第32話:思い
「くぅぅぅぅ~、やっぱり外の空気はうめぇなあ」
とある火山が近くにあるとある森の奥でクロウは大きく背伸びをしていた。その周りを囲むかのように約数十名の獣族たちが助かったと喜び合ってるのと同時に、これから自分たちはどうなるのだろうと怯えてもいた。
逃げる。そんな選択肢など初めからない。自分らを捕らえていた人間を彼はたった数十分で壊滅させたのだ。逃げるてもすぐに追いつかれるに決まっている。
そして彼はフェイに慕われてもいた。そんな状況下で逃げるなど選択するものは誰一人としていなかった。
「さて……これからお前らをどうするかだよなぁ……自分たちの村の場所分かる?」
その問いに答える者はいなかった。いや誰一人として答えられないのだ。
「その……私たちの村は……滅ぼされて……」
「あー、もう言わなくていい。すまない嫌なの思い出させてしまったな」
「あの……これから私たちをどうするつもりですか?」
クロウはまいったなぁと後ろ髪を掻きながら呟いた。
「お前たちを村に帰せれたらが理想だったんだけど……うーん」
そして次にクロウの口から出たのは
「……俺の所に来るか?」
だったのだ。
はい、一難去ってまた一難とはこのことですね。ええ、クロウです。ただいま大量の獣族に囲まれて絶賛悩み中です。
ほんと、どうしよう。故郷はどこって聞いたら、「滅亡しています」なんだもん。前の俺だったら絶えれないな。日本以外の世界で住める自信全く無いし。
はぁ……こうなったら面倒見るしかないよな……見捨てる? そんな選択肢など無い! そもそも助けて見捨てるとかどんな悪党だよ。上げて落とすの典型的な例だな。
しかし面倒見るっても……街には入れないしな……あっそうかその手があったか。
「……俺の所に来るか?」
「……へっ?」
「あー、言葉が悪かったな。住む場所が無いなら俺の所に来るか? ちょうど大きなお家があってな空き家状態でな。よかったらそこで生活でもしてもらおうかなと考えたんだが」
「ちょっと、クロ何言ってるの?」
あっ、そうだエリラは獣族語が話せないんだったな。
「ほら、アレ出来ただろ。そこに住んでもらおっかなって」
「アレって……………………はぁぁぁぁぁぁ!? 本気で言ってるの!?」
「あーうるさいぞ。まあ空き部屋多いし別にいいかなって」
「冗談じゃないわよ! クロ! そもそも何で異種族を助けるようなマネをするの!? 普通考えられないわよ!」
「逆に何で助けないんだよ?」
「当然よ。幼いころからの教えよ。異種族は虐げるのが普通。遥か昔に起きた大戦で人間は異種族に多くの人々が殺された。それも兵士だけじゃない。一般市民など無関係の虐殺よ! ここ数十年でここまで戻って来れたのよ! そんなことをやって来た異種族と一緒の所で寝るの!?」
「……で?」
「えっ?」
「それが何なんだ? 昔の奴がやったことを今の子孫たちもするとは限らないだろ。昔の奴らがやったことは昔の奴らのこと。それで終わりじゃねぇか」
「何言ってるの!?」
「俺からしてみればお前の方が何言ってるの状態だよ。街にも奴隷としているだろ、それがちょっと同じ家で暮らす程度じゃないか、そもそも俺がこんな奴らを見放すと思っているのか? 自分の経歴を思い出してみたらどうだ?」
ぐっ……とエリラはそこで完全に言葉を詰まらせる。エリラは完全に忘れていた。自分が奴隷だった事に主であるはずのクロウと普通に話していたので完全に頭から外れていたのだ。
「で、でも異種族とは」
「はぁ……しょうがねぇな」
俺はそういうと立ち上がり、服を捲り肩から手の先まで全部見えるようにして手を突き出した。まさかこんな所でカミングアウトする羽目になるとはな……まあいざとなればエリラには命令すれば問題ないし。獣族たちは街中に入れば追って来れないし問題ないだろ……たぶん?
ああ、もうなるようになれ!
