第3話:訓練
昔、親が大切にしていた花瓶を割ったことがあります。その時は雷でも落ちたのかというくらい怒っていました。その後、安物ということが判明し逆に怒り返しましたが。
今は反撃も許されない感じです(泣)
数分前―――――
「いったい何をしたんだ!」
アレスの足元には6体の龍族が正座して怒鳴られている。先ほど目覚めて(物理的に)何があったのか問いただしているようだ。話さなかったら殺してやると言わんばかりの勢いに、龍族の面々は正直に俺にやられたことを話しているようだ。
>スキル《ポーカーフェイス》を取得しました。
こんなスキルまであるんかよ……、俺が怒られていたわけじゃないんだが……
レイナがまあまあとなだめる。
「こいつらが言うにはクロウにやられたようだが」
「どうやったらこうなるんだろうな」
俺は《遮断》スキルでほとんどのスキルを隠している。レベルも1にしている。
もうバレてもいい気がするが、もう少し黙っておこうかな。
「まぁいいか、こいつらどうしようか」
「クロウが初めて倒した獲物だからな~」
うぉい! 俺が倒したことになってるのか!? いや事実ですけど、なんでこうなったのか聞かないのか!?
「クロウに聞いてみるとするか、クロウお前はどうしたい?」
アレスが俺の顔を覗いてくる。俺は今さっき取得した《ポーカーフェイス》に助けられながらしらないふりをしておく。
「ふむ、クロウは殺したいと言っているぞ、じゃあそこの崖から落とすか」
マテや脳筋ジジイ、俺そんなこと言っていないのだが、俺はまだ言葉を覚えてないから関係ないだろと思っているのだろうな。
このまま崖から突き落とされるのはちょっと嫌だな。そう思うと龍族のやつらを助けることにした。正直俺を殺しかけたやつなので迷ったが、アレスに説教されているのを見るとなんか可哀そうになってきた。
アレスが崖まで引きずって行こうと後ろを向いた瞬間。俺は《跳躍》と《身体強化》を同時に発動しアレスの背中へとドロップキックを食らわせる。どこかの某サッカーマンガみたいにオーバーヘッドでもよかったのだが、ここは普通に行こう。
俺の素早さに察知しきれなかったのだろう。もろにキックを受けたアレスは2転3転と転がっていく。レイナはその様子を見て驚き、そして笑いを堪えようと必死に口を堅くしめている。
そして、久々に人に向かって声を出す。うん、2年ぶりだな。
「俺の意見を聞いてくださいよ」
ぎょっとしたような目で俺を見る。おいおいそいつらが俺に倒されたと聞いたときはあんまり不思議に感じていなかったのに、ここでそんな顔するか?
「お、おましゃべ」
「あっ、それとも龍族語の方がいいですか?」
さっきから色々と耐えていたレイナも耐えきれずに笑い出す。たぶん驚いているのだろうがそれよりもさっきの俺のドロップキックの方に意識が飛んでいるのだろう。
いや、そこまで笑うほどですか? 返り血がついている服で笑い転げているシーンとかシュールすぎるのですが。
そこからは俺への質問攻めだ。いつから喋れた? 本当にこいつらはお前がやったのか? と先程から聞きたくてしょうがなかったのだろう、次々と聞いてくる。
そして冒頭の俺の嘆きに戻る。
「なるほどな……お前がこいつらを倒せたのはそのおかげだったのか」
ちなみに前世のことは言っていない。なぜか言葉がわかったのと、そのおかげで暇なときは魔法などの本を見ていたということだけ言っておいた。
「そういえば前、1歳ごろにはもう言葉を話せるとかいうやつが私の村にいたな」
1歳で話せる……いや、1週間ほどで立てるなら可能かな。
レイナの援護でとりあえず納得したアレスは俺に改めてどうするかと聞いてきた。
俺としてはもうこのまま逃がしていいような気がするが、アレスに任せたら間違いなく殺すだろうな。
「もう放置していいのでは?」
こういう時は放置プレイに限る。俺としては殺してほしくないので、やっぱり日本人だな俺。
「なに、このまま帰らせろというのか!?」
「もういいでしょう。俺としてはもうどうでもいいんですがね」
チラッと龍族の方を見る。龍族は「ごめんなさい、もう二度としません」と言わんばかりに額を地面にぶつけて謝っている。雷系の魔法はそんなに痛かったのかな?
