第45話:反省
※10/26 誤字を一部修正しました。
※10/27 誤字を一部修正しました。
「「「……」」」
「……まあ、こうなるよな……」
ボソリと呟く俺、特待生組は全員硬直状態。何故硬直しているのかと言うと、今いる場所が、俺の家だからだ。
獣族の大人組はちょうど、休憩時間だったのか、俺が作り置きしておいたお菓子を、食べながらワイワイしていた。
普段、俺とエリラ以外に、今この家に出入りする人間はいない。
その為、この急な来訪者を見た瞬間、全員硬直してしまったのだ。
……さて、どう出るかな?
先日、アルゼリカ先生に見送られながら学園を出発した俺たち。道中、特に問題などは起きずに無事、エルシオンまで辿り着いた。
ここには予定では2日間、滞在する予定だ。何故二日なのかと言うと、市場などの品揃えは毎日変わるから見て回りたい、とのこと。確かに変わるけど、2日間程度でそんなに差があるか? と聞こうと思ったのだが、どこからか「お泊り会やろーぜ」とか言う声が聞こえて来たので、聞くことはやめておいた。どの道、俺の意見は殆ど通らないだろうし。
そして、俺の意見を聞かなかった結果がこれか……。
特待生組が硬直している後ろで、俺はエリラに耳打ちをする。
「エリラ案内してやって」
「こ、これ大丈夫?」
「いざとなれば話し合い(物理)で解決するから」
「わ、わかった……」
小会議を切り上げると、俺はやや大きめの声でしゃべりだす。
「ほらエリラ案内してあげて」
「は、はい」
「お、お前……これなんだ?」
ようやく、現実に戻りだした特待生組のカイトが、獣族を指さしながら言った。
「何って……どこかの商隊が襲われてその時に、救出した獣族ですが?」
「いや、俺が言っているのはそういう意味じゃない。これは良いのかって言っているんだよ!」
「別にいいですよ。私が許可していますから、奴隷の証を付けているから、それくらい分かりますよね?」
俺は自分の首元を指しながら言った。彼女らも一応この街では奴隷扱いなので、奴隷の証である、黒いチョーカー見たいな首輪は絶えず付けている。
「で、でも、こいつらは―――」
カイトがまだ何か言いかけたが、それは謎の威圧によって止まってしまう。見ると、クロウが笑顔でカイトの方を見ていた。だが、その笑顔とは裏腹にクロウの方からは、これ以上にないくらいのどす黒いオーラが流れ出していた。
「二泊だけですから別にいいでしょ? それとも何ですか? 今から宿探しますか? 幸い良い所を知っているので、そちらに案内をすることも出来ますけど?」
クロウの顔は笑顔だったが、威圧を向けられている人は、悪魔の笑いに見えただろう。クロウの威圧に初めて触れた特待生組は、本能的に「これ以上は言わない方がいい」と感じ取った。
「別に僕は構いませんよ。クロウ君が良いって言ってるのなら、外部の僕らが口出すことでもないですしね」
テリーが最初に声を出してくれた。それに続いてネリーも「そ、そうだね」と若干迷いながらも兄に賛成した。
「……猫耳……」
ん? 今、サヤが何か言ったように―――
俺はサヤの方を見たが、すでに彼女は最初の位置には居なかった。そして、視界のギリギリ隅っこで、ものすごい速度で動く物体が見えた。
バッとそちらに顔を向けると、大人の獣族の一人の真後ろにサヤが立っていた。
サヤの手が獣族の耳に触れた瞬間、「ひゃう!」と言う声と共に、耳を触られた獣族の女性の体がビクッと震える。
「……ゴメン……」
謝るサヤだったが、その後もフサフサの猫耳を触り続ける。獣族の耳は良く聞こえると同時に、非常に敏感な部分らしく。サヤの手が動くたびに「ひゃうん!」や「ひゃい!」などの声を上げ、体を捻らせている。
「……家にも居たから私は平気……小さいときはこうやって悪戯していた……」
「あ~、そういえばそうだったわね。私もやる~」
……何かこうやって見ると、すべての人間が極端に異種族嫌いと言う訳じゃないんだな。昔から近くにいた分、慣れているのかもしれない。
セレナとサヤは獣族の一人をターゲットに、二人掛かりで獣族の耳を触りまくる。触られている女性はさっきまで座っていた椅子から滑り落ち、地面で笑いながらクネクネと体を動かしている。その動きに余裕で付いていくサヤとセレナ。……なんでだろ、妙にほっこりとする。
「ま、まあ、私の家にもいましたし、私も問題ございませんわ」
次にローゼが言った。そういえば確かに、家に行ったときに何人かいたな。さすがにお茶会中に部屋の隅にいたのは人間だったけど。
「そうだな、どっちにしろ、今から移動するのも面倒だし、ここでいいか」
シュラもOKみたいだ。最終的に孤立したカイトも「わかったよ」と多少不機嫌ながらも、承諾してくれた。ふう、何とか修羅場は去ったな。
俺はエリラに案内を任せ、獣族の大人たちにも話をしようとしたのだが……
「……あれ? 一人少なくない?」
先程、サヤとセレナに耳を触られていた獣族の姿が見当たらない。
「え、え~と……さっきの女の子たちに……」
「……連れていかれたか」
俺は心の中で合掌をした。
その後、しばらくするとフラフラになりながら戻って来ました。
「すまないな、驚かせて」
素直に俺は謝った。最初は言っても、言わないでも、変わらないと考えていたけど、やっぱり話すって大事ですよね。
話しておけば相談して、働いている姿とかで出迎えてもらえたかもしれないし、カイト辺りもまだそんなに不機嫌にならないで済んだだろうし、俺も威圧なんか使わないで良かったかもな……反省しないとな……。
幸いにも獣族の人たちは大丈夫ですよと言ってくれた(一名を除いて)。
その後、俺は彼女らに今日と、明日の特待生組の食事はこっちで準備するから、自分たちのだけで。と指示を出して、俺は自分の部屋へと戻った。
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「作業はどうだ?」
「問題ありません」
洞窟の中で、作業を進める者が数人。全員、全身をフードやマントなどで隠しており、見た目は分からない。
洞窟の中は魔力型蝋燭ではなく、普通に木の棒に油を付けた布を巻いただけの松明が灯りを照らしていた。風が流れていないので、かなりの蒸し暑さだ。
その中で作業を進める者たちは、汗一つ、いや、声一つすらも出さずに、黙々と作業を進める。
「あとどれくらいだ?」
「予定では、あと5日ほどで完成します」
「そうか……時間は問題ないが、準備は怠るなよ」
「承知しております……それにしても……コレはなんですか? 魔方陣のように見えますが、このような魔方陣は見たことありません」
「魔方陣だ。それ以上は知らなくていい」
「……分かりました。まだ命は失いたくありませんので」
「賢明な判断だ」
「では、私はこれにて……」
そう言うと作業に戻って行った。
一人残った男は洞窟の奥へと消えて行きながら、
「見てろ……すべてがお前の思い通りに進まないとな」
と、言いながら、密かに微笑んでいた。そして男の不気味な姿は、暗闇の洞窟の中へと消えていった。
改めて登場人物を見てみると、意外と獣族などの異種族と関わっている人が多いなと思っていたり。
※次回も予定通り2日後の10/28に投稿します。
※修正は予定通りに進みません orz




