 斬られた魔物は体を上下に分離され、炎に巻き込まれた魔物は自らに纏わりついた炎を何とか消そうともがきまわる。

 その内、何体かが力尽き、動かなくなった。そしてまだ暴れていた魔物は、被害が無かった周りの魔物達までを巻き込み、ちょっとした同士討ちが発生した。


 煙と焦げた臭いが、辺りに漂い始める。


 だが、クロウはそんな事に構いもせず、次々に辺りの魔物に向かって突入して行く。


 対するエリラは、クロウの斬撃と炎で討ち漏らした敵を中心に撃破をする。


 犬の顔をした【コボルト】と、体長が5メートルに達する【オーガ】がクロウの出した炎を掻い潜り、エリラへと襲い掛かる。だが、目の端でその動きを前もって捉えていたエリラは後ろに下がり、剣に魔力を込める。


「《音速剣(ソニック・ブレード)》!!」


 エリラは目の前の、何もない空間へ剣を振りぬく。魔力を溜めることによって、放たれる魔力の刃は、ヒュンと一瞬、音が鳴ったかと思うと、次の瞬間、ブシャと音と共にオーガの体が真っ二つに切り裂いていた。


 隣にいたオーガから行きなり血が噴き出した事に驚いたコボルトの動きが止まる。それを待ってましたと言わんばかりに、エリラは一気にコボルトとの間合いを詰め、コボルトの右肩から左横腹に掛けて剣で切り裂く。


 コボルトが悲痛な叫びと共に地面に倒れ、動かなくなる。


「さぁ……次は誰かしら?」


 エリラが周囲の魔物を睨みつけながら、剣先を再び上げた瞬間、エリラの近くにいた魔物たちの動きが一瞬止まったように感じられた。








「な、何なんだあいつらは……」


「カイト! ボケッとするな! 来るぞ!」


 ゴブリンが振り下ろした剣と、シュラの剣がぶつかり一瞬だけ、火花が飛び散る。ゴブリンは勢いそのままに目の前にいるシュラを斬ろうと、ぐっと力を入れる。これが力が同じ者同士の戦いなら上から振り下ろしたゴブリンの方が優勢だったかもしれない。

 だが、シュラが使っている武器は両手剣。一方、ゴブリンが使っている武器は片手剣。ゴブリンが使っている片手剣は斬る事に重点を置いるのに対し、両手で全身の力を使うシュラの武器は、斬ることより叩き潰す事に重点を置いていた。

 したがって、叩き落としやすいように重さもそれなりにある。そして、その剣を普段から使っているシュラは、ゴブリンの攻撃より、早く、そして力強い攻撃が可能となっていた。


 ゴブリンを剣もろとも一気に切り上げる。力勝負で負けたゴブリンは、そのまま後方へと吹き飛ばされ、味方の中央に落ちて行った。

 しかも、暗闇の中なので魔物たちも急に落ちてきた仲間に対処するのが遅れ、数体が巻き込まれ地面に倒れる。

 そして、たまたま後ろから来ていたオーガに踏みつぶされ、絶命をした。


 踏みつぶした後に、オーガは何を踏んだのか確かめようとでもしたのだろうか、顔を下に向ける。


 そのオーガの顔の前に、何者かが、飛び込んできた。


 オーガは、その気配に気づき、顔を上げた。目に映ったのは小柄な体をした少女だった。手には少女の髪の色と同じ、黒い小さな刃が付いていた。


「……」


 少女は顔色を一つも変えず、無言のままオーガの顔に、強烈なパンチを入れる。眉間に強烈な一撃を受けたオーガは、グシャと音と共に白目をむきながら、後ろ向きに倒れ、オークの後ろから来ていた仲間を潰して、圧死させながら倒れた。

 しばらくの間、ピクッピクッと痙攣していたオーガだが、やがてその痙攣すらも無くなり、ピクリとも動かなくなった。


「……次……」


 少女はそう呟くと、次なる獲物へと視線を移し走りだす。


 その様子を見ていた、ゴブリン5体が、持っていた剣を下げ、背中に引っ掛けていた弓を手に持った。近距離は危険と判断したのだろう。

 

 弓を引き絞り、狙いを定めると、合図もしていないのに、5体一斉に矢を放つ。集団戦を得意とするゴブリンの放った矢は、少女へ一直線に飛んで行く。


 少女は、自分に飛んでくる矢に気づいたが、その時には、既に矢は少女のすぐ近くにまで来ていた。「当たった」と思ったゴブリン達の顔が一瞬、喜色に染まる。だが


「《土壁(アース・ウォール)》!」


 突如、少女の目の前の土が盛り上がり、一枚の壁となって現れた。矢は5本すべて、突如現れた土の壁に突き刺さり、少女に届くことはなかった。


 何が起きたのか一瞬分からなくなるゴブリン達。その時、ゴブリン達を何処からか飛んできた水球が襲った。ゴブリンの顔やお腹に強烈な水球が当たり、反動でゴブリン達は後ろへ吹き飛ばされていく。


