第37話:10秒で
翌日。俺は前日に指定された教室のドアの前に立っていた。
なんていうんだろうな、俺は転校生とかになったことないからハッキリとは分からないけど、たぶん殆どの人が緊張しているんだろうな。俺見たいに。
とまあ、いつまでもここにいるわけには行かないよな。
意を決して教室のドアを開ける。教室内は日本の学校とほとんど変わらない広さに机が10個ほど置いてあった。黒板らしき物や隅に飾られている花などを見ると懐かしい気持ちになるな。
……でも、これだけは勘弁願いたいな
「そりゃあああ!!!!」
ドアを開けた瞬間に聞こえる叫び声。俺は特に見るとこも無く左腕を曲げの手の甲を顔の横から振りぬく。
ゴンッ! と言う音と共に俺の手の甲に何かが当たった感触があった。なんか一部出っ張ていたような気がするんだが。
「あちゃgかhkjhsgtふfga!!!」
音の聞こえた方を見ると、なんだか聞き取れない言葉に鼻の部分を抑え地面でのた打ち回っている者が1名いた。
「……開始早々なんですかこれは?」
教室の中を見ると20人ほどの人間がいて全員が「はっ?」とした顔をしていた。ちなみに黒い首輪を付けている者もいるので従者も混ざっているんだろうな。
「ち゛ぐし゛ょう!」
俺の裏拳を受けて倒れていた奴が立ち上がる。あの鼻から血が溢れているのでかなりシュールな光景なのですが、いや、やったのは俺なのですけどね。
「だから無理だって言っただろ?」
俺の背後から声がしたので振り向いてみると、そこには昨日であったばかりのシュラが立っていた。
「ようっ、わりいな馬鹿が迷惑かけて」
「いえ、なんてことありませんでしたけどこれは一体?」
「あ~昨日の事を聞いたこいつが子供に負けたんかよ! とか言ってあとはご覧の様ということだ」
「あー」
と、そこに
「教室に入り……ってカイト君どうしたの!?」
「あっ、アルゼリカ先生、おはようございます」
「ちわーす、何、いつものことですよ」
アルゼリカ……先生はまたかと呟いて顔を天に仰いだ。これ転校生が来るたびにこれしているのですか?
「とりあえずカイト君は保健室にでも行きなさい」
「あ~、一応私がやったので私が直しますよ」
俺は治癒魔法をかけてあげる。鼻血程度の怪我なので一瞬で治ったんだが、問題はその服に付いた血は残ったままなことだ。正直殺人でも犯してきたの? と言わんばかりの血の付き方である。俺は甲を構えていただけなんだけど、余程勢いよく襲ってこようとしたんだなこいつ。
「こいつはいつもこんな感じだよ。強い奴が現れるとなりふり構わずになこうやって、襲っているってことだ。まっ半分以上はこうやって返り討ちなんだけどな」
シュラがやれやれと行った顔をしている。でもあんたも昨日全力で走って帰っていましたよね? ある意味人の事言えなくないですか?
