第255話:魔王との会話1
「……落ち着いたか?」
「……はい」
人に見せれば羞恥……いや、黒歴史になってしまうほど暴れること数分。そこには、そのあまりの光景に棒立ちになっている俺と布団に包まっている魔王の姿があった。
「それは良かった……で、なんであんたは布団に包まっているのかな?」
「その……私、公の場以外で男性と話すのが苦手で……」
「そうなのか……でも、今回はそれでは困るから出て来てもらおうか」
「……」
「……あの声を大音量で城中に聞かせようかな―――」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ分かりました! 出ますからそれだけはやめてくださぁぁぁい!」
そう叫ぶといそいそと布団から出てくる魔王……いや、本当にあなたは魔王ですか? 既に俺の心の中の魔王のイメージは完全に崩壊してしまっているのですが……。姿も頭の角以外は人間と違うところは殆ど見えないし……。
そんなことを考えていると、魔王は既に毛布から抜け出てベッドの上に座っていた。ただ、体こそ俺と面として向かっていたが、顔は手で隠しており時折こちらをちらっと覗いては、すぐまた顔を隠すということを繰り返していた。なにこのかわいい生き物。
「じゃあ、話を始めようか。俺の名前はクロウ・アルエレス。この前エルシオンで領主になったばかりの者だ。あんたは……魔王で間違いないな?」
「……はい」
「そうか、俺の勘違いじゃなくて良かったわ……いや、この場合勘違いであって欲しかったけどさ」
「……私だって自分が魔王に似合っていないことぐらい分かっているわよ……」
「今の魔王の姿を国民が知ったら失望どころでは済まないだろうなぁ」
「やめて下さい。何でもしますから暴露だけはやめて下さい」
「ん? 今何でもするって……じゃなくて、別にばらさねぇよ」
「……本当に?」
「本当だよ。ついで言うと別に俺はあんたを即座に斬るために来た訳でもない。さっき流した言葉が本当かどうか確かめに来ただけだ……まぁ、結果によっては分からなかったけどな……で、あの言葉は本心だったのか?」
もう答えるまでもない気がするけど、一応聞いておく。それに、仮にも魔王の部下がエリラを始め俺の周りの仲間を傷つけたことは紛れもない事実だ。そこだけは忘れてはならないし、言葉次第によっては即座に殺す覚悟でいないといけない。
「……本当です。偽りなどありません……」
「そうか。それはそれで良かったが……俺はあんたを信用したわけじゃない。仮にも人間と真正面から対立している魔族……そして、そのトップとなれば迂闊に仲良くしましょう。とは言えないことぐらいは分かっているな?」
「……はい」
「俺は今からあんたに質問をいくつか行う。言っとくが拒否権は無いし、嘘も許さない。それを確認するためにあんたに今から、《強制》という嘘を付かせない魔法をかけてもらわせる。異論はないな?」
「い、命を助けてもらえるなら……」
「いいだろう。さっきも言ったが俺はあんたを斬るために来た訳じゃないからな」
意外と素直に受け入れるのね。仮にも魔王って立場だから拒否をするかと思ったけど……いや、さっきの言動からしてそれは無いか。
俺は魔王に《強制》をかけると早速、聞きたいことを聞くことにした。
「先ほども聞いたが、もう一度聞く。あの言葉に嘘は無いな?」
「ないです」
「じゃあ、次の質問だ。何故、あんたは魔王という座に就いている? その性格からしてみれば全く似合わないと思うのだが」
「先代魔王とその配下の決定よ。魔王と言っても先祖代々血の繋がった者が就いている訳じゃないわ。より強い者……ここでは魔力が高い者が受け継ぐことが殆どなの」
「なるほど……確かにあんたの魔力は高いな」
高いって言っても4桁程度ですけどね。エリラと見比べてもトリプルスコアでは済まされない差がつけられているけどね。
「でも、流石にその性格で誰も文句言わないわけじゃなかっただろうに」
「この性格で表に出ていたわけじゃないのよ……流石に皆の前では気丈にしていた……それに……」
「それに?」
「……よく私のもとに男がやって来ては口説こうと迫って来ていたのよ。で、最初は断りを何度も入れていたのだけど、だんだん嫌になってきてもともと男性が苦手だったこともあって仕舞いには面倒になって魔法で吹き飛ばしてしまって……それがどうもその時の幹部には『容赦ない性格で魔王に必要な性格を持っている』って風に見られたみたいなの」
……ここに来たときに俺に向かって使った魔法のように吹き飛ばしていたのか。
「そして気付けば次期魔王候補になって、それもまだ魔王になるのは先と思っていたら先代魔王が急死してしまって私が引き継ぐことになってしまったのよ……」
「えーと……ああ……うん……ドンマイ!」
「そ、そんな他人事みたいに言わないで下さい!」
気づけば泣き顔になった魔王が俺の足元まで迫って来ていた。いや、そんな泣き顔で迫られても実際俺には他人事……と言うか口出しできるところないよね?
