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第251話:薬の回収と魔王の本音

「さて、俺は行くところがあるけど、サヤはどうする?」


「……帰る……」


「そうか気を付けてな」


 俺とサヤは魔法学園を出たのち早々に分かれた。音の件については「土魔法で手に極限まで固めた土を付けたらあんな音になった」と言って誤魔化しておいた。半信半疑なサヤだったが結局納得したようで、それ以上の介入はなかった。

 《硬化》のスキルはエリラや獣族たちだけ知っているとなると、易々と出していいものじゃないと改めて認識させられた。今度、時間があるときにでも魔力でガードする魔法の練習でもすることにしよう。それなら例えバレたとしても問題ないし教えてと言われても問題ないはずだ。


「《マップ》発動」


 目の前にハルマネの全域を表示する地図が浮かび上がる(勿論、俺しか見えない)。そしてアルクラミ魔法商店と検索するとやや待ったのち地図に一か所だけ赤い点が浮かび上がる。場所はハルマネのほぼ中心部に位置しており人通りの多そうな道と隣接しているあたりかなり良い場所にあると思える。

 俺はさっそくマップを頼りに移動をした。時刻は夕刻前で徐々に陽が西に沈み出していたが、街を復興する人々の手はまだ動き続けていた。

 ここも前回の戦争の際に爆炎筒で甚大な被害を被っている。被害のレベルこそエルシオンほどではないが、あちらは俺の介入もあってか徐々に戦争前の状態に戻りつつあるが、ここはまだまだ時間がかかりそうだ。


==========

第一印象は「広い」だった。高さこそ2階建てで、他の建物と見比べても遜色ないが、横と奥行きがともに100メートル近くはあり、この世界のお店の規模では間違いなく大きい方に分類するだろう。流石に日本の大型店とかと比べると小さいけどな。

爆炎筒による攻撃を受けたのか一部の屋根が壊れていたが中は通常通りに営業中のようだ。その証拠に沢山の人々が出入りをしており買い物を済ませたのか出てくる人々の手には大量の道具が抱えられていた。

俺は店のすぐ近くの隙間から人がいない奥へと移動をした。そして周りに誰もいないことを確認すると《透視》で店の中を簡単に覗いてみる。

店の中には所狭しに商品が並べられていた。一般的な魔法道具は勿論、貴重な回復薬やなんと魔力回復薬まで売られていた。いつか説明したかもしれないが回復薬や魔力回復薬の作成難易度は高く、作ることが可能なら一生職には困らないと言われているほどだ。

それを棚にギッシリと詰まっている。数にしたら千はあるかもしれない。魔力回復薬も回復薬ほどではないが、それでも数百本程度は店頭に置かれているだろう。


「おいおい、回復薬関係って貴重品じゃなかったのかよ」


 魔法都市の中で有名な店と言われるだけはあるな。まあ、俺よりは持っていないけど。

 

「では本題と参りますか」


 俺は再び《マップ》を表示すると今度は、ローゼから貰った紫色の錠剤……使用すれば体が強くなるが同時に限界を超えて崩壊、乃ち死ぬという意味で仮に名前を【死の強化剤】とでも付けようか。これと同じものが店内に存在しないか確認を開始する。

 すると、店頭にこそ反応は無かったがお店の地下に大量の反応があった。数にして23個……こんな危険な薬が23個もあるとか恐怖以外の何物でもないな。

 悪いけどサクッと回収させてもらおうか。


 俺は土魔法で地面に穴を開けると同時に飛び込む。バレない様に穴の入り口を完全に閉じ、光魔法で明かりを灯す。そして、薬の反応がある場所まで一気に掘り進めた。えっ、やっていること完全に泥棒じゃないかって? ……まあ、否定はしないよ。だけど、こんな危険な薬をホイホイ市場に出させるわけにも行かないのでここは許してほしい。

 やがて、掘り進めた穴は店の真下で空洞とつながった。穴からそっと顔を出してみると、目の前にいくつかの木箱が姿を現した。

 店の倉庫……と最初は思ったが、ほとんどの木箱は空っぽでその役目を果たしていなかった。おそらく、薬を隠すためのダミーとして木箱を置いているのだろう。

 掘った穴は完全に塞ぎ、再度店の人がやって来ていないか確認をする。誰も来ていないことを確認した俺は木箱をどけ、目標の薬がある場所へと向かう。そして、何個目かの木箱をどけたとき、その薬は姿を現した。

 目の前にあったのは麻袋の様な袋だった。だが《透視》や《マップ》で確認していた俺は中に薬があるのは確認済みだ。

 念のためその袋を手に取り中を見る。予想通り中には【死の強化剤】が数十粒ほどあった。

 それをさっと《倉庫》に入れると、俺は逃げる前に、木箱の位置を元に戻し袋があった周囲に魔法をかけた。かけた魔法は感知の魔法。指定した範囲内に対象の物に動きがあった場合、または指定した人物が入ってきた場合に俺のもとに通知する魔法だ。似たような魔法で以前アルゼリカ理事長やニャミィに渡した水晶がある。

