第254話:魔王との出会い2
「あっ、じ、じゃなくて……誰だ、貴様は!?」
あっ、仕切り直すのね。何を思ったのか魔王はベッドの上で佇まいを直すと、先ほどよりトーンの低い声で俺に問いかけた。
しかし、第一発言が「新入り?」だったうえに次の発言の冒頭は「あっ、じゃなくて」と来ていては正直その声ではちっとも怖くはなかった。
「……無理にキャラを作ろうとするなよ……」
「な、何の事だ?」
あっ、しらばっくれるのね。わかったよ。じゃあ、来て早々だけとアレを聞かせることにするか。
俺は手の平に小さな魔方陣を展開する。そして《倉庫》の中から例のデータを取り出す。
「き、貴様何故この部屋で魔法を……!?」
「悪いけど、俺にその手の魔法は効かないよ。一回それで酷い目に合ったからな。それよりも魔王さん、この声に聞き覚えは無いか?」
そう言うと俺は例のデータを再生する。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ、ガラムの馬鹿ぁ! なんでエルシオン放置して帰ってくるのよぉ! しかも報告も全部失敗しちゃいましたって……これじゃあ完全に例の子に作戦が潰されてしまったってことじゃない! 絶対攻めてくる! 準備が整ったら絶対こっちに来るじゃない! 嫌だぁぁぁぁ死にたくなぁぁぁぁぁぁぁい、まだ美味しい物も食べきれていないし、楽しいこともやり切れていないし、相思相愛の恋愛もしていないし……やってないことだらけなのにぃぃぃぃぃぃぃぃ! どうしようどうしよう!? 今から何か対策を……いや、でも爆炎筒やアモンもった軍隊でも全く歯が立たないどころか瞬殺した相手に何が出来ることあるの!? いや、きっとあるわ! 何か考えればきっと何かある……何かある……何か……なに、か……あるわけないじゃない! どうしろというのよ!? 何、今から全力土下座でもしに行けばいいの!? こんなことやった後だから許してもらえるはずがないじゃない! まさに、全力土下座で死に行くじゃない! 上手くないわよ私! 少し寒くなったじゃない! ああもぉぉぉぉぉ! そもそも幹部の奴ら勝手すぎるのよぉ! 私は平和な道で進めたかったのに、新しい兵器を見た瞬間やれ戦争だ、やれ人間滅ぼすぞとか……そんなこと簡単に出来る訳がないじゃない! そんなに簡単にできるならもっと早くに出来ているわよ! もっと現実を見なさいよ! 私を見なくて現実を見なさいよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん(以下ループ)』
ポカーンとする魔王。そんな間も俺は無慈悲にもこの録音データを流し続ける。そしてようやく脳内思考が追いついたのか魔王がプルプルと震えだした。
ちなみに、今のはデータ化された録音データを魔法で外部にも聞こえるようにしたのだ。随分と前の話になるが、この録音データはもともと魔力で作られていることは話したと思う。パソコンが0と1から人間に分かるように音の作り出しているのと同じ原理で、録音された魔力を魔法で人間に分かるように変換しているということだ。
「そ、それ……ま、まさか……」
「そう、魔王さんの声でーす。自分の声を聴くってのも中々新鮮でしょ? いやぁ、公衆の前ではあんなにドスの聞いた声で話すのに、この声はいかにも女性っぽいよね。俺はかわいいと思うよ」
「……」
「この声を最初に聞いたときは俺も驚いたわ。他の魔族の前ではあんなに堂々としている魔王が、まさかこんな声を出せるとはねぇ、実は俺はこれを演技じゃないかと疑っているのだけどそこのところどうでしょうか?」
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
顔を真っ赤にして、目には涙が浮かんでいる魔王は何を血迷ったのか魔法を詠唱し始めた。指を高々と上げ指先にはバスケットボール大の大きさの魔方陣が浮かび上がっている。えっ、ちょっと待ってこんな密室かつあまり広くない部屋で何をしようとしているのかな? てか、魔方陣よく見たら火の魔法じゃないですか。
「消えなさぁぁぁぁぁいっっっ!」
魔王の指先がこちらを向いたかと思うと、特大の火球が発生してこちらへと飛んで来るではないか。
俺は咄嗟にその火球を囲むように魔方陣を展開。そして火球が爆発しそうな直前になんとか土魔法で火球をすっぽりと覆うことに成功した。その直後、ボォン! と土球の中で何かが爆発した音が辺りに響き、僅かに振動を肌で感じることが出来た。
「……えっ?」
何が起きたのか分からない魔王はポカーンとしてしまっていた。暫く経って何も起きないことが分かった俺は、土球を解除した。土球の中に溜まっていた熱風が辺りにまき散らされ、一時的に部屋の温度を上昇させる。
いや、何故部屋でこんな危険な魔法使ったの? というか俺が火球を閉じ込めなかったら魔王にも確実にダメージが入っていたぞ? 死にたいの? 恥ずかしさのあまり死にたいの?
