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第253話:魔王との出会い1

 魔族領。領土こそ広大であったが、その出生率の低さから人口は少なく領土の大半は手が付けられず荒れた大地が広がっている。

 そこには魔物も勿論のこと人間の世界で表に顔を出せなくなった者たちのたまり場となっていた。魔族領のため人間側が簡単に追ってくることが出来ないので絶好の隠れ家となるからだ。

 当然のことながら魔族に見つかれば何をされるか分からないので自衛手段は必須である。弱ければ殺され強ければ村から物資を奪う……まさに弱肉強食の世界と言えるだろう。

 そんな「どこの世紀末だよ」とツッコミたくなる地上を余所に、その遥か上空に高速で移動するクロウがいた。


「……グレムスまでもう少しか」


 目下の光景を見ながらクロウは呟いた。現在、クロウがいる位置は上空6,000メートル地点。当然のことながら生身の人間では凍死してしまう極寒の世界だ。ましてや現在のクロウは高速で移動をしており、その体感温度はもはや生身の人類では体験することが不可能な世界だ。

 そんな中でもクロウが何の不自由もなく飛べているのは自身に巻き付けるように纏っている魔力があったからだ。自身の魔力を体と外気の間にコーディングを行うかのように身に着け、火の魔法で体を温め続けており体感温度は地上と全く変わらない状態といえた。

 空気に関しても風魔法を利用し周囲の空気中の割合が地上と同じになるように開発、使用している。この世界の魔導士が聞けば色々な意味で確実に口から泡を噴いてぶっ倒れてしまうだろう。そもそもこの世界の知識では人間が空気を吸わなければ生きていけない事は知っているが、その空気の中で酸素が必要ということまでは知らない。それに純粋に酸素だけを取り込んでしまうと自身の体を傷つけてしまうので、地上の空気中の割合と同じにしなければならいので、その割合も知っていなければならないのだ。

 クロウはこの二つの魔法に《熱装甲(ヒートアーマー)》《酸素空間(オキシゲンフィールド)》と命名した。ちなみに、この魔法を少し弄れば特定空間の温度を絶対零度にしてしまったり、酸素を無くして窒息させたりと攻撃魔法にも転用出来るので非常に凶悪な魔法だったりする。


「もう少し効率的に使えるようにしないと魔力が勿体ないな。まあ、急造の魔法だから今はこれで我慢するか……」


―――称号【空間の調整者】を取得しました。


==========

「ようやくついたぁ」


 俺の眼下には広大な魔族領が広がっている。そして、俺のちょうど真下には街が広がっており《マップ》でグレムスと表示されていた。

 もっとも、広がっていると言ってもこんな高度から見ているので街も豆粒程度にしか感じないのだが。

 さて、今日俺がここに来たのは魔王と会うためだ。アポ? そんなもの取っていないよ。というか取れるはずがない。人間が魔族の本拠地に正面から乗り込んで「魔王と会いたいのですが」と言って通れるわけがない。下手したら魔族総出で追いかけられる羽目になってしまうだろう。

 話し合いに行くのに血を見せるわけにはいかないからな。まあ、今日の言動次第では本当にそうなってしまうかもしれないが。


「まずは、魔王の位置を確認するか」


 確認の方法はまず《マップ》で魔王の位置を把握。次に《千里眼》と《透視》を使用してここから本人を確認するという流れだ。魔法やスキルが効かない場所があるかもしれないが、《交換(コンバート)》を取得している俺には無意味に等しいだろう。魔法が効かなければ魔法式を書き換えてしまえばいい。スキルが効かないならスキル自体を変えてしまえばいい。いやぁ、クロルパルスで会った魔族にはマジ感謝だわ。

 早速、《マップ》で魔王の位置を確認。四角い部屋らしき場所に赤いマーカーが浮かび上がる。どうやら魔王は一人で部屋に籠っているようだ。その証拠に、その部屋からは魔王以外の人物の反応がなかったからだ。代わりに部屋の外に二つほど反応があるが、これはおそらく警備の者だろう。

 次に《千里眼》と《透視》でその部屋を確認する。部屋の中には女性らしき人物がベッドの上で転げまわっている様子が見えた……えっ? 何やっているの? いや、これが着替え中とかだったら「すいません」で即座に見るのを一旦やめただろうが、ベッドの上でゴロゴロ転がりまくっている光景は流石に予想が出来ず、一瞬だけ硬直してしまった。


「……えっと……あれ、魔王だよね?」


 思わず《マップ》を再度確認し直す。魔王のマーカーがある場所は、あの部屋で間違いない。そして、あの部屋にはベッドで転がる女性一人しかいない……魔王だよね?

