第41話:ローゼの家にて
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お茶会……と前回言っていたが、これほど豪華なお茶会とか見たことも聞いたこともない。ちょっと悪い気がしたけどそれぞれの料理に使われている食材をスキルで調べて見たところ。とんでもないお値段になりました、ちょいと公言出来る域を超えていますけど……。テレビに出したら「お菓子の値段じゃない」と言われそうだ。
エリラが後ろでゴクリと言ったのが聞こえて来た。チラッと後ろを見ると一見立っているだけに見えるが、目線が明らかにテーブルに広げられたお菓子に向かっていた。
俺は仕方ないなぁと思うと
「これ、おいしいですね。お土産にいくつか貰いたいぐらいです」
と言った。
「あら、それならいくらでも差し上げますわ」
ローゼがそう言ってくれたので助かった。まあ貴族はこういうところでは派手に使うのがこの世界では普通かもしれない。
俺はエリラの方を少し向き、彼女にだけ分かるようにウインクをする。エリラはそれですべてを悟ったのか口がニンマリとしている。でもすぐに元に戻った。よし、これでこのお茶会の後でエリラが暴走する確率は無くなったな。まあもともと少し可哀そうだとは思っていたから帰りに何か買ってあげようとは思っていたけど手間が省けて助かった。
「そういえば、クロウさんはどこの生まれなのですか?」
うぐっ!? まさかローゼからそんな言葉が出るとは……なんて言おうかな……。俺は多少悩んだが
「エルシオンという町の近くの生まれです」
と言った。本当はアルダスマン国の辺境地なんだけどな。
「エルシオンですか?」
ローゼの顔が微かに曇った気がした。あれ? これまたなんか俺やばいこと言ったか?
俺の顔に気づいたらしいゼノスさんがローゼに耳打ちをしている。ローゼはアッと言った顔をするとすぐに謝ってくれた。
「あっ、ごめんなさい、別に悪気はありませんでしたの」
「いえいえ、大丈夫ですから」
ん~、でも何かありそうだったな。まあ話しにくいことを問いただしても仕方がないな。間が少し悪くなりそうな雰囲気が流れたので飲み物を飲んだ瞬間
「ごふっ!?」
はい、やってしまいました本日二度目の紅茶クラッシュ。そしてそれにつられて
「ぶっ!?」
ローゼも似たようなことをやってしまいました。でもさっきは普通に飲んでいたので9割いえ、10割俺のせいでしょう。
「あらあら」
ゼノスさんが俺たちの様子を見て笑っている。部屋の隅っこでも一回目の紅茶クラッシュを見ていた人たちが必死で笑いを堪えているのが分かった。穴があったら入りたいです。
「プッククク……」
……エリラにも笑われました。
「……エリラぁ」
俺は顔に青筋を立てながらエリラの方を睨みつける。俺の声にエリラは瞬時に反応し謝ろうとしたのだが……
「す、すみゅ! ……」
……不(?)の連鎖って恐ろしいですね。見事に噛んでしまいました。
そしてそれをきっかけに先程まで笑いを堪えていたメイドさんたちも堪えきれずに笑い出してしまった。 部屋中に広がる笑い。俺は二重の意味で穴に入りたくなりました。
「~~~~~~! 皆様客人の前ですよ!」
ローゼは何とか止めようとするが、言っている等の本人も紅茶を拭きだした跡がまだ残っており全然怖くも何ともない。むしろそれに気づいたローゼが慌てて顔を拭くので、完全に火に油を注いだ状態に、もうメイドさんの何人かは目に涙が浮かんでいる人も。
エリラはエリラで顔を赤くして俺の背中に顔を隠してくるわ、ゼノスさんも笑うわ、ローゼは慌てるわで一時、部屋は笑いの渦に巻き込まれていた。
……もう帰りたいです(泣)
ようやく、笑いが一通り収まってきた頃にはゼノスさんやローゼは落ち着きを取り戻していたが、何人かのメイドsとエリラは未だに立ち直っていなかった。
「ほら、エリラももう顔上げろよ」
「……いやだ恥ずかしくて無理……」
「いや、噛んだだけだろ? 俺の方がさっき一度やってしまった分恥ずかしいぞ」
「追撃してしまったことが恥ずかしい……」
だぁー! なんで普段のお前はここまでに来るような事を平然とやっているのに(前回参照)、こんな所ではダメなんだよぉ!!
「もうエリラさんもお座りになられてはどうでしょうか?」
ちょっとぉ!? ゼノスさん!? なんでそんな発言になるのでしょうか!?
「クロウ様もエリラさんを大事にしておられるようですので、どうですかローゼ様?」
ゼノスさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! orz
駄目だ、もうこの人絶対フォローしてくれない! てか、前回秘密でって言ったじゃないですか!?
