第247話:大切な主
「あっ、皆さんもう御集まりで?」
《門》を使用してハルマネに到着した俺は真っ直ぐと魔法学園へと向かった。到着してみると既にアルゼリカ理事長とサヤ、セレナ、シュラの姿が見えた。
「……集まってはいますが、あなたは何故窓から毎回登場するのですか……?」
毎度恒例の窓からの登場に額に手を当てて呆れるアルゼリカ理事長。確かにここに来る度に窓から登場しているな……よし、次は天井から登場してみるか(違う、そうじゃない)
「まあ、いいじゃないですか。それにしても残る人は意外と少ないのですね」
俺はサヤを始めとした特待生たちを見回した。サヤが残る事は分かっていたが、まさか残りのメンバーで残るのがセレナ、シュラだけだとは思いもしなかった。ネリーやローゼも残ってもおかしいくはないはずなのだが。
「カイト君は早々にやめる事を宣言して、ネリーさんに関してもつい先日やめる事を伝えてもらいました。ただローゼさんだけは何も言って来ていないのですよね」
アルゼリカ理事長がそういうと、サヤたちは顔を見合わせた。その顔は「えっ、そうなの?」と今知ったような驚きの表情を浮かべており、恐らくだがネリーがやめたこと、ローゼが何も言っていないことに関しては初めて知ったのだろう。普段会う機会がなかなか無いだけに数日前に言ったのなら伝えられていない可能性は大いにあるからな。
「あっ! お前そう言えば領主になったらしいじゃねぇか!」
シュラが思い出したかのように声を上げた。
「ん? まあ、そうだけど?」
そう言えば、領主になってから彼らと顔を合わせたのは今回が初めてだったな。エルシオンで戦いが起きたのは8月の上旬で、今は9月の中旬だから1ヵ月以上会っていなかったことになるのか。
「よし! 今から俺と勝負しろ(ドスッ!)ゴフッ!?」
急に勝負をしろと言い出したシュラであったが、コンマ数秒でサヤのみぞうちによって沈められてしまった。
「会っていない間に随分とキレがあがったな」
俺は素直にそう言った。前々からサヤのパンチは早かったが、今の攻撃は前見たのよりも遥かに早く、重い攻撃だったのが分かった。
「……ありがとう……ところで……」
「?」
「……後で勝負して……」
「今勝負したいと言ったシュラを沈めておいて何を言っているのかな?」
「……私が先……」
その為だけにシュラを倒したの? どこの誰かとは言わないけどサヤも戦闘民族の血を引いているような気がしてならないのだが。そう言えば前に俺の家にいたときは毎日のようにエリラと勝負をして、二日に1回は大怪我をして俺が治療するのが恒例行事になっていたな。
「……分かったけど話が終わってからな」
「……了解……」
サヤはそういうとアッサリと引いてくれた。サヤは戦いに関しては物凄く貪欲な人だけど話が通じるだけまだマシだよな……どこかの両親は戦いになったら息子の話すらも聞かないで問答無用で戦闘に突入するからな。
「……色々聞きたいことはあるのだけど、取りあえず今日は何故集合させたのか教えてもらえる?」
事の成り行きを見守っているだけだったセレナが口を開いた。
「あっ、そうでしたね。えーと、まず再確認ですがここにいるシュラ、サヤ、セレナの三人はエルシオンに魔法学園を移設した後も在籍し続けると言う事で間違いはないですね?」
「そうだぜ」
「ええ」
「……無論……」
「それで大分話は先になりますが、実はエルシオンに移設後に学園で特別学級を開くつもりなのです。そこでは俺が実際に魔法や戦闘訓練を行おうと思っているのです」
「えっ、そんな話私は聞いていませんよ?」
アルゼリカ理事長が聞いていないとツッコミを入れる。
「まあ、話していませんからね」
「むぅ……そういう話は先に私の方にも話して欲しかったですね」
「話しておきたかったのですが、直前まで色々修正をしていたので伝える事が出来なかったのです。完全にまとまったのは数日前ですからね」
「……クロウが教える……入りたい……」
「まあ待て……で、その学級に入る条件がありエルシオンの住民権を持っている事、卒業後5年間規定された場所でエルシオンのために働くこと……この二つが条件となっています」
「なるほど……先行的な技術を学べるけど数年間はエルシオンの為に働けということですか」