 なんというか……俺の中で魔王というイメージが一気に崩れた気がした。声だけでならず行動もあんな感じではとてもではないが魔王には見えなかった。

 い、いや、まだ騙している可能性があるし(震え声)


 念のため魔王(?)らしき人物のステータスを確認する。


==========

名前:魔王

レベル:57

筋力:2,987

生命:4,870

敏捷:3,890

器用:2,700

魔力:8,900

スキル

・固有スキル

《魔王の支配》


・言語スキル

《大陸語》


・生活スキル

《ポーカーフェイス》《鑑定:7》


・戦闘スキル

《身体強化:5》《見切り:5》《気配察知:6》《回避:5》

《遮断:7》《跳躍:4》《六感:6》《威圧:7》


・魔法スキル

《火魔法:7》《風魔法:7》《闇魔法:7》《幻想魔法:7》《毒魔法:7》

《暗記:5》《魔道の心得》《明鏡止水:3》


・耐性スキル

《火耐性:4》《水耐性:4》《風耐性:4》《土耐性:4》

《雷耐性:4》《精神耐性:5》《誘惑耐性:4》《闇耐性:6》


・耐性低下スキル

《光耐性低下:4》《対男性耐性低下:5》


・武器スキル

《片手剣:6》《格闘:5》


・特殊スキル

《意志疎通》《色気》


称号

【魔王】【引き籠り】【誘惑する者】

==========


 あっ、魔王ですわ。だって称号に思いっきり【魔王】ってあるもん。というかそれ以外の称号も酷いな!? 【誘惑する者】はまだ良いとして【引き籠り】ってなんですか? 魔王さん、まさかの引き籠りですか?

 お、落ち着け俺。冷静になるのだ。ほ、他のステータスを見て落ち着くのだ。

き、基本ステータスは中々の高さだな。とくに魔力の数値は飛び抜けて高い。魔力だけならあの黒龍とも互角の勝負が出来るだろう。そしてその魔力に比例してか魔法スキルも充実している。どれも7って、8が確か人間の最高だろ? そう考えるとやはり魔王と呼ばれるだけの数値はもっているのだなと思う。

あと、特別な能力は……《魔王の支配》ってやつが気になるな。鑑定と……。


==========

スキル名:魔王の支配

分類:固有スキル

効果

・同族に対して強制的な行動を行わせることが出来る(例:座らせる、自身に剣を刺すなど)

・ステータス値で上回れば他の種族にも同様のことが行える(ここで言うステータス値とは基礎値とスキルごとの固有値、称号ごとの固有値で決定される)


・追加補正として魔法関係の威力が大幅に上昇する(補正による上昇値も上記のステータス値に影響する)

==========


 あらやだ。結構強いスキルじゃないですか。少なくとも同族の魔族は魔王には逆らえないということだよな? スキル《奴隷》が無くても強制的な命令を行わせることが出来るのか。

 俺は少なくとも大丈夫だと思うがこれが一般人とかになると、とてもではないが対抗することは出来ないだろう。


 それ以外は特に問題は無いかな……《幻想魔法》が一見危険そうに見えるが、既に精神、誘惑耐性の上位互換にあたる《無心》を得ている俺には関係がない話だ。


 よし、じゃあさっそく降りる準備をしますか。


 まずは、ステータス値をいつもの誤魔化しているのではなく、素のステータスに戻しておく、勿論セラから言われた上位スキルのみは隠しておき、代わりに下位スキルのレベル10を表示しておく。

 なぜこうしておくかというと、敵に勝てるわけがないと言うことを見せつけるためだ。魔王と俺の能力を見比べれば戦力差は一目瞭然。冷静な相手ならこれで話し合いをする気になるだろう。勿論、意地とかプライドが邪魔することも考えている。そのときは実力行使で潰して強制的に話し合いに持ち込めばいい。あくまで今回はHANASHIAIに来たのだ。殺すために来たわけではない。えっ、話し合いというキーワードに悪意を感じるって? ……キノセイダヨー。

 さ、さて、次はあの魔王の部屋に行く方法だが、まず《(ゲート)》は一度訪れた場所でなければ使用できない。これは《千里眼》や《透視》による目視ではダメらしく実際に自分が立った場所同士でなければ繋ぐことが出来ないのだ。

