第235話:魔族の報告会と魔王の憂鬱
クロウの御触れのせいでエルシオンが最近話題の某アニメのOPようにドッタンバッタン大騒ぎしている頃、魔領中心部に位置する魔族の都市グレムスにて、とある結果報告がなされていた。
グレムスとは魔族の中で一番栄えている都市で、また魔王の本拠地としても機能する首都のことだ。人に比べ絶対的に数が少ない魔族の都市の中では驚異の人口10万を誇る巨大都市である。ちなみに他の魔族の都市の人口は多くても5000程度しかいないため、実に20倍程度の差が開けられていることになる。
さて、そんなグレムスには当然のことながら魔王が居住する巨大な城がある。といっても我々が想像するファンタジーでの魔王城のような如何にも混沌としたようなデザインでは無く、人が築城する城と殆ど変わらず中世のヨーロッパで作られていた城と殆ど変わらない。見た目よりも機能を重視して徐々に最適化された結果なのだが、少なくとも人も魔族も行きつく先は同じだったようだ。
そんな魔王城の中に存在する魔王の間。先ほど作りは人と同じと言ったが、やはり魔族だからか中のデザインという部分では人と異なり黒を基調とした作りとなっていた(人は白を基調にすることが多い、もっとも塗料などで塗る訳では無く素材の色が白いだけの場合がほとんどであるが)
「……それは本当か?」
その魔王の間に急遽設けられたテーブルを囲う形で様々な魔族たちが集まっていた。その中で上座に座る魔族が報告をしていた別の魔族に真偽を確認していた。
肌の色こそ人と同じ肌色をしていたが、耳の上からにょきっと生えている黒い角が人で無い事を強調していた。逆に言えばそれ以外に見た目だけで人と区別を付けれる箇所は無かったが、その体から放たれる強大な魔力が否が応でも魔王だとさせられた。
女性だからと気安く近づいたり襲ったりすれば最後、塵になってしまうことは目に見えているだろう。実際のところ既に何百体もの魔族が塵になっているのだがら、だが、それでもなお、その圧倒的な力、魔族一と言われる美貌に近づこうとする魔族は後を絶たなかったため魔王は自然と外に出るのを嫌がるようになった。要は引き籠りである。物凄い蛇足かもしれないが、胸も中々のものである。過去に何人の魔族が触ろうとしてその命を地に還したか……最初は数えている者もいたが、その数の多さゆえに次第に数えられなくなったと言われている。
「ハッ、誠に残念ながら……報告によると人間領のハルマネを襲った第47歩兵部隊は全滅。歩兵部隊を率いたグラルとターガのうちグラルも魔力崩壊状態で討ち取られた模様」
「あの状態で討ち取るとは人族も中々やるな」
「……それなのですが、ターガの報告によると崩壊状態のグラルを討ち取ったのは一人の少年とのことです」
「何……? 人族たった一人にあいつは敗れたのか?」
「はい、それだけではありません。第47歩兵部隊を全滅させたのは、その少年と十数名の獣族とのことですが、彼らも我々と同じ銃器を使っていたとのことです。しかも性能は敵の方が遥かに上とのことで、神から贈られた武器では全く歯が立たなかったとのこと、会敵から僅か数十分で第47歩兵部隊は壊滅したそうです」
その言葉に話を聞いていた他の魔族たちがどよめく。だが、肝心の魔王は眉一つ動かさず話を淡々と聞く。
「それは予想外だな。敵は神をも超える技術を有しているというのか?」
「報告書にはそう書かれています」
「……分かった。ご苦労だった」
報告を行っていた魔族は一礼すると席に座る。同時にそれを待っていたかのように他の魔族たちが自分たちの意見を言い始めた。
「冗談では無い! 今のことが全て本当なら我々が長い間必死で集めた敵の情報が全くの嘘になるではないか!?」
「それだけではない! あの魔力崩壊状態の同士を人族一人で撃破されたとなると、我らの面子は丸つぶれだ!」
「それだけでは無い、あの薬を使えば最後、同士は死ぬしかない。ただえさえ少ない同士をこれ以上むやみに減らすことなど出来ないぞ?」
「ええい! 最早武器や薬などに頼ってられるか! 我々には力がある、力で人族を征服するのだ! それを出来るほどの力が我々にあるはずだ!」
ギャーギャーとやかましくなる魔王の間。そんな騒がしい魔王の間だったが、次の瞬間まるで今まで何もなかったかのように静かになった。
