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第236話:クロウ・アルエレスの証

 時系列を戻し、エルシオンで御触れが出る少し前の事。


「……」


 自宅の居間で天上を見上げるクロウ。だが、その目には光は宿っておらずまさに死んだ魚の目をしていた。チーンという効果音や33-4が実に似合いそうな雰囲気だ。


「……クロウ様どうされたのでしょうか?」


 そんな死んだかのようなご主人を心配する獣族たち。そんな彼女らの心配を他所に事情を知っているエリラは何も言わなかった。強いて言うなればその無言という言葉に「関わらないであげて」と言う言葉を乗せて。


「……なんだよ……【紅茶を噴き出す者ブラックティースプラッシャー】って……確かにここでも、ローゼの家でも噴いたよ。確かに噴いたけどさ、こんな称号いらねぇんだよ……なんなの? ミュルトさんにぶっかけてしまったのがそんなにまずかったの? ミュルトさんを怒らせるとマイナス補正スキルを取得してしまうの? 実際取得してしまったし……しかも《紅茶耐性低下》って何なの? 紅茶が苦手な俺への仕打ちなの? いや、苦手なのは分かるんだよ。でも余計苦手にする必要ないと思うんだよね……」


 アハハハハハハと乾いた笑いが一層の悲壮感を漂わせる。どうやらクロウにとってマイナス補正スキルと称号はかなりの精神的なダメージだったようだ。最も今回の場合は『紅茶』が関係しているからこのような状態になっているのだろうが。

 《紅茶耐性低下》スキルはその名の通り紅茶に対する耐性を低下させ、この場合の耐性とは苦手度の事を指し示す。私たちで例えるなら前から苦手だった食べ物が余計苦手になってしまった状態と同じ状態だろう。

 それだけならまだ良かったかもしれない、問題はこれを取得することになった元の【紅茶を噴き出す者ブラックティースプラッシャー】の方だ。今まで数々の強力な称号や珍称号を取って来たクロウであったが、こればっかりはショックは大きかったようだ。


「く、クロウ様?」


 そんなクロウを見かねたシャルがクロウに声をかけた。


「んーなにー」


 それに棒読みで返答するクロウ。その返答を聞いたエリラは「こりゃ重症だわ……」と嘆く。


「え、えーと……」


 声をかけてみたもののいざ、話すとなると何を話せばいいのか分からないシャル。そのオロオロする様子に「なんで声をかけた」と周りの獣族の心のツッコミが聞こえて来そうである。そんな他の獣族たちの声が届いたのか余計にオロオロするシャル。そしてテンパった結果―――


「う、うみゃー!」


 謎の掛け声と共にクロウに抱き付くシャル。


「ぶっ!?」


 予想外の行動に思わず吹いてしまった他の獣族たち。そんな彼女らを無視してシャルはクロウに身体を小刻みに動かしこすりつけている、例えるならペットが飼い主に自分の匂いを付けているかのように。


「な、何があったのかは知りませんけど、わ、私をモフモフして元気をだ、出してくだしゃい!」


 慣れ無い事をするからか、テンパり気味のシャル。元々静かな性格(最近はそんな印象が薄れてきているが)からしてみればかなり大胆な行動と言えよう。

 そんな彼女の行動あってか現実へと引き戻って来たクロウであったが、その彼女の行動に暫くの間困惑するしかなかった。


「……なんか知らないけど、じゃあ遠慮なく」


 やや間があったのち、せっかくなのでとご厚意に甘えシャルとワシャワシャとモフリだす。「あぁぁぁぁぁぁぁだめぇぇぇぇぇぇぇ」とシャルの声が響く。

 そして、それを皮切りにクロウの元へ獣族が殺到したことは言うまでもないだろう。



 結論:モフればみんな幸せ





==========

「さて、皆集まってくれ」


 なんか獣族達がモフモフさせてくれたので元気がでたクロウです。

 うん、もう忘れることにするよ。【紅茶を噴き出す者ブラックティースプラッシャー】なんてなかったんや、この世界だもん、こんなおかしい称号があってもおかしくないはずだ、きっと多分恐らく。


「? 何でしょうか?」


「ああ、実はそろそろ皆との隷属関係を解除しようと思ってな」


「はぁ!?」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはエリラだった。君ならそんな反応すると思っていたよ。


「いや、この街も俺の物になったから、この街では奴隷制度は原則禁止にしようと思ってな。でも奴隷原則禁止で肝心の領主が奴隷を持っています、なんておかしな話だろ? いい加減皆を立場上奴隷にしておくのは嫌だったしこれを機に解除しちゃおうって思ったんだよ」


「えっ、ちょっと前って、ほ、本気で言ってるの!?」


「勿論、数日後にはその御触れを出すつもりだしな。奴隷でない異種族が人のまちで何をされるか知らない訳じゃないけど、そんな事をこの街でさせるつもりは一切ない、でもいきなり奴隷を開放します。じゃあ異種族も街で自由にしていいです。なんて通用する訳がない、じゃあまずは力を持っている皆からと俺は思ったんだ。皆ならある程度顔は知られているし手を出されたところで返り討ちに出来からな、勿論嫌なら無理は強いないけど……いいかな?」


「わ、私は別に構わないけど……皆はどうするの?」


 エリラは人族だから解放したからといって何かが変わる訳でもないが、獣族はそうはいかない。獣族を始めとした人間の街で奴隷でない異種族が自由に出歩けるようになるなど前代未聞だ。それこそ何をされるか分かった事じゃない。

 でも、皆をいつまでも奴隷にしておくのは俺も気分が良くない。やっぱり皆とは対等に接したいのが本音だ。ただ、奴隷関係を解除するということはそれだけリスクも増えると言う事なのだが


