第243話:取り締まり2
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・最後の文章を一部変更しました。
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俺は取りあえず一番近場の檻に近づき中にいる奴隷に声をかけた。
「取りあえず生きているよな?」
確認は大事だよな。いや生きていることぐらいはわかっているのだが、お約束ってやつだ。
「……あんたは……」
一人の奴隷が俺の声に反応した。反応したのは20後半から30前後の女性だった。
「俺か? 俺はクロウだ。この街で領主をやっている者だ」
「それはさっきの話を聞いて分かっているさ。問題はその領主がここに何の用で来たんだい? 奴隷の売買の罪って……」
「ああ、そんなことか。言葉の通りだよ。俺の街では奴隷の売買は全面的に禁止にしているんだ。既に所持している奴隷に関しても一定の期間ごとに維持費を払ってもらっているから、奴隷そのものがグレーな存在って感じだな」
「……それは異種族も?」
「そうだな。まあ、周りから見たら変なことだってことは理解しているさ。それを承知の上でやっているんだ。さて、お話はここまででいいか? ここからは俺の質問に答えてもらおうか。まず初めに先ほども言ったがこの街では奴隷の売買は全面的に禁止にしている。もし見つかれば今みたいに商人は逮捕される……で、あんたたちの事だが……まず帰る場所はあるのか?」
「帰る場所? 奴隷になった奴がそんな場所あると思うかい?」
「念のためだ。もし帰る場所があるのであれば、そこに帰すつもりだ。そこまでの移動費も出してあげるつもりだ」
「ふ、ふざけるなぁ! ワシの持ち物じゃぞ!?」
俺の言葉を聞いていたのか、先ほど捕まった奴隷商売が声をあげる。
「ふざけてなんかいない、それにあんたはもう罪人だ。罪人にそんなこと言う権利があると思うか?」
「ふ、ふん。まあ言っているが良い。そもそも、そいつらは全員ワシと《契約》をしておる。勝手にどこかへやろうとしてもそうかいかな―――」
「《解除》」
そういうと、この周囲にいたすべての奴隷の首に付いていたチョーカーがカチャンと音を立てて外れてしまった。外れたチョーカーは地面へと落ち、何が起きたか分かっていない奴隷たちはそのチョーカーを見つつ自分の首もとを確認するのだった。
「なっ!?」
「残念だったな。俺は《契約》によって生じたすべての従属関係を解除することが出来る。これでこいつらはあんたの奴隷でも何でもない。ただの一般人ってことさ」
「そ、そんなばかな! このような事があってたまるかぁぁぁぁ!」
「認めるか認めないかはあんたの勝手だが、現実は受け入れたらどうだ? 現に今まさにあんたの目の前で奴隷の証であるチョーカーは落ちてしまった。ステータスでも隷属関係が無くなった事は確認出来るだろ?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の言葉に発狂してしまったのか奴隷商売は何故か叫びだしてしまった。チョットうるさかったので、俺は死なない程度に《脅撃》をぶつけて黙らせておいた。泡を吹いてぶっ倒れたけど多分問題ないはず……たぶん。
「余計な邪魔が入ったな」
「あんたは一体……」
「まあ、それはあんたらの選択次第で分かる事さ。さて、話を戻すが、行く当ても無いのか? 行く当てがあるならそこまで帰すことも出来るぞ?」
「行く当てねぇ……あんた、かなりいい生活で育ったんじゃないか?」
「?」
「行く当てがあるならこんな所で奴隷になんかなったりしないよ」
女性はぶっきらぼうにそう答えた。周りの者も同じような境遇なのか女性の言葉に頷いている。
「そうか……じゃあ、俺の所に来るか?」
「……どういうことさ」
「俺の街はついこの前まで戦争に巻き込まれていた。で、数か月前に終戦してまだ復興の最中なんだ。そこで復興するにも人手がいるだろ? 要は手伝わないかってことだ。当然、俺の元で働く気があるなら衣食住は保証するし、給料も出す。基本仕事以外は好きにしていいし嫌ならいつでも抜けて構わない。どうだ? 悪くない話だろ?」
「うまい話だね」
「うまい話だろ? まあ、信じるか信じないかは皆の判断に任せる。信じられないのなら好きな所に行けばいい。まあ、あんたが言うように行く当てがあればの話だけどな」
「……わ―――」
「い、行きます!」
女性が何か言う前に同じ檻にいた別の女性が中から這いつくばるように前に出て来ながら言った。
