第218話:クロウの呟き
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「あーあー……こっちに来ちゃったか……」
ソファに寝ころんで《マップ》を確認するクロウ。マップには大量の赤いマーカーと黄色いマーカーが浮かんでおり、赤いマーカーはエルシオンの北東部に、黄色いマーカーはエルシオン内、またはその周辺に浮かんでいた。
赤いマーカーは今回、反乱を起こした方の兵士、黄色はラ・ザーム帝国兵を指示している。
開戦の一報をクロウが聞いたのは、戦争が始まってから4日後、7月19日のことだった。
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「ラ・ザーム帝国が戦争を?」
いつも通りギルド内で経営をしていた俺はお昼休みにギルドでミュルトさんとお話をしていた。最近、店の方に人が多く訪れるようになったお蔭で売り上げは順調に伸びている。それと同時に獣族たちの手際もよくなったお蔭で俺は手ぶら状態になっていた。
そこは忙しくならないのかって? いや、それがな……獣族たちの手際が尋常じゃないぐらい良いんだよ。それに加えてレジの高性能化に伴い、より速い速度でお客さんを捌けるようになったのもある。実は開店当時のレジは日本のコンビニとかスーパーでよく見るレジだったのだが、今使っているレジは、カウンターに物を置くと各商品に付けた値札から情報を発信してレジの方はその情報を集計して金額を出すだけのシステムになっている。
ちなみに、カウンターの上に商品を置かないでポケットなどに入れていると防犯ブザーが鳴る仕組みにもなっている。そのため商品棚に置かれている商品と区別するため、カウンターは商品棚から少し離した位置に置いていたりする。さらに会計もお金を入れれば自動的に清算、お釣りを返すようにもしている。まあ、この辺は日本のスーパーなどでも実装されているから別に不思議な事でもないだろう。
だが、この世界ではそれは異常なことなのだ。その見たことないシステムにレジを見る為だけに来るお客さんもいるほどだ。実際、売ってくれと言われたことも多々ある。一応近いうちに欲しいお客にはうってあげようと考えているが、中身を見られてコピーされて転売でもされたら嫌なので、そこの対策をきちんとしてからにしようと思う。
あと、店が上手くいく理由として挙げられるのは、意外とお客さんたちがマナーを守ってくれるのだ。最初こそは獣族ということでかなりの抵抗があったが、店の商品の能力、価格が知れ渡ってからはそんなことどうでもいいと言わんばかりに今まで来なかった街の人たちも来るようになった。それに加えシャルが社会的鉄槌を下したあの男の一件以来、暴れたりしたら何をされるか分からない恐怖からか皆大人しくなってしまった。
それでもたまに調子に乗った客が来るがその度に、その時の獣族がボコボコにするので次第にそんな人たちは来なくなってしまった。
「あいつら俺らよりも強いじゃねぇか……」とラ・ザーム帝国の兵士たちはよくそれを口々にしている。
で、話は脱線したがそんなこんなで、俺は暇なのだ。もう少し経ったら彼女らだけで任せようとも考えているが、防犯とか、緊急時の対策をしてからの話になるだろう。
その暇をつぶすためにミュルトさんとお話をしているという訳だ。まあ、たまにミュルトさんの手伝いをしてあげることもあるけどな、主に面倒な客とのお話(物理)だが。
今回、いつも通りお話をしているときに帝国の反乱のお話が出て来たのだ。
「ええ、相手は現帝国の皇帝の実の弟であるミロと呼ばれる人だそうですよ」
「と言う事は兄弟喧嘩という訳ですか。全く……そんなことは兄弟だけで蹴りをつければいいものを……」
「なんでも、兄……もといこの帝国の重税に納得出来なかった模様で、反乱軍は減税や内政への積極的な投入を呼び掛けているとか」
「へー減税ですか、話だけ聞くと反乱側の方が良さそうな気がするのですけど……そんな甘い話だけですか?」
「そうですね、今の所こちら側に回ってきている情報は……ああ、そういえば……」
「?」
「反乱軍側は新兵器を持ち出したとか誰かが言ってましたね……なんでも、火の玉を発射する武器らしいのですが」