「こ、断らなかったのか?」
「無理よ。先代たちが決定した時点で拒否権は私にはなかったし、生きているままやめるには、現在の幹部の8割の賛同が必要なのよ。でも、爆炎筒だったり崩壊の薬だったりを公表してしまったせいで、神から知能を授けられし者として今の幹部は誰も私が魔王であることに反対しないのよぉ」
「自業自得じゃん! 公表しなければよかったじゃねぇか!」
「だって……まさかあれほど強い武器になるとは思っていなかったのよぉ! でも設計はかなり複雑そうだったから技術的に進歩できると思って公開してしまったのよぉ!」
「ああ、分かった! 分かったから鼻水が垂れた顔で俺のズボンに寄り添うな!」
「うう˝う˝……もう嫌だよぉ……この際、人でも誰でもいいから私を魔王の座から降してよぉ」
ずるずると俺の服にしがみ付く魔王を見て、俺は同情……いや憐みの心で見るほかなかった。どうしてあんたみたいな奴が魔王をやっているんだよ。リネアも魔法学園で不幸ちゃんとか言われていたみたいだけど、そんな不幸のレベルじゃねぇぞこれは。
「いいから落ち着け! なった経緯はどうであれ今のあんたは魔王なんだぞ? 人間(半分だけ)の俺にそんな姿を見せていたら他の魔族にも示しがつかないぞ!」
「そんなこと言われてもぉ……嫌なものは嫌なのぉ……ねぇ、あなたでもいいからここから連れ出してよぉ、奴隷でもなんでもいいから! 生かしてもらえるならどんなことでもやってみせるから連れ出してよぉ」
ああ……ダメだこの魔王。恐らく今までは頑張って来ていたけど、俺があの音声を流してしまったがために心の支えがダムの様に決壊してしまったのだろう。仮にも人間の俺の前でこんな姿を魔族が現すことになるとは到底思えないからだ。
……あれ? ということはこんなことになっているのは俺のせい?
いや、俺は悪くないからな? 事の発端は魔王が世に出した武器や薬が原因だからな? 端から見たら女性を泣かしている男性という構図になってしまうけど、俺は悪くないからな? 説教している人が攻められることが良くあるけど、俺は悪くないからな? 何が言いたいかと言うと俺は悪くないからな!?
「お願いしますクロウ様ぁぁぁぁぁ」
「様付けになっているよ!? クロウでいいから様付けはやめろ!」
「クロウぅぅぅぅぅ、その傷つけたエリラとか仲間にも土下座して謝りますからお願いしますぅぅぅぅここから連れ出してください! なんでもしますからぁぁぁぁぁぁ」
「だ……誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
この魔王、予想の斜め上……いや次元を超えていたぜ!
===2017年===
10/02
・タイトルに話数が抜けていたので追加しました。
・誤字を修正しました。
10/04:誤字を修正しました。




