第230話:反乱鎮圧後2
「何故魔法学園を? 帝国が管理した方がそちらにはメリットが多いと思いますが?」
思わぬ単語に食いつく俺。そりゃ、こんなところで魔法学園の事が出て来るとは思いもしなかったわ。
そういえばサヤとかリネア元気にしているかな? あっアルゼリカ理事長には嫌でも元気にしてもらわないと困るので。
どこからともなく「そんなー」と言う声が聞こえて来た気がしたが無視して話を続ける。
「そう思うだろ……だが、残念ながら帝国にはアルダスマン王国ほどの教育システムはないのだ。教育など多少お金を持っている上級民のための施設だったしな」
「へぇ……では、この際に教育にも手を付ければ良いのでは?」
「そうしたいのは山々なんだが、先の大戦で暫くの間帝国はあれるだろう。そんな時に学校などのお話など出来るはずもなかろう。それに聞けば魔法学園は元々アルダスマン国から公式に援助を受けて成り立っていたと聞く。国が無くなった今援助も無くなったのは間違いない。そうなると潰れる結末が待っておろう、だがそれは勿体無いとは思わぬか?」
「そうですね。せっかく国民を育てる場があるのであれば使うべきと思いますよ」
「そうだ。だが、それをするには帝国には知識も時間も人も資金も足りぬ。そこでお主の出番という訳だ」
「私が? 一体何を押し付ける気ですか?」
「ナニ、お主が魔法学園を立て直してくれないかと言う事だ。お主のことだ今まで無かった知識を使って魔法学園の価値を高めることぐらい朝飯前だろ?」
「朝飯前って……いや、不可能ではないと思いますけど」
「そうだろ? それに聞けば魔法学園のトップはお主と知り合いとのことではないか」
「あー……まあ、そうですけど」
そうか、魔法学園のトップってアルゼリカ理事長だったんだな。学校感覚で行くと校長とか教頭とかがいるイメージが先走るけどここではそうでは無かったんだった。
「お主の事を大分気に入っておったぞ? お主の話となると物凄く元気に話していたわ」
えっ何それ。俺気に入られることをした記憶なんてないんですけど。
「と、まあお主の元なら面白い発展を見せてもらえそうだからな。勿論、こちらもタダで渡すのは面目が立たない。そこで、お主は帝国側から買ったという立場を取らしてもらいたい」
「買うって……学校って買うものでしたっけ?」
「知らん。取りあえず形だけでも上げたという体裁さえあればこちらは構わないからな……で、どうだ? どうしても貰う気はないか?」
「うーん……」
暫くの間考えたのち、ある事をひらめいた。正直無くてもいいことだけど、あったらあったで今後有利に働くかもしれないし無駄ではないだろう。
「いいですよ。ただ、ハルマネ自体は貰いません。ハルマネにある魔法学園をエルシオンに移転させます」
「ほぅ……何故だ?」
「先ほども言いましたが、私がエルシオンを統治下にした理由は家族と平和に過ごすために必要だったので頂いただけです。別に世界征服なんか目論んでいる訳ではないのですから」
まあ、欲を言うともう一つ理由はあるのだが、それはまだ先の話だろう。少なくとも現在出来る事では無いとだけ言っておこう。
「ですからハルマネなんていらないんですよ。でも魔法学園はちょっとした理由で欲しいのです。でも他国の領内にあるのは不便ですし、面倒なんですよね。なら移転させてしまおうじゃないかという訳です。魔法学園はこの前の戦争で廃墟化してしまっていますので、ついでというのもありますが」
「ふむ、まあ、我は別に構わないぞ。ハルマネは魔法都市としてそれなりに地位のある場所だからある分には困らないしの」
「じゃあ何故ハルマネを渡そうとかいいだしたのですか?」
「移転という手段が思い付かなかったのもあるが、エルシオン、ハルマネは北西に位置する魔族の領土と比較的近い位置にある」
「あっ、もう言わなくていいです。要は緩和地帯が欲しかったわけですね」