「こんな状態ですし」
もう見てられませんよ、という顔をしてアレスの方を見る。アレスも龍族をチラッと見て、しばらく考えた後仕方ないなぁ、と呟くと、そのまま縛っていた縄を切り落とし、「さっさと行け」と言いながら、追い出した。
ついでに他の4人も、連れて帰らせた。3体同時に吹き飛んだ奴らは、大丈夫だろうが、最後に昇○拳を食らわせたやつは正直もう戦線に復帰することは不可能だろうな。命までは取らなかったにせよやりすぎたかなと思わざる得なかった。
>スキル「加減」を取得しました。
今頃かよ! それ雷使った時点で欲しかった! かわりに「魔力制御」が手に入ったのか。なんか段々このスキルのことが、よくわからなくなってきたぞ……
こうして俺の初めての実戦は終わった。しばらくは平和かな……
無理でした(泣)
いや、別に襲撃があったわけじゃないですよ? 翌日から、アレスが「特訓するぞ」と言い初めて、外で訓練三昧です(泣)
朝早くに準備運動のかわりに素振り。そのあと魔法訓練。そして午後は実戦。
スパルタすぎる! こんな奴だったのかぁ!
しかし、反面これでレベルアップできるとも思っていた。これまで部屋に籠っていたからな、いい加減動きたいと思っていたんだよな。
レイナは複雑な表情をしていたが、最終的には自己防衛のためだとアレスが言うと納得したようだ。それにしても、龍族って意外とやさしいな。いやレイナが例外なのかな?
いや、やっぱり普通だよ。2歳からこんなことやらせるアレスが例外なんだ!
魔法訓練はアレスの出来るのだけ使い、あとは別のときに練習することにしよう。嫉妬されても困るからな。
実戦はアレスの方が経験があるので最初はマジで負けることが多かった。しかし俺の《理解・吸収》のおかげで1週間ぐらいすれば余裕で勝てるようになった。もっとも何連勝もしたら悪いので普段は手を抜いてわざと負けおき、たまに勝つようにする。
《加減》スキルは便利だな。
3ヵ月もすればこうなっていた
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名前:クロウ・アルエレス
種族:龍人族(龍族・人間)
レベル:31
筋力:2,680
生命:4,250
敏捷:3,610
器用:2,690
魔力:7,300
スキル
・固有スキル:《理解・吸収》《神眼の分析》《龍の眼》
《千里眼:3》《透視:5》
・言語スキル:《大陸語》《龍族語》《妖精語》《兎耳語》
・生活スキル:《倉庫:10》《換装:4》《調理:4》《野営:2》
《魔法道具操作:4》《家事:3》《演算:2》
《商人の心得》《ポーカーフェイス》
・作成スキル:《武器製作:3》《武器整備:4》《防具製作:3》
《防具整備:4》《装飾製作:2》《装飾整備:2》
《錬金術:3》
・戦闘スキル:《身体強化:5》《見切り:6》《気配察知:4》
《回避:3》《状態異常耐性:3》《遮断:5》
《跳躍:4》《心眼:4》《射撃:2》《罠:3》
《加減:6》《斬撃強化:5》
・武器スキル:《片手剣:5》《細剣:3》《刀:5》《大剣:3》
《槍:5》《投擲:2》《斧:2》《弓:3》
《クロウボウ:2》《鈍器:2》《盾:3》《格闘:5》
・魔法スキル:《魔道士の心得》《火魔法:5》《水魔法:1》
《風魔法:3》《土魔法:4》《雷魔法:3》《光魔法:3》
《闇魔法:3》《治癒魔法:3》《音魔法:3》《毒魔法:2》
《付加魔法:4》《詠唱:5》《詠唱短縮:5》《暗記:6》
《魔力操作:6》《瞑想:3》《魔力制御:5》
・特殊スキル:《フォース:1》
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武器などは本を読んで、親が出払っているときに使って身に着けた。なかでも刀は非常にしっくりと来た。日本人だな。……なんでも日本人だからというのはよくないな。
そもそも刀という分類があるのが驚きだ。たぶん曲刀と一緒のカテゴリーなんだろう。
《斬撃強化》は刀を扱っているときに取得した。やっぱり切ることに特化した武器なんだな。もっとも戦国時代ではほとんど役に立たなかったんだけどな。(鎧の防御力に勝てなかったらしい)
あと《錬金術》はアレスが魔法道具を作っているところを見て覚えた。アレスが言うには作れる人は少数の為、重宝されるスキルで王都ではこれで生計を立てていたとのこと。
魔法道具さえ作れば生計が立てれるのか、王都ぐらいはいっぱい職人がいてもおかしくないと思うのだが。