「今回は子供だと聞いていたのに不覚だ……」
俺に奇襲をしかけて返り討ちになったカイトは両拳で地面を叩きながら叫んでいる。ちなみにステータスも覗いてみたが30程度だった。エリラにも負けてるとは言えないよな。んで、肝心のエリラはもはや言葉を発さずに俺の後ろにいたのだが。
というのも、仮にも元貴族なのでもしかして知っている人がいるかもと思って緊張しているらしい。まあつい1,2年ほど前までそうだったもんな。確かにそこはあんまり考えていなかった。
「とりあえず席に着きなさい。朝礼するわよクロウ君と従者はこっちに来て」
アルゼリカ先生の声で全員があっとしか感じで席に付きだした。そして座った全員の後ろには通り従者らしき人が一人必ず立っている。奴隷の証である首輪(チョーカーとでも言えばいいのだろうか?)を付けている者もいればメイド服を着た人など様々だ。
ちなみにエリラの服装は比較的安価な冒険者用の装備を付けているといった感じだ。もっとも奴隷などにつけるには勿体ない位の価値があるものだけどな。
俺が「普通の服装でよくない?」と聞いたのだが「いや、いつも来ている私服だと高価に見えすぎない?」とのことだ。まあ多少は分からんこともなかったので、とりあえずこんな感じ一見安価な装備を来ているのだ。
ただし、すべてが俺手作りの装備だ。全装備に対魔法耐性と物理攻撃耐性を加えたそんじょそこらでは売っていない代物だ。
バレにくい様にわざと安っぽくしているだけだからな。
「えー、みなさんおはようございます。早速ですが今日から新しい転入生が入ってきました」
俺は一歩前に出て一礼をして自分の名前を言った。好きな食べ物はとかそんなことは言わないぞ。従者については特に何も無かったのでよかったと思っている。
その後は特にこれっといたことが無い普通の朝礼だ。1ヵ月の主な日程を説明し、特待生である俺らが出来れば参加して欲しい内容などが説明される。ちなみに今月は特に何もないとのこと。
「では質問はありますか?」
最後になりアルゼリカ先生が聞くとさきほどのカイトが手を上げ……ってか勢いよく立ち上がり。
「あとでクロウと一戦したいです! 闘技場貸してください!」
君も戦闘狂ですか? さっきの一撃で充分でしょ?
「……はぁ、あなたは言い出したら聞かないからね、いいわよでもケガの無いようにね」
いいんかよ! 先生! 俺の許可は!?
「お待ちなさい」
と言い別の生徒が立ち上がる。金髪に縦ロールといういかにも貴族っと言った感じの少女が立ち上がる。制止してくれるのかなと俺は期待していたのだが
「それなら私も一戦お願いいたしますわ」
ちょっとぉぉぉぉっぉ!? 皆さん揃ってなんですか!?
「よし、なんなら全員で一回ずつ模擬戦しましょう!」
これまた別の生徒が立ち上がる。青髪のロングヘアーと、ソラに多少似ている髪型をした少女が追撃をするかのように発言をする。
えっと……あの
「いいわね! みんな異論はない?」
残っていた4名の生徒も異論はないと言った感じで頷く。
あの、いつからこの世界は戦闘狂の集まりになったのですか? いや元からですね。多分俺の出会って来た中で常識人だったのはラミとミュルトさんだけでしょう。あとガラムのおっさんもか。
「はあ……わかりましたいいですかクロウ君?」
いや、今頃聞いても断れない雰囲気ですよね?
「わ、わかりました」
「それじゃあ立会いは私がしましょう。今から1時間後に闘技場を開放します。いいですね」
アルゼリカ先生の言葉に一同賛同し朝礼は終わった。
前言撤回、どう考えても普通の朝礼じゃありません(泣)
そして、全員が闘技場に行き始める。俺もやれやれといった感じで闘技場へと向かう。
「クロ本気?」
エリラが心配そうに俺に聞いてくる。エリラも冒険者としては申し分ない実力を持っている。そのためそれぞれの個々の力をある程度感じていたんだろう。
と言う事はエリラは自分より格上の人たちばかりと感じ取ったのか。
「心配するな、多少の連戦になるけど炎狼に比べたら問題ないだろ」
負けねぇよ。
一時間後、俺は闘技場で最初の相手であるカイトと向かい合っていた。
「今度は決めるぜ!」
いや、奇襲でも勝てなかった相手に何言っているんですかあなたは。
「……クロウ君」
立会人であるアルゼリカ先生が俺を呼んだ。
「はい?」
「最近、こんな感じで調子付いているので一発叩いてください」
「……と言いますのも?」
「全員10秒以内で蹴りを付けなさい。私もあなたの本当の実力を見てみたいわ」
その言葉に俺とアルゼリカ先生以外の闘技場にいた全員が固まってしまったのであった。
次回からは連戦ですね。
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