表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/270

第31話:圧倒的なまでに

 ※10/18 誤字脱字を一部修正しました。

「……」


 エリラとフェイは今、目の前に起きた現実を認めきれなかった。


 わずか30秒ほどである。目の前にいた20名以上の山賊たちを彼はすべて沈黙させたのだ。


 彼が近づいてくる。だが二人とも何も言う事が出来なかった。特にエリラはクロウの本音をハッキリと感じ取っていた。

 クロウが前から差別をする人は好きじゃないと言う事は分かっていた。奴隷になったエリラに対しても彼は決して無碍に扱うことなく普通の冒険者とほとんど変わらない生活を送らせてくれた。

 だが、別種族までも平等に扱うとは思っていもいなかったのである。


 そして街での出来事を思い出す。フェイと初めて出会ったあの廃墟で彼は襲い掛かろうとしたエリラを肘打ちで沈めた。その威力は昇格試験のときよりも数倍も痛かった。

 そして彼はフェイの顔を見ても嫌な顔一つせずに話しを聞いてあげ、後は任せろと言い。普通の人ならば触れる事はもちろん近づくことさえも嫌がる異種族を簡単に抱きしめて上げたのだ。

 エリラは背中に謎の汗が流れているのを感じていた。もしあの死んだ山賊たちのような牙が自分に向いたら……と。


「……幻滅したか?」


 クロウは顔をちょっとだけ逸らしながら聞いた。


「……あのクロウさん」


 フェイがクロウに近づく。


「なんでクロウさんはほかのしゅぞくでもたいとうに話すのですか?」


 当然の質問だろう。クロウはそうだなとつぶやくとこう答えた。


「生きている者として……生きる権利を尊重するからさ」


「生きている者として?」


「そうさ、例え生まれる場所がどこだろうか、どんな種族だろうが、どんなに醜い顔つきであろうが……この世界で生まれてきたのなら……自由に生きる権利は誰にでもあるはずさ、それを他者が一方的に奪ってはならないと俺は思っている……食べ物でも感謝を込めていただくようにな」


「食べものは大切ですもんね、クロウさんすごいです」


「それほどでもないさ、俺は当然だと思っているだけだよ。さあお姉ちゃんを助けるぞ!」


「はい!」














 クロウさんはすごいです。


 わたしは今までほかのしゅぞくの生き物はみんながみんな悪い人だと思っていました。

 でも、それはクロウさんみてちがうと思いました。

 クロウさんはとってもやさしい人です。初めて私と会ったときもかおいろひとつ変えずに私にやさしく話しかけてくれました。

 クロウさんはお姉ちゃんをきっと助けてくれるでしょう。いらいを受けたのがクロウさんでほんとうによかったと思っています。



 はやくお姉ちゃんに会いたいな。









 ……私は間違えているのかしら。いえ昔からずっと言われてきて教えられたことだわ。誰に聞いてもそうだった。「他種族は信じてはいけない、他種族は悪魔である。人以下の劣等種族だ」と。


 でもクロは真っ向から否定した。そして彼は一人の頭をまるで水風船のように軽々と潰し、さらに体を真っ二つにする勢いでもう一人を一瞬で絶命させた。


 彼は私見たいに奴隷になった人でも仲間と言って対等に扱ってくれる。私もそのうち自然と意識しなくなっていた。

 でも、あの山賊に言われてハッと思い出した。私は奴隷だったのだと。


 なんで、クロは他種族でもあんなにやさしいのだろう? なんで彼は私みたいな奴隷でも対等に扱い誰が何と言おうと「奴隷じゃない仲間だ」と言ってくれた。


 なんで? なんで? 答えの出ない問題が頭の中をグルグル回る。


 クロは……一体何者なんだろう。


 今まで一緒にいて感じなかったのがおかしい位の疑問に私はぶつかっていた。













 なんとか沈黙させることが出来たか。しかし思ったよりか統制は取れていないな、二人殺された瞬間にこれだもんな。いや、俺の殺し方に問題があったな。あっちの世界だと完全にモザイクが入るような映像だもんな。俺も《精神耐性》が無かったらやばかったかもしれねぇ。