……もしかして、あれの言葉は俺の主義については黙っておいてくださいにしか聞こえなかったのかな?
後で考え直したがそう聞こえていても可笑しくないやり取りだったな。
「へぇ、クロウさんって年上が好みなのですか?」
ローゼが結構真面目な口調で言ってきたので俺は焦って言葉を返す。あとエリラお前、さっきから俺の背中に顔をグリグリ押して来てるだろ。痛いぞ。もう大丈夫なら早く立ち直ってくれよ。
「ち、違いますよ。 そういう意味ではありません」
「じゃあどういう意味でしょうか?」
「言葉の通りですけど違います」
「じゃあその通りでは?」
「い、いやだから違いますって!」
ど、どう弁解すればいいんだよ!?
「クロウさんは同じ人として大切に扱っているのですよ」
おい、ゼノスさんやい、もう秘密とか完全に忘れていますよね? ゼノスさんが俺の方をちらっと見てニコッと笑った。あっ、この人確信犯や……。
「同じ客ならお菓子なども準備なされた方がよろしいですよね?」
「えっ、えーと」
……ローゼさんってもしかしてあんまりゼノスさんに頭が上がらないタイプ? その代り揺す振られたら超弱いけど。
「どうしますか?」
「え……えーと……クロウさんの従者だけにですよ?」
いやそこでOK出すの!?
「他の方もいいですね?」
ゼノスさんがにっこりと部屋にいたメイドさんたちを見回す。その視線にメイドは全員顔を縦に振っている。……っていうより振らされていない? ゼノスさんって実は……怖い人?
「じ、じゃあ予備を持ってきなさい」
ローゼがそう命令してメイドが何人か部屋を後にした。ローゼさんも「ちょっと服を変えてきますわ」と言って部屋を出て行った。
こうして、状態はテーブルにあるお菓子を除いてほぼ最初の状態に戻った感じとなった。
ゼノスさんがにこやかな笑顔で俺らの方を見て来る。
「ふふ、先程エリラさんがあまりにも欲しそうな顔をしていたものですから、ついでですよ」
「ふう……確信犯ですよね?」
「あら、なんのことでしょうか?」
「全く……先程の秘密を守るとは何のことだったのですか」
「エリラさんに(ピー)を蹴られた時のことですよね? ええそれは秘密にしておきますわよ」
……って、そっちのことじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! orz
部屋の隅に残っていたメイドたち(3名ほど)がゼノスの発言に吹き出しまた笑い出す。てか、もう言っちゃってるじゃありませんか……。
「ご心配なさらずにここにいる者以外には聞かせませんよ」
大丈夫かな? 本当に大丈夫かな? 俺なんか怖いよ!?
「さて……エリラさんも座られては?」
「ほら、エリラ」
だが、俺の言葉にも気づいておらず、ただ「言われた……」と泣きそうな声で呟いていた。エリラ、お前ってそんなにメンタル弱かったか?
仕方ないので俺が無理やり引き剥がし強制的に俺の横に座らせる……が
「ちょっ、エリラ、お前鼻水出てるって!」
「う゛う゛……こんなに恥ずかしい日とか……アレ以来よぉ……」
アレってついこの前の話じゃねぇか!(第32話参照)。エリラの顔は真っ赤になっており涙&鼻水でもう色々と残念になっていた。こんな様子じゃ俺の背中も何が起きてるかもう大体予想つくなぁ………。
ゼノスさんが他のメイドに頼んでタオルを持ってこさせ、タオルで顔を拭きようやくエリラは落ち着いた。ちなみにエリラの顔を見たときにメイドが笑いかけたのはエリラには秘密である。
……なんか今日は疲れるなぁ(主に精神的なダメージにより)
「……というか見ていたのですね」
「人の動きを見ることは得意ですので」
やっぱりこの人出来るよなぁ……。
その後、ローゼが戻ってきてエリラを含めて再び、お茶会は再開された、まあ後半はエリラが結構食べること以外は特にこれっと言った事もなく、日が傾き始めたのでお茶会はお開きとなった。
それにしてもおいしかったな。帰り際にお土産ももらったので帰って分けようと思う……獣族の人にもあげたいけどレシピが分からないから、作りようがないな……フ○ーチェでもあればいいのに。
こうして、ローゼの家でたっぷりとお礼をさせてもらった、俺とエリラは《移転》で家に戻った。ただ、帰ってきた瞬間「甘いにおいがするのです!」とフェイが気づきその後はちょっとした争奪戦になった。幸い大人の女性らが断ってくれたので分けることは出来た。……めっちゃ残念そうな顔だったけど、やっぱり今度どこかでレシピでも聞いて来るか、料理なんてこの世界に来る前は全くに近いほどやっていなかったが、スキルのお蔭で多少手抜きで作ろうが旨くなってしまうと言う料理人が聞いたら怒りそうな事が出来るようになってしまった。
ちなみに料理はやらなかったけど、作り方は意外と知っているのが多かった。まあほとんどがテレビで仕入れたちぐはぐな情報なのですが、スキルのせいで出来てしまうんです。
俺が悪いわけではありません、スキルが悪いのです!
