第217話:開戦からエルシオン戦まで
クロルパルスでの演説より1週間、ジーク歴1098年7月15日。ラ・ザーム帝国と反乱軍が最初に激突した日とされている。
捕捉を行うとジーク歴とは、人類史上初の国家建設を行ったジーク・アルクラインの名前にちなんでおり、1098年とはジーク・アルクラインの国の建国からの年数のことを指している。
激突場所はクロルパルスが目視でも確認できる距離にあるモルジ平原。兵数はラ・ザーム帝国約12,000人、反乱軍約950人。見て分かる通り兵数ではラ・ザーム帝国が圧倒的に有利だった。
更に帝国は早期の鎮圧を行うために帝国の精鋭部隊を数多くこの戦いに投入した。数々の戦線で「血も涙もない」と言われた冷酷な部隊『第1突撃部隊』通称『死神の眷属部隊』。防衛戦ではその針穴をも通す精密さで戦果を挙げる『第1弓兵部隊』。突撃、偵察、遊撃、何でも万能にこなし戦場の華とまで言われる騎兵、その騎兵と弓を組み合わせた「弓騎兵」と呼ばれるジャンルを作った創始部隊とも呼ばれる『弓騎兵遊撃部隊』。どれも帝国で最精鋭と呼ばれる部隊で各国からも恐れられている。特にこの3部隊が揃った状態での戦いでは帝国が負けたことがなかった。
さらに万全を期すために帝国軍は後詰めに7,000もの予備兵を投入。旧アルダスマンの統治に兵を割り振り徴兵も出来ていなかった帝国が現状動かせる最大兵力を投入したと言えるだろう。
戦いが始まった時刻は午前9時、平原で両軍は真正面からぶつかり合ったという。平原での戦いの場合、兵力の差が勝敗の7割を占めるほど兵力と言うのが大事だった。誰もが帝国側の勝利を予想しただろう。
だが、戦いが始まってみればどうだろうか。反乱軍はどこから仕入れたか分からない新型兵器を数多く投入。爆炎筒の破壊力、有効範囲の前に帝国軍は成す術無く次々と撃破されていった。午後0時前、戦い開始から3時間足らずで帝国軍は壊滅した。
帝国軍戦死者数千以上。反乱軍側は爆炎筒の誤射と誤操作による自爆した数名のみだった。戦死者から分かる通り、帝国側はまさに手も足も出ずに敗北したのだ。さらにそこから反撃に出た反乱軍により後詰めで待機していた帝国軍にも被害が続出。結局帝国側はクロルパルスから完全に手を引くこととなった。
この一報は帝国は勿論、その周辺国にも瞬く間に広がった。特に旧アルダスマン国で既に帝国の税率が適用されていた都市には特に激震が走った。
ここから戦争は一方的な展開になる。2日後、次の戦いになったモルジ平原の南側でも反乱軍は勝利した。この戦いで帝国側の突撃部隊『第1突撃部隊』は瓦解。以後、この戦争で姿を見せる事は無かった。さらに4日後の7月21日撤退する帝国軍に反乱軍が追い打ちをかけた『モルジ撤退戦』では撤退を援護する『第1弓兵部隊』に容赦ない爆炎筒の爆炎が襲い掛かった。
弓の射程範囲の外からの攻撃に成す術無く『第1弓兵部隊』は壊滅。以後、戦線から姿を消すことになる。ちなみに何故このとき帝国の精鋭部隊が殿軍のような役割をしていたのかというと既に帝国側の遠距離攻撃を行える弓兵部隊が彼らしか残っていなかったという悲しい背景が存在する。つまり、その前の二つの戦いで既に帝国の遠距離部隊も壊滅的打撃を受けていたことが分かるだろう。
この事態に帝国も何も対策を考え無かった訳では無い。雨の日を狙っての攻撃、夜間の奇襲作戦といくつかの反撃方法が挙がったが、そもそもこの数日間雨が降らなかったため前者の作戦は使えず、夜間の奇襲は数日後に実際に行ったのだが、何故か作戦が読まれ返り討ちにある結果となった。
敗戦に次ぐ敗戦より帝国内にも動きが出て来る。これまで黙っていたいくつかの都市からも反乱軍に加わる人たちが現れたのだ。その多くは旧アルダスマン国で既に帝国の税率が適用されていた都市の市民の中であまりにも高すぎる税率に納得がいかなかった者たちのさらに過激派だった者たちだった。
そして開戦から僅か3週間足らず。最初は1,000人にも満たなかった反乱軍は今や4,000人まで膨れ上がっていた。
数が多くなった反乱軍の総司令官ミロ・ザームは彼らを巧みに操り帝国内の要所を効率的に制圧。帝国軍が旧アルダスマン国の都市に撤退するように誘導した。帝国軍からしてみれば、いつ爆発するか分からない爆弾が置かれた街に逃げ込むようなものでいつ襲われるか分からない状況に帝国兵士は眠れない日を送る事になる。
旧アルダスマン国都市に追い込む作戦は実に有効な作戦だったと言える。
だが、帝国軍をある都市に追い込んだ瞬間。その作戦は悪魔の作戦へと変貌を遂げるのだった。
新年一発目の更新ですが、どちらかと言うと説明回に近いかもしれません。戦記物としてはこの回は戦記物と言える回と思います。
2017年も黒羽と異世界転生をよろしくお願いします。
次回、クロウ黒くなります(くろだけに)




