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第252話:決心

 一回落ち着こうか俺。その場で立ち上がると一度二度深呼吸をする。そして、少し待ったのちに再度録音データを呼び出した。


『うわぁぁぁぁぁぁぁ、ガラムの馬鹿ぁ! なんでエルシオン放置して帰ってくるのよぉ! しかも報告も全部失敗しちゃいましたって……これじゃあ完全に例の子に作戦が潰されてしまったってことじゃない! 絶対攻めてくる! 準備が整ったら絶対こっちに来るじゃない(プチッ)』


 うん、聞き間違いではないね。俺の耳がおかしくなっただけかと思ったけどそうじゃないよね。

 この声はガラムが魔王と言っていた人物と同じ声だ。だけど、ガラムと話していた時の声と比べると全然違う気がするのだが? ガラムと話していた時はいかにも魔王って感じの声だったが、今流れた声はどこにでもいそうな女性の声だったのだが。

 いや、まて。そもそもこの声が魔王と決まったわけじゃない。ガラムは確かに直前の会話では魔王様と言っていたが、それがこの声の正体かは不明だ……。いや、そもそも二人だけの会話だったっけ?

 この辺りをはっきりとするべく俺は、ガラムと魔王と呼ばれた者が会ったときの会話のデータを取り出すと再生をした。


==========

「ただいま戻りました」


「……ご苦労。で、成果のほどは?」


「……それが……例の少年にすべて失敗してしまいました」


「それは、エルシオンを手に入れることは疎か破壊することもダメだったということか?」


「それだけではありません。アルダスマン国内で活動をさせていたレシュードも殺され、例の少年の奴隷になっていたレシュードの娘をこちらの奴隷とすることすらも失敗しました」


「……開発しておいた奴隷の首輪は?」


「それも奪われた模様。成功したかは定かではありませんが、直後の例の少年の言動から察するに失敗したかと思われます」


「ふむ、父親としての甘さが出てしまったか?」


「それは考えにくいかと。配下の者にワシが出て行った後も見張らせておりましたが、どうやら《不治の剣》で付けたであろう傷が多数見受けられたと。それを鑑みるにおそらく小娘の意志が勝ったのでしょう。《不治の剣》を使ったということはレシュードもかなり強気でやったでしょうから」


「そうか、ではエルシオンはどうしたのだ?」


「……申し訳ありませんが、放棄させ……いえせざるを得ませんでした。今回立案した中で成功したのはアルダスマン国を崩壊させることだけだった以上、一度戻り態勢を立て直すのが最善かと思われまして……」


「散々時間をかけて行った作戦の結果がこれか……一体どうするつもりだ?」


「……申し訳ありません魔王様」


「謝るな。謝るぐらいなら次のことを考えろ。で、のらりくらりと戻ってきたからには次の案の一つや二つはあるであろうな?」


「いくつか考えはしましたが……どれを行うにしてもまずは例の少年の排除を行わなければ話にならないかと」


「で、そいつを排除する方法は?」


「一番手っ取り早いのは人質を取ることでしょう。どうも例の少年は自分の身の回りの者を大事にする傾向があるらしく、その範囲は自らの持つ獣族の奴隷も対象になるほどです。それならその奴隷を一人か二人攫って人質にしてしまえば良いかと」


「ほう……《爆炎筒》を持った数千の軍勢ともやりあう奴隷をどうやって捕らえるのだ?」


「なんですと……?」


「おぬしがのらりくらりしている間にも時間は動いておる。既にラ・ザームでの反乱計画も行われたがエルシオンでその反乱軍は十数名の奴隷相手に蹴散らされた挙句、例の少年の魔法で文字通り塵も残らず消え去ったそうだ。お主が人質にしようと言っているのは、その十数名の奴隷のことを言っておるのだろ?」


「そ、それは……いえ、奴の中には子供の奴隷もいました。彼らなら―――」


「だから、その十数名の奴隷と例の少年相手にどうやって攫うのだ?」


「それはレシュードの娘を攫ったときと同じ方法で―――」


「とぼけるな! そのような敵が易々と同じ手にかかると思うか!? お主も他の奴らも敵を甘く見過ぎておる!」


「……」


「今回の敵は今まで以上に厄介な存在だ。こちらも何重にも策を巡らせるぐらいのことをしなければ我らは再び負けることになるぞ!」


「……魔王様の言う通りでございます……しかし、ではどうすれば?」


「それが考え付いているなら、こんなことにはなってはおらぬ。そもそも敵の能力があまりにも未知数すぎる。数千の敵を一瞬で消し去るような魔法など我でも簡単に唱えることは出来ぬ。もしかすると敵は我と同等……下手をすれば我すらも上回っている可能性も考えなければならないだろう」


「そ、それはいくら何でも……」


「確証はあるのか? 例の少年が我よりも弱いと?」


「い、いえ……」


「物事は常に最悪のパターンまで考えろ。どんなことでも100%上手く行く保証など、どこにもないのだからな」


「ハッ……」


「……ところで話は変わるが、お主の体から漏れているその魔力はなんだ?」


「? なんのことでしょうか?」


「ふむ……お主ちょっと立ってみろ」


「こうですか?」


「……なんだこれは?」


「?」


「……ふむ、どうやらお主も知らなかったらしいな。これから僅かな魔力が発せられている、それも特定方向にな」


「魔力が……? 私には感じられませんが?」


「だろうな、我もごく僅かしか感じ取れぬ……ともかく、これは預かっておく」


「分かりました」


「……これ以上の議論は無駄か……今日はここまでだ。暫くしたのちにまた集会があるから、それまでに案の一つや二つは考えておけ、良いな? お主の罰則もそこで話そうではないか」


「……かしこまりました」


==========


 ……。やっぱりガラムと魔王の二人だけだよね? 無言で秘書ぐらいはいるかもしれないけど、会話しているのはガラムと魔王だけだったな。

 となると、やはりこの声は魔王の声と考えるのが自然か……? いや、仮にこの声が魔王だったとして次に録音されていたこの声は何? 魔王性格豹変し過ぎじゃね? もはや魔王(笑)だよ! わざとでしょ? 俺を嵌めるためにわざと演技をしているのでしょ?