 では、どうするか? まさかぶっ壊す訳にもいかないので俺が考えた手は、魔王のいる部屋の上部を一時的にくり抜く作戦だ。えっ、どうするのかって? まあ、見ていなさい。


 一通りの確認を済ませた俺は、目を保護するために風で目の周りに膜を張る。そして、ふぅと一息入れると体を自然が思うままに投げ捨てるかのように頭から一気に降下を開始する。最初に言ったがここは上空6,000メートル地点。ここからパラシュートも何も付けずに垂直降下をすればあっという間に最高速度に到達してしまう。ちなみにこの高さからのスカイダイビングなどによる人間の自然的な

垂直落下の最高速度はおよそ250キロ程度で、それ以上は空気抵抗が働き早くならないらしい(もっと上空から飛び降りたり、体にエンジンなどを付けたりしたときは別)

 今回は見つかるわけには行かないので、さらに速度を上乗せするため風魔法や火魔法をフル活用して一気に速度を上げる。地下から行くことも考えたけど……こっちの方が面白そうじゃん。

……まあ、見つかった場合は潔く逃げて次は地下からにするよ。

見つかった場合は《気配察知》が働いてくれるので、これが何もしなければ気付かれなかった。逆に感知した場合は見つかったので逃げることにする。簡単(?)な話だ。


グングンと速度を上げ続ける。意識が吹っ飛んだら洒落にならないので、せいぜい音速程度までしか速度は上がらないが、この世界ならこれでも十分だった。自身の周りの重力をコントロールして頭に血が集まらない様にすることも考えたが、そこまでの開発時間は流石になかったし、今回は不要と判断した。


気付けば目下に魔王がいる城が迫って来ていた。城の周囲を囲む城壁の上に兵士らしき魔族が見えるが、流石に上空までは見ていないようだ。一応、音も出ない様に気を付けていたのだが、そこまでする必要はなかったかな?


そしてある程度まで降下すると、速度を落とし(それでも100キロ以上出ているが)着陸態勢に入る。

幸い、《気配察知》では誰も気付いておらず、そのまま城の屋根に無事着地をすることが出来た。

魔王の様子は……どうやら疲れたのかベッドの上ではぁはぁと息を立てている様子が見て取れた。何か独り言を言っているようだが流石に何を言っているかまでは分からないな。


「よし……じゃあ魔王とご対面と参りますか」


 俺は城の屋根に手を付け、魔王がいる部屋の上部までを《透視》で確認すると、用意していた魔法を唱える。


「―――《空間保存(セーブ・スペース)》」


 円形の魔方陣が浮かび上がり、そのまま魔方陣は屋根の中へと潜り込んでいく。そして、先ほど確認した魔王のいる部屋の天井にまで魔方陣が伸びたかと思えば、僅かな光を発して魔方陣で囲まれていた空間にはぽっかりと穴が開いてしまっていた。

 先ほども言ったが《門》は過去に一度でも自分が立った位置同士でなければ空間同士を繋ぐことは出来ない。

 しかし、空間を繋げることは出来なくとも空間を作ることは出来る。そこで思いついたのは《倉庫》にアイテムを送り込むのと同様の方法で、まず一定空間を指定して、その空間自体を一つの「物」として扱う。その空間を維持したまま《倉庫》に突っ込めば目の前に何もない空間が出来上がるというわけだ。

 そして、この魔法のいい所は戻してしまえば後には何も残らないことだ。残念ながら保持できる空間には限りがある上に、空間を別の所に移動させることは出来ないので移動に使うことは出来ない。まあ、世の中万能な物なんて簡単に出来るわけがないよな。

 俺は、出来た穴の中に身を放り投げた。わずかに暗い時間があったのち、俺は魔王がいる部屋に降り立つことに成功した。


「……えっ?」


 ベッドの上で疲れ果てていた魔王がこちらに気付き一瞬で目が合う。僅かに流れる沈黙。そして、魔王が次に放った一言は―――


「……え、えっと……新入り?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はまるでマンガのようにずっこけるのだった。

 この魔王、不意打ちに弱すぎである。


 ちなみに作中に出てきた《空間保存》が分かりにくい方はドラ〇もんの某フープを思い浮かべていただければ結構です。


===2017年===

09/18:タイトルを修正しました。

09/24:誤字を修正しました。

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