【回復薬】や【魔力薬】というアイテムからスタートするのかなと思ったら、【発火棒】や【ランプ】などの生活アイテムから作成しだした。
【回復薬】などはもっとうまくならないと出来ないらしい。アレスもたまに失敗していた。
もっとも、あんまりたくさん持ち運べないんだけどなとつぶやいていた。
【回復薬】一個の大きさは試験管一本分ぐらいの大きさだ。この量で切り傷を治せるほどの力を持っている。もっと密度の高いものなら内臓の損傷も治せるんだとか。
確かにこの大きさなら戦闘のときは10本程度が限度だろう。即効性では役に立つだろうが長期戦になると厳しいものがある。
もっとも俺は《倉庫》スキルが最高レベルなので無限に入れることができるから問題ないのだが。
それにしてもこのスキルだけ少し謎めいている。魔力を消費するわけでもないのでレイナも使える。さらに入る量もスキルが上がるにつれ増えるようだ。
1・・・1個
2・・・2個
3・・・4個
4・・・8個
・
・
・
・
10・・・容量無限
レベルが1上がるにつれ前の最大容量の2倍の量が入るようになるようだ。
そしてこの数は、物の数ではなく種類とのこと。
つまりスキルレベル1で回復薬1個が上限ということではなく、同じ回復薬なら100個でも1000個でも、持てるそうだ。どんな仕組みだよ。
そう考えるとゲームの世界って結構すごいところあるよな、某ゲームでも回復アイテム1000個ぐらい持って、物理量で押す戦いも多かったし。
もっとも、このスキルを持っている人はほとんどいない。先天的に持っている人(俺)や後天的(アレス、レイナ)を合わせても世界に100人いるかいないかだとか。(もっともこれはわかっているだけで実際は国が重宝するので実際はもっといるはず、とのこと)
レベル10になると容量を気にしないでいいのは大きい。アレスにレベル10ってどれくらいすごいのと聞いてみると。
「……魔法で言うなら国一個を滅ぼせる」
と、どこか遠い目をして言った。おお、恐ろしいことで……。例え取得出来ても加減は間違えないようにしないとな。
「もっとも10などは見たことない、俺もお前の《倉庫》で初めて見た」
そんなに珍しいのか。やっぱり10は神の領域なんだな。
そうなると8ぐらいで、もう上がりにくくなるのかな? 聞いてみるとどうやらそうらしい。何十年も魔道の研究をし続けた人も8が限界とのこと。そいつの実力不足じゃないのかと思ったが、どうやらその人は天才の分類だったようで、その人物を超える人物は400年たった今でもいないとのこと。
うへっ、そんなにすごいのか。
そうなると10はうかつに見せない方がいいな。下手に見られて国に目をつけられるとか嫌だよ。もっともこんなところに、誰も来ないと思うけど。来るやつなんて龍族ぐらいだろうな。
訓練に明け暮れることさらに半年、スキル上昇がなくなってきた頃のこと。
俺がアレスと、実戦をしていたときのことである。
ふと、複合魔法というものはないのかと思っていた。もちろん戦いながら。もうアレスでは、練習にならないと言うが正直な感想だ。2歳児に負けるって……
あまりに力の差があるので、最近はいろいろ考えながら戦っている。そのときに、ふと思ったのである。
試してみるとするか。
俺はバックステップで距離を取る。そして得意な火を基盤に風を混ぜ込んでみる。
イメージは火と風が螺旋状で互いに混ざることなく進んでいく様子。
手の平に魔力を収束させ、そして―――
「―――《炎風拳》!!」
平手を出し火と風が混ざった魔法が飛び出す。本来は空気抵抗や魔力の分散によりその威力は距離に比例して落ちていく。
だが、《魔力制御》によりその威力はほとんど減衰することなく前に進む。さらに風が空気を取り込み火の威力は距離が進むにつれ威力を上げていく。空気抵抗同様で自然の法則の影響だろう。
さらに回転にも手を入れた。直線に進むのではなくドリル状に突き進んでいく、そうジャイロ回転だ。すさまじい回転数により風は空気を取り込み、火は増々、威力を上げていく。
こうするにはかなり魔力制御をしなければならないが、その辺は俺の努力の賜物と言わせてもらおう。
こうやってアレスの横をすり抜けて行った魔法は、凄まじい轟音と共に、熱風を巻き起こし森を貫通し消えて行った。
あとに残ったのはきれいに開いた穴と、わずかに火に触れ変色した、燃えていない木々だけだった。
>スキル《複合魔法》を取得しました。
「……」
やべぇ……これかなりの威力があるんじゃないか?