「そこに行けば奴隷してじゃなくて普通の人として働けるのですよね!? 衣食住が保証されているのですよね!? 普通の人として生きて行く事が出来るのですよね!?」
まるで食らいつくかのように後ろから現れた女性は目をキラキラさせていた。普通、こういうところに長くいれば、こんなうまい話に簡単に乗って来ることはないだろう。恐らく大多数が最初の女性のように怪しむだろう。おそらくだが、この女性はまだここに来てから日が浅く、この雰囲気に毒されきれていなかったのだろう。
「ああ、あんたが今までどんな生活をしていたかは知らないけど、必ず今までよりも良い生活が出来ると約束しよう」
「行きます! 絶対に行きます!」
「じゃあ、あんたは決まりだな」
一人決まればと言う奴か、この女性を皮切りに次々と行くと周りの人たちは声をあげだした。気付けば人間はほぼ全員、行くと言っているのではないだろうか。
「俺も行く!」
「私も行く!」
「私も! 騙されてもいい! こんな所にもう居たくない!」
「……だそうだが、あんたはどうする?」
最初に何か言いかけたまま黙っていた女性に俺は声をかけた。
「……行くよ……選択権なんてどうせ無いんだろ?」
「厳しい所を突くな……まあ、そういうことだ」
俺はやや苦笑いをしながらそう受け答えた。確かに行く当ても無い奴からしてみれば、この選択肢を逃せば別の奴隷商人に捕まるか、どこかで野垂れ死ぬかのどちらかだろう。
「じゃあ、今出してやるぞ。鍵を開けるのは面倒だから……こうだ!」
そういうと俺は鉄格子を掴み強引に左右に広げ出入り口を作り上げる。その怪力に人々は一瞬言葉を失い唖然としたが、すぐに我に帰り続々とそこから檻の外へと出てきだした。
取りあえず来ると言った人たちは全員一階の大広間らしき場所に行くように指示をしておき、俺は残った人たちに目を向ける。と言っても残っているのは人間では無く、獣族たちだけなのだが。
「あんたらは来ないのか?」
近場にいた犬らしき女性の獣族に声をかける。
「……どうせ行っても……」
ボソリと女性の獣族は呟いた。その一言で俺は大体の事を察した。
(なるほどな……ついて行っても人よりか低く扱われ、結局同じ生活になると思っているのか)
まあ、分からないでもない。この世界の常識から考えればそうなるよな。
(でも―――)
気付けば俺は自然と体が動き、女性の獣族近くで腰を降ろすと、そのままそっと獣族を抱きしめていた。思わぬ行動に女性の獣族は声も上げられずポカンとしていた。安心しろ、俺も自分自身の行動についてポカンとしたい気分だ。
「……俺の所には同じような境遇から助けた獣族たちが沢山いるけど……皆笑顔で毎日を過ごしている……一度だけでいい。俺を信じてみないか?」
そして強く抱きしめる。何日も体を洗っていないのか、汗臭いにおいが鼻に付くが、そんなもの今は関係ないと無視する。
「……獣族ですよ……? 何故あなたは私たちを……?」
「俺がそうしたいからだ」
本音を俺は言う。獣族だから低い扱いをされるなど俺はあってはならないことだと思う。罪を犯した訳でもないのにこんな扱いをされるなんか俺は許したくは無いのだ。
気付けば、抱きしめた女性から嗚咽のような声が聞こえて来ていた。そして、女性の獣族の手が俺の背中に当たっている事に気付き、俺自身も抱きしめられていることが分かった。
「……よろしくお願いします」
女性の獣族がそう言った。俺も一言よろしくと答えた。
その後、この子を始めとした数人の獣族達が俺と一緒に地上に出て来るまでに時間はかからなかった。
こうして、俺の元に新たな仲間が加わる事になったのだった。
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「ハッ、どこかでクロウ様がいちゃついているような……!?」
「むっ、これはライバルの登場ですね?」
バチバチと火花を燃やす獣族たち。
「……エリラお姉ちゃん」
「なに?」
「お母さんたちのめがこわいのです」
「大丈夫。私もだから」
そんな様子を傍で見ていたフェイは怯えて、エリラに抱き付き、エリラはこれから起きるであろう惨劇に心の中で合掌をするのであった。
この夜、何故か俺の元に一斉に獣族が押し掛け、乱交状態になったお話はあまりに生々しい話なので割愛させてもらおう。
"Word"って便利ですね。ら抜き言葉とかも感知するのは有難いです。と言う事を書籍化作業中に初めて知りました(もっと早く使っておけば良かったよ)