「わ、私の魔法が……こんなにあっさりと……」
「いや、結構危険だったよ? こんな狭い部屋で撃つような魔法じゃなかったよ?」
「あ、あなたは何者なのですか!?」
先ほどの魔王トーンは何処かへ消え、おそらく素の声で叫ぶ魔王。
「最近、魔族の間で話題になっている例の少年だと思います」
「例の少年……ま、まさかエルシオンで領主になった……」
「あっ、それだよ。ちなみにクロウ・アルエレスって名前があるからな? 偵察しているなら名前ぐらい覚えて欲しいわー」
「う、うそ……何でこんなところに……」
「で、魔王さん。最近、随分と人間界で暗躍しているそうですね」
「!?」
「聞けば、アルダスマン国の崩壊とラ・ザーム帝国の反乱は裏で魔族たちがせっせと工作していたのが原因だとか……特に爆炎筒? って言う武器でエルシオンやハルマネは結構酷いことになってしまったのですよね。あと、ついでに言えば魔力崩壊っていう状態異常になる薬をバラまいているのも魔族でしょ? あれで俺も結構酷い目に遭ったんだよな。マジで腕一本取られているから洒落にならなかったのですよね。いやぁアレは痛かった。久しぶりに生命の危機を感じたわ。あとうちのエリラにもお宅の魔族のせいで酷い目にあっているんですわ。しかも拷問器具使われているのですよ?」
「……」(プルプル)
「で、今日はその辺の件に関してHANASHIAIに来たんだけど……ん? どうしたの? 随分と顔が青くなっているようですけど―――」
「……ご……」
「ご?」
「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
そこには、俺の目の前で地べたに座り込み全力で土下座をしている魔王の姿があったのだった。
……え、いや、なにこれ?
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。悪気はなかったのです。私もこうなると思っていなかったのです。部下がまさかこんな行動に出ると思わなかったのです。最終的に勢いに負けてしまったので私のせいなのですが、悪気はなかったのです」
「えっと……あのぉ……」
「どどどどど、どうしましょう。何をすれば許してくださいますか? い、いえ、冷静になるのよ私、ここは冷静になって考えるのよ。どうすれば許してもらえるのか……」
「えーと……魔王……さん……?」
「そ、そうだ、今こそこの何で付いたのか分からない美貌を使って、い、いや、それだけではダメよ、ここは幻想魔法も使って……で、でも私の魔法は止められたし……い、いや耐性さえなければ、ま、まずはステータスを覗いて……」
「……(どうしようこれ)」
目の前の(色々な意味で)残念な光景に俺は完全に言葉を失っていた。魔王が土下座状態から顔を上げてこちらを見上げている。おそらく《鑑定》で俺のステータスを見ているのだろう。まあ、それはそれで予想通りなので見るのは構わないのだが、それ以前の問題だと俺は思いますよ? 敵の目の前でステータス確認とかどれだけ余裕が無いのですか?
「えっ……何このステータス……えっ、《誘惑耐性:10》? それ以外のステータスも魔法スキルもすべて私より上……?」
どうやら俺のステータスを見たようだが、予想通りというか……まあ、基礎ステータス全てで完全敗北+スキルでも敗北状態だから、そんな反応になるよね……。
「……」
俺のステータスを一通り見終わったのか完全にフリーズした魔王。その光景を俺はしばらくの間見ることとなった。
そして、魔王のフリーズが解消されるのを待つこと数分。まるでパソコンの応答なしから急激に戻って来たがごとく、ハッとすると再び顔を地面に押し付けて、色々と残念な謝罪を開始する魔王の姿がそこにはあった。
「す、すいませぇぇぇん!!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。一度でもなんとかなるかもしれないと思った私を許して下さい。本当に許してください。なんでもします。本当になんでもしますから、命だけは助けて下さい、まだ死にたくありません、まだ20年程度しか生きていないのです、せめて100年程度はお見逃し下さい」
「いや、あのねぇ―――」」
「何をすればよいですか? 靴を舐めれば良いですか? 全裸でお城を一周すればよいですか? それともご奉仕すれば良いですか? 男のようですのでご奉仕の方がいいですね! 口ですか? 下ですか? 後ろですか? いえ、私に選択権などありません! 全身使ってご奉仕します! どんなプレイでも受け入れます。いえ、受け入れさせて下さい。こんな私なので体以外に取りえないのです。私自身体もあると思っていませんが、周りから言われるのであるのだと思います。あなた様の好みに合うかは分かりませんが、これしかないので許してください。 あっ、まずは脱がないといけませんね。急いで服を脱ぎますので少々お待ち下さい。先に汗を拭いた方がいいですか? それともこのままの方がいいですか? もしかして服を着たままの状態がお好みですか? もしかしてメイド服とかの方がいいですか? でしたらすぐに準備をしますのでベッドの上で待ってください―――」」
「落ち着けって言っているだろうが、ぼけがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
これが俺と魔王との非常に残念な初対面であった。
魔王様、意外と色々なプレイを知っている模様。
===2017年===
10/02:誤字を修正しました。