 さて、フェイは納得してくれたみたいだけど、エリラは俺を警戒気味だな。やっぱり俺の行動と発言は異常すぎるんだろうな。自分ではあんまりそうは感じないけど。


 山賊たちも運が無かったな、もっとも山賊だとしても人は人だけどな。


 でも、これでいいんだろ……セラ。お前の望んでる世界は……決して間違いじゃねぇと思うぜ、俺もファンタジーでしかなかった光景を見てみたいしな。















「さて、じゃ統領に会いに行くのは最後にして先にフェイのお姉ちゃんたちを助けますか」


「えっ? どういうことですか?」


「こういう事だよ」


 俺はそういうと壁に手を付け土に魔力を送る。やがて、ズズズと音と共に洞窟の壁が崩れ始めた。


 やがて、目の前には一本の通路が出来る。


「さて、ショートカットさせてもらおうか、エリラ、フェイ、俺の手を取れ」


 二人はは? と言った顔をしたがエリラはすぐに察したのか左手を握ってきた。フェイもそれにならって右手を握る。


「しっかり、ついて来いよ」


 俺は自分で作った通路の中に足を踏み入れる。灯りなどは無いので中は真っ暗だが、俺が自分で作った道なので問題ない。

 火を使えばと思うかもしれないが、こんな狭い地中で炎の魔法なんか使ったら大変なことになりかねない。可燃性のガスでもあれば大変なことになるからな。(もっともこれも後で気づいたんだが風魔法とかで空気を移動させれば問題ないことに気づいた。あとついでに光魔法でもよかったんだけど)


 暗闇を進むこと2分。暗かった洞窟に僅かな光がこぼれている。


 俺らはその光に向かって進む。もちろん行先は分かっている。



「お邪魔しまーす」


「!?」


 開けた場所に出るとそこは狭い鉄格子で入口を塞がれた部屋だった。

 そこにはフェイと似たような耳をした獣族たちが2、30名ほどいた。俺が見たとおり全員が子供か女性だった。


「えっ、だ―――」


 その中の一人が何かを言いかけた瞬間、俺の横をスッとすり抜けて一直線に走っていくフェイの姿が見えた。


「お姉ちゃん!」


 フェイはそういうと一人の獣族のもとに飛び込んだ。女性と言うよりも少女と言った方が近い容姿だ。


「えっ、ふぇ……フェイ!?」


 フェイは涙を流しながらも笑顔でそれに答える。するとお姉ちゃんの方も自然と笑顔になっていた。


「よがったよぉ」


「ごめんね心配させたね」


 いい場面だなぁ。他の獣族たちも目の前の微笑ましい光景にしばし目を奪われていた。忘れてはならないがここは牢獄だ。でもなんでだろうな、あの周りだけ輝いてみるよ。


「でもどうやってここに?」


「あの人たちが連れてきてくれたの」


 そういうとフェイは俺の方を指さす。


「え……その姿」


「人間ですよ。あなたの妹のお願いで助けに来ました。あっ言葉もわかっているので普通に話してくださいね」


 その言葉に周りにいた獣族たちも騒がしくなる。もっとも牢獄の入口ら辺はもっと騒がしいが俺が《土壁》で塞いでいるので残念ながら通れないが。


「に、人間が……?」


 信じられないと言わんばかりの顔だな……まっこればっかりは仕方ないか。


「さて、エリラは獣族たちの護衛を頼む。あいつらを駆逐してから外に出るぞ!」


「分かったわ」


 考えることを今は置いているのだろう、目や動作に迷いが無い様に見受けられた。


「フェイはお姉ちゃんから離れるなよ」


「はい!」


「えっ、状況が読めな」


「脱出するついでに片付けるだけですよ、《破砕槍(クラッシュ・スピア)》」


 牢屋までの通路を塞いでいた土を固め、俺と反対方向へ飛んで行かせる。《破砕隕石(クラッシュ・メテオ)》とやり方は同じだが、唯一違うのは先端だ。非常に鋭利な形をしている。《竹槍》と《破砕隕石》を組み合わせたバージョンだな。悪いが今回は統領を潰すまでは容赦なしだ。


