第22話:運命と切り開くもの
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翌朝、俺はエリラも連れてギルドに行くことにした。
これ以上面倒事は避けたいのが現実だが、なんか俺には面倒事を引きつける力でもあるのかもしれない。ここまで来たらもう開き直った方がよくね? というの思いがある。
あと、エリラにそろそろある程度行動させたいのと、もうバレるのも時間の限界だろうなと思っている。エリラの問題児っぷりはエルシオン内では有名らしい。それが急にピタリとやんで、肝心のエリラ本人の首には奴隷の証があり。しかもなんだかよくわからない子供と歩いている、その子供が、最近ギルドで有名になっている人。
正直、何にも無い方がおかしい。ならもうこちらから出迎えてやろうじゃねぇが面倒事爆弾 come on!
ギルドはいつも通りの様子……とはいかなかった。昨日のコア騒動が未だに冷めていない今日。
Bボスクラスのコアの取得は国としては30年ぶり。エルシオンとしては80年ぶりの快挙だ。しかもやったのは先日、Cクラスに昇格したばかりの子供だというのだ。
「……やっぱり騒がしいですね」
「そうだな」
ガラムとミュルトはギルドの奥でコアの前で立っていた。カーテン越しにギルドの騒がしさが感じ取れていた。
「それにしても、あんな子供がこんな物を回収するとは思いませんでしたね」
「そうだの。エリラがいたとしても異例すぎるな」
「国にはどう説明しますか?」
「小僧の事は伏せることは無理だろうな。国の事だ、こんな戦力を放置するとは思えん」
「近頃は国境もピリピリしっぱなしですからね。数年前の龍族との戦争も未だに癒し切れているとは思えませんからね」
「小僧はどう答えると思うか?」
「……私は何となくですが断ると思います」
「お主もそう思っていたか」
「ガラムさんもですか?」
「ああ、まあお主と同じで何となくだがな」
そんな話をしているとギルドの方が一層騒がしくなった。来たなと思ったミュルトは受付に戻って見た。ちなみにカウンターは別の受付嬢が担当している。
戻って見るとそこにいたのは、クロウだったのだが、同時に背後の女性にも目を奪われていた。もう二度とこのギルドでは顔を見ることは無いだろうと思っていたからだ。
「ミュルトさん、ガラムさんはいますか?」
この言葉に我に返ったミュルトはさて、どうしたものかと苦笑するしかなかったのである。
(さて、どうなるか……)
ギルドに入ると俺の顔を見た奴らが何人か席から立つのが見えた。だがエリラが入ってくるとおそらくギルドにいた奴ら全員が俺らの方を見てきた。
「お、おい、あいつだろ? 転異種を倒したってやつは?」
「い、いやそれよりも後ろ見ろ、エリラじゃねぇか」
「どういうことだ? 一緒に討伐したのか?」
「いや、あのエリラだぜ? 誰もパーティ組まねぇはずだが」
「ねぇ、ねぇあの首にあるのって」
「! おい、あれは奴隷の証じゃねぇか!?」
冒険者同士の声が聞こえて来る。予想通りの反応ありがとうございます。あれ、そういえばエリラが奴隷になっちゃったっていうのは冒険者たちは知らなかったのかな? なんかよくわからない隊が一度襲撃に来たことがあるからわかっている奴が大半かと思っていたんだが。
まっ、そんなことはいいか、俺はミュルトの所へ向かうことにした。
「ミュルトさん、約束通りに来ましたよ」
爆弾付きで。
ミュルトは苦笑しながらも奥に案内してくれた。あっちなみに例の野次馬共は別の受付嬢に任せています。マジですいません。
「さて、エリラはしばらく見ないうちに随分と立派になったようだな」
「クロがいたからここにいるようなもんよ」
相変わらずのぶっきらぼうだが、どことなく口調がやさしくなっていたような気がするとガラムは感じていた。それにクロウのことをクロと言うあたりかなり慕っているようだな。
