第214話:帝国からの使者(1)
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「クロウ様、来客が見られていますがいかがなさいますか?」
「来客?」
とある午後の昼下がり。俺は庭で新兵器の実験をしていた。作っていたのは固定砲台の一種で敵を感知すると自動的に砲撃を開始する自律型固定砲台だ。
家族に武器を持たせてはいるが、自宅も要塞化してしまおうと思い立ち作ってみたのだ。大きさはティッシュ箱程度の大きさ。それにして威力は家一軒を軽く吹き飛ばすほどの威力を有している。うん、絶対家の近くで使えない代物だね。まあ、オーバーキルな兵器だが威力を小さくすることなんざいくらでも可能なので、最初はこんな感じでいいだろう。
で、その実験をしている途中だったのだが、一体誰が来たと言うのだろうか。家に来客なんて嫌な予感しかしないのだが、最近のお客と言えばあの筋肉兄弟たちで、それ以前は魔法学園の使者だ。うん、嫌な思い出しかないな。
まあ、来ている客を理由も無く追い返すのも嫌なので仕方なく応対することにした。
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「初めまして。私はラ・ザーム帝国第3歩兵部隊の指揮官ウォルス・ログレシアだ」
嫌な予感的中キタ―――!
国の軍隊のお役人とか嫌な予感の塊じゃないですか。国軍、アルダスマン国、指揮官……うっ頭が!
という、お約束は置いといて。居間に来てみるや否や、数人の兵士を引き連れたおっさんが待ち構えていました。やや日焼けしたかのような皮膚と濃ゆいひげが非常に特徴的だ。てか、あのひげどう見てもマ○オだ。前世でやったゲームを彷彿させるかのようなひげに視線が行かないはずが無い。よし、このおっさんのあだ名はマ○オだ。誰がなんと言おうがマ○オだ。
「クロウ・アルエレスです。本日は一体どんなご用件で?」
個人的な感想は取りあえず置いといて。国の軍人が来ると言う事は何かしらの勧誘だろうか。
「いえ、実は最近、あなたの店で売られているポーションが兵士たちの間で噂になっていましてな」
あっ、用件読めたわ。
「私も試してみましたが素晴らしい性能ですね。我らの国一の調合師でも到底足元に及ばない性能です。それを通常の安物のポーション以下の価格で売っている……そんな者を放置すると思いますか?」
「まあ、いないでしょうね。私が王様なら絶対食いつきます」
「ええ、そうでしょう。そこで我が国でも是非仕入れたいという話になりましてな。仕入れルートを聞こうとは思いません。ただ、私たちにも定期的にまとまった数を手に入れたいと思いまして、やってきました」
「なるほど、定期購入ということですか」
「ええ、ちなみにもし、我が国に転売するとなるといかほどの数がご用意出来そうですか?」
「数ですか……」
なんだ。普通に商売の話になったな。てっきり「ルート教えろやゴウルァ!」とか言うんかと思ってたわ。
「まあ、一日100個程度でしょうか」
嘘です。本当は量産する気になれば数千でもいけます。でも、そんな面倒なことをする気はない。量産できると言っても獣族たちの手も借りないと行けないからな。そうだ。どうせなら工業化して大量生産設備を作ってしまおうか? それなら数千と言わず数万単位で作れるからな。
「なるほど。それは是非売ってもらいたいところですね。それにしてもこんな高性能なポーションを一体誰が作っているのでしょうかね?」
「さぁ? 私も仕入れるだけですからね。詳しい作り方なんか全く知りませんよ」
「ふーむ、そうですか? 私はてっきりあなたが作っていると思いましたけどね?」
「……何故?」
「値段が値段ですからね。こんな格安でこんな高性能なポーションを他人に安く売りつけるとは余程商売の分かっていないバカぐらいしか思い浮かびませんからね。いえ、バカでもこんな値段では売らないと思いませんか?」
……このマ○オ鋭いな。いや、当然の思考と言うべきか?
「……口には気を付けた方がいいですよ。なんせバカは目の前にいますからね」
ここはサラッと言っておく。どうせ、どこかで感づかれただろうしな。
「やはりですか」
「まあ、極力面倒な事は避けたいのですよ。別に大金稼ごうってやっている訳じゃありませんから、安定した金が入れば十分なのですよ」
「では、安定した収入を得るためにラ・ザーム帝国に入る気はありませんか?」
「今のところは無いですね。今の環境で十分間に合っていますから」
「なるほど、配下になる気はないと言う事ですね。では、そのポーションの作り方を教えて下さりはしませんか? 勿論それ相応のお金は払いましょう。そうですね……私が用意できるだけで10億Sでどうでしょうか?」
この言葉に一番驚いたのは、俺では無く後ろで厳粛な姿で立つ兵士だった。身体自体はピクリとも動かしていないが、顔はマジで? と言いたげそうな顔をしていたからだ。 まあ、10億Sとなれば一生遊んで暮らせる大金だからな。
それにしても淡々と話すなこのマリ○は、いや、某死去済みのウグラみたいな奴でもいやだけどさ。このおっさんは一体何を考えて話しているのだろうか。話し方から見るに、勧誘と言うよりか見に来たという感覚の方が強い。勧誘は出来ればと言った所だろうか。
「うーむ、いい話ですね。でも無理です」
「理由は?」
「これを作るスキルレベルに到達している人がいないといけませんからね。ちなみに『8』は必要ですが、お宅の人材にそれの数値を有する人材はいますでしょうか?」
「材料も聞けませんか?」
「別に教えれますけど、レベルはどうするつもりですか?」
「劣化版でも作れれば良いのですよ。別にあなたが作られるレベルの物を、作ろうとは思いません。それに劣化版でも十分な価値があると判断したまでです」
「なるほど……では、教えてあげましょうか。勿論ただではありませんよ。100万Sでどうですか?」
「100万……安いですね。嘘を教える気ですか?」
「何を言っているのですか。それほどの価値しかないと判断したからですよ。言っときますが、材料自体はその辺の森とかで直ぐ採れる薬草ばかりですからね。大事なのは調合する人なんですよ。なんなら今から目の前で実践してもかまいませんよ?」
「ほぅ、面白いですね。是非ともお願いしたいところです」
「では、準備をしますので、少々お待ちを」
それだけ言うと俺は《倉庫》から必要な材料をポコポコと取り出していく。その取り出す種類の多さに兵士は無論の事、○リオも驚いていた。
「素晴らしい能力ですね。一体何をしたらそこまで出来るようになるのですか? 後者の為にも一つ教えてもらいたいとことですね」
「使ってたらですね。それ以外は私でも分かりません。要は経験が大事なのではないでしょうか?」
「その若さで経験を口にしますか……見たところ私の半分程度しか生きていないように見えますが?」
半分どころかこちらは一回分多く人生を体験していますけどね。
「それにしてもやけに素直に話しますね。そんなに易々と教えていい物なのですか? 私には到底思えませんね」
「別に構いませんよ。分かって出来るなら別ですが」
「いやはや、それはその通りですね。出来たら苦労しませんですな」
「そうですよ……さて、準備が出来ました。では始めて行きましょうか」
「ぜひ、お願いします」
素材を片手に俺は彼らの目の前で調合を始めた。
直ぐに怒る人の方が分かりやすくて楽だけど、国のお役人って全員バカという訳でもないので、第6章はまともな人が増えそうな予感がします。クロウがまともかどうかは置いといてください。




