第29話:獣族の女の子
※11/29 誤字を修正しました。
「ここか……」
エルシオンの東部にあるとある廃墟。今は使われていない旧宿屋らしい。もともと東部側の隅っこは住宅街が多いので冒険者などが泊まりに来ることは殆どないらしい。
まあ、俺からしてみれば周りが住宅だらけってわかっている状況でここに店を構えたのか全くわからないがな。
普通に商売をやるなら商業地区の端にでも構えた方がまだ経営出来ると思うのだが……
「ねぇ、この辺で待ち合わせってかなりやばい依頼じゃないの?」
エリラが俺の後ろをチョコチョコと着いて来る。おかしい本来の立場なら逆なのだが
(※俺は傍から見れば6歳。エリラは15歳)
エリラは幽霊とかそういった類が苦手らしい(ソラから聞いた)Bクラスモンスターと戦ってもあんまりビビらないのにこういうのは苦手なんだな。
たぶん【変な依頼だから逃げよう=ココ怖い】
という頭になってるんだろうなぁ。
「まあ、ギルド員も見てるし大丈夫だろう」
あんな落書きみたいな依頼を真面目に読み解こうとしたのか謎だが。まあ普段殆ど見ないであろう獣族語に加え飛んでもない下手さだもんな。
解析してみたら元の字と全然違うもん。
「それに危なくなったら逃げればいいだけだ」
「そうだけどさぁ」
「心配するなって、こんな街中で派手に暴れる奴なんかそうそういねぇって」
俺はそういうと中に入っていく、中はおんぼろ屋敷という言葉がピッタリ合いそうなぐらいの廃れようだ。なんかこういう建物をマジのお化け屋敷にしたら面白そうだなと思ったり。
一歩歩くたびにギシッと言う音が響きそのたびにエリラが俺に飛びついてきそうで怖い。ステータス的には問題ないけど絵柄的にあれだからやるんじゃねぇぞ……。
そして一番奥の扉まで来た。確かココって書いていたよなと言っても解析画面では「ひがしのふるい、いえのおく」としか出てなかったけどな。東側で誰も使ってない家はココしかないらしいんだが……ここは住宅街の井戸端情報を信じるしかない。
(後になって思ったが千里眼とか透視とか探索使えば楽だったんだよな)
恐る恐る扉を開ける。灯りなどは付いて無いが壊れた天井から太陽の光が降り注いでおり中は比較的明るかった。……某ゲームを思い出すな、こうやって光に当たったら変身が解けてボス戦とかよくあったな。
部屋を見渡すと隅でモゾモゾと動いている。大きさは俺と同じくらい。フードを被っている用で顔は見えない。というか光が無かったら巨大な黒光りした台所に現れる生き物見たいに見えるぞ。
そしてエリラ頼むから座り込んで俺にしがみ付こうとするな。危ないだろ。
やがて、俺の姿をハッキリと確認したのかフードを被った生き物が俺らの方に近づいてくる。透視とかで中を見てもいいのだが、殺気や戦意などを感じないのであえて使わないようにしている。ネタバレはダメだよね。
「ぼうけんしゃのひとですか?」
片言に近い言葉が俺の耳に届く。間違いないこれは《獣族語》だ。正直《神眼の分析》が無かったら全くわからなかっただろうな。
証拠にエリラには通じていないみたいだ。どうやらこの雰囲気に合わせて聞いたこともない言葉を発したことで完全に場に飲まれているな。
「そうです……獣族さん」
俺の言葉にフードがビクッとなる。おいおい気づかれてないとでも思ったのかよ。完全に文字でバレルだろ。
そして今度は逃げようとしたので、とりあえずフードを掴まえとくか。アタフタとするあたりが子供って感じだな。
「別に襲ったりしませんって、依頼の内容を聞きに来たのですよ」
その言葉にアタフタとしていた動きが止まる。
「ほんとうですか?」
「ええ、もちろん」
しばらくの間静寂が流れる。エリラもさっきの出来事で我に戻ったようだな。
「……」
そして獣族の子がフードを外すして
「おねがいです! お姉ちゃんをたすけて下さい!!」
外すと同時に頭を下げて来たのだった。
俺の目の前には猫耳? だろうか、コスプレとかしている人がいかにもつけているような耳が付けた女の子の姿が写っていた。
「そ、その耳……まさか」
あっ、やべ説明してなかった。背後から急に現れた殺気の源を俺は肘打ちで撃沈させておく。異種族が出会うと喧嘩が起きるっていうぐらいこの世界では種族間での隔たりが大きかったんだな。
「少し黙ってろ、ビクついているじゃねぇかよ」
頭にマンガ風のたんこぶを作ったエリラが悶絶しながら「了解」の合図だけだした。つーか了解の合図をよく出せたな瞬間的にスキルだけ発動することに重点を置いたから威力は結構あったと思うんだけどな……。もちろんエリラに対してもだが、建物の床も褒めたい。だって床が抜けてないもん。
「……何があったのか聞きたいから教えてくれますか?」
俺は視線を猫耳風の獣族の子供に戻した。いや、あの後ろに引かないでなんか悲しくなっちゃう。
「……あなたはわたしを何とも思わないのですか?」
「なーんにも」
「……おかあさんは人はわたしたちを見つけしだいおそいかかるって言ってた」
どんな教育だよ。俺は人狼じゃねぇんだぞ。
「他の人は分かりませんけどね。すくなくとも私はそんなことをしませんよ」
てか、襲い掛かられるのを覚悟の上で依頼を出したのか? ……いやさっきの様子を見るにフードで隠しておけば大丈夫だと思ったんだろうな。
「ふしぎなひとです」
「よく言われます」
不思議と言うか歩く爆弾と言うか。とにかく危険な方でだがな。
「さて、お姉ちゃんがどうしたのですか?」
話を思いだしたのだろう、多少目が潤んでいるように見える。
「このまえ、わたしたちのむらにこわい人がやってきてお姉ちゃんがさらわれておうちもきえて……お、おかあさんも……にげて、ぐずっ……このまちに来て、ひっぐ……」
お、おいな、泣くなよ……いや泣くなと言う方が無理か。お母さんの後に何か聞きたくない単語が聞こえたような気がするが聞かなかったことにしておこう。少なくとも今は……な。
「わかった。ここまでよく頑張ったな……後は任せな」
今の俺に出来る事なんかこれくらいしか無いな。獣族の女の子が俺に抱き着いて泣き崩れる。我慢し続けていたのだろうな。俺がよしよしと頭を撫でてあげる。
あとエリラ……視線が痛いぞ。こうするしかないでしょうが……
「お姉ちゃんが連れ去られた場所は分かる?」
女の子は泣くのをやめて「はい!」と元気に返事をした。まだ鼻水垂れているぞ。
「ついてきて下さい!」
女の子は部屋の穴へと向かっていく。お、おいこれどこに通じているんだ? と思い千里眼と透視を使ってみてみるとどうやら下水道見たいなところに繋がっているようだ。なるほどなここから入れば確かに町に入ってもバレないよな……これ戦争の時に使われたらアウトじゃね?