「相変わらずで何より、さてクロウよ、例のコアだが国に送ることになった」
「やっぱり国が管理するのですね」
「それもそうだが、それと同時におそらくお主も王都に向かわなければならまい」
「えっ、私がですか?」
と、取りあえず疑問形で。おおよそ検討ついているけどな。
「そうだ、その若さでBクラスの大型討伐任務達成、および転異種のコア回収はおそらく歴史的にも異常だろう。ましてやこのご時勢、国に取っては咽喉から手が出るほどの人材になるだろう」
「なるほど、でも私は行きませんよ」
「そういうと思っていたわ」
思っていたんですね。
「だが、お主に拒否権などおそらくないも同然だろう。こなければ逆に暗殺部隊とかに追われるかもな」
うわぁ、そこまで物騒じゃないだろう……と、日本の常識で考えたらダメだな。でもなぁ、国お抱えで戦争なんかに駆り出されたらセラとの約束なんか守れなくなるだろうな。例え人族をすべて配下にしても次はおそらく異種族狩りが待っているのは目に見えている。
ここはなんとかして乗り切らねぇとな。
「それでも、私は国との関わりは持ちたくありませんね。むしろそんな高ランク冒険者を敵に回すリスクでも考えてみた方がいいと思いますけどね」
犠牲を考えなければ、その王都とか言うところに隕石を一発落とせば終わりだからな。
「まぁ、これは国とお前との関係じゃ、冒険者ギルドはあくまで中立が絶対だからな。ギルドの後ろ盾はないと考えておくがよい」
「なるほど、肝に銘じておきます」
「く、クロ……それって国と戦うってこと!?」
「……そうなるかもな……エリラお前はやっぱり嫌だよな」
一瞬黙り込んだエリラだったが
「何言ってるのよ、クロが行くなら私も当然行くわよ」
と、返してくれた。その言葉に俺は目頭が熱くなってきた。前世の俺には決して居なかっただろうな……。俺は改めて人との繋がりの大切さを感じていた。
ガラムはエリラの返答に目を丸くしていた。当然だろうな、ギルドに在籍していた頃を知っている彼にと取ってすべてが変わってしまったように感じたからだ。一体ここ数か月で何があったと言うんだろうか。
「兎に角。私は国のもとで働く気はありません。使者が来てもそれで流してください。引き下がらないなら……”直接来い”とでも言っておきましょう」
「む……」
「この話はもう終わりましょう。それより鍛冶場建設の請求額はいくらですか?」
「あ、ああこれくらいじゃが」
そういうと俺の手に金額が書かれた紙を手渡す。
「なるほど……900万Sか。かなりの額ですね」
「お主が返すと言ったからだぞ。早くとは言わないが出来るだけ早めに返してくれ」
「まあ、そこ前のコアでもかなり浮くと思うのですが」
「それを差し引いての金額だ」
「ちなみにコアってどれくらいするのですか?」
「200万Sだな。国がそのお金で買い取ると言ったからの、半分は冒険者の物になるから実際は100万Sじゃよ」
「わかりました。ではこれで」
「待て」
「ん? どうしたのですか?」
「一つ言っておく、いずれどんなに足掻こうが無理なことが来る。それはもはや運命。逃れないな。その時もお主は自分の意志で進むのだろうが……周りを不幸にだけはするなよ」
(……なるほどな。エリラの事が心配なのか)
いや、それ以外でもこれから出会っていく色々な人たちにも言える話だろう。
(……力を持っているからこそか)
「わかった、肝に銘じて置きます。ですが私からも一言、運命は決まっているのではありませんよ。切り開く力がある者には選ぶ権利があるものです。それが出来ないのならば所詮はその程度だったのでしょう」
「……お主は本当に子どもなのか?」
「さぁ? 自分でもそう思えなくなってきてますよ」
俺はそう言い残すとギルドを後にした。残ったガラムは一人椅子に座り、ぼそりとつぶやく。
「運命に逆らう物か……ならば見せて見よ小僧よ」
ガラムのその声はやがて静寂に消えて行ったのだった。