第38話:やりすぎた?
「10秒でですか?」
「あなたなら可能でしょう。昨日の模擬戦が本気ではないことぐらいわかってるわよ」
バレていましたか......
その言葉に特待生組の面々の視線が妙に鋭くなった気がした。
「あの~それは命令ですか?」
その言葉にアルゼリカは「出来ないとは言わないのね」と呟くと「はい、命令です」と言った。
「………別に構いませんが治癒班でも用意しておいてくださいよ」
あーあー、またこれか。不殺スキルの設定はどうしようか。取り敢えず痛みと後遺症が残らないレベルに設定しておくか。
武器は………しまった昨日買おうと思っていたけど忘れてた。カイトが剣を持っているということは武器ありなんだろうな。
………しゃーない。使うか。
俺は倉庫から刀を引き出す。真っ黒な刃に目立つような宝玉を埋め込まれたその刀は周りの人々に戦う前から恐怖を覚えさせるには十分だった。
それほどまでにこの刀は格が違うのだ。
「ちょっクロ、その武器はヤバいわよ」
エリラが俺が装備した刀を見ながら忠告する。前に一度だけエリラに見せたことがある俺の最新の魔法剣だ。残りは解体でもしようと思い鍛冶場に放置している。
「予備忘れてたからこれともう1本しか用意していないんだよ」
「で、でもいくらなんでも私のを使った方が……」
「いや、その剣の方がもっとやばい、おもってる以上に高いからなそれ?」
下手したら俺の仕込みがばれてしまう可能性があるからな。あれは最終手段やし。
「まあ、魔法剣ですとかで流すさ」
「わかったわ、でも気を付けてね」
「任せときな」
俺はそういうと闘技場の中央へと向かう。すでに特待生組は俺の持っている武器に異変を感じているようだ。
この世界の魔法剣と言えば古代遺跡から出たものがほとんどでここ最近作られた魔法剣はほとんどないと言う。作ることが出来る職人が少ないうえに魔法剣を作るのにも莫大な資産が必要らしくコストに似合った性能を作ることが不可能とのことだ。
「魔法剣か……」
「ええ、これしか今は持っていないので」
俺とカイトは向かい合い、武器を構える。カイトの武器は槍か、刀とのリーチの差はあるけど問題ないだろう。
「では、両者準備はいいですか?」
「はい」
「いつでも」
「では……はじめ!」
闘技場で、俺の剣とカイトの槍が交じり合い火花を散らした。
結論から言おう。10秒かかりませんでした。全員2秒でノックアウトさせちゃいました。
<戦績>
カイト戦 → 槍ごとぶっ壊し場外アウト
金髪の縦ロールの少女 → 圧倒的詠唱スピードで一撃で終了。
青髪のロングの少女 → 剣を弾き飛ばし首筋に剣を当て降参させ終了。
その他もほぼ同じような結果で終わらせた。魔法の詠唱には1節でも1~2秒程度は必要だ。ましてやそれが可能なのは本当にその魔法を色々な意味で使い切っている者にしか出来ない世界だ。
つまり山賊モドキの統領の8節はイコール8~16秒程度時間がかかっていると言う事だ。俺は無詠唱スキル持ちなのでほぼゼロに近い速度で魔法を撃ちだせる。
ちなみに無詠唱スキル持ち同士でも発動速度に僅かだがタイムラグがある。その誤差はほんのわずかであるが、その差が勝敗を分けることも多々あるとのこと。
補足しておくと詠唱もすべて無詠唱に勝てないわけではない。詠唱を使えば形が安定した魔法が作れるし、想像力が弱い者でも高威力なものを作れる。
反対に無詠唱は圧倒的な発動速度が売りだが、形が安定していないし、無詠唱スキル持ちでも使い慣れていない魔法だと失敗することもある。戦争などでも城など見通しが悪い所で奇襲には使えるが、平原などで戦うときは無詠唱を熟練していない魔道士よりも詠唱をしてしっかりとした魔法を撃てる魔道士の方が効率がいい。
まあ一長一短と言う事だな。今では無詠唱を中心に使っている種族は妖精族や魔族ぐらいらしい。