「……エリラ、お前はこれを見てもまだ、異種族は悪と決めつけるのか?」
「はっ? 腕を出して行きなりどうしたの?」
「……スキル《硬化》」
俺の手が見る見るうちに青くなる。その光景を見たエリラは……なんというか完全に意識が飛んでいませんか? とでも聞きたくなるような顔をしている。
「スキル《飛行》」
俺の背中に翼が出来、一瞬で上空に上がって見せる。そのまま空中で飛び回ること30秒。俺はもといた地面に着地した。
「……」
エリラは何も言えなかった。まあそうだろうな、今まで人間だと思ってた奴がこんなこと出来ちゃうんだもんな。そりゃそういう顔になるよな。
「御覧の通りだ、俺は半分は確かに人間だが半分は違う血が流れているわかるか?」
「あっ、えっ、ま、まさか」
「そうさ、俺はこの世で最も嫌われている《ハーフ》系の種族だ」
カミングアウト乙。もうどうにでもなれ~。俺の頭の中は早くも川の先にあるお花畑に飛び立ちそうです。
「嘘だ……」
むっ、まだ信じられないか。と言っても俺は龍族みたいに角が常にあるわけじゃないしなそうなると《龍の力》を使うしか」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」
エリラは両手を頭に着け、地面に顔をつけガクガクと震えている、そして嘘だと何度も呟いている。やべぇ、これやべぇぞ。
「クロウさんは人じゃないのですか?」
そんな中で無邪気な反応を見せるのはフェイだ。
「いや、半分は人さ。でももう半分は龍族と呼ばれる種族の血が流れているんだよ。俺の父が人間で母が龍族なんだ」
その発言に獣族も完全に言葉を失ってしまった。ただ一名を除いて
「すごいですの?」
「ん? ハーフはかなり嫌われるらしいけど大丈夫なのか?」
「クロウさんはいい人なので平気です!」
ドヤッと胸を張るフェイ。これが自分の孫だったらかわいい~とか言って抱きしめてそう。いや今でも笑顔がまぶしいです。
「そうか、フェイは平気なのか……よかったよ」
俺はそういうと膝を地面につけ、《硬化》していない方の腕をフェイの頭に乗せよしよしする。今なら擬人化に凝っている人の気持ちが分かるかもしれない。目の前にいるのは猫みたいな耳をしていて、しっぽが生えている(と言うのに下水道を走っているときに気づいたが、何も言わないで置いた)まさに猫が人間になったような感じなのだ。
うん、かわいいな。許してくれ前世の猫耳大好きフレンドよ。俺も今までかわいさに気づけていなかったようだ。もっとも「萌え~」とか言ってた友達見たいには絶対になりたくないが。
えへへ~とデレ(?)ながらフェイは顔を赤くしている。しっぽがフリフリしている。喜んでいると受け取っていいのかな?
おい、フェイのお姉ちゃん。羨ましそうにこちらの顔を見ないで、気持ちは何となく察しているから!
そして、フェイはここでとんでもない爆弾発言をするのだった。
「フェイはクロウさんに付いていきたい! お姉ちゃんだめ?」
「へっ?」 ←俺
「はっ?」 ←フェイのお姉ちゃん
「……え゛?」 ←獣族の皆様
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ―――」 ←エリラ
この予想外の反応に俺を含めた(ほぼ)全員の思考回路が一瞬停止するのだった。
「ちょっ! フェイ! あなた何を言ってるの!?」
「ことばの通りです!」
目の前で始まる姉妹喧嘩。そしてその喧嘩は他の獣族たち(主に大人)を巻き込んでの乱闘になった。相変わらずエリラは地面に向かって呟いている。他の乱闘に参加していない獣族たちもどう思うあれ? とか話している。
……あの……俺……置いてけぼりにされていませんか?
「何でだめなの!?」
「駄目とは言っていないわ! でもそんな安易な考えで決めちゃ駄目でしょ!」
「あんいに考えていません! それにやくそくしているんです!」
約束? そんなもんあったっけ?
「クロウさん、いらいの内容をおぼえていますか?」
「えーと、確か“お姉ちゃんを助けて”で報酬は“私が大切にしている物”だったな。……も、もしかして」
「はい、ほうしゅうはわたしなのです!」
「……はああぁぁぁぁぁぁぁ!?」 ←俺&獣族全員
「もし、おねえちゃんたちがたすかったら、わたしは、わたしをだすつもりでした。ほかに渡せるものなんて何もありませんでしたから」
「あの報酬欄はそういう意味だったのか……」
解読できた喜びと、早くいかないとやばいパターンじゃないと言う思いが重なりすっかり報酬のことなど頭から外れていたのだ。もっともこんな子供(人の事言えないが)から何かを取ろうなんてこれっぽっちも思っていなかったが。
「だからこれはけっていじこうなのです!」
アカン、この子将来絶対にアカン人になる。もうそんな雰囲気が流れとるぞ……。
はあ……とフェイのお姉ちゃんが頭を悩ませる。お心遣い察します。
「……クロウさん」
フェイのお姉ちゃんが俺の名前を呼んだ。
「こうなったらフェイはもう言う事を聞かないので……私も付いて行っていいですか?」
「いや、あの……提案したのは俺だけどいいのか? お前たちからしてもハーフはやばい存在だと聞いたんだけどな」
「確かにそうです。でも私もクロウさんの言葉を聞いて思いました。すべての他種族の者が悪い人ではない中にはあなたのような者もいるんだと、私は今回の出来事で確信しました」
「おいおい、俺が言うのもなんだが、もう少し疑うとかいう選択肢は無いのか?」
「もし、私たちを酷く扱おうと思うならあんな無茶なマネはしないと思いますけど?」
あー、単騎で50名ぐらいの山賊たちの集団に突撃したあれか。割愛させてもらったが、牢屋を出た後にバッタリと出くわした援軍とマジ衝突して全力だしたら洞窟が崩れそうだから仕方なく《不殺》スキルを発動して剣一本で挑んだだけなんだけどな……俺は三○無双に出てくるキャラかよ。
でも、この姉妹のお蔭で今まで停滞気味だった空気に流れが生じ始めた。
今まで、どうしようか悩んでいた獣族も時が立つにつれ次第に付いて来ると言う人が増え始めたのだ。戻る所が無いっているのが一番の大きな理由だろうけど、あの人たちが言っているんだからと考えているのもあるんだろう。
結果、すべての獣族が付いて来ることになってしまった。
そうなると、こいつはどうしようか。俺はエリラになんて声を掛けていいのか悩んでいると。
「……取りなさい」
「ん? 何か言ったか?」
「……ん、取りなさい」
「だからなんt―――」
「責任取りなさい!! って言っているのよ!」
ウガーと言う効果音と共にエリラが俺に飛びかかってくる。ガシッと腕を捕まれそのまま全体重を乗っけて来る。
そして、俺はそのまま押し倒されt(ゴンッ!)いたぁ! 頭痛い! 脳出血していない? 大丈夫俺の脳みそ!? あっ、治癒魔法使えばいいんだ、そうだ、落ち着け俺!