皇帝が何を言いたいかと言うと、帝国領土と魔族の間に第三者の勢力を入れる事で、直接的に魔族と争う事を回避したいということだ。要は俺を盾にしたいということだ。よし、ぶっとばそうか? よくそんな事抜け抜けと言えるなおい。あっ、でも俺も戦争前に抜け抜けと「滅亡しますよ」とサラッと言ったから一緒じゃねぇか。皇帝もそれを分かった上で言ってやがるな。
「まあ、エルシオンにお主がいる以上、ハルマネを持っていても問題は無さそうだがな」
「まあ、下手な砦よりかは役に立つと思いますよ」
「どの口が言ってる? 一人で国一個潰せそうな魔法を使える力を有しているくせをして」
「サテナンノコトデショー?」
「……まあ、本音は別のところにあるがな」
「?」
「今回の戦いで帝国は軍人が死に過ぎた。これを補充するにはかなりの年月が必要だろう」
「まあ、5割程度が消えたから無理もないですね」
「だが、我々は実戦でのたたき上げが基本だった」
おう、この脳筋めが。
「先ほども言ったが学校などの教育などない。上の世代が下の世代に伝えるいわゆる踏襲制が基本だったのだ」
「なるほどね。確かにそっちの方が実戦では有利に働くでしょうね」
習うより慣れよ。案ずるより生むが易し。こういう言葉があるところから、やってみると言う事はそれだけ大事なことなんだろう。確かに座学なんて社会に出ても殆ど役に立たなかったけどさ。
「それが難しくなった今、基礎的なことが出来る者からの平均レベルの向上が手っ取り早いし安全に兵力を増強することが出来る」
「だけど、それをやる教育の場は帝国には整っていないと」
「そうだ。そこでお主にお願いがある。魔法学園を受け取った際に、こちらから選抜した者をある程度受け入れて欲しいのだ。お主が魔法学園に少し介入すれば今までの常識など覆るようなことが十分可能になろう。その恩恵を我らにも少し分けて欲しいのだ」
「それって俺が介入する前提ですよね? 貰うとは言いましたけどそんなガッツリ介入するとは限りませんよ?」
「それはそれでまた結構。少なくとも一般的な教養を養えるなら十分だ。勿論、加入者分の入学金などは一般生徒と全く同じでも構わない」
あっ、分かったわ。要は「学校を維持する余裕は無いけど、人材育成はしたい。そこで余裕のある俺の所で学園を運営させて帝国は一般生徒として入学させて学ばせたいのか。そうすれば維持費は払わなくても教育は受けれさせれるもんな。もっともこちらのやる事に介入しにくいというデメリットもあるが、彼らの事だから自分らでやるよりかは良いだろうと思っているのかもしれない。
だが、それだけじゃないと思う。教育を任せると言う事は考え方もある程度在学中に自由に変える事が可能になる。それこそ前の世界での某お隣の国みたいに特定の国を敵視させる教育も十分可能という訳だ。それを応用すれば帝国内に反乱分子を置くことも十分可能だろうというか、俺がその気だったらまずそうするわ。それを分かった上で言ってるのだろうか? いや、分かった上で言ってるのだろう。恐らくだが皇帝は俺に勢力拡大の野心が無い事を前提で話しているのだろう。まあ、実際ないから構わないのだが、他の奴にはその考えは通じないかもしれないぞ。と心の中で忠告だけはしておく。えっ、言わないのかって? だって、違うかもしれないし言っても仕方ないからな。それに、皇帝の方が対人(会話)スキル高そうだし、俺よりも色々考えているのだろう。その中で俺にはこれで通用すると考えているのかもしれない。
「……うーん、まあ、いいですよ。こちらもこちらで使わせてもらいますから」
「では、この話は以上だな。我は数日後にここを旅立つつもりだが、その直前でお主にこの都市を引き渡そうと思う。当然、混乱が生じるだろうが、そこは我ではなくお主の力量の出番だ。エルシオンがどう発展していくか、そして帝国がお主たちから何を貰い、何を学ぶか。楽しみにさせてもらおう」
こうして、俺と皇帝の非公式会談はここで終了をした。そして、数日後エルシオンを出立する皇帝からエルシオンを一人の冒険者に譲る事が発表されることになる。
教育って恐ろしいですよね。歴史の勉強をしてみると本当にそう思います。




