第242話:取り締まり1
大変ながらくお待たせしました。
エルシオン、某所。
表通りから離れた場所、人通りは無く、人が住んでいる様子が全く無い廃墟街。こういう場所では表では行えない取引が行われることなど日常茶飯事だ。また時には住処を失った人が勝手に住み着いたり何らかの理由で逃走している者たちの隠れ家ともなる。
そんな裏通りの一角に今にも崩れそうなボロ家があった。
「入るぞ」
そんなボロやに若い男性が一人やって来た。中に入るとそこは大広間みたいな空間が広がっていた。その建物の規模から察するに元々はいくつかの個室があったのを壁を撤去して一部屋にしたのだろう。天井を見ると壁があったであろう個所にはでっぱりが見え、無理やり壁を壊した様子が伺えた。
「……地下か」
若い男性はそう呟くと部屋の隅に見えた階段に近づいた。階段は地下へと続いており階段の先は闇に閉ざされているかのように真っ暗であった。
「全く……明りぐらいつけろよ」
そう男性はボヤキながらも、その暗い階段を降りて行く。自分の足元すらも見えない暗闇であったが、男性はさっさと降りて行く。まるで見えているかのように。
やがて、下まで降り切るとようやく僅かながらの明かりが見えた。地面は木の板などでは無く土が敷き詰められており、壁も支柱がある以外は土壁で出来ていた。
「いらっしゃい……」
暗闇の奥から男が一人出て来た。全身をマントで覆い隠しており顔も鼻より上はフードで隠されており確認出来なかったが声から思うに40代ぐらいの男だろう。姿を隠しているのは若い男性も同じで二人とも素性が割れない格好をしていた。
「ここは骨董屋だ。今日は何にする?」
中年の男性がそういうと
「そうだな生きの良いのを頼む」
若い男性はそう答えた。
「いいだろう。奥に来るが良い」
中年の男はそういうと奥へと案内する。一見すると会話が成り立っていないように見えるが、実はこれが正解の会話なのだ。
部屋の奥へと行くと、そこには鉄格子で区切られた部屋が壁沿いに出来ており中には人間や獣族が数人単位で入っていた。比率としては男性が4割、女性が6割と言った所であろうか。全員声一つ上げずただぼんやりと座っているだけだった。その様子は精気を抜き取られた屍のようにみえた。
そう、ここは奴隷の売買所。そしてこの中年の男性は奴隷商人だったのだ。
「どいつにする?」
「そうだな。女性が良い、出来れば家事が出来る奴がいいな」
「ふむ、家事かそれなら奥の奴らが優秀だ。年齢も10代後半から20代前半と若い奴ばかりだしな。まあ、殆どが獣族だが」
「おいおい、獣族に家事をさせる気か?」
若い男性が不満そうに答える。
「ひひ……冗談じゃよ。まあ獣族は多いが人間もいる。見てみれば良い」
奴隷商人は薄気味悪く笑いながら答えた。
「分かった……それにしても、エルシオンで奴隷商売とはな……確か1カ月ぐらい前に新しく領主になった奴が奴隷の売買を禁止していただろ?」
「そんなの守る訳なかろう、第一人だけならまだしも獣族の売買まで禁止する時点で正気の沙汰には見えんよ」
「そうだな。お蔭でこうやってコソコソしながら来ないといけない羽目になっちまったしな」
「全くだ。まあ、馬鹿正直に出て行った商人のお蔭でこちらは客を独占出来るからいいがの」
「この辺りでは他にやっていないのか?」
「さぁ? ワシは知らぬがやっているとことなどいくらでもあろう。なんせこんな商品を仕入れやすい場所を易々と手放さす訳が無いだろう。規則など守って出て行くやつなんざ商売のコツが分かってないわ」
「……そうだな……まぁ、それは他の街でやってもらいたかったけどな……」
若い男性が呆れ気味に言う。
「……どういうこと―――」
奴隷商人が疑問の声をあげようとした瞬間、若い男性の姿が一瞬でなくなり、次の瞬間背後から声がした。