その夜
薄暗い部屋の中、ポツンと一人で開けた窓の外を見ている少女がいた。近くの机にはさっきまで読んでいたであろう書物が数冊置かれており、風に吹くたびにページがパラパラとめくれていた。部屋の中は静まり返っており、《魔力型蝋燭》の灯りだけが微かに輝いていた。
「……はぁ……」
「……まだお休みになられていないのでしょうか?」
「!?」
思わず後ろを振り返る。そこに立っていたのはメイド服を着た20歳前半の若いメイドだ。若いと言ってもその仕事っぷりは長年勤めていた人でさえも驚くほどの能力を持っており、その能力を買われ今はメイド長になっているほどの人であるが。
「……結局言い出せませんでしたね」
「……あの子……紅茶が苦手でしたわね」
「はい、ローゼ様が来る前におっしゃっていました」
「……そうでしたの……ですがあれを見た後ハッと思い出したのです。彼はまだ子供であることを」
「ですが、その実力は間違いなく本物。話をしたらローゼ様のお力になっていたと思われますが……」
「そうね、あの子……エリラだったわね。彼女、前どこかで見たことあったと思ったらフロックス家の長女だった者ですわ。昔、何度が会った事がありましたの、向こうは覚えていらっしゃらないかもしれませんが……でもまさか奴隷になってしまっているとは思わなかったので、聞けず仕舞いでしたが」
「あの人が……? 家出したと聞いていたのですが、何故……?」
「まあ色々遭ったのでしょう。でも彼女は繁栄を約束された貴族から泥沼の奴隷に落ちても相変わらずの様子だったわね……」
「面白い子だと思いましたよ」
「そう……昔から打たれ弱いからからかってみるとすぐ涙目になっていましたもの……その度に強情になって結局真面に会話できた事なんて数えるほどしかありませんでしたわ」
「そうだったのですか」
「ええ、私も始めは人違いと思いましたわ……でもほら後で出したお菓子……あれ確か全部食べてましたわね? あれを見て彼女はエリラ・フロックスであることは確信しましたわ」
「お菓子で?」
「ええ、だってその真面にお話した時……全部一緒にお菓子を食べたときでしたもの」
「フフ……それでですか?」
「そうよ。当時はあんなのを食べている時しか笑顔は見せなかったんだけどね……」
ローゼはそういうと今まで開けていた窓を閉め、そのまま椅子に座った。
「本当……あんなに笑顔を見せるようになって……」
「悔しかったのですか?」
「……」
ローゼは何も答えない、だがこの沈黙がまさに答えを物語っているように見えた。今まで本当にごくわずかな時しか笑わなかったのに……奴隷になった今、あんなに笑顔でおられるのかと。
「……私にはクロウ様と話していらっしゃるときだけは素で話していたと思われました」
「……そう……あなたにもそう見えたのなら間違いないでしょうね」
「……クロウ様とエリラさんはとてもではありませんが服従関係で成り立っているとは思いませんでした。そんな枠組みなどに囚われない……まるで姉と弟……と言ったら可笑しいかもしれませんが、それくらい仲がいいように感じられました」
「言うわねあなた」
「メイドですから」
「全く、そんなことを平然と言うメイドがどこにいらっしゃますの?」
「ローゼ様の目の前にいるではありませんか」
「……はぁ、負けよ負け、本当あなたには絶対勝てる気がしないわ、何を言っても返してきそうで怖いですわ」
「恐縮です」
「……私は今私に出来ることをするだけですわ」
「……その結論が彼の力は必要ないと?」
「そうよ」
「……本当にそうお思いですか」
「…………ええ」
「……分かりました。もはや私からは何も申しません。あなたの思いのままに」
「……ありがとう、ゼノス」
「……それがメイドですから」
部屋に置いてあった魔力型蝋燭はいつの間にか魔力が切れ、部屋の光はいつの間にか月によって照らされていたのだった。
いつも読んで下さる皆様本当にありがとうございます。
次回の分を投稿し次第、執筆作業と同時に今まで甘かった文章をすべて一から点検します。日頃あまりに多い誤字脱字報告に報告をして下さる皆様に感謝しているのと同時にこんなに大量の誤字を見落としていた自分に泣けてきます(ToT)
こんな初心者で何回も修正がかかるような小説ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
これからも応援、よろしくお願いします m(_ _)m
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。
なお、余に酷い誹謗中傷的な発言をする方々はコメントをお控えください。




