表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/270

第249話:エルシオン争奪戦2

「……本当に受けるの……?」


 サヤが不安そうな目で見つめてくる。もっともこの場合の不安は勝負に負けることではなく、こんな無意味な勝負事を受けるという行為に対してだろうが。


「まあな」


「……無意味……そもそもローゼの方は論理的に……」


「おかしいのは分かっているさ。こちらは正当な手段で、正当な理由で街を手にいている。それをいくら昔治めていたからと言って渡す理由にもならない。ましてや向こうは対価を用意してもない。普通に考えればこんなアホな勝負を受ける意味なんか俺には全くない」


「なら―――」


「でもな、向こうは本気なんだ。本気で奪おうと来ているんだ。ならトップに立っている身としては、この事態を何とかしなければならない。そこで勝負を受けるのが最善と判断したまでさ」


「……クロウが勝ったら……ローゼは……?」


「いくつか候補はあるが……まあ、それは終わってからだな。向こうも待っているみたいだしさっさとケリ付けてくるわ」


 俺はサヤにそれだけ言うと闘技場の真ん中へと歩いて行く。既にローゼの方は闘技場の中央で待機しており、こちらを睨みつけていた。やがて中央にたどり着いた俺は《倉庫(ストレージ)》から刀を取り出し、ローゼと相対する形で陣取った。


「お待たせ。で、ルールは?」


「……勝負は一本勝負。相手を参らせればそこで試合終了でございますわ」


「分かった。じゃあ勝負……と言いたいが、最後にもう一度だけ聞いておく……本当に勝負をする気だな?」


「当然でございますわ!」


「そうか……実はな、今度魔法学園をエルシオンに移す際に、卒業後、数年間エルシオンで働くことを条件に特別学級を作ることにしたんだ」


「……だから?」


「なに、あんたら一度は街を持っていたんだろ? それなら少なからず領土運営に関する知識は引き継がれているだろ? それをエルシオンで生かさす気はないか?」


「ふざけないで頂けます?」


「いや、真面目な話なんだけど―――


「私の心は決まっていますわ! 今更、そのような甘い言葉などに惑わされはしませんわ! 戯言はここまでです! 勝負と行きましょうか?」


 交渉決裂。まぁ、何となくそんな気がしたよ。意外と話に乗るかなと甘い期待をしていた俺が馬鹿でした。

 ローゼが剣を構えこちらを睨み付ける。対する俺は刀こそ手に持ってはいるが、構という構えを取らずに棒立ちをしている状態だ。


「……構えなさい」


「いや、別にこのままでいいよ。悪いが以前、ここで対戦した時以上に実力差は広がっている。ここであんたが勝つ勝率など無きに等しい……なら、少しぐらいハンデを渡してあげるさ」


 以前というのは、数年前(俺からしてみれば)魔法学園で特待生組として招待をされ始めて彼女たちと出会ったときだ。

 あの時はアルゼリカ理事長の命令で、10秒で勝負をつけろと言われて瞬殺したことは今でも覚えている。

 あれから数年。異世界(この世界から見て)でスキルがない状態で鍛えた能力は、《回避》スキルの発動よりも先に回避できてしまうほどにまで高まっていた。

 それから数か月、サヤやリーネみたいに俺のもとで訓練したならいざ知らず、現在のローゼの能力はそのときの能力とほとんど変わっていないのだ。そのうえ、ここは不意打ちも出来ない闘技場のど真ん中。口では「余裕ですね」と軽口を叩いている俺だが、今でも周囲に気を張り巡らしており、ローゼの動きには常に警戒をしている。つまり、油断など少しもしていないのだ。

 残念だが、この状態でローゼが勝てる方法など数えるほどもあるか怪しいところだ。それこそ、いつかのヴグラやエリラの親父みたいな薬でも飲まない限りは負けることはないだろう。

 薬……まさかローゼは持っていないよな?

 俺はそう思い《透視》で彼女の身に着けている物を確認しようとした(間違っても下着や裸を見たいわけではないので悪しからず)。


「なら、行きますわ!」


 だが、それよりも先にローゼが動いた。

ローゼはまっすぐに俺の方へ剣先を向けたまま突撃を開始、フェイントなんかない、純粋な真っすぐな突撃だ。

咄嗟に《透視》を解除した俺は、剣先の直線上から横に避けるとそのまま片足だけスッと前に出す。

予想通り。俺を刺すはずだった剣先は空を切り俺の目の前にローゼの横顔が現れた。そして、俺が出した片足に見事にひっかかり、そのまま顔から地面へ盛大に激突してしまった。幸いにも地面は砂なので大怪我はしていないだろうが、それでも不安になる倒れこみかただった。


「……大丈夫?」


 つい、心配になり声をかけてしまう。だが、彼女にとっては無用だったのかそのまま体を反転させて立ち上がりつつ、今度は俺の懐に入るかのように向かってきた。そのとき彼女の鼻から血が流れて出しているのが見えた俺は心の中で「あーあ……」と思いつつも、次なる彼女の攻撃を回避するために左手を前に出す。

 ローゼの剣は俺の左手をすり抜けていく、そして俺はそのまま左手を弾き飛ばすかのように、腕を振り抜いた。彼女の剣は無情にも俺の左側を通過し、一度目の攻撃同様空を斬った。