「そういう事です」
「で、何故その話を今? 別に今でなくとも移設後でも……」
アルゼリカ理事長が疑問を口にする。
「こちらとしては少しでも早く人が欲しいのですよ。移設後にこの話をして人を募集して……と無駄な時間は使いたくありません」
「と言う事は、この話は直ぐにでも生徒に……?」
「いいえ、生徒の方はまだ在籍するか決めかねている人たちもいますよね? なので、彼らについては移設後に聞くことにします。今回、特待生組の人たちには先行で入る気が無いかと言う事を聞きに来たのです。それに今、大勢の人たちを俺が管理する時間はありません。なので、あくまで少数の人に教えたいのです」
話をまとめるとこうだ。今現在、エルシオンでは人手不足が深刻化している。特に俺が動かせる人間が俺を含めて4人と非常に少ないのだ。しかし、適当な人を雇う訳にもいかない。仮にも人の上を動かす人材となると、こちらもある程度信頼した人物でなければならない。急激に領土が増えたために良く分からない人材を登用して、組織がガタガタになるお話は古今東西よくある話だ。
なので、今回は特待生組を引き入れるために、このようなお話を持ち出したのだ。特待生組なら少なからず顔は知っているし、能力も多少なりともあるので育てれば戦力になる。特にサヤがこちらに来てくれるなら非常に有難いお話なのだ。
「……その話……乗った……」
そして、嬉しい事にこの話に真っ先に食いついたのは他でもないサヤだった。
「いいのか? さっきも言ったけどエルシオンで数年間働いてもらう事になるんだぞ?」
「……構わない……その代わり……」
サヤが自らの拳を自身の目の前で突き合わせる。
「……みっちりと鍛えてもらうから……」
「アッ、ハイ」
どうやら彼女は強くなれるなら、この程度の条件など屁にも思わないようだ。でもサヤ、君既にレベル90以上だよ? それ以上強くなってどうするつもりなのでしょうかねぇ。
「悪くない話だが……俺は断るぜ」
シュラがそう言った。あれ? いつの間に復活していたんだ?
「? なんで?」
「世界は広い。俺はこの世界で一番になるんだ! 数年間もエルシオンでじっとしていられないぜ!」
人差し指を高々と突き上げた状態でシュラはそう宣言した。
「そうですか……まあ、それなら仕方が無いな。セレナはどうする?」
「私は……どうしようかな。そもそも数年後の事なんて考えてもいなかったからなぁ……悪いけど、少し待ってもらえる?」
「構わないよ。いつでも待っている」
むぅ……結局、話に乗ったのはサヤだけか……まあ、仕方が無いな。人の人生においそれと介入する訳にもいけないしな……。
「……今すぐエルシオンに行く……」
早く俺との特訓をしたいのかサヤが少し焦った口調で言った。その目はまるで珍しい物を見る子供の目のようにキラキラとしており、どれだけ行きたいのかが手に取るように伝わって来た。
「落ち着けって、別に今日でも構わないけどサヤにも準備があるだろ?」
「……構わない……連れて行け……」
「アッ、ハイ」
サヤの熱意に押され、早々に連れて行くことが決定しました。やばい、この子戦闘にだけ関して言えば俺の親以上だわ。
「え、えっと取りあえず俺からは以上ですけど、アルゼリカ理事長は何かありますか?」
「ええ、いくつか移設で質問が、なので他の皆さんは今日は解散してもらえるかしら?」
「分かりました。取りあえずサヤは部屋の外で待ってもらえる?」
「……了解……」
特待生の皆は部屋を退出し、部屋に残った俺はアルゼリカ理事長から移設に関して様々な質問を受ける事になったのだ。
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同時刻、テルファニ家地下牢獄にて。
「ちょっと出しなさい!」
「駄目です。ローゼ様から如何なる事情であれ、ゼノス様を地下牢から出すなと命令されています。大変申し訳ございませんが諦めてもらえないでしょうか?」
テルファニ家の地下には簡易的ではあるが地下牢が用意されている。誰が設置したかは定かではないが、家の中で問題を起こした者を一時的に閉じ込めておく場所として、長年使われてきた場所である。