 少女は、水球が飛んできた方向を向く。そこには、少女が一番良く知っているセレナが立っていた。


「サヤ! 集中しなさい!」


 サヤと言われた少女はこくりとうなずくと、再び視線を敵へと向け、敵の中へと飛び込んでいった。


 サヤを間一髪で助けたセレナは、ふぅと一息すると、今度は先程から顔を真っ青にして、ガクガクと震えている二人の兄妹へと声を飛ばす。


「テリー! ネリー! 魔法でサヤの援護をお願い!」


 だが、二人は何も答えない。生まれて初めて見る目の前の光景に、彼らは戦々慄々とするだけであった。


「二人とも立ちなさい!」


 セレナの叫び声に二人がようやく反応した。恐る恐ると言った感じで、二人がセレナの方を見る。セレナは自分の所へ向かってくる魔物を処理しつつ、二人に激を飛ばす。


「あなたたち死にたくないなら、戦いなさい! 怖がっていても敵は待ってくれないのよ!」


 気づくと、周囲の魔物たちは、一番弱いと判断したのか、テリーとネリーの所に集まり始めていた。セレナは早くに、そのことに気づいていたので、何とか止めようと近づく魔物を斬っていく。だが、魔物の数は多く、このままではジリ貧であることは目に見えていた。


 そして、ゴブリンが放ったであろう矢がセレナの頭上を越え、ネリーの頭に一直線に飛んで行ってしまった。セレナは、しまったと二人の方へ向けた瞬間、前から進んできた豚の顔をした重戦士系の魔物である【オーク】の棍棒がセレナに襲い掛かった。

 セレナはそれに気づき、回避しようと体をくの字に曲げながら下がるが、気づくのが一歩遅かった。長さ1メートルにも及ぶ、オークの木の棍棒の先端が、セレナの左横腹を捉えた。動きこそ遅いオークであるが、その力は凄まじく、握力で言うと150キロにも及ぶと言われている。そのオークの強烈な打撃攻撃を受けたセレナは、攻撃を受けた方とは逆の方へと吹き飛ばされる。


 セレナの防衛線を突破した魔物たちがテリーたちへと襲い掛かろうと、進もうとしたその時、魔物の首がほぼ同時に、胴体から切り離されていた。


「大丈夫ですか!?」


 クロウだ。クロウがセレナが吹き飛ばされたのを見て、駆け付けたのだ。クロウは開戦の時同様、刀に炎を纏わせ敵を一掃し、吹き飛ばされたセレナのもとへと向かう。


 それを止めようと魔物たちが立ちはだかるが、横から飛んできたエリラの水球がそれを邪魔する。


「エリラはテリーたちを守れ! 近づけるなよ!」


「わかったわ! クロも急いでよ!」


 エリラはテリーたちがいる方へと戻り、クロウは倒れているセレナのもとに急ぐ、すでにセレナに止めを刺そうと複数の魔物たちがセレナの周りに群がっていた。

 オークの一撃を受けたセレナは打撃を受けた横腹を庇いながら、必死に立ち上がろうともがいている。だが、痛みで立ち上がることが出来ないのか、地面に這いつくばったままだ。


風陣(ふうじん)……《砂嵐(サンド・ストーム)》!」


 クロウの手の平から小さな砂の竜巻が次々と生まれ、魔物に一個ずつ飛んでいく。殺傷能力は普通の《風爪(ウィンド・クロウ)》と呼ばれる魔法の物の方が高いが、彼の作り出した小さな砂の竜巻は、魔物たちの体を細かく傷つけ、傷口には砂が付着し、怪我を治せなくするという、苛める様に作ったとしか思えない魔法だ。

 短期戦や一対一ではそこまで効果が発揮されないかもしれないが、逆に考えると、止血がし難くなり、長期戦になればなるほど有利になる。さらに、こんな乱戦時では傷口から砂を取ろうと、もがく敵が周りを巻き込んで行くので、大変役立つ魔法なのだ。


 砂の嵐に飲み込まれた魔物は、何とか振り払おうと暴れまわる。その隙を付き、魔物たちの包囲を潜り抜けたクロウは、自分よりも大きいセレナを、ひょいと抱きかかえると、スキル《跳躍》で魔物の頭上を越え、魔物がいない、地点へ華麗な動きで着地する。


「……ごめん」


 ダメージが残っているのかセレナの口調は弱い。

 クロウは礼には答えず、すぐに治療を始める。ものの数秒でセレナの傷は治った。


「行けますか?」


「……ええ、もう大丈夫、ありが―――」


 セレナが礼を言おうとするが、クロウは大丈夫な事を確認すると、「礼は終わった時にでも言ってください」と言い残すと、先程から砂を取り払おうと。もがいている魔物たちに止めを刺すべく、走り去っていった。


「……私も負けていられないね」


 セレナは立ち上がり、《倉庫(ストレージ)》から予備の剣を取り出す。先ほどの一撃で最初に持っていた剣は、無くしてしまっていたのだ。


 剣を構えて息を整えると、セレナも乱戦への中へと舞い戻って行った。

 初めて、前編と後編で分けてみます。

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