その場にいた魔族の間に流れる緊張。その理由は魔王から発せられる威圧が原因だった。
「……控えろ」
少ない言葉だったが、それで十分だった。先ほどまで言い合いをしていた魔族たちの勢いはどこへやら、たちまちシュンとなってしまった。
「……恐らくだがその少年とやらもガラムからの報告された例の人族と同一人物だろう。どうやら我々はその少年を本格的にマークしなければならない様だ」
「……しかし、どうやって? 少なくとも単騎でどうにかなる人とは思えませぬが?」
「そうだな……今はラ・ザーム帝国側の結果が分からない限り動きようがないが、報告を受け次第その人族専用の対戦闘部隊を創設することにしよう」
「ほ、本気ですか!? 人族一人に対して専用の部隊を創設するなど前代未聞です! そんなことを行えば魔族としての我々の立場が―――」
「黙れ! 魔族としての立場? そんな立場など他人の力をもらった時点で失せているわ! いいか? 誰が言ったかは知らぬが少ない同士をこれ以上無駄死にさせる訳には行かないのだ! そのために我らは人と同じように軍を編成し集団戦闘を取り入れたのではないか!」
「そ、それはそうですが……」
「いいか? 既に我の幹部のうち二人があのような目にあっている」
あの二人とは……例のクロウの《土鎖》で縛られ現在もそのままの状態で生活を余儀なくされているグーロスとハザムの二人の事だ。
「それにハルマネに先行させた第26強襲部隊は未だに行方知れず。ここまで長い間帰ってこないとなるともはや死んだと同然。これも例の少年のせいであるならば、専用の部隊を創設してもまだ足りない恐れもある」
「「……」」
「異論は?」
「……いえ、その通りです……しかし、創設するのはいいですが、誰に任せるのですか?」
「アルダスマン国に潜りこんでいたハヤテが空いているはずだ、彼を隊長に任命するのだ」
「かしこまりました」
「……他にはないな。なら本日の会議はここまでとする。ラ・ザーム帝国に行かせた間者が戻り次第再度会議を開く」
「「ハッ」」
こうして、この日魔王城で開かれた報告会は終了した。
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「……」
会議が終わり自室へと戻る魔王。話した通り魔王は引き籠りである。というよりも公の場以外で男性と会うのは苦手である。そのため自室の警備なども全て女性魔族に任せている。
部屋の前まで来るとその女性の警備員が敬礼をする。その敬礼に軽く会釈することで返すとそのまま自室へと入って行く。魔王の部屋の壁は特殊な魔法陣が発動しており魔法は愚か、音すらも外に響かない作りとなっている。さらに魔王は人を自室に招くことはまずなく、部屋の中を見た者は魔王幹部以外はほぼ皆無と言っても過言では無い。そこに引き籠りが加わり魔王の私生活を知る者は殆どいなかった。
そんな魔王が部屋に入り、入って来たドアを閉じれば、完全に閉ざされた世界に魔王一人と言う事になる。そうなれば素の状態に魔王はなる。
「うわぁぁぁぁぁぁ! うそだぁぁぁぁぁぁ!」
ベットに飛び込むと、そのままうつ伏せの状態で絶叫する魔王。
「そんな強い人間がいるなんて聞いてないわよ! なんなの!? チートなの!?」
先ほどの威厳はどこへやら。魔王には似つかわしくない声でベットの上で二転三転する。
「既に2回も兵を送っているから報復に来るかも、い、いや流石にここまでは来ないかな……? い、いや、でもアモンより強い武器を持っているって言ってたから量産して魔領に来るかもしれない……そしたら最終目標は当然グレムスになるわけで……あわわわ……殺される……こっちに来たら殺される! 新しい部隊作るとか言ったけどそれじゃあ絶対足りない! ああ、もっと固めたかったのになんで反論した魔族は反対したのよぉ! 死にたくなぁぁぁい!」
ドッタンバッタンとベットの上でまるで子供が駄々をこねるかのように暴れる魔王。1分ほど暴れて疲れたのかはぁはぁ言いながら動きが完全に止まってしまう。
「……そもそもどうしてこうなったのよぉ……」
