第222話:ターニングポイント2
かなり前から登場していたエリラの《身体強化Lv.5》ですが、「分かりにくい!」」という声が多数来ていたので、久しぶりに登場する今回から《能力加算》に名称を変更させて頂きます。
名前がダサい? これが私の限界です(泣)
では、第222話をどうぞ
「さて……始めるわよ」
クロウから貰った自慢の剣を片手に、こちらへと歩を進める反乱軍を凝視するエリラ。彼女の言葉に答えるがごとく獣族たちも剣を抜刀する。獣族たちが使う剣は、比較的筋力が低い獣族達でも長時間持てるように軽量化を施した刃に加え、魔力を流すとその剣に元から付与していた魔法を発動することが出来た。そこにクロウが一人ひとり一番能力を発揮できるように個別にカスタマイズを施してある。断じて量産型などでは無い。
そして、分かっていると思うが、その剣自体の強度、切れ味は並の剣とは比にならないほどの強さを誇っている。鍛冶屋に見せればひっくり返るような強さだろう。
「《能力加算》……Lv.1……」
唱えた瞬間、エリラの身体から一瞬何も感じられなくなった。ここでの感じるは魔力だけではない、体温、呼吸を始めとした体からの音……外部が感じることが出来る五感の全てを彼女から感じなくなったのだ。
だが、そう思ったのも束の間。次の瞬間、膨大な魔力が彼女の体から飛び出すかのように溢れて来た。ビリッとした衝撃を近くにいた獣族達もすぐに感じ取ることが出来た。
「さぁ、行くわよ!」
ドンッと衝撃が走ったかと思うと次の瞬間、エリラの姿はそこには無かった。見ると既にエリラは自分たちがいた場所から数十メートルほど離れた前を走っているではないか。
「あっ! 待つのです!」
「エリラさんに続きましょ~」
ダッと一斉に駆けだす獣族達。先ほどまでの黄色い歓声はどこへやら、既に彼女たちにそのような気配は残っておらず、あるのは統一された意思と前方にいる敵に対しての戦う意思……は5割くらいで、残りの半分は自分が一番になって、あんな事やこんなことをしてもらうんだとご褒美をもらった時のことを考えていたりする。そのため、ちょっとニマニマしている者もちらほらと見て取れた。
敵を前に間抜けな……と思うかもしれないが、既に目の前にいる敵はそれを考える余裕があるほど弱かったのだ。
レベルにして50程度とクロウ、エリラと見た時にエリラの半分程度のレベルしかない獣族たちであるが、そんなことを忘れ去るほどに、彼女たちにはチートじみた能力を既に持っていた。
かつて魔闘大会で、特待生組よりも魔力が高かった生徒たちのように、称号を数多く持った彼女たちにとってはもはやレベルは参考にもならないほどのステータス値を誇っており、それに加え、クロウという化け物(レベル300以上)の指導を受け、実戦もしたこともある彼女らのスキルレベルは、もはや国の一部隊程度では相手に出来ない強さだった。
「!?」
驚いたのは反乱軍だ。先ほどまでそれなりに距離があったはずのエリラたちとの差は、気付けば100メートル程度にまで狭まっているではないか。
「か、かまえ―――」
慌てて指揮官が合図をしようとするが、時すでに遅かった。100メートルほどあった間を僅か2秒程度で走り抜けたエリラは、合図を送ろうとしていた反乱兵の首を掲げていた片腕もろとも胴体から切離してしまっていた。
何が起きたか全くわからなかった反乱兵。だが、硬直させる時間を彼女たちは許さなかった。
突如、猛烈な突風が吹いたかと思うと、何人かの反乱兵が宙を舞っていた。そして、自分自身に何が起きたか全くわかっていない兵士の頭上にシャルが現れる。彼女たちが着ている服は普段気慣れたワンピース……ではなく、動きやすさを重視した戦闘服だ……残念ながらぱんつは見えない、例え見えたとしてもそれは、ほんの一瞬の出来ごとで反乱兵には見えたかどうかは分からなかっただろう。
ズンッと反乱兵の左胸に上空から襲い掛かったシャルの剣が突き刺さる。そして獣族はその剣を躊躇なく刺した状態のまま切り上げてみせた。心臓辺りに突き刺さった剣は、そのまま肩を切断して、反乱兵の体をいとも簡単に切り裂いてみせた。そして、既に虫の息の反乱兵の、胸元に足を置くとそのまま、地面へと蹴り落とした。その威力も中々で、当たり所が悪かった兵士の中には骨が外れた者もいたほどだった。
気付けばエリラや獣族の大半は既に敵陣のど真ん中に襲い掛かり、そこから円状に反乱兵に襲い掛かっている状態だった。
「は、反撃しろぉ!」
我に帰った一兵士が声をあげると、呆気に取られていた他の者たちも呼応した。だが、そんな彼らもすぐには反撃出来なかった。
何故なら、彼らが持っていた武器は遠距離系の武器である爆炎筒だったからだ。もし、この場で撃とうものなら自分はもちろんのこと周りの味方まで吹き飛ばしかねないからだ。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
だが、既に息絶えた味方を前にパニックになった何人かがトリガーを引き、自分もろとも吹き飛ばしてしまう者がいた、爆発音と共に周囲にいた反乱兵数名は一瞬にして絶命、さらに外側にいた兵士体もその衝撃波をもろに受け体勢を大きく崩された。
「もらいました!」
その隙を逃がさなかったのはニャミィだ。倒れた反乱兵の首元を丁寧に切り裂き、あたりに鮮血が飛び散る。クロウが作り上げた剣は血が刃に残らないように表面をコーディングしてあり、数人を切り裂いたあとでもその刃は陽の光を反射して銀色に輝いていた。
「爆炎筒を持つな! 近接攻撃に切り替えろ!」
剣を抜き、エリラたちへと襲い掛かる反乱兵。いくら強さを見せようが、相手はたかが十名程度、しかも全員女性……自分たちが負けるはずが無いと、反乱兵は波状に彼女たちへと襲い掛かる。
「うーん、そんなに一斉にこないでくださ~い」
フェーレは襲い掛かって来る反乱兵に若干引き気味だった。
「やっちまぇ!」
その様子に、何を根拠にか既に勝ち誇ったかのような表情で反乱兵はフェーレに飛びかかる。中には早速服を脱がそうと、武器を放り投げている阿保もいる始末だ。
そんな彼らに突如として地面から爆炎が襲い掛かった。その炎は一瞬にして兵士たちを包み込み、有無も言わさず灰へと姿を変えてしまった。やけどや骨になったわけではない、灰になったのだ。それを見ただけで、その炎が尋常な熱さで無い事は誰の眼にも明らかだった。
「……じゃないと~数えるのが大変なのですよ~」
いつもの口調で、そんなことを言うフェーレ。彼女の腕には炎が纏われており、持っている剣は炎を身に纏っていながらも燃えることなく、その形を綺麗に残している。
獣族は本来、風魔法が得意な種族でその上住んでいる場所は大抵が森の中のため炎系魔法は敬遠されがち……というよりも禁忌に近い扱いを受けていた。
だが、その中でもたまに例外があった。それがフェーレである。彼女も普通の獣族同様、風魔法を扱っていたのだが、クロウがフェーレの称号の中に炎関係の称号があったことに気付き試しに使わせてみたところ、一般の人が使う火の魔法よりも高い威力かつ高熱の魔法を扱う事が出来たのだ。このことは彼女自身も非常に驚いており、自分自身でも扱えることに気付いていなかったようだ。火は風とは相反する属性では無いので覚えれることは可能だが、獣族で扱える者はいないに等しいと言う。突然変異では無いが、それに近い形で生まれつき加護があったのかもしれない。
最初はクロウも「無理に扱わなくてもいいよ」と言ったのだが、彼女曰く「ここは森じゃありませんし~、使えるに越したことはないと思います~」と彼女はあっさり使う事にしたので、その様子からクロウは「ねぇ、炎系が禁忌になっていたってホント?」と周囲に聞く始末だった。ちなみにその時の獣族たちは全員、首を縦に振ったと言う。
既にご察しの通り、今の炎はフェーレが出した炎だ。地面を這うように燃え広がった炎は今やその姿を消し、兵装に僅かに残った燃えカスがチロチロと燃えてるだけだった。
「次はだれですか~?」
のんびりとした口調に炎を剣を身に纏い周囲を灰にしてしまった者には全く似合わない口調で、周囲を見渡す。その様子を目の端で見ていたエリラは「悪魔や……」と呟いたとか。
開始1分。気付けば既に数十名もの命が散っていた。それでも徐々に我に帰った反乱兵たちがエリラたちを倒すべく周囲に殺到する。だが、近づくたびに、剣と魔法を使ったエリラや獣族達には全く刃が立たなかった。
「全方向から一斉に襲い掛かれ!」
エリラの周りに十数名の兵士らが集まり、一斉に剣を振り落とす。ガキィンと剣と剣がぶつかり合う音が響く。その交わった剣の先端には血だらけのエリラ……は、おらずぶつかり合った衝撃で欠けてしまった、剣だけが残っていた。
「どこを見てるの?」
バッと兵士たちが上を見上げると、そこには既に魔法を唱え終わったエリラの姿があった。剣を持つ手とは反対の手には魔法陣が浮かび上がっており、その魔法陣からは水の刃が飛び出し兵士たちへと降り注いだ。人間が自分の力で水を叩いたとしても、それほどの強さではないが、早い速度で水とぶつかった衝撃は、コンクリート並の強度へと変貌をする。そのコンクリート並の強度の水がもし、猛スピードで人に当たったら……?
答えは、腕を折った者や、目に当たった衝撃で眼球が押しつぶされた者、鎧に大穴を開けそこから血が飛び出している者が示している通りの結果だ。魔法レベルの上昇に加え、スキルでのステータス補正を受けている彼女の水魔法は既にコンクリート並の強度を誇っており、この世界での防具ではもはや防ぐことが出来ず、軽々と装甲をぶち抜いていたのだ。
そんな彼女たちの無双を遠くから見ていたクロウはこの様子を見て後にこういったと言う。
「……俺、育て方間違えたかな……?」
全ては後の祭りだったとでも言っておこう。
結論:フェーレは怖い