 スドドドドドとまるで巨大なミシンが動いているかのような音と共にあたりに土煙があがる。それと同時に上がる叫び声。獣族たちはただジッと見ているだけだ。


 やがて、音が収まり土煙も消えると通路の先は死屍累々だった。ぱっと見でも十数名は絶命しているだろう。


「行くか」


 俺はそういうと鉄格子をギュッと掴み一気に引きちぎりにかかる。言葉を間違えてないかと思われそうだが、まさに引きちぎっているのだ。

 鉄格子はパキッ、ベキョと言う音と共にあっさりと曲がってしまった。唖然とする獣族。エリラもこれには「ちょっと……嘘でしょぉ」と呟いていた。


「あっ、この鉄はもらっていこう」


 そういうと、俺は移動する前にもはやただのゴミに成り下がった鉄格子の一部を《倉庫》に納める。ありがたく素材として使わせていただきます。















「何が起きた?」


 洞窟の中でも一番広い場所で堂々と座っている者が部下らしき人に聞く。当然部下もここにずっといただけなので「わかりません」と答えるしかなかった。

 そこに一人の人間が飛び込んでくる。何やら慌ただしい様子だ。


「バーザス様お逃げください! 謎の人物g〈ズンッ〉ごはぁっ!」


 目の前で崩れ落ちる山賊。心臓を一突きさて鮮血を吐き出しながら倒れる。


「案内ご苦労様。さてあんたが頭か?」


 目の前に現れたのは子供だった。だが身丈に似合わない曲剣に血を滴らせながら歩く様子はただの子供ではないと思い知らされる。


「誰だテメェは!?」


 統領バーザスは近くにあった剣を持ち椅子から立ち上がる。


「ただの冒険者ですよ。ちょっと用事があったのでついでに潰させてもらっているだけですよ」


 冒険者は「よう」みたいな気軽な口調でとんでもないことを口走っていた。この山賊の規模はかなり大きい方といえよう。人数は総勢八十名余り。異種族を狩っては奴隷として売りつけることで生活をしており、ここら辺一帯では比較的有名な山賊に当たる。

 だが、冒険者と名乗った子供はまるで遊びに来ました的な口で言ってくるではないか。


「何が目的だ? 貴様……言葉次第ではただでは帰せんぞ」


「なに、ちょっと捕まっている人の関係者からSOS願いが出たから手伝っているだけですよ」


「何? ……貴様! 異種族に組するか!?」


「う~ん、答えは半分NOですかね。私は依頼で来ているので」


「この逆賊目が……死ねぇ!!!!」


 バーカスの剣が子供の頭上から振り落とされる。だがその剣は子供に届く前になぜかポッキリと折れてしまった。


「なっ!?」


「あーあー……そんな粗悪な武器を使っているからそうなるんですよ。やっぱり賊は賊か。自分で使う剣ぐらい念入りに手入れしたらどうですか?」


 子供が残念そうな顔で統領の顔を見る。


「こん……ガキがあ!!」


 剣は無理だったので今度は素手で殴りかかる。だが


 ゴンッ!


 まるで石にでも殴りつけたような音が響く。次に聞こえてきたのは「いってぇぇっぇ!!」というバーカスの叫び声。子供を殴りにかかったはずの手は真っ赤になっていた。


「ププッ、だせぇ奴、こんな子供すらも殴れないとは」


 子供の馬鹿にする声が辺りに響く。バーカスの顔は見る見る赤くなった。


「生きて帰れると思うなよぉクソガキがぁ!」


 そういうと、今度は何かをつぶやき始めた。


「――――――――《炎槍(フレム・ランス)》!!」


 手にできた炎の槍を子供めがけて思いっきり振り下ろす。行った! バーカスは内心で微笑んでいただろう。この生意気なガキに引導を渡せるとだが―――


「そんな魔法に八節もかかるんかよ……」


 子供が手を出すと炎の槍はまるで最初から無かったかのように消え去ってしまった。

 何が起きたのかさっぱりわからないバーカス。


「俺がお手本を見せてやるよ。冥土の土産にしな」


 そんなバーカスをよそ眼に今度は子供が構える。


「《炎槍》」


 子供の手に一瞬で炎の槍が握られる。その炎はバーカスが出した炎よりもはるかに熱く、そして美しい形をしていた。


「これがゼロ節、通称【無詠唱】だよ。いい土産になったか?」


「なっ、何でお前見たいなガキが無詠唱を!?」


「それはあの世でゆっくりと考えな……それじゃあ、さようならだ」


 その直後、バーカスの視界は真っ赤になり、そしてすぐに真っ暗になった。それにバーカス本人が気づいたのかはもう、誰にも分からない事であるが。




 こうして、辺り一帯の異種族を狩る【軍】はわずか30分という速さで壊滅させられたのであった。

 クロウさんの無双はまだ止まりそうにありませんね。対抗ネタは考えているのですがどこでだそうか悩み中です。


 本日も読んで下さった皆様ありがとうございます。


 ※9/28 以下を修正しました。

  ・囚われていた獣族の人数を40名ほどから2、30名ほどに変更しました。

  ・誤字脱字を修正しました。


 ※アドバイス、感想などありましたら気軽にどうぞ。

 ※誤字脱字などがありましたら報告よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