第42話:早食い対決
※10/20 後書きに加筆をしました。
※10/21 脱字を修正しました。
※10/22 誤字を修正しました。
2015年
※ 4/9 誤字を修正しました。
※ 5/9 誤字を修正しました。
ローゼの家に行ってから1週間が経過した。あれから特にこれと言った出来事は起きず、俺は学校の図書館に行く傍ら食事と家の維持費のために狩り(依頼)へ出かけている。
一気に稼ぐため、最近はBクラス系の依頼を中心に受けている。「この調子だとすぐにBランクに昇格ですね」とミュルトさんに苦笑いをされながら言われたが「それはもっと先の話ですね」と言いBランクに昇格することは今、保留にしている。
というのも、ハヤテ戦の後に、少し遣り過ぎたと反省し、昇格するのは10歳のときにしようと思っている。最近忘れがちになられているが、俺はまだ見た目は子供だ。日本で言うなら小学1年生ぐらいの年齢だ。こんなちっこい子供がBになりましたなんて言ったら面倒な事が起きるのは目に見えている。
だけど俺は今、稼がなくてはならない。何故なら家で稼ぎ手が俺しかいないからだ。奴隷身分の人は一人でクエストなど当然受注できないので、必然的に俺が依頼を受け、エリラと一緒に行くのが自然な形になっている。
もちろん、一回依頼を受ければ数ヶ月は持つぐらいの報酬は手に入るのだが(報酬金上乗せで)、もっと安定した収入も欲しい所だ。
獣族たちもお金が無いと何も買えないので、大人の人たちにはいくらか振り分けている。この世界の常識では奴隷にお金を与えるなどまず考えられない行為だが、毎日訓練ばかりもどうかと思ったので、好きなのを買って来ていいよと言っておいた。
相変わらず驚いたりはしたけど、素直に受け取ってくれた。
前にも言ったが奴隷でもない異種族が街で買い物をしようものなら大問題だが、奴隷身分の異種族なら問題なく買えるので、人間の生活にも慣れてもらうと言う事も含めお金を上げた。
子供たちの分もあるけど。子供たちはほぼ毎日、庭で遊んでおり、買うと言う発想自体が無いみたいだ。なので必然的に女性たちが使うことに。
まあ、もともと物欲が激しい人たちでは無いので花を買って来て植えるとか、子供たちにお菓子を買ってあげるとか、その程度にしか使っていないみたいだ。
そんなある日の正午。俺が学園の図書館で本を読み終えたときの事だ。
学園の図書館だけあってさすがに量がすごい。ただ新たに覚えた魔法やスキルは少なく獣族の子供たちに教える予定の《無音》や《隠密》などと、言ったものがあったことぐらいだ。ちなみにどれも魔法を使えば再現することができる。
もちろん、それだけを読んでいた訳では無い。
著者不明の「滅びた都市【チェルスト】の謎」や「マーザーの異端騒動」など、色々なものを読んでみた。
まあ、歴史なんてほとんど改ざんされており、内容は異種族の事が大半は悪く書かれていたので、内容についてはスルーした。しかし、いつ何が起きたと言う事は分かっても損は無いので一応、覚えておくことにする。
「ふう……疲れた」
「……ふあ……」
朝から読んでいたのだが、どうやら熱中し過ぎたようだ。エリラは途中で読むのをやめ完全に熟睡していたけどな。まだ半ボケ状態なのか瞼はトロンとしている。エリラは読んでいた本を持っていこうとするのだが、足が覚束ない様子。 ……酔ったおっさんの千鳥足見たいな光景だ。
「……大丈夫かあいつ?」
呟かずにはいられない。……あっ転んだ。あいつの寝起きの悪さはすごいからな。夜中に何故か踵落としをする日もあれば腹に裏拳を繰り出されたこともある。俺も寝相はあんまりよくない方だが、あいつの寝相に比べたら俺なんか可愛い方だと思う。いやマジでだぞ? 俺は日本にいるときは夜寝たときと朝起きたときに頭が向いている方向が180度真逆になっていることがよくあった。
あと、朝起きたら何故か壁に寄り添って体育座りをしているときもあった。
それから、昔、兄から聞いた話だと枕を持ったままトイレに行ったこともあるらしい。俺は全く記憶に無いのだが……、あと水もしっかりと流していたらしいぞ。