元々魔王は戦争は反対だった。ただえさえ少ない魔族をこれ以上戦争で失いたくなかったのだ。それに戦争をしても勝てる道理は無い。元々魔族は人よりも個々の能力は優れているが、それが理由で集団で動くことなど殆どなかった。そのため人間に単独でぶつかった場合、人のその数と集団戦法の前に悉く潰されていったのだ。それ故に今まで世界を支配したことなど無く現在その大部分を人が支配しているのだ。
その人が同族で争っているため魔族は存続出来ているが、人が団結して一斉に矛を向けられたとき現在の魔族ではとてもじゃないが勝ち目はないだろう。
そこで魔族も考えた、どうすれば人に勝てるか……その一環で集団戦闘が生れたのだ。だが、元々個々の意識が強い魔族が集団戦闘など出来るはずも無く、ゴブリンやコボルトのような集団戦闘を行う魔物を軍の主戦力にして、そこから集団意識の強い魔物を軍隊に仕立て上げてきているのだ。
だが、元々集団戦闘をする魔物は個々の力が弱く同じ数では人には殆ど歯が立たない。そこで今度は魔物を強くする方法を考えるのだが、そこで完全に行き詰まってしまった。人が使う武器は魔族が扱うには威力が低すぎるしかといって魔物では、近距離武器は使えても弓などの遠距離武器は殆ど扱えないのだ。魔物の中でも特に優秀な魔物は遠距離武器を扱えるが、そんな優秀な魔物がホイホイいる訳でもなく、当然の事ながら数は少なかった。それに対して人は訓練次第では万単位で遠距離武器を使える人材を作る事が出来る。
では、魔法はどうか? しかし、集団で動く魔物は総じて魔力が低く(と言うがステータス自体が低い)魔法でも人族に大きく後れを取ってしまっているのだ。
そんな、絶望状態のときに《意思疎通》を持つ魔王の元に神を名乗る人物が現れ、爆炎筒やアモンなどの武器を伝えて行った。さらに魔族の力を高める薬も教えて貰った。だが、それを飲むと最後には死んでしまうので魔王自身でそれを世に出すのは極力控える事にした。それに作るのにも貴重な材料が必要なことが分かったので量産できないというのもある。そのため世に技術が出たのは爆炎筒やアモンなどの武器関係なのだが……。
その武器も設計図だけでは威力が高くなさそうだし、技術を向上させるために出しましょうかと決して戦争したいから世の中に出した訳では無いのだ。だが、いざ作られてみると魔族でも易々と作り出せない高威力の魔法を撃ちだせる兵器と分かった瞬間に一斉に量産が始まった。もっとも、その量産にも希少性の高い魔法石が必要なので結局供給がそれなりに安定するグレムスでしか作成できていないのだが。
「……で、気付けば軍にも普及していて何人かの魔族がこれで戦争や! とか言い出して……それでも念のために人の国を混乱までさせたのに……それでも勝てない相手っていったい何なのよ……だから私は反対したのに……シクシク」(ノД`)・゜・。
いくら《威圧》や高いステータスを誇る魔王でも、これまでの魔族のように単体の状態では数さえ増やせれば格下でも勝てる可能性は低くなる。そんなためいつも先ほどの報告会のような《威圧》で抑えることが出来る訳でもなく、たまに家臣の意見に押されてしまう事があるのだが……この時の魔族たちの様子はまるで「薬物でも吸ってるんじゃね?」と言いたくなるような様子で、魔王もその様子にびびって戦争を許可してまったのだ。
「……いっそのこと、その人と仲良くできないかな……」
そんな魔王の呟きに答えてくれる者はこの密室には誰もいなかった。
ビビりで平和的な魔王登場! 普通の魔王じゃ面白くないですもんね。こっちの方が弄りがいがあるじゃん(あれ、どこかの苦労人のような雰囲気が……?)
ちなみに魔王の基礎ステータスは以下のようになります。
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名前:魔王
種族:魔族
レベル:57
筋力:2,987
生命:4,870
敏捷:3,890
器用:2,700
魔力:8,900
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これでも一応魔族の中でトップのステータスなんですけどね、特に魔力量が。第1話のときのクロウの親のステータスと見比べたら分かりますけど、これでもこの世界では破格の能力です。黒龍といい勝負できるのですよ?(黒龍のステータスは第9話参照)でもクロウの前では霞んでしまう、ふっしぎー。
ちなみに冒頭の某アニメとは、け○のフレ○ズのことです。