(火の玉を発射? ということはもしかして……)
「その破壊力は凄まじい物をもっており、並の民家なら一発で破壊できるほどの威力だそうですよ。それも熟練した魔導士でなくても使えるらしく名を爆炎筒と言うとか……」
「あー……」
「ん? クロウさんは何か知っているのですか?」
「いえ、何も」
いや、知ってますけどね。前のギルドをぶっ壊したのもそれですけどね。なんでそんな事を知っているのかと聞かれたら答えなくてはいけないので、俺は慌てて否定をした。
はぁ……爆炎筒が出て来ただけで、一気にこの戦争の行き先が不安になってきた。何故なら、もし前に手に入れた爆炎筒と今ミュルトさんが言った武器が同一であるならば、今回の反乱軍の裏には魔族がいることになるからだ。
そうなると、今回の戦争はかなりの確率で反乱軍の勝利で終わるだろう。あの爆炎筒に対応する有効手段は現時点では人間側には無い。持ったもの勝ち状態と言えよう。
「……こちらには来てほしくはありませんね……」
色々な意味がこもった愚痴を思わずこぼしてしまう。
「そうですね。折角少しずつ復興が始まったのに……」
それには同意する。特に現在も絶賛建築中のアーキルドが何を言いだすか分からんのが怖い。あの職人気質のおっさんのことだから自分の建てた家が燃やされそうとなれば、特攻でもしかねない。
「……いっそ都市ごと奪うか……」
「? クロウさん今何か言いましたか?」
「え、ええ、ただアーキルドのおっさんが何を言いだすか分からないな~って」
「あー、あのおじさんですか。それにしてもあのおじさんすごいですね。もうかなりの数の家を建てたのでは?」
「いやぁ、俺も驚いているんですよ。あんな建築バカだったとは」
アーキルド……俺の魔法によって召喚された精霊の一人だ。家族以外の人には「知り合いのおっさん」とだけ言って答えをはぐらかしている。人が人に近い何かを使役するなど少なくとも魔法学園の書物では聞いたことも無い話だ。そんな魔法を使ってますと言えば、またどこかの国のお偉いさんがやってくるに違いない。
そんな事はあと一回限りにさせてもらいたいものだ。
その後はたわいもない話をしたのち、仕事に戻る事にした。仕事も方も特に問題なく終わり、この日の夜もお約束のお時間を堪能させてもらった。最近、1モフリなど完全に無視してやっちゃってるが、まあこれはこれで問題無いだろう。ちなみに今晩のお相手はシャルでした。彼女と過ごす夜が何やかんや一番猛々しいです。その次にエリラだな。一番熱い夜となると彼女が一番だ。身体の相性もいいのか俺もいつも以上にハッスルしちゃいます。
と、俺の性欲事情はここまでにしておこう。
これ以上言うとどこからともなく、血の涙を浮かべた人たちの叫び声が聞こえてきそうだからだな。
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2日後。俺はモルジ平原での戦いを遠方エルシオンから観戦していた。《千里眼》《透視》の能力があれば何百キロ先の出来事も簡単に見ることが出来る。これがあればエッチなことを見たい放題だが、現状でも十分なのでそんなことには使わない。
で、戦い……もとい戦いと言えるか分からない一方的な暴力を見ていた理由なのだが、爆炎筒と呼ばれた武器の正体の確認だ。これは俺の予想してた通りかつてエルシオン、ハルマネで見た爆炎筒と同じ物だった。あれが魔族しか持っていな武器ならば魔族が何らかの形で反乱軍に武器を渡していることになるだろう。その辺は大方予想がつく、人間の商人の振りをして渡したか、もしくは本物の商人に売らせたか……どちらにせよ魔族が関与しているのは間違いないだろう。しかし、一体なぜ……?
前回のハルマネみたいに自ら行けば早そうな気がするのだが……。
まあ、今回はそんなことはどうでもいいな。問題はあの戦火がこちらまで来ないかが不安なのだ。エルシオンからモルジ平原までの距離は直線距離にしておよそ250キロ。戦火が広がれば飛び火する可能性は十分にありえる。
そうなるとまた、エルシオンが火の海になってしまいかねない。
やっぱり、これ以上巻き込まれる前に手を打つか……
「エルシオン……貰っちまおうか」
俺はボソリと呟くのだった。