「ええ、クロウ様がそうおっしゃるのであれば別に私たちは構いませんわ。ね、皆さん」


 一人の獣族の言葉に皆が頷く。良かった。ここで拒否られたらどうしようと思っていたのだ。

 さて、解除する同意は得られたが、奴隷関係を解除すると言う事は別の心配も出て来る。それはエリラから聞いていた隷属関係の強制書き換えの話だ。以前エリラがレシュードに捕まっていた時に強要されかけたらしいが、その話を聞いているといずれ敵は俺の《強制(フォーカス)》みたいに一方的に隷属関係を結ぶ道具や魔法を手にしないか不安になったのだ。それが本人の意思によるものでは無く強制的なものである可能性も踏まえると何かしらの手を打つ必要が出て来るだろう。


「で、解除する代わりだけど皆にはこれを付けてほしいんだ」


 そう言って取り出したのは朱色に輝くブレスレットだ。当然、俺が普通のブレスレットを渡すわけもなく特殊能力持ちの魔法アイテムだ。


「このブレスレットは一切の隷属関係を結ばせない能力がついている。それは俺との隷属関係もそうで一切の例外は無い。さらに、これには付けれる限りのスキルを付けさせてもらったから、身体強化の効果もついている。皆には是非これを付けてもらいたいんだ」


「へぇ、どんな能力がついているの?」


 エリラはブレスレットに興味津々のようだ。他の獣族達もその太陽とはまた別のまぶしい輝きを放つブレスレットに目を奪われている。


「私付けたい!」


 エリラが真っ先にそう言った。


「分かった。じゃあ隷属関係を解除するぞ」


そういうと俺は《契約》スキルを使用しエリラとの隷属関係を解除する。今まで奴隷の証だった黒いチョーカーが首からポロッと外れて地面へと落ちる。


「……」


「? どうしたんだ?」


「いや……なんか少し寂しい気もしてね……クロの奴隷だったら一生でも良かったなぁって思っただけよ」


「おいおい一生奴隷ってのも嫌だろ」


「そう? クロの元なら私は全然かまわなかったけどな~」


「……そうか、まあ好意として受け取っておくよ」


「それよりもそれを付けたいな!」


「はいはい、じゃ付けるぞ」


 そういうと、俺はエリラの手首にブレスレットを取り付ける。エリラの髪と同じ色の朱色のブレスレットはとってもよく似合っていると俺は思う。


「……ふぁ!?」


 ステータスを確認したのかエリラが驚愕の声を上げる。


「いくつかのスキルレベル向上に基礎ステータスの常時強化、それに魔法関係の威力の向上って、何よこのチート能力は!? あと《意志疎通》を始めとするスキルの付与って……!?」


「いやぁ、作るのに丸っと2ヵ月はかかったからな。時間はかかったけど自信作だぜ?」


「というか、このブレスレット【クロウ・アルエレスの証】って言うのね」


「あー、名前はなんか思い付かなかったから俺の名前をつけたけど駄目だった?」


「……いえ、なんかこれでいいわよ……これを見てるとクロと繋がってる気分になれるわ……さっき一生奴隷でもいいって言ったけど、こっちの方がいいかもしれないわね」


「どっちやねん」


「ふふ、ありがとうねクロ」


 そういうと、エリラは満遍の笑みでお礼を言ってくれた。面としてお礼を言われると照れ臭いのは相変わらずだが、今の会話もあってか今日はより一層そう感じる。


「クロウ様~エリラさんだけずるいですよ~私たちにもお願いします」


「クロウお兄ちゃん! フェイにも下さいなのです!」


 獣族たちに催促されるがまま、俺はその後獣族(子供含む)全員の奴隷関係を解除したのにこのブレスレットをプレゼントした。プレゼントした獣族一人ひとりの笑顔とお礼の言葉を聞くとあげて良かったと心の底から思える。


「これは夜の営みも一層頑張らないといけませんわね~」


 うん、その発言が無ければ完璧だったんだけどね。

 なんだろう。いつもの皆で少し安心した自分が悲しいよ。


「? なにをいっているのですか?」


 フェイ、頼むから君はこっちの世界に来ないでくれ。君は純白なままで育ってくれ。







==========

アイテム名:クロウ・アルエレスの証

分類:装飾品

効果

・基礎ステータス値全てに+1,500

・レベル5以下のすべてのスキルレベルを+1する

・魔法威力が実際の数値よりも高くなる。上昇値は個々の魔力量に依存する。

(上昇値は比例関係にあたる)

・《魔導の心得》を取得

・《意思疎通》を取得

・《瞬間詠唱》を取得

・《暗記》を取得

・《見切り》を取得

・《気配察知》を取得

・《情報共有(ネットワーク)》を取得

・《隷属無効》を取得

・このアイテムは自分自身の意志でのみ取り外すことが出来る。

==========

スキル名:情報共有(ネットワーク)

分類:生活スキル

効果

・同じスキルを所持している者同時で自分のいる場所を始めとする様々な情報を共有することが出来る。

(現在共有できる物:位置、知識、映像)

・コミュニティを形成することが可能。コミュニティでは許可された者同士でしか情報の共有は出来ず、外部の人間は一切の干渉を行うことが出来ない

==========

スキル名:隷属無効

分類:耐性スキル

効果

・《契約》やそれに類似する魔法、スキルを一切受け付けない

==========

 精神耐性<<<<<紅茶ショック


 ちなみに私は阪神ファンではありません。


04/05

・誤字を修正。

・アイテム『クロウ・アルエレスの証』の魔法威力向上の記述内容を修正。

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