「……う~ん、これはどうしたものかな」


 順番に考えてみよう。まずガラムと魔王との会話に付いてだが、現状魔族側が仕掛けた作戦のうち上手く行ったのはアルダスマン国の崩壊のみ。エルシオンを破壊するのも半分だけしか上手く行っていないしエリラを奪う作戦も失敗。その後のラ・ザーム帝国での反乱も結局俺たちがぶっ潰して失敗した……爆炎筒は奪われるわ、反乱は鎮圧されるわ、ガラムが勝手にエルシオンを放棄するわ、で散々な結果ということだ。で、ガラムの野郎は何も思いつかずに結局魔王のところに戻り作戦失敗の報告だけしたと。その時に魔王がガラムの体に引っ付いていた発信機のことに気付き没収された。

 没収したのちにどこか分からない所に保管されようやく出てきたと思えば、魔王(笑)の謎の絶叫……。

 その魔王(笑)の言葉を順番に読み取っていくなら「エルシオンを放棄したガラムに対して罵倒したのち作戦が失敗したことを言っている……例の少年というのは俺のことで間違いないだろう。ラ・ザーム帝国の反乱軍がエルシオンで全滅した話の時も例の少年と言っていたからな。

 それにしてもエルシオンにはまだ、俺の知らない魔族がいるのか? これは今度一回お掃除しておかないといけないな。街周辺への警戒網も早めに整備しておかないと、この調子でまた魔族に街に入られるわけにはいかない。

 幸い、こちらには敵の偽装を無視できる《交換》スキルがある。今までは騙されていたが、もう同じ手を受けるつもりは全くない。見つけ次第全力で潰させてもらうことにする。

 さて、考えを戻して、魔王の次の言葉は攻めてくるだっけ? すげぇ全力で叫んでいたな「絶対こっちに来るじゃない!」って。その後は「死にたくない」「美味しい物食べてない」「相思相愛の恋愛もしていない」……あら、魔王さんって意外と乙女……?

 その後は土下座しに行くとか寒いギャグを言っているだけで特に気になることはないな。

 しかし、これだけの判断材料でどう判断しろと……俺的には是非、後者の泣き叫んでいる魔王(笑)が本物であってほしいけど、そんなに簡単な話じゃないだろうしな。

 この言葉自体が演技の可能性も十分ありうる。ただ、そうなるとこの発信機の能力が分かったことになるよな……ガラムと会ったときは魔力の流れこそ探知出来たけど、どんなことを行っているかまでは理解している様子は見えなかった。そうなると、この演技は一体……?

 それとも表はガラムと対面していた時の様な雰囲気で一人の時だけあんな感じになるとか?

 念のため残りのデータも取り出して聞いてみたが、やはり流れてくるのは魔王の絶叫だけだった。ただ、その中でも「何とか例の少年と仲良く出来ないかな」って言葉には驚くしかなかった。ただ、驚いただけで結局この言葉が魔王の本音かまでは理解できなかった。


 一体、どっち本当の魔王なんだろう……。


「クローご飯が出来たわよ!」


 エリラの声で俺はハッと現実に戻った。見るとエリラが屋根の隅っこからこちらを見ているのが見えた。おそらくエリラもジャンプして屋根に上ったのだろう。だって、この屋根に上る方法ってそれしかないからな。


「分かった。すぐ行くわ」


 エリラは俺の声が聞こえたのかスッと屋根の上から消えて行った。


 俺は魔族領がある方向を見つめた。眼下には戦争で壊されることがなかった北側の街並みが見えた。この世界は電気こそないが魔力を使うことで明かりを灯す魔法器具は多数存在している。そのため夜になっても人々は行動をすることができる。それでも魔力を使う以上長時間は扱えないので、早めの就寝となるのだが。

 その明かりも表通りは照らされているが裏通りになるとその明かりもまばらになる。電気関係の整備も進める必要があるだろう。


「……仕方がない……こうなったら確かめるしかないな」


 夜の街並みを見ながら俺は決心した。


「行くか、魔王の元に」




―――第6章:エルシオン建国編 … fin

 というわけで、第6章はこれにて終了です。長かった。途中開いていたせいで長くなっちゃいました。

 そして、書き終えて見て一言

「これ、ラ・ザーム帝国少ししか関係ないじゃん!」

 というわけで、第6章はラ・ザーム帝国編ではなくエルシオン建国編と名を改めさせてもらいます。最後の最後になって大変申し訳ありません。


 次章からは、いよいよ魔族との本格的な関りが始まっていきます(あと街の開発も)

 今まで数々の伏線を随所に散りばめましたが、次章にてようやくその大半が解消されることでしょう。まあ、代わりの伏線が出てくるのですが。


 というわけで次回もよろしくお願いします。


 最後にいつも読んで下さる皆様、感想を書いて下さる皆様に感謝申し上げます。

 本当にありがとうございます!


 では、また次回お会いしましょう。

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