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第264話:アルゼリカ理事長に休日を(2)

 新年あけましておめでとうございます。

 今年も黒羽と異世界転生戦記をよろしくお願いします。

 お風呂。それはこの世界では貴族や地位の高い人しか縁のないものだった。

 まず、水そのものをどこからか引っ張ってこないといけない。現代でこそ、水道水や地下水をポンプで動かすことで標高が高い地域や何階建てものビルのどの階にも水を送ることが出来るが、この世界にはそんな設備がある場所ごく一地域のみであり、大半が一ヶ所に貯めた水(井戸)からバケツで水を掬い運ぶことでしか自宅に水を送ることが出来ないのだ。

貴族の家では水を運ぶ専用の人間や水を生成する専用の人間がいるほどである。手押しポンプなど便利なアイテムなど存在するはずもない。

 当然、生活をする上ではそれ以外にもやることは沢山あり、そればかりに労力を割く訳にはいかない。すると自然と水を大切に扱うことになり風呂という水を大量に使う行為は消滅する以外なかったのだ。

 そう、クロウがエルシオンの領主になるまでは―――。



==========

「……」


 こんにちは。アルゼリカです。私は、クロウに連れられてエルシオンのクロウ宅にお邪魔させてもらっています。

 そして、私は今「だいよくじょう」という場所に来ています。ここには巨大な箱に水が入っており、常時熱いお湯が注がれています。そのため巨大な箱からは常に水が溢れており物凄く勿体ない気がするのです。


「……お風呂……?」


 違う。これは私が体験したお風呂ではありません。私が体験したお風呂はもっと小さい湯船の中に半分ほどお湯がある状態でした。こんな水が勿体ない使い方などしません。


「……これどうやって止めるのですか!?」


 き、貴重な水が……! エルシオンは近くに川がありそこから水を引いているので、私が想像しているほど水は貴重ではないのかもしれませんが、これは水ではありません。お湯です! お湯ということは誰かが火を使って水を温めているはず……。こんな膨大なお湯を用意するとなれば何人もの人たちが大量の薪を使い常時お湯を作り続けなければならないはず……!

 私は慌ててだいよくじょうを飛び出し、外で待機しているクロウ君を呼びに行きました。


「く、クロウ君! お湯が出っぱなしですよ!?」


 だいよくじょうの隣の部屋には服を脱ぐ更衣室があります。クロウ君にはそこで待機をしてもらっているのです。

最初は「いや、男の俺が更衣室にいるのはまずいでしょ……」とクロウ君は更衣室で待機することを拒否しましたが、私からしてみれば見知らぬ場所に一人で取り残される不安があり、結局無理を言ってクロウ君に居てもらうことにしました。ちなみに、この時は忘れていましたが今現在の私は裸です。すっぽんぽんです。だいよくじょうに入る際に持って入れたはずのタオルは気付けばだいよくじょうに放置していました。一体私は何をやっているのでしょうか。


「……それは問題ないですよ」


 更衣室にある机の上でうつ伏せになっているクロウ君は一言そういいました。私が脱いでいるということもあり、クロウ君は考慮したのでしょう。


「も、問題ないのですか!? どうみても大問題にしか見えないのですが!?」


 混乱する私にクロウ君は(うつ伏せのまま)答えました。


「あの水は俺が作った、空気中の魔力から出来た水なので実質無限です。そして、水を温めているのも同じく空気中の魔力から作った火で温めているので燃料どころか誰の手も使っていませんよ」


「えっと……つまりどういう意味……? 空気中の魔力をそのまま魔法に使用しているということ? そ、そんな事が出来るとか聞いたことが―――」


「まあ、ないでしょうね。俺も一から考えて作りましたから」


「つ、つ、作った……!?」


「まあ、深いことは考えずに気楽に入ってください。考えるほど無駄だと思いますよ」


「そ、そうですか……で、では…………」


 私が改めてだいよくじょうに戻ろうとした瞬間、私は気づいてしまいました。

 それは、私は今裸で体を隠す物を何一つ持っていないことに。

 つまり、裸の状態でクロウ君に話しかけていたのです。


「あっ、あっ、あっ……!」


 冷静に考えればクロウ君は、このことを予期してか始めから机にうつ伏して私を見ないようにしていたのでしょう。私と話している途中もずっとうつ伏せ状態で話していたので私の体は見られているはずもありません。

 こういう時、一度深呼吸でもして落ち着けば分かることでしょうが私の頭の中では


(見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた)


 と、完全に見られたものと考えてしまっていました。


「……? アルゼリカ理事長。どうしたのですか?」


 私の足音が止んだことに気付いたのかクロウ君が(うつ伏せのまま)声をかけてくれました。普通、この時は「大丈夫です」と一声かければ問題ないでしょう。しかし、混乱のためか思考がおかしな方向に向かい始めていた私は。