「そこまでだ。奴隷の売買の罪で貴様を逮捕する」
見ると奴隷商人の首筋に剣が添えられており、その剣の持ち主は若い男性だった。
「き、貴様……な、何故……!?」
「規律を知らないならまだ言い逃れ出来たものを……奴隷の売買禁止を知っておきながら俺の街で勝手に商売をされるのは困るんだよ」
「お、俺の街……? き、貴様、まさか―――」
若い男性が剣を持っていない方の手でフードを取り外す。
「俺はクロウ・アルエレス。この街で領主をやっている者だ」
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1ヵ月ほど前に出した政策の中に奴隷の売買の禁止を上げていたのは覚えているだろうか。
文字通り奴隷の売買を一切禁止する内容だが、前にも言ったようこの政策はこの世界では異常な内容だ。当然、こんな政策が噂にならないはずがなく他の都市にも瞬く間に広がっていった。
噂が広がって来ると街で奴隷を売る商人の数は減った。だが、あくまで減っただけだ。逆にライバルが減ったことをチャンスとみなし裏でコソコソ売買する者も同時に出て来た。
正直、馬鹿な奴らだと思う。そもそも奴隷を買うする奴らはある程度生活が裕福な家庭や貴族、行商人が中心だ。今現在エルシオンには貴族はいないわ、復興最中で裕福な家庭が少ないわで需要自体が少ないのだ。いくら同業者が減ったと言っても違反を犯してまでもエルシオンで売買する意味は無いのではと思う。
……と思っていたのだが、こいつらがエルシオンに来る理由は別に存在していたのだ。エルシオンは先ほど言った通り復興最中、アーキルドが不眠不休で頑張っているとはいえまだ瓦礫の山になっている個所は山ほど残っている。これらは戦時中に死んでしまって誰も持ち主がいない状態の場合が多いが、それと同じくらいにお金が無い市民たちがどうすることもできずに放置されているのもまた存在するのだ。
で、今現在は仮住まいをこちらが提供して食料もいくらか供給をしてあげているが、いつかはこの配給も終了させなければならない。で、そのとき住む場所が無い人たちは当然、路頭に迷うこととなる。で、そんな人たちが最後に行きつくのは窃盗か自らを身売りしたり、身売りをしないかと持ちかけられたりしてそのまま奴隷化したりするのだ。
奴隷と言う最悪の地位であっても明日を拝めるのであればと、自ら落ちる者も意外と多い。奴隷商人はそういった奴らを回収して他の街で転売するのが目的のようなのだ。
で、領主である俺は何か対策をしているのかと言うと……全くしていなかったわ。
いや、家を失った奴らの今後とかのことは考えたりはしていたよ。一番手っ取り早いのは公共事業を行ってそのときに人員を募集して給料を与えることなんだろうけど、残念ながら公共事業をするような事はあんまりないんだよなぁ(殆ど俺一人でどうにでもなるため)
そこで、近々自警団を組織して、その際に人員を募集することを考えていたのだが……どうやらそれよりも先に奴隷商人が裏でコソコソと人材募集をやっているようなので、先に潰すことにしたのだ。人材集めも奴隷売買の一環なので当然違法だよね(笑顔)
んで、ただいま絶賛、取り締まり中という訳。今日押し掛けた奴隷売買所は地下にあり、発見が少し遅れてしまっていたのだが、中を見ると30人程度の奴隷がおりまあまあ規模は大きく、発見が遅れたことが少し悔やまれる。まあ、見つけれたから良しとしよう。
ちなみに、この場所は同じ奴隷商人から《強制》で聞いた場所だ。最初のやり取りもそいつから聞き出していた。
「さて、次は……」
俺は、呆気に取られている奴隷たちに目を向けた。
毎週、定期にお話を投稿できる人は凄いと思います。
それだけの書く力は一体どこから来ているのでしょうかね。1割でいいので私に下さいお願いします、何でもしませんけど、お願いします。




