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第257話:日課

魔族領。正式名称は『魔族連合国』。一見すると魔王が国を治める帝国と思われがちだが、もともと魔族は種族ごとに独立して生活をしていたが、人間との戦争が頻発するにつれ、次第に互いに手を組みあうようになり初代魔王が、全魔族で形成する魔族の国を建国したのが始まりである。

 その証拠に、現在の魔王は先代魔王とその幹部らによって決定されるが、その幹部らが種族の代表となっている。代表と言っても全ての種族の代表がいる訳ではなく、魔族の中でも力の強い種族の代表で幹部は構成されている。

 その力の強い種族はさらに自らが直接指揮する弱い勢力をいくつか従えており、それらが集まって一つの国を形成しているので「連合国」なのである。なので、先代魔王と幹部によって決定される次期魔王は直接的な勢力を持っていないということになる。

 では、魔王は飾り? という訳でもない。魔王になるための絶対条件の一つは飛び抜けた魔力を保有していることである。現魔王(クロウに泣き付いた魔王のこと)の魔力は特に優秀な部類に入り、あの黒龍とも互角に戦える力を有している。魔力保有量が多いということはそれだけ強力な魔法を使える素質を持っていると言うことにも繋がる(あくまで素質。実際の魔法は魔法式によって作成された魔法や創造による魔法の能力に左右される)

 魔族の世界は実力主義である。逆を言えば弱い者は絶対服従の世界なのである。さらに言うと魔族の実力は一個人の能力主義である。どんなに弱い者が集まって強い個人を倒そうが、それは虚無の力と揶揄され決して認められることはない。

 なので、強い魔王ということは、それだけで周りを従えることが出来るのだ。魔王の固有スキル《魔王の支配》は、その個人主義の魔族の世界をよく表したスキルと言えるだろう。


 さて、そんな魔族が何故、連合国という形をとってまで国を形成しているのか? 言わずもがな、それは人間をはじめとする異種族の存在があるからだ。

 個人主義の種族は他の種族から良い目で見られることは少ない。その価値観の違いから数多くの争いが生まれてきた事実がある。

 魔族とは正式に言うと「いくつかの強大な種族から排他的に扱われた種族の総称」という意味で彼ら自身にもゴブリンやコボルトのように個別の種族名は持っている。

 では、人間やその他の種族は全て1種族の名称かと聞かれると、我々の世界にも同じ人間でも欧米人やアジア人といった名称があるのと同じで人間という名称は総称にあたる。

 なぜこんなことになっているのかという話をすると、クロウが今いる世界の『生まれ』にまで話を遡らなければならないので、ここでは割愛させて頂く。


 話を戻させてもらうが、最初こそ個人的能力が高い魔族は単独でも生存が可能であったが、次第に人間が国を作ったように、各小さな種族が大きな一つの国を形成しだすと、その数と集団戦法を前に次々と滅亡した。

 そして、魔族は気付いた。いくら一人が優れていようとも、何千、何万もの大軍の前には無力であることを。だが、今更敵対した者に謝ることや、許しを請うことなど、彼らのプライドが許さなかった。

 次第に彼らの生活圏は東の小さな地域に追いやられることとなり、そこで同じ境遇の者たちと出会うことになった。それは初めて同じ思想を持った種族同士の出会いとなった。

 彼らは自分たちを追いやった種族に復讐をすることを目標に団結をした。それが今日まで続く魔族連合国の始まりである。

 そんな理由があるが故に魔族は他のどの種族とも仲が非常に悪い。中でも全世界に勢力圏を持つ人間とは特に仲が悪かった。自分たちの勢力圏の外にでたら無関心になる他の種族と違い、絶えず外へ外へと勢力を広げる人間とは衝突を繰り返していたからだ。


 そんな犬猿の仲の魔族のトップである魔王が一人の人間に助けを求めるなど、一体だれが想像できるであろうか。




==========

「―――という訳で、魔王(笑)と話してきたわ」


「……」


 魔王の元から帰ったその日の夜遅く。いつも通りハッスルしてきた後にこっそりとベッドを抜け自宅の屋根で、俺はセラにこの日の出来事を報告していた。

 話を聞き終わるまでセラは完全に硬直していた。まあ、無理もない話だろう。俺でも未だに信じられねぇと言いたくなるほどだからな。


「……えっと……結局、その魔王はどうするつもりなのですか?」


「う~ん……可能なら連れ出すことぐらいはしてあげようかなって……まあ、エリラや他の子たちが納得すればの話だけど」


「と言うことは近々皆さんにも?」


「そうだな……話だけでもしないとな。隠していても仕方がないし、彼女たちの同意が無ければ魔王を連れ出しても、結局彼女が路頭に迷うことになってしまう。それは助けた俺としてはいい感じはしないしな」


 俺の言葉を聞いていたセラは、すっと目を瞑ると少し考え事を始めたのか黙ってしまった。しかし……セラさんやっぱり綺麗だな。いや、これ以外に本当に言葉が見つからないよ。

 月夜に照らされた彼女の肌は月が太陽の光を反射して輝いているのと同じように、月の光を受け輝いているように見えた。眼福です。大人の美しさってこういうことをいうのだろうか?