スキルも気になるけど、これも気になる。
一応加減はしておいたから死ななかっただろうが、もしアレスに当たっていたらかなりの重症だったんじゃないか?
いや、魔力を持ってるからある程度は軽減されるか。
じゃあレイナだったら即死かもな……
「お、お前どうやってやったんだ!?」
アレスが俺の両腕をつかんで先ほどの魔法をどうやったのかと聞いてくる。目がキラキラしてる。ああこの人完全に戦闘狂だ。どこかの戦闘民族じゃないけその分類だ。俺ならあの魔法を訓練でぶっ放されたら怒ってる。
「ど、どうやったって、火と風を合わせたんですよ。火を基盤にして風を加えたら火を加速させつつ風による斬撃攻撃が加わるので使えるかな……と」
「か、風魔法だと? お前使えるのか? 土魔法を覚えているじゃないか」
「えっ……」
あっ、これもしかして……
「ふつう火と水、風と土、光と闇は一人が同時に覚えることができないんだ! ましてや魔法を合わせる!? そんなの普通に不可能だ!!」
やべぇ、マジかよ。ゲームとかでその手の設定をやっているところはあるけど、ここはそのパターンだったか。
「お、教えてくれどうやったらできるんだ!」
この人は……自然の法則を無視する存在よりも、自分が強くなりたいんだな。最近俺に負けるたびに夜まで特訓してはレイナに沈められていく、というシーンをちょくちょく見る。
「いやどうやってって……普通にトレーニングしてたら使えたのでどうやるかは……」
覚えたのはスキルのおかげですし。
「お前、今、土使えるよな?」
「できますよ」
そういうと目の前に簡単な壁を作る。
アレスは何も言わなかった。ただ目の前に自分のできないこと(戦闘系で)をやっている息子になんとも言えない複雑な気持ちなのだろう。
しかも3歳です。この間3歳になりました。
「……よし、ならば……」
……なんだか嫌な予感がするのは俺だけでしょうか
「そのお前にかああぁぁぁぁぁぁつ!!!!!」
そういうと襲い掛かってきた。と言っても気配察知で予感はしてたので回避するのですが。《見切り:7》を習得しているから、余裕で回避できます。
「いや、勘弁してくださいよ」
「勘弁してくださいとはなんだ! いくz―――ぐふっ!」
アレスの戦闘狂は、横腹に謎の拳が入ることで終焉した。薄青色の皮膚に頭に生える2本の角。凛とした顔つき。そしてやや小柄な体格に、ひときわ目立つ、2つのメロン……そちらにはあんまり視線を移さないようにしておこう。
「あんた自分の息子に、なにやっているんだい!」
「お前ならわかるだろ! こいつがやっているk―――ごはぁ!」
力説しようとするがすべて拳で沈められる。レベル差で筋力はアレスの方が高いんだけどな。やっぱり種族別の見えない補正とかあるのかな。いや身体強化も入れてるのか?
「ほら、もう終わりな。勝負は決まったんだろ?」
あっ、さっきの見てたのかな……いや、たぶんあれ(炎風拳を撃った跡)見てから言ったんだろうな。
「やめろ! 俺はこいつに勝って……ぐわあぁぁぁぁぁぁ」
ズリズリズリ~と引っ張られ家に押し込まれるアレス。くそぉー! という声が聞こえるがその後、鈍い音が聞こえたかと思うと、急に静かになった。
その後、家から出てくるレイナ。いやほんとありがとうございます。……でも待ってください。その手に持っている槍ハナンデスカ? ソレ イツモ ツカッテル モノ デスヨネ?
「さて……急で悪いんだが私にも見せて欲しいわね」
ああ、だめだこの一家……
「私も龍族の一人、凄い技とかに興味があるのよ」
そう言いながら槍を構える。
「いや、見せるので、や、槍おろし―――」
「行くぞ!」
うっそぉぉぉぉおおおん!!!!
※以下の部分を改変しました。
・スキル《商人》を《商人の心得》に変えました。
※10/24 加筆修正をしました。(大幅修正)
※11/3 誤字を一部修正しました。
===2017年===
10/29:誤字を修正しました。