俺の場合は……どうなんだ? もう詠唱スキルと無詠唱スキルはくっ付いているしよく分からない。でもイメージをある程度はしておかないとたまに不完全になることもあるので(と言っても強力な魔法のときだけだが)注意はしている。
で、俺が何を言いたいかって? つまり2秒でノックダウンさせたと言う事は一節または無詠唱を使える人物しか魔法は使えなかったと言う事だ。そして特待生組にはそれが出来る人はいなかった。そう、俺は、誰一人魔法を使わせないで一方的にやってしまいました。と言う事だ。
やりすぎたのは反省しているけど、先に吹っかけてきたのは君たちだからね? 恨むんなら過去の自分達かアルゼリカ先生を恨みなさい。
従者と救急班(アルゼリカ先生に呼ばれて来た先生方)によって治療魔法を唱えられながら担架らしきもので運ばれていく様子はかなりシュールでした。
「あの、もう行っていいですか?」
あまりに急な幕切れにアルゼリカ先生も言葉が出ないようだ。ただ運ばれていく様子を見送りしばらく出口を向いたまま何もしゃべらない。
ようやく我に戻ったのは俺が話しかけてから1分ぐらいは立っただろうか? とにかく待たされる俺の身としてはかなり長く感じた。
「あっ、あれ?」
「もしも~し、あのもう行っていいですか?」
「あっ、えっと……アレが本気?」
「詠唱のみです。威力は抑えていますよ」
ちなみに身体能力も抑えていました。本気でやったら多分カイトとか槍折れての場外アウトどころじゃすまされなかったぞ。たぶん闘技場の壁を貫いてすっ飛んで行くぞ。あと不殺スキル無しだったら、水風船見たいに割れちゃっても可笑しくないからな。(というのもだいぶ前に魔物相手にマジでやってしまったので)
……ほんと俺何しているんだろうな。見た目は子供、その他(ry
「……人?」
「人です」
半分な。まあ裸にされても俺の体は見た目が人間と全く一緒だからな。唯一違うのは歯ぐらいだろうか? 犬歯が人よりも若干尖っているんだが、普通誰もそんなことに気づかないよな。
「さすがは炎狼のコアを取ってきた冒険者か……えーと、もう行っていいですよ、あの様子だと全員しばらくは動けそうにありませんからね」
そこは治癒魔法班頑張れだ。
「では、失礼します」
そう言って俺は闘技場を後にした。本当は今日は図書館でも見てみようと思っていたけどなんか疲れたからまた今度でいいや。
「あっ、そういえばエリラは何も言われなかったな?」
「えっ、あっ、そういえばそうだね」
頭から離れてやがったな。まあ何も無かったことやししばらくは大丈夫かな? あと俺の心配は特待生組の復帰後が怖い事かな。シュラやカイト辺りは平然と戻って来そうなオーラ出していたけどあの縦ロールの子や青髪の子とかは大丈夫だろうか?
まあ、何か考えるのもアホらしいからやめて置くか。
俺はエリラと共に帰宅をして何事も無くその日はそれ以上は何事もなく終わった。
翌日、俺は魔法学園のある町ハルマネのギルドを覗いてみた。規模はエルシオンとほぼ同じってところかな?
今日は軽めの依頼でも受けるとしますか。
俺は何の依頼を受けようか迷っているとふと目に飛び込んできた依頼は
依頼名:治癒願い
依頼主:魔法学園保健部
内容:昨日とある模擬戦中に怪我人が多発し、重傷者が多く出ました。
そこで治癒魔法を使える方は補助をお願いいたします。
受注条件:治癒魔法レベル4以上を扱える者
報酬:100,000S、基礎魔法薬5本
「……」
いや、待て魔法学園から治癒魔法系の依頼って駄目だろ!? 威厳とかそんなのはスルーなのですか!? てか、俺そんなに重傷を負わせましたか?
……いや、負わせたな、普通に考えて骨折れるって重症だよな。やばい俺の感覚も麻痺って来てるのか?
あれ? そもそもこれ、俺のあれ? ……しかなさそうだよな。『模擬戦』って付いているし
……
ほんっ! とうにすいませんでしたぁぁぁぁ!!!!!
心の中で必死に謝りました。
その後、俺がこの依頼を受け、学園に向かったのは言うまでもない事だろう。




