第256話:アルゼリカ理事長に休日を(4)
お久しぶりです。生きています。
前回までのあらすじ。アルゼリカ理事長が自身の天然回路によって自爆した。
「えっと……その……す、すいません! 勝手な妄想してお風呂に沈んでしまってすいません! あと、今回のことは忘れてください!」
アルゼリカ理事長がお風呂で自滅してからおよそ10分後。ようやく事情を察したアルゼリカ理事長が真っ先に言った言葉は謝罪だった。
実際勝手な方向に妄想で思考回路がフライハイしたのはアルゼリカ理事長なのだが、俺も俺で誤解するような言い方もまずかっただろう。以前アルゼリカ理事長に自分の意見を言った際、サヤが「女たらし」と言ったがあの時は何のことかさっぱりであったが、今になって何となくだが分かった気がする。例え自分にその気が無くても相手の受け取り方、その時の感情、考え方によってその意味は大きく変わるのだ。いや、知らなかった訳じゃない。ただ前世でも、他人と仕事以外でのコミュニケーションを取ることが少なかった為にその辺りの考えが疎くなっていたのだ。……言い訳はここまでにしておこう。これ以上は何を言っても悪化する未来しか見えない。
「い、いえ気にしないで下さい。それよりも体調は大丈夫ですか?」
「は、はい。何とも……いえ、入る前よりも体が軽く感じます。これがあのお湯の効果ですか?」
いや、物の数分でそこまでの効力は無いはずなのだが……いや、短時間で効果が表れるほど疲れていたのだろう。
「ま、まあそんなところです。え、えっとどうしますか……もう少し長く浸かればもっと効果が得られますが……」
やましい事は一切考えてないぞ。本当だぞ?
「もっと……長く……」
アルゼリカ理事長はお風呂場をチラッと見たのち何を思ったのか再び顔を真っ赤にして「はわぁぁぁぁぁぁぁぁ」と何とも言えない腑抜けた声を上げ地面をゴロゴロ、体を前後左右に振り回していた。
やばい、可愛い。今の自分より年上だけど可愛い。語彙喪失と言われても兎に角言いたい。「可愛い」と。
ゴンッ!!
「……ゴン?」
俺がアルゼリカ理事長可愛いモードに入っていたとき。急に鈍い音が聞こえ我に返った。見る、とそこには付近の壁に頭を打ち気絶してしまったアルゼリカ理事長の姿があったのだった。
「……アルゼリカ理事長ぉぉぉぉぉ!?」
*
時刻は夕暮れ。民の一日がようやく終わりを迎えた頃、俺の家では家族全員で食事をとり始める時間になる。今日はいつもの皆に加えてアルゼリカ理事長がいるのだが……。
「……アルゼリカ理事長?」
「うぅっ……もう何も言わないで下さい」
テーブルに顔を伏せ決して上げようとしないアルゼリカ理事長。
「……クロ、一体何があったの?」
「黒歴史……かな」
「?」
「ま、まあ、そこは気にしないでいいだろ。悪いけど皆は先に食べていてくれ」
「はいなのです! みんな手を合わせるのです!」
フェイが皆に元気よく声をかけ全員の「いただきます」で食事は始まった。で、俺はというといい加減轟沈したアルゼリカ理事長をサルベージしようとしているのだが……。
「いい加減、顔を上げたらどうですか? 俺以外見ていないから気にする必要ありませんよ?」
「……クロウ君に見られた時点で気にします……」
「た、他言無用にしますからね?ね?」
「いやです」
「……寝てましぇ―――」
「あぁぁぁぁぁぁぁ分かりました! 分かりましたからこれ以上言わないで―――(ガターン)はわー!?」
「何やっているのですか!?」
……とまあ、こんな感じになかなか復帰せず、魔法学園での黒歴史を再度掘り起こしてみた所、顔こそ上げたのだが、今度は顔を上げた勢いそのままに椅子ごと倒れるという墓穴に墓穴を掘りまくっているアルゼリカ理事長であった。
当然、この場にはエリラ以外にもフェイやニャミィ、テリュールなど家族全員がいる(いつか奴隷商人を潰しまわった際に保護した人達は別部屋にて食事をとっている)ので、その光景もすべて筒抜けである。
「おねーちゃんぎょーぎ悪いのです」
「ちょっ、フェイ今言うのはやめて起きなさい!」
「うう……私なんて……私なんて……」
まさかまさかの6歳児にマナーについて言われるとは……獣族に言われたこともかなりのダメージとなったのか地べたで完全にいじけてしまったアルゼリカ理事長を見ていると、ドジというか哀れというか……とにかく、いたたまれない気持ちになってしまう。
感覚が麻痺してしまいそうであるが、この世界の人間の生活の中で獣族と人間が同じテーブルで仲良く食事をとるなどまずありえない。獣族にそこまで抵抗が無いサヤやセレナでも引くかもしれない。この世界で初めて獣族を見たテリュールは問題無かったが、初期のころはエリラもかなり引いていたから、エリラの反応がこの世界での一般常識なのだろう。
「あ、あのぉ……クロウ様……私たちは席を外したほうが……」
アルゼリカ理事長の様子を見ていたニャミィが俺にこそっと耳打ちをした。確か……。これ以上アルゼリカ理事長の威厳が落ちる前に皆には離れてもらうべきか……なお、既に地に落ちているというツッコミは無しで。
「そうだな……早めに食事を済ませて席aを外してもらおうか」
「か、かしこまりました」
俺はニャミィにそう伝え、ニャミィは他の皆へと《情報共有》を使いこっそりと伝えた。
「さて……アルゼリカ理事長」
「は、はい!」
「ちょっとお話をしましょう(笑顔)」
「えっ、それはどういう意味―――」
「というわけで屋上に行きましょう」
「わ、私の拒否権は―――」
「ありません」
「そ、それはちょっと酷く無いですか―――(ズルズルズルズル)」
困惑するアルゼリカ理事長を無視して俺は無理やり彼女を屋上へと引っ張って行くのであった。
アルゼリカ理事長の黒歴史にまた1ページ……!
ご心配をおかけしました。
リアルの仕事が忙しくて中々小説にまで時間が取れませんでした。お盆休みの間に1本上げられて正直ほっとしています。
まだ忙しい日々が続きますので、安定投稿は難しいかもしれませんが、今回ほど期間は開けないように気を付けます。