……こんな俺でもエリラの寝相は悪いと言える。静かな時は静かですよ? でも、それって大抵俺を抱き枕感覚で抱きしめている時ぐらいです。夏は暑くてかないません。でも離したら離したで色々と、物理攻撃が飛んでくるので下手に離すことも出来ず、夏場は水がお隣に必須です。
しかも、これで翌日は、必ず元の体勢になっているから余計にタチが悪い。つまり本人は無自覚なのだ。
「ごはん~」
……寝ぼけながらでも、本をしっかりと片付けている所はすごいな、元の場所にしっかりと戻している。
片付け終わったエリラが俺の所に戻って来る。まだお目覚めには程遠いのか、目を擦りながらゆらゆらとこちらへ歩いてくる。
「あっ、ごはんだ~」
……ん? 何か嫌な予感が……、エリラは俺の前まで来ると、そのまま―――
「いただきまふぅ」
のんびりとした声と共に、俺の肩辺りをパクリと噛みついて来た。俺は踏ん張ることも出来ずに地面へ背中から叩き付けられた。むにゃむにゃとか言いながら俺の肩をもぐもぐしてくるエリラ……いや、いつから俺は食べ物になったんだよ。俺は猪○戒じゃねぇぞ。
俺はエリラを肩から引き離そうとするが、これがまた中々離れない。痛いかと聞かれたら痛くは無い。というのも、やっぱり寝ぼけているので噛む方の力は弱いようだ。でも離れないってどういうことだよ、あっ、俺の肩に涎が……。
「おい、エリラ起きろ」
俺はエリラの額をペシペシしながら呼びかけるのだが
「にがふぁないわよ~ぶた~」
と言いながら両手を俺の首後ろで握ると、尚ももぐもぐとして来る……いや、だから俺は猪八○じゃねぇって……。
あまりに長時間、目が覚めなかったので、俺が頭に空手チョップを食らわせ強制的に目覚めさせることに。
「とうっ!」
―――ゴンッ!!!
「いたぁ!?」
エリラが後頭部を摩りながら顔を上げる。意識がはっきりとして来た辺りで俺が
「起きましたか?」
と問いかけると……
「えっ? えっ? えっ?」
何が起きたか分からない様子。ようやく俺の上に乗っかっていることに気づくと、辺りを数回見回し、その後「いやああぁぁぁぁぁぁ!!!」と言いながら顔を真っ赤にして俺の胸へ強烈なヘッドアタックをかましてきた。
「ごふっぅ!」
……何故……俺に攻撃を……? 俺は,心の中でそう思いながらしばしの間,意識を手放してしまった。俺の意識が戻ったのは、それから10分後ぐらいだった。
その後はエリラが土下座をして誤ってきて、俺が何故あんな体勢だったのか経緯を説明すると、また顔を真っ赤にし、目を、うるうるさせながら「もっと早く止めてよぉ!」と言いながら顔を俯けてしまい、その後、5分間ぐらいはその場から動けなかった。「大丈夫だよ、誰も見ていないから」と、俺が慰めてようやく立ち直った。……前回のローゼの家に引き続き、最近たるんでいないかと心配になります。
「食堂に行くのは初めてだな」
この学園には食堂がある。全校の生徒が一斉に全員入ってきても、問題無い位の大きさがあり、メニューも非常に豊富らしい。昼休みになると生徒は食堂で食べるのが普通との事。
もう、家に帰って食べる気も無くなったので(エリラの頭突きを受けたダメージにより)、食堂で軽い食べ物でも食べようと思い初めて訪れたのだ。
「それにしても……本当に生徒が多いな……」
食堂にいるのは人、人、椅子、机のオンパレード。酔いそうです。もっとも、この程度で酔っていたら渋谷の某交差点などを見たときは、どうなるかわかったものではないが。
「あっ、クロウじゃねぇか?」
振り返ると、そこにいたのは俺と同じ黒髪をした少年だった。黒をベースにしたズボンに、黒色の上着、極めつけは黒いマントと、黒一色で身の回りをガッチガチに固めていた。
「えっと……確かカイトさんでしたっけ?」
そう、そこには転入初日で教室に入った瞬間に、奇襲を仕掛けて来たカイトがいたのだ。
「ああ、食堂に来るのは初めてか?」
「ええ、今日はあんまり食べる気がしないので、いつもの場所ではなく、ここで軽めの食事でも取ろうと思いまして」
「なるほどな、じゃ、俺が案内してあげるぜ」
「本当ですか? 助かります」
「ああ、任せておきな。さっ、こっちだぜ」