 これを設置した理由は簡単だ。おそらくだがここの店の店長らしき人物がこれを取りに来るはずだ。当然、ここには既に薬は無いのでパニックになる。そして運が良ければこの死の強化剤を渡した人物にあうはずだ。

 で、それが魔族ならそのまま拷問タイム。人間なら、今度はその人間が持つ薬を奪う。そして今度はその人間を監視する……という流れだ。この店の人に直接会わなかったは、会って尋問しても話を聞き出せない危険があるからだ。例えば魔法で取引した相手の顔を忘れさせる魔法をかけられていたり、そのことを話した瞬間死ぬ魔法をかけられている可能性もある。

 魔族……下手したら神がかかわっている可能性がある以上、常に行える最善、最大の戦法を取らなければならない。

 さて、これで動きがあれば何かわかるはずだ。俺は魔法を設置し終わると即座に《(ゲート)》でこの場を後にするのだった。


==========

 自宅に戻ると夕食の準備が始まっていた。今日の当番はエリラとテリュールのようで、台所でいそいそと作業しているのが見えた。と言っても最近、その当番制はあってないようなもので、今は獣族たちも総出で手伝っている。

 原因は、このまえ保護した奴隷たちがいるからだ。人数が増えた分食堂も大忙しだ。幸い、奴隷の中にもいくつか《調理》スキルを使える人材がいたので、その人たちも手伝ってはいる。最も、既にエリラたちをはじめとする家の人たちの《調理》のスキルレベルは平均で6となっており、その技術を見た元奴隷たちは「えっ、出番無くね?」と部屋の隅でいじけていたのだが。

 あと、誤解をさせないために言っておくが、俺も最初は手伝おうとしたのだが彼女たちから「クロウ様は出なくていいですよ」と断れた経緯がある。

 いや、やってくれるなら大変うれしいのよ? 俺も他にやることがあるからそっちに手を向けられるから……言われた時は妙な虚しさが込みあげてきたけど。


 そ、そんなことはさておいて、夕食の準備が整うまで、俺は家の屋根の上に登っておくことにした。と言っても暇を潰すためではなくある確認を行うためだ。

 その確認とは以前、ガラムに引っ付けて魔王に取られた発信機のことだ。実はサヤに音のことで問い詰められていた時に、ひょっこりとデータが送られてきていたのだ。

 データの日付は魔王に取られた日付と同じで前に話した、バッファにたまっていた1時間分のデータだ。


「さて……あんまり期待はできないけど、とりあえず聞いてみるとするか」


 期待ができない……というのも、この1時間分の内容というのは通信が途切れてからの1時間分の音声になる。つまり魔法、またはスキルが使えない部屋に放置されていたときの音声となるのだ。

 魔法、スキルも使えない部屋となるとおそらくだが物置部屋になるだろう。そんな場所の1時間程度の音声となればまともな情報がある可能性は極めて低く、最悪、何も音がない無音の1時間という可能性もあるのだ。それよりも後続の情報の方がよほど大事なことが入っているだろう。

 そんな考えが頭に浮かびながらも念のため音声を取り出して俺は再生を開始した。


『うわぁぁぁぁぁぁぁ、ガラムの馬鹿ぁ! なんでエルシオン放置して帰ってくるのよぉ! しかも報告も全部失敗しちゃいましたって……これじゃあ完全に例の子に作戦が潰されてしまったってことじゃない! 絶対攻めてくる! 準備が整ったら絶対こっちに来るじゃない! 嫌だぁぁぁぁ死にたくなぁぁぁぁぁぁぁい、まだ美味しい物も食べきれていないし、楽しいこともやり切れていないし、相思相愛の恋愛もしていないし……やってないことだらけなのにぃぃぃぃぃぃぃぃ! どうしようどうしよう!? 今から何か対策を……いや、でも爆炎筒やアモンもった軍隊でも全く歯が立たないどころか瞬殺した相手に何が出来ることあるの!? いや、きっとあるわ! 何か考えればきっと何かある……何かある……何か……なに、か……あるわけないじゃない! どうしろというのよ!? 何、今から全力土下座でもしに行けばいいの!? こんなことやった後だから許してもらえるはずがないじゃない! まさに、全力土下座で死に行くじゃない! 上手くないわよ私! 少し寒くなったじゃない! ああもぉぉぉぉぉ! そもそも幹部の奴ら勝手すぎるのよぉ! 私は平和な道で進めたかったのに、新しい兵器を見た瞬間やれ戦争だ、やれ人間滅ぼすぞとか……そんなこと簡単に出来る訳がないじゃない! そんなに簡単にできるならもっと早くに出来ているわよ! もっと現実を見なさいよ! 私を見なくて現実を見なさいよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん(以下ループ)』


「……」


 音声が途切れても動けない俺。そして1分ほどたったであろうか? ようやく我に返ると一言だけ言った。


「何これぇ?」


 魔王様の本音。ついに他人に聞かれてしまう(笑)

 一人で上手いこと言って突っ込む姿……書いているときに私は笑ってしまいました(自分で書いたことなのに)

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