その檻の中には今現在、ローゼの従者であるゼノスが捕まっていた。両手には手錠がかけられており、地面と鎖を介して繋がれていた。
ゼノスはその中で開けろと怒鳴るが、牢の外で待機をしているメイドは頑なに外に出す事は無かった。ちなみに外で待機しているメイドはゼノス直下のメイドでゼノスが信頼を置いているメイドの一人だ。同じようにメイド自身もゼノスのことは信頼をしており、本当は今すぐにでもゼノスを外に出したい気持ちで一杯だった。しかし、外に出すということはローゼの命令を無視することになってしまう。
「……ローゼ様は今何をしているの?」
諦めがついたのかゼノスが別の質問をした。
「……本日、学園に赴きクロウさんと対決をする……とおっしゃっていました」
「!! 何故止めないの!? 行けばローゼ様がどうなるか―――」
「知っています。ですが、これがローゼ様の意志であるならば私が止めるべきではないと思っております」
「くっ……!」
「……ゼノス様、気持ちは痛いほど分かります。ですが、元々外部者である私たちがローゼ様……いえ、テルファニ家の意志に口を挟むべきではないと思います」
「……それでローゼ様が死ぬような事があっても?」
「……それがローゼ様の意志であるならば」
「……そう……ですが、私はそれでも納得していませんわ! こんな手錠など……!」
そういうとゼノスは手錠を外そうとジタバタと暴れる。自分を閉じ込める檻の出口へと足を踏みだそうと立ち上がるが、その前に鎖が伸び切りゼノスは前方へとだが、そのまま倒れ込んでしまった。勿論、手錠が壊れる事は無く、鎖も引きちぎれる事は無かった。
「……ゼノス様……いい加減諦めては?」
「諦める訳がありません! 意地でもローゼ様は止めさせて頂きますわ!」
しかし肝心の自分は動けない。どうすれば良いの? ゼノスは頭の中で何とか脱出をする方法を模索する。手錠が壊れる様子は無い。自分が閉じ込められている檻は三方向を鉄格子、残りの一方向はごつごつとした岩壁により脱出できるルートは出入り口以外になかった。外にはメイドが一人。鍵は彼女が持っており、彼女が自分を出す事はないだろう。
(……いや、一つだけある……!)
ゼノスは自分の背後をチラッと見る。背後にはごつごつとした岩壁が露出しておりその岩壁に自分を捕まえている鎖は繋がっていた。
迷っている暇は無い。ゼノスはフゥと一息すると再び暴れだした。
「こんな手錠など―――!」
思いっきり仰け反るかのように立ち上がる。そのときだった。
―――ゴスッ!
鈍い音が辺りに響く。牢屋の外で待機しているメイドは思わず「あっ」と声を上げた。先ほどまで立ち上がろうともがいていたゼノスが地面へと倒れ込んだ。
見ると、ゼノスの背後の岩壁の一部には血が付いており、ゼノスの頭付近の地面に血が広がっているのが見えた。勢いよく立ち上がろうとしたが、完全に立ち上がる前に鎖が伸び切りゼノスはバランスを崩して岩壁に頭をぶつけてしまったのだ。勢いが勢いだっただけに出血量も多く、瞬く間にゼノスの頭付近には小さな血の池が出来上がってしまった。肝心のゼノスも地面に倒れ込んだままピクリとも動かなかった。
「ゼノス様!」
自分が慕っている上司が目の前で血を流して倒れている……この状況は外で待機をしていたメイドの頭の中を真っ白にしてしまうには十分な要素だった。
急いで牢屋のドアを持っている鍵で開け、ゼノスの傍に駆け寄る。
「急いで治療をしないと……!」
慌てた彼女はゼノスを繋いでいた手錠を解除すると、彼女の体を持ち上げ牢屋の外へと出た。上で治療を受けさせるためだ。
だが、ゼノスはこの時を待っていた。自分を抱えるメイドの首をガッと締め上げると、自分もろとも地面へと叩き落とした。何があったか分からないままメイドは意識を手放してしまう。
「ごめんなさい」
ゼノスはメイドに一言だけ言うと、すぐにその場を離れた。他の人にバレない様に裏から外に出ると、そのまま魔法学園へと走り始めた。
鈍い頭痛に歪む視界、外に出るためとはいえ、後頭部を打っているのだ。安い代償とはいえず、眩暈により度々こけてしまう。
だが、彼女は直ぐに立ち上がると再び足を前へと進める。
大切な主の元へと―――
===2017年===
08/16:誤字を修正しました。