 そして、俺の左手に当たっていた剣は俺が腕を振り抜いたことにより、あっさりと軌道を変えてしまい、ローゼもそれに流される形で俺の横を無情にも抜けていってしまった。


「……勝負にならない……」


 俺とローゼの勝負を闘技場の入り口付近で見守っていたサヤはボソリと呟いていた。俺やエリラほどではないにせよ、彼女も強者であることは間違いなかった。

 そして、彼女の目にはもはやこの勝負はただの俺のお遊びにしか見えなかったのだ。


 それから数分間、ローゼは果敢に襲い掛かってきた。だが、ローゼの剣が俺に届くことはなく、それから虚しく時間だけが過ぎ去っていく。気付けばローゼの服は砂まみれになり、汗によって固まった砂は顔中に付いていた。


「……もういいでしょ? これ以上勝負をしても無意味ですよ」


「うるさい!」


 ローゼが剣を斜め下から斜め上へと振り上げる。俺はそれを素手で掴んでみせる。と言っても刃がある部分には見えないように《硬化》をしてある。えっ、人間の皮膚で掴めって? 無茶言わないでください。

 カァンと金属が弾かれる音が響く。俺は一瞬「あっ」と思ってしまったが、俺のミスにローゼは気付くことなく、掴まれた剣を抜き取ろうと必死になってもがいていた。

 あ、あっぶねぇ……。《硬化》で皮膚が竜の鱗になったせいで、金属がこすれあう音を出してしまった。人間の皮膚だったらこんな音は普通でないからな。ローゼが気が付いていないようで良かった。あっ、でも流石にサヤには気付かれたかな?

 そんなことは置いといて、暫くの間俺はローゼの必死な姿を見たのちローゼの剣を握っている腕に思いっきり力を入れる。

 パキィと折れる音に剣はあっさりとその姿をただの鉄の棒へと変えてしまった。


 パラパラと地面に破片が落ちる音と共にローゼもまた膝からへと崩れ落ちていた。


「勝負は俺の勝ちだな」


 もはや戦おうにも武器は無い。魔法で撃ち合う手も残されてはいるが《魔力支配》を持っている俺には通用しない。まさに完封状態だ。


「……まだよ……」


 ローゼは自らのスカートのポケットに手を入れると、そこから何かを取り出した。


 ポケットに手を入れる。その行動は俺の脳内に緊急信号を送るには十分な動作だった。咄嗟に体が動きポケットに入れた手を片手で握ると、そのまま地面へと押し倒す。そして暴れないように即座に自分の体をローゼの体の上に乗せ動かないように固定をする。彼女のやや大き目な胸が俺の肩辺りに当たって普通であれば非常にうれしいご褒美なのだが、そんなことを気にする暇は無かった。


「離しなさい!」


「断る!」


 暴れる彼女を取り押さえつつ、俺が掴んだ彼女の腕をギュッと握りしめる。俺が本気で握りしめたらローゼの腕など水風船みたいに弾け飛ぶので、ほどほどに握りっておくことにした。

 やがて、手に力が入らなくなったのか彼女の手から何かが滑り落ちた。


 嫌な予感は的中した。彼女の手から落ちた物を見た瞬間、俺は確信をした。

 なぜなら、それはかつてヴグラやレシュード・フロックスが持っていた、あの紫色の錠剤と全く同じ見た目をしていたからである。


 俺はローゼを開放すると同時に、その紫色の錠剤を拾い上げ即座にローゼと距離を置く。すぐに《透視》を行い、彼女がほかにも同じ薬を持っていないか確認を行う。幸いなことに持っていた薬はこれ一つだけのようで、他には見当たらなかった。


「返しなさ―――」


 奪われた薬を取り返そうと彼女が立ち上がろうとするが、彼女の周りの砂が盛り上がったかと思えば、そのまま彼女の全身を包むかのように覆いかぶさってしまった。

 やがて、覆いかぶさった砂は地面へと戻っていき、後に残されたのは地面に片手を鎖で繋がれたローゼの姿だった。


「くっ! これは……!」


「かつて、保健室でカイトを拘束した鎖だよ。さて、なんでこれをローゼが持っていたのか聞かせてもらおうか?」


「そんなことはどうでもいい! それよりも―――」


「そこまでです!!」


 闘技場の入り口付近からサヤではない別の人の声が聞こえた。見ると、そこには頭から血を流しながら立っているゼノスの姿があったのだ。

 頭から血を流している姿とかホラー以外の何物でもない気がします。


 新しく人物図鑑を書き始めました。

 名付けて『【異世界転生戦記】~人物図鑑を書いて行く~』です。えっ、タイトルにセンスがない? ……気にするな(キリッ)


 私のプロフィールから移動できますので「こいつ誰だっけ?」となった場合はここをご確認ください。

 また、作中には載せていないステータスも公開しますので「こいつどれくらい強いの?」という場合でも確認できます。

 ただし、内容はネタバレを含みますので閲覧は自己責任でお願いします。

 また、現在私の作業が追いついておらず殆どの人物が書かれていません。作業順位といたしましては主要キャラクター→現在かかわりのあるキャラ→その他となっていますので、ご了承ください。


===2017年===

08/24:誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