って今はそんなことはどうでもいいか。俺は女の子の姿を見逃さないように視線だけは固定しておき
「エリラ、彼女に一切手を出すことを禁止する。これは《命令》だ」
久しぶりの強権発動にエリラも驚いている。
「な、何で!? あれは獣族よ!!」
「だからなんだ? 襲うのか? 過去にどんなことがあり、どんな教えられ方をされたか知らないけど、すべての種族をそう見ることは間違いだと思うよ」
「で、でも……」
「ほら、文句なら帰ったらいくらでも聞くから! 今は俺に任せてくれ! それとも家に帰る? 今なら絶賛昼の肝試し大会が出来るぞ」
エリラはこれまで通った屋敷の様子を思い出したのか「い、いひゃです!」と舌を巻いてしまいながらも立ち上がってビシッと敬礼をする。
「さっ、行くぞ」
俺はエリラの手を取ると、引っ張るようにして穴の中に飛び込んだのだった。
「くさ……」
さすが整備されていない下水道。10分いただけでもリバースしちゃいそう。よくこの子はこんな所を通れたな。
「そういえば、君名前は?」
走りながら話しかけたので息持つのかなと思っていたが意外と平気な顔で答えてくれた。
「フェイっていいます」
「そうか、俺の名前はクロウ。でこの後ろにいる子がエリラっていうんだ」
下水道内での会話はこれ以外にほとんどない。途中で俺が一度リバースしかけたのでちょっと止まってと言ったとき以外は、ちなみにその時に《悪臭耐性》が付いたけど、レベル1程度ではほとんど効果無しって感じだった。戻しそうな感覚は消えたから助かったけど。
やがて下水道を抜けてしばらく森の中を進みやがて火山地帯の近くまで来た。そういえば前に《炎狼》を討伐したとき以来だなここ。
もっともそんな危険地帯にアジトなど作れないので、必然的に森の近くになるんだけどな。
やがて、フェイの足が止まる。目の前に見えたのは木々の中でぽっかりと空いた大穴だった。おいおい普通洞窟にアジトを作るのが盗賊とかじゃないのか……ってこれは俺の固定概念だな。でも洞窟の方が作る手間が省けそうなんだけどな。もしかしてこの下って空洞なのか?
「お姉ちゃんたちはこの中につれて行かれたのを見ました」
俺はフェイの言葉に耳を傾けながら、穴の下を覗きこむ。内部は暗く下までは見えなかった。つかここ本当にアジト? 穴の付近に見張りがいない時点でアウトな気がするんだが。
もっともマジでアジトみたいなんだよな、透視で見てみるとわかるだけでも50名ほど武装した山賊どもがいて、別の一室には鎖を繋がれた獣族たちが多く見えたのだ、しかもほとんどが子供や女性たちだ。どうやらどの世界でも盗賊事情は変わらないようで少し安心した。
「なるほどな。じゃいっちょやってくるか、つーわけで待っといて」
ちょっとコンビニ行ってくる風に穴に飛び込もうとしたところをエリラが全力で止めに入る。
「何言ってるの!? ここが本拠地なら敵が沢山いるわよ! 死ぬ気!?」
「大丈夫だって負ける予定無いし」
「そういう問題じゃない! いくらクロでも多勢に無勢すぎるわよ!」
「おいおい、負ける訳ないだろ、アリと人間が戦って人間負けるか? それと一緒だよ」
しっかり罠が無いことは確認しましたし。敵のレベルも大方わかりましたし。
「だぁあ! もうっ! だったら私も行くわよ!」
乗り気じゃ無かった様なのに気合い入っているな。ちょいと怖いぞ。
「フェイ、お前も来い! じゃないと誰がお姉ちゃんかわからねぇぞ!」
「は、はいです!」
まあ全員連れて帰ればいいだけの問題なんですけどね、エリラも行くとか言ったらフェイが取り残されてしまうだろう。止める気も無いしな、無理やり連れてきているからな。
で、エリラ。お前飛び降りるつもりか? 結構な深さ……あっ行っちゃった。
「……まっ、いいか。行くぞしっかり捕まっておけよ!」
俺はフェイを背中におんぶすると深い穴の底に飛び込んでいったのだった。
山賊のアジトの入口が穴って……自分で考えて書いてみたもののおかしいよな(笑)と考えていました。
補足しておくと一応、入口は普段は隠れているのですが、おそらくアホが閉じ忘れたのでしょう。
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