そういうと、カイトは食堂の中にあるカウンターの方へと歩き出す。俺もその後ろから付いていく。
その後、俺はサンドイッチみたいなものをチョイスし、カイトは丼に、これでもかと言うぐらいの大量のご飯に、山盛りのお肉を乗せた「元気定食・極」を頼んだ。いや、アメリカのハンバーガーじゃあるまいし、そんなにいる? どう見ても肉は1キロぐらいはありそうなのだが。
エリラも何か頼めるのかな? と不安になっていたが、カイトが「従者も何か頼んでも問題ないぜ」と言ってくれたので、エリラも「じゃ、あれと同じので」と言ってカイトの「元気定食・極」を指さした。
……君、正気? 受付のおばさんも「本気かい?」と、聞いたが「もちろん!」と胸を張って言った。
近くにいた生徒たちから「マジかよ……」とか「奴隷のくせにあんなの頼むのかよ」とか、ちょっと睨みつけたい発言が飛んでいたが、俺が何ともない雰囲気で支払って行ったので、チラチラ見られるだけで、ちょっかいを掛けて来そうな人はいなかった。
テーブルに行く前に「主人、小っちゃいな」「ば、ばか! お前、あの人はあの特待組を沈めた転入生だぞ!」と言う声が聞こえたが、スルーしておこう。情報ってどこで漏れるか分かりませんね。
「クロウ、あんたの従者本気か? というか良くお金払って上げたな、2000Sもするんだぞ?」
安いものだ。と思ったことは秘密にしておこう。
「別にいいじゃないですか、本人が食べたいと言っているのですから、後……本気だと思います」
寝ぼけて俺を肉と勘違いして噛みつくほどですし。ちなみにカイトに付いて来ている従者は、俺と同じのを頼んでいた。本人が言うには「普段から少食ですので」との事。エリラも、普段はあんな物は食べないが、今日はどこか、思考回路がおかしくなってしまっているのだろうと、考えておくことにした。それに普段も、あれほどじゃないけど、結構食べてる方だと思うし。それでも体重が増えないのは、日々夜まで行っている訓練のお蔭だと思う。
……ふと、あの栄養は頭じゃなくて、胸とかに行ってるんじゃないだろうかとつい考えてしまう。どれくらい成長したかと言われても困るが、確実に初めて俺と出会ったときより育っているのは間違いない。最近、「最初の頃に着てた服が着れない……胸が邪魔で」と嘆いていたし。紳士な俺は、聞かなかったことにしておこうかと思ったのだが、つい「……誰のせいでしょうね」と呟いてしまい、「クロのせいでしょうが! 奴隷の私にも良い物を食べさせるから!」と言い掛かりをつけられ、ちょっとした運動(喧嘩)をさせられたこともあった。
「あっそうだ、なあクロウの従者、あんた俺と早食いで勝負しねぇか?」
カイトが唐突な勝負を持ちかけている。近くのテーブルにいた生徒らが ブーー! と、食べた物を吹き出しているのが聞こえて来た。
「早食い?」
「ああ、この大きさを頼む奴なんて中々いないからな。あまりこう言う機会が無いんだよな。一度でいいから勝負してみてぇって思っていたんだよ」
「もちろん受けて立つわ! いいでしょクロ?」
「まっ、エリラがいいならいいよ」
「じゃあ、行くぞぉ! クロウ! 審判をしてくれ!」
「えっ? ああ、わかったよ……始め!」
俺の開始の合図と共に、一斉に食べだす両者。周りの生徒が、面白そうな光景が見れるぞ、と言いながら俺の周囲らの集まってくる。おい、見世物じゃないぞ。
そんな周りの様子は見えていないのかエリラとカイトは箸を進める。
両者、一歩も譲らない戦いが続く。時折、ごほっ! と咽る場面もあったが、それでも構わず食べ続ける二人。良い子の皆は、肺炎の危険があるので咽たときはしっかりと咳き込んで、出しておきましょう。間違えても無理やり食べたりはしないように。
そして―――
「終わったぁ!」
「だああああああ!!!! チクショォォォォォ負けてしまったぁぁぁぁぁ!!!!」
勝利のVサインを俺に向けてくるエリラと、テーブルを叩きながらマジで悔しがっているカイトの様子が、勝敗を物語っている。俺が判定をするまでも無く。エリラの勝利だ。カイトも善戦したが、あと肉が2口ぐらいで、エリラが食べ終わった。
「うぉぉぉぉ、すげぇぞあの奴隷」
「カイトの奴にあの早食いで勝ちやがったぞ……」
と、周囲から拍手が何故か起きる。普通奴隷はこんな所で、こんなことを、しては悪いのだが、色々な意味で俺のことが知れ渡っているので、特に問題は起こりそうに、ならなかった。奴隷でも人間であるのに加え、俺みたいな特待生組の従者となると、多少立場が良くなるようです。
「くそぉ! 次は勝つ! また勝負だ!」
「もちろん! 受けて立つわ!」
何故か固い握手をし合う二人。しかしその直後「おぷっ……やばい、さすがに早く食べ過ぎた」とダウンする両者。せっかくのいいシーンが台無しになっています。
見物客も元の場所に戻り始めたが、何人かの貴族が俺の所に近づいてきて「かわいい子だね、どうだい買った値段の4倍で買いたいのだが」と言ってくる奴らがいったので、「顔を潰されるのと、心臓を潰されるの、どちらがいいですか?」と満面の笑みで貴族に問いかけると「じょ、冗談だよ」と言い、噂の効果もあってか、そそくさと逃げて行ってしまった。
その後、食堂も勝負が始まる前の様子に戻った。エリラが「や、やばい……戻しそう」と、テーブルの上に顔を伏せている状態で言った。ここではやめてくれよな……。キラキラ演出とかいらないからな。カイトも似たり寄ったりの状況で、従者さんから心配そうに声を掛けられてる。
「全く……無理するかだろう」
「へへ……負けたくなかったから、つい…ね」
エリラが笑顔を造りこちらを見てくるが、直後に「あっ、ご、ごめんちょっとトイレ言って来る」と、言って去って行った。その後に付いていくかのように「お、俺もやばいぜ、胃袋が暴走を始めちまいそうだ」と言いながらトイレに行った。
俺とカイトの従者はお互いに、思わず顔を見合わせてしまう。
「……バカを持つと大変ですね」
「い、いえ、カイト様は大抵の物事の後は、あんな感じなので、もう慣れました」
ああ、プールとかで真っ先に飛び込んで足をつるタイプですね。
さて、あいつらが戻って来るまで、どうしようかと悩んでいると。
「お前何ぶつかっとるんじゃあ!」
と、言う怒号が食堂の隅から聞こえて来た。見てみると女子生徒がどうやら男子生徒にぶつかってしまったようだ。男子生徒の胸元にはぶつかった時に、水がかかったのか、水跡が残っている。
「あー、あー、あいつにまた絡まれたか」
「ドンマイしか言いようがねぇな」
「いや、あいつの不幸オーラのせいだろ?」
「よりによって、あいつになぁ……」
周囲のテーブルからヒソヒソと、話が聞こえて来る。どうやら、いつもの事のようだ。男子生徒の後ろには同じ背丈ぐらいの男子生徒がもう二、三人ほどいて完全に傍から見たらリンチ状態だ。
さて、どうしようかと俺は思い、何となく男子生徒の顔を見てみると。
その時、俺は思わずあっと息を飲み込んだ。
何故なら、その顔は、俺も良く覚えている顔だったからだ。
最初の図書館のやり取りはどうしようか迷った挙句、使う事にしました。元ネタは、実は作者自身だったり……。
次回、懐かしのあいつが登場(あんまり古くないけど)
さて、この回を投稿後、大掛かりな修正を始めたいと思います。すべて完了するまで、どれくらいの時間がかかるか、分かりませんが、少しずつでも、進めて参りたいと思います。
第1話の、大幅加筆修正が終了しました。以後、大幅修正を行った話には【(大幅修正)】と言う表示を、前書きで修正した日と共に記載しておきます。
物語に大幅な変化はありませんが、一部の設定が少し、変わった部分などもあります。その場合は、更新した日の後書きにて載せます。前のを見なくても、物語にはほとんど影響はありませんが、「嫌だ!」と言う方は、大変申し訳ないのですが、一度読み直して下さい。
読者の人に多大な迷惑をお掛けすることを深くお詫び申し上げます。
本当は、設定などは殆ど変更する予定は無いのですが、第1話は変えざる、得なかったので変えさせて、もらいます。本当に申し訳ありません。
【大幅加筆修正報告】
・第1話
・クロウの生まれの天涯孤独の部分を少しだけ、加筆を行い、孤児院の事と、親が兄弟が死んだ時の学年を加筆しました。