「せ、責任って何のを責任だよ」
自分の頭に治癒魔法を掛けながらさっぱり方向性の読めない展開にどうなってるんだと悩まざる得なかった。
「私をブラックリスト入りさせたんだからね……」
「あー」
「私を幸せにしないと許さないからね!!!!」
……えっ、なにそれ。
「……どういうこと?」
「こういう事よ!」
そういうとエリラが俺に顔を近づけてきたt……ん? ちょいまてエリラそれ以上近づいたら……
気づくとエリラと俺の唇はくっついていた。
えっと……これって……
……キスですよね?
やがて顔を真っ赤にしたエリラが顔から離れていく。俺も上半身だけ体を起こす。
「私にはあなたしかいないのよ」
やや震えた声が当たりに響く。
「家ではずっと外され者だったし、とかいって叔父が死んだら急に愛想良くしてくる人がいて、ようやく解放されたと思ったらギルドではずっとEランクで問題児扱い……」
エリラの頬に涙が流れ落ちる。
「ソラちゃんもいたけど、それでも彼女は遥か上のBランクの冒険者で街にいることがほとんどなくて……」
さっきまでアタフタしてた俺はどこに行ったんだろうなと思いながらも、エリラの言葉を一字一句間違えないようにハッキリと覚えていく。
「そこにさらにギルド永久追放……死にたいとしか思えないわよ……」
そうだよな。前世の俺で言う会社をクビになり国外追放とほとんど変わらないもんな。俺も思う間違いなく。
「でも……あなたは違った……奴隷になった私にも普通の人間と一緒のように接してくれて、色々な事も教えてもらって、色々な物をもらって……今の私は……クロがいなければいなかった」
「エリラ……」
「お願い! 私を一人にしないで!!!!」
そう言いながらエリラは俺を抱きしめた。なんだろう……すんごい罪悪感が……。マジで本当……スイマセン……。
でも……そうだよな。俺はエリラが自分の過去を話してくれた時のことを思い出していた。人の優しさに飢えるってこういう事を言うのかな? 俺は前世の俺を思い浮かべながら静かにエリラを抱き返した。
もちろん、俺の答えも決まっている。
「するわけないだろ。お前を絶対一人になんかさせねぇ……誓うよ」
「……本当?」
「ああ、本当さ」
その言葉に、エリラは遂に声を上げて泣きだした。
そうか、獣族と一緒になることを嫌っていたんじゃないんだな。離れることを恐れていたのか。おそらくこの獣族たちが人間だったとしても色々理由を付けて拒否していただろうな。
俺はエリラが泣きやむまでそっと彼女を抱きしめて上げていたのだ。
すいません獣族の皆さん。こちらのゴタゴタに巻き込んでしまって。
「で、エリラ、さっきの話なんだが……いいのか?」
エリラは涙を拭うとハッキリと答えた。
「ええ、あなたと一緒にいれるなら獣族でもなんでも来なさい!」
おっ、いつものエリラに戻ったな。でも顔が赤いぞ。俺もたぶんかなり赤くなってると思うけど、そこはスキル《ポーカーフェイス》に頑張ってもらおう。
「さて、決まったな」
俺はエリラを支えながら立ち上がり、周囲で見守っていた獣族たちを見回し。
「帰るぞ。俺たちの“家”にな!!!!」
俺の高らかな宣言が太陽が沈み始めた夕暮を背景に鳴り響いた。
やっちまった……もう後には引けない。という後悔を何回もしている気がしますが(笑) 今回のお話は正直いれようかどうか迷ったのですが最終的に入れることにしました。
それにしても……こういう話って書くのが本当に難しいですよね、改めて思い知らされました。
※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。
※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。