「……私は構いませんが、彼女たちが許すでしょうか?」


「……やっぱり反対するかな。やっぱ魔族でしかも魔王を引き入れるとかいい気がしないよなぁ」


「いえ、この場合魔族を引き入れることに関して彼女たちは、あんまり文句は言わないと思いますよ? クロウを信頼しているようですし、あなたが大丈夫と言えば彼女たちも安心すると思います。ただ―――」


「ただ?」


 それ以外に問題が? 確かに公の場に出す訳にはいかないけど、その辺は色々と手はあるから問題は無い。エリラたち以外の心配って何があるか?

 俺は固唾を飲んでセラの言葉を待った。セラのことだ。きっと俺が考え付かないことまで頭が働いているのだろう。そして、そんな俺にセラがこう言った。


「ただ……夜のライバルが増えることに関して許すかどうかは分かりませんね」


 はぁ!? セラの言葉を聞いた俺は危うく屋根から落ちかけるぐらい盛大にコケてしまった。


「だって、性欲盛んな彼女たちですよ? きっと夜のライバルが増えるとなれば彼女たちももっと頑張るでしょうから、必然的にクロウとの夜の営みも激しく猛々しく……あっ、想像したら鼻血が」


「なんでそんな心配事になるの!? そういう問題よりも先に考えないといけないこととかありませんか!?」


「いえ~最近のあなたと周りの皆さんの行為を見ていると、どうしてもそっちの考えが先行してしまいまして」


「返せ! 俺の真面目に考えた時間を返せ! 少しでも心配した俺の心を返せ!」


 えっ、なにこれ? 真面目に考えていた俺の立場は? いや、というかセラさんあなたそんなに変態でしたっけ?


「……ん? 最近……?」


「そうですよ? 毎晩あなたたちの交わりを見るのは私の日課ですから」


 日課!? 日課なの!? というか毎日見ているの!?


「やっぱり他人同士の行為を見るのはいいことですよね」


「帰れ! 今すぐ天界に帰れ変態神が!」


「だ、誰が変態神ですか!?」


「セラさん、あんたのことだよ! 他人のセッ〇ス見るのが日課とか変態以外の何物でもないだろ!?」


「へ、変態ではありません! ただちょっと他の人に比べて他人の行為を見るのが好きなだけで……」


「それが変態っていうんだよ!」


「あっ、でも自分でやるのも好きですよ?」


「そんなこと今聞いていないだろ!?」


 アレー? セラさんってこんな残念美人でしたっけ? いや、前々から少しその前兆はあったけどここまで酷くはなかったよね?


「ま、まあ、それは置いといて、あなたの行動に関しては別に問題視していません。むしろあなたの周りだけでも、これだけ交流があるのは正直驚いているのですよ。しかも相手は魔王とは私も予想すらしていませんでした。この調子で頑張って下さいね」


「あ、ああ、そ、それはありがとう……い、いや、そんなことじゃなくて―――」


「では、私はそろそろ戻りますので。あっちなみに今夜も良いものを見させてもらいましたよ」


「あっ、ちょっと待て―――」


 俺が制止するのを無視して、セラは夜空へと消えて行った。

 ……今度、神様にも見えないような外壁を作ろう……。




==========

「魔王ですか……」


 クロウのもとから戻って来たセラは、自室の椅子に座ると近くにある窓から外の様子をぼんやりと見つめていた。

 天界と呼ばれるセラたちが住む世界にも夜は存在する。さらに言うと一日のサイクルは地上と何一つ変わらない。なので、現在の天界も時刻は夜遅くで誰もが床の間に就き休んでいた。


「……思ったよりも早く動きそうですね。次はどんな手で動くのですか……混沌神」


 彼女は暗い空に輝く月を見ながらポツリと呟くのであった。


セラさんは最初からこんな感じにする予定でした。

ただ、彼女のために一言言わせてください。


根は超真面目なんです! 趣味については目を瞑ってあげて下さい!

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