「わ、私の裸なんて見ても面白くないでしょ!!!!」


 と叫んでしまいました。反響する私の声は、まるでやまびこのように繰り返し聞こえてくるようでした。

 静まる私とクロウ君。部屋にはだいよくじょうから聞こえてくる水の流れる音しか聞こえませんでした。


「……何を言っているのですか?」


 そんな中、クロウ君は冷静に返答をしてきました。その言葉に我に返る私。それと同時にとてつもない恥ずかしさに見舞われました。


「いや、その、これは、あの……ち、違うの!」


 未だ回り切れない頭を回転させ必死に言い訳を考えますが、考えれば考えるほど自分の言ってしまった言葉が羞恥心となって頭の中へと帰って来てしまいます。

 どうしよう! どうしよう! 絶対変な人って思われた! もうお嫁にいけない! 魔法学園で寝ぼけているところを見られたことや、この家に着いた時の出来事もあってか私の思考はこの時をもって完全にダウン。もはや訳が分からずに暴走を開始しました。


「……」


「……? アルゼリカ理事長―――」

「し、死んでやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!! こんな行き遅れた女なんてきっと誰も拾ってくれないんだからあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 自分で言うのもなんですが、何を言っているのでしょうか? 頭おかしいのでしょうか?

 もう自分が嫌だ。いっそそこのお湯の中で死んでやる! 咄嗟にそう思った私はだいよくじょうへと全力でダッシュしました。


「アルゼリカ理事長!?」


「ごめんなさいクロウ君! 私にはこんな恥ずかしい思いをして今後生きる自信がありませんので死にます! あなたと出会えてよかったです!」


「ちょっ、何を言っているのですか!? す、ストップ! ストップ!」


 巨大な湯船へと飛び込もうとした私を、間一髪でクロウ君の魔法が追いつき私は湯船ではなく、その上に張られた土へと落ちました。咄嗟に作った土だったのか、体中に土が付きましたが、この時の私はこんなことでは止まりませんでした。まだ湯船の水が見える場所があると、そこに飛びつくかのように向かいます。


「止めないで下さい!」


「いや、普通に止めますよ! というか冷静になってください!」


「こんな行き遅れた女性を止めないで下さい!」


「言葉を変えてもダメです! 否が応でも止めます! あと、理事長は行き遅れていません!」


 流石にこの時ばかりはクロウ君も、私のことを思いっきり見ながら止めに入りました。湯船に飛び込もうとする私の腕をクロウ君は掴むと私は、その後一ミリも前へ進むことは出来ませんでした。当然です。クロウ君と私ではステータスに差がありすぎるのでしょう。


「とにかく落ち着いて下さい! 聞いたのは俺だけですから安心してください! 俺は誰にも言いませんから!」


「クロウ君は良いよね! エリラちゃんとラブラブ出来て!」


「それ今関係ありますか!?」


「私なんて……私なんて……二十数年間彼氏なんか出来た事無いのに……羨ましすぎます! そりゃあエリラちゃんみたいなピチピチな体を見慣れているクロウ君にとっては私の少し弛んできた体なんて面白くないですよね!? だから女性が裸でも冷静にいられるのですよね!?」


「いや、アルゼリカ理事長別に弛んでないし、魅力的じゃないですか―――」

「だったら今すぐここで私と一戦しなさい! それを証明して見せなさい!」


「何を言っているのですか!?」Σ( ̄ロ ̄lll)


「ほら早くズボンを脱いで! いつもエリラちゃんにいれている物を私にいれなさ―――」

「冷静になれやぁぁ!!!」


 気付けば足元となっていた土が無くなり、私とクロウ君は宙に浮いている状態となっていました。しかし、それもごく僅か。刹那ののち私とクロウ君は湯船へと盛大に落ちていました。

 プハァとお湯から顔を上げる私。お湯の中に落ちてから時間はそれほど経っていませんでしたが、このわずかな時間は私の思考回路を再起動させるには十分な時間でした。

 私の後に続いてクロウ君も水面上へと顔を出しました。彼が着ている服は完全に水分を吸いきっており、水が滴り落ちていました。


「……」


「……」


「……ごめんなさい」


 その時の彼の様子を見た私が言えたのはこの一言のみでした。


 この人……残念魔王と同じ匂いがする!


==========

 既に活動報告を見ている方は知っていると思われますが、異世界転生戦記のSS専用小説「【異世界転生戦記】~SSを書いて行く~を公開しています。

 今後、SSを上げる際はここに上げると思いますので、よろしくお願いします。

==========

 いつも感想、誤字脱字報告をして下さる方々本当にありがとうございます。

 感想などはいつでもお待ちしていますので、ご気軽に記入してください。

==========

 2018年もよろしくお願いしますm(_